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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年07月31日

レスター・ブラウン「ピークオイル後の世界」(2006.07.31)

 
10日ほど前に、イタリアで「ピーク・オイル」に関する大きな国際会議が開催されました。世界中から専門家が集まって、ますます切迫してきたピーク・オイルについて、最新情報を共有し、さまざまな議論を繰り広げたとのこと(デニス・メドウズ氏が教えてくれました)。 レスター・ブラウン氏の「ピーク・オイル後の世界」を、実践和訳チームの翻訳でお届けします。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 『プランB 2.0』(PLAN B 2.0)より 2006-7号 ピークオイル後の世界 http://www.earthpolicy.org/Books/Seg/PB2ch02_ss6_7.htm レスター・R・ブラウン ピークオイルとは、原油生産が頭打ちとなり、長期的減産傾向への転換が避けられない時期をさす。需要が急速に増加する中、ピークオイルは原油価格の上昇を意味する。原油生産の伸びが鈍化、ないし横ばいとなっただけでも供給が逼迫し、ピークオイル後ほど急激ではないにせよ、原油価格が上昇するだろう。 石油使用量の削減を計画している国はわずかだ。ピークオイルが差し迫っているかもしれないのに、ほとんどの国は今後何十年も石油消費の大幅拡大を見込んでおり、まるで原油安が永遠に続くとでもいわんばかりに、自動車組立工場や道路、高速道路、駐車場を建設し、郊外住宅地を開発している。 また、旅客や航空貨物の需要が無限に拡大することを見込んで新しい旅客機を導入している。ところが、原油生産の減少時代においては、どの国も他国の分を奪わなければ石油使用量を増やせないのだ。 世界経済には、石油消費量が他産業に比べて多いために、より影響を受けやすい産業部門がある。自動車、食品、航空などの産業である。また、石油の供給が逼迫するにつれて、都市部や郊外も様相を変えていくだろう。 原油価格が上昇し始めた2004年半ば以前から、米国の自動車産業内ではすでに緊張が高まっていた。ゼネラルモータースとフォードは、燃費の悪いSUVの売上に大きく依存していたために身動きがとれなくなり、今や、スタンダード&プアーズの社債格付けがジャンク債レベルに引き下げられている。原油高となると自動車メーカーの低迷ばかりが報道されがちだが、自動車部品・タイヤメーカーなどの関連産業も影響を受けるだろう。 食品業界は、2通りの影響を受ける。石油価格上昇により生産コストが上がり、食品価格が上昇する。また、石油価格上昇に伴って人々の食生活が食物連鎖の下方にある食物にシフトし、地元産や旬の食品を選択するようになるだろう。そして、地元でとれる旬の食材を中心とした食生活へと移行していくだろう。 同時に、原油価格上昇によって農業資源がエタノールやバイオディーゼルなどの資源作物に振り向けられるようになる。このように、原油価格上昇は、富裕な自動車利用者と低所得の食料消費者との間で、食料資源の争奪戦を引き起こすかもしれない。これは今まで見られなかった、複雑な倫理問題である。 航空業界は引き続き、旅客、貨物部門ともジェット燃料価格の上昇に悩まされるだろう。燃料は航空会社の営業経費のうち最も大きい部分を占めるからだ。業界予想は、旅客数が今後10年で年率5%増加することを見込んでいるが、そのような伸びはとても期待できそうにない。低価格の航空運賃は間もなく過去のものとなるだろう。 航空貨物業界はさらに深刻な打撃を受け、おそらく完全な低迷状態に陥るだろう。原油価格の上昇によってまず損害を被るものの一例が、北の先進諸国が冬の間に南半球から新鮮な農産物を空輸するジャンボジェット機だ。季節外れの生鮮食品は、全く手が出せないくらい高価なものになるかもしれない。 原油価格が安かったこの100年の間、先進各国では、維持に膨大なエネルギーを必要とする自動車用の巨大インフラが建設された。例えば、米国には、主にアスファルトを用いた舗装道路が260万マイル(約416万キロメートル)、未舗装の道路が140万マイル(約224万キロメートル)ある。たとえ世界の産油量が減少しても、こうした道路は維持しなければならいない。 近代的な都市もまた、石油時代の産物である。メソポタミアで最初の都市群が形成された6,000年ほど前から1900年までは、都市化の過程はほとんど気づかないくらい緩やかなものだった。20世紀の初めには100万人規模の都市はわずかだったが、今日その数は400を超え、そのうちの20都市は1,000万人以上の住民を抱えている。 膨大な量の食料や資材が集まり、廃棄物や人間の排泄物が処理されることで、都市の新陳代謝は成り立っている。荷馬車の限られた輸送範囲と積載容量では、大都市を造るのは困難だった。安い石油で走るトラックによってすべてが変わったのだ。 都市がますます大きくなり、隣接する埋立地の容量も限界に近づくにつれ、廃棄物をより遠くの処分場へと運ぶ必要が出てくる。原油価格が上昇し、利用可能な埋立地が都市から遠く離れることによって、廃棄物の処理コストも上昇する。いつの日か、使い捨て商品の多くは高くつくようになって存在しなくなるかもしれない。 来るべき産油量の減少によって都市は手痛い打撃を受けるだろうが、郊外の被る痛手はさらにひどいものになるだろう。満足な都市計画がなされていない郊外の住民は、一切を他地域からの輸送に頼っているだけでなく、職場や普段買い物をする店からも地理的に孤立していることが多い。彼らは必要なもののほとんどすべて、たとえパン1斤や牛乳1パックですらも、手に入れるためには車を使わなければならないのだ。 郊外は通勤文化を創り出した。米国では通勤の往復には一日平均1時間近くかかっている。欧州の都市は自動車化の波が押し寄せる前にほぼ成熟していたのに対し、歴史の浅い米国では車によって街が形作られた。欧州では都市の境界線が比較的はっきりしており、人々も生産力のある農地を住宅地に転換することには消極的だ。一方米国では長い間、農地は有り余るほどあると見られていたため、異議が 唱えられることはほとんどない。 このように、美的センスに欠け、見苦しい形で郊外とショッピングセンターが広がっているのは、米国だけではない。ラテンアメリカ、東南アジアでも同じ状況が見られ、中国でも次第に拡大している。上海から北京に向かう飛行機からは、新たに建設された道路や高速道路に続いて、住宅や工場などの建物が広がっているのが見える。これは中国で数千年も続いてきた宅地形式である小さな村落とは全く対照的な景観である。 ショッピングモールや、ウォルマートに代表される大型ディスカウント店はすべて、人為的に価格を下げられてきた安価な石油の恩恵を受けて成り立っている。石油価格が上昇すれば、郊外は孤立し、環境面でも経済面でも持続不可能であることがはっきりするだろう。 来るべきエネルギー過渡期においては、勝ち組と負け組が出てくるはずである。もし将来に向けた計画を立てず、石油効率のよいテクノロジーや新たなエネルギー源への投資に出遅れれば、その国の生活水準は低下するだろう。エネルギー過渡期への対応力に欠ける政府は、他国の信頼を失い、国家破綻を招くこともありうる。 迫り来る産油量減少が文明史上の大きな分水嶺になることはほぼ確実である。それでも、国家の政治リーダーたちはその事実をなかなか直視せず、対応策に取り組む様子は見られない。都市化やグローバリゼーションといった流れは現在、主流とみられているが、原油が不足し、値段が上がれば、一夜のうちにその流れは逆行しうる。 発展途上国は二重の打撃を受けるだろう。依然として人口増加に歯止めがかからないことに加え、石油供給量が減少すれば、一人当たりの石油使用量は確実に減る。そうした状況は、直ちに生活水準の低下へとつながりかねない。 米国は世界最大の石油消費国であり輸入国である。もし米国が石油使用量を大幅に減らすことができれば、ポスト石油時代への円滑な移行に必要な時間を世界に提供できるのだ。 この文章の出典は、レスター R ブラウンの著書「Plan B 2.0:ストレス下にある地球と混乱する文明を救う」(ニューヨーク:W.W.Norton & Company 2006年)の第2章「ピークオイルの先に」より。ウェブ上では、下記のアドレスから参照可能。www.earthpolicy.org/Books/PB2/index.htm さらなるデータや情報源については、ウェブサイトwww.earthpolicy.org をご覧いただくか、jlarsen@earthpolicy.orgまでご連絡ください。掲載許可については、rjkauffman@earthpolicy.orgまでご連絡ください。(英語のみ) (訳:小林紀子、飯田夏代、渡辺千鶴) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 私たちチェンジ・エージェントも、講演でピーク・オイルの話をしたり、プレゼンテーションをしたりしています。「システム思考で考えるピーク・オイル〜何を考え、どうすべきか」、次号でお伝えしたいと思います〜。
 

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