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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年06月28日

雑誌「エルネオス」の連載より「伊那食品工業」(2006.06.27)

 

前号で、ワシントンでの「ビジネスと持続可能な開発」会議で発表した内容をお伝えしました。(メールニュースの最新20件はこちらにあります)
http://www.es-inc.jp/lib/archives/

その発表で日本企業の事例のひとつとして紹介した伊那食品工業について、ビジネス雑誌「エルネオス」の連載「枝廣淳子のプロジェクトe」からご紹介します。

システム思考の視点からも、とても重要なポイントを"実践"している、とても興味深い事例です。

この連載では、毎号、本気で持続可能性に取り組んでいる企業や、環境や持続可能性をきっかけに大きく変化を遂げているビジネスや取り組みを紹介しています。雑誌の購読や問い合わせ先はこちらをどうぞ。http://www.elneos.co.jp

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

伊那食品工業

「システム思考」という思考法があります。目の前の出来事に一喜一憂して対応に走り回るのではなく、問題が起こるシステムの構造を理解することで、真の解決策をつくり出していく考え方です。

システム思考の基礎を築いたMITのジェイ・フォレスター教授は、1970年、ローマクラブから、「貧困、飢餓、環境破壊、資源枯渇、都市の荒廃、失業といった地球規模の問題の関連と解決策を示してほしい」と依頼され、コンピュータで経済と環境のシステムに関するシミュレーション・モデルをつくり、効果的な介入ポイントを導き出しました(この結論をまとめて発表したのが1972年刊行の『成長の限界』です)。

最も効果的な介入ポイントは、「成長」でした。先進国も途上国も「問題解決には経済成長が重要なポイントだ」と考えています。たしかに経済成長は恩恵をもたらしますが、同時に貧困、飢餓、環境破壊も伴います。

「成長が重要という認識は正しいのだが、各国の指導者たちは全力で間違った方向に――加速する方向に――力を加えてしまっている」とフォレスター教授は言います。「必要なのは、もっとゆっくりした成長であり、場合によってはゼロ成長やマイナス成長だ」と。コンピュータ・シミュレーションのひとつの結論は、「人口や経済の成長を抑えたときのみ地球の破滅を起こさずにすむ」だったのです。

これは地球の話だけではなく、企業経営も同じであると考え、「持続的な低成長」で社員の幸せをつくり出している、世界中のモデルとなる企業が日本にあります。

「かんてんぱぱ」のブランドで有名な国内トップの寒天メーカーである伊那食品工業は、創業以来連続48期増収増益を続けていることで知られ、最優秀経営者賞(日刊工業新聞社)などを受賞しています。社員数は約400人、売上高は約200億円。「永続的な安定成長を続けることこそが会社の目的であり経営だ」という塚越寛会長にお話をうかがいました。

――成長は大きければ大きいほどよいと考える人が多いですが。

「急成長は憂いこそすれ、喜ぶべきものではないと思っています。利益や成長は、あくまで企業が永続するための手段で、目的ではありませんから」

――最初からそうお考えだったのですか?

「いえ、21歳で赤字続きの会社の社長代行となった当初は、『急成長したい、儲けたい』と成長を追い求めていました。しかし本来、"あるべき姿"を悟ってからは、『どのように成長を続けたらよいか』を考えて経営をしています」

――そのなかで、相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、産業用も含め国内シェアの7割を担うようになったのですね。

「ええ。会社とは生活の糧を生み出す手段ですから、永続することで、より多くの人を幸せにできます。社員やお客様にとっての幸せとは何かを本気で考えたら、株価のためにリストラをするなど、考えられないはずです」

――望ましい成長率を計算して、経営されてきたのですか?

「いいえ。当たり前のことをきちんとやれば、望ましい成長が得られるものです。例えば、社員を大切にすること、会社をきれいにすること、いいものをつくること。つまり、本来あるべき姿を見失わないことだと思います」

――低成長のためには、抑えることも?

「ええ。成長する会社の伸びを抑えるのは、経営者として楽しいことですよ。伸ばそうと思うと悲壮感が漂います。利益を拡大再生産に投資するのではなく、維持のために必要な投資をした残りは、地域に寄付をするなどしています。

地元の人が利用できるホールを造ったほか、現在は社会貢献として『食育パビリオン』を造る計画を進めています。再投資を制御するとお客様にお返しができ、ファンが増え、ますます会社の状態が良くなり、またお返しが増えるという好循環ができます」。

――「年輪経営」と呼ばれているバランスのとれた経営をめざして、伸びている部門を抑えることもあるのですね。何を基準に、経営をしているのでしょうか?

「世の中には『進歩軸』と『トレンド軸』があります。進歩軸というのは、どうやったら世の中が良くなるか、自分も含めみんなが幸せになるかを考えることです。人間の進歩につながるかどうかで判断します。一方、トレンド軸とは、その時々の世間の流行です。進歩軸に沿っていけば間違いありません。しかし、どう
やったら儲かるかを考えていると、進歩軸から逸れてしまいます。

わが社では、社員の1割以上は研究開発部門で働いています。かつては栄養がないからだめな商品といわれていた寒天は現在、『栄養がないから良い商品』ともてはやされています。そういう時代だからこそ、高カロリー食品の研究を進めています。目先の利益を追い求めるのではなく、『こうすれば幸せになる人が増える』と思う方向への仕事をやるべきです」

――そういう理念や思いを400人もの社員に浸透させるのは大変ではないでしょうか?

「組織というのは、まとまってはじめて力を発揮するものなのです。そして、思いや理念を共有して初めて、組織はまとまるのです。トップは情報共有のためにコミュニケーションに努力をし、力を入れるべきです。意識せずに、自然にできるものではありません」

***

できるだけ伐採せずにすむよう木々を最大限に残した、ほっとする空間に建つ同社の玄関を入ったとき、広々としたフロアのあちこちで、社員が立ち上がって、「ようこそ」と自然な笑顔で声をかけてくれました。

同社の社是は「いい会社をつくりましょう。たくましく、そしてやさしく」。
「いい会社とは、数字上だけではなく、会社を取り巻くすべての人々が『いい会社だね』と言ってくださる会社。社員がこの会社に勤めていてよかったと、幸せを感じられる会社でありたいと思っています」という塚越会長の思いが形になっていることを実感したのでした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この伊那食品工業も事例として紹介したワシントンでの会議参加を終え、ボストン郊外で開催された「システム思考とダイナミックモデリング会議」に3日間参加しました。システム思考を子供たちに教え、自分たちで使うことで学校や教育システムを変えていこう!という熱い思いの教育者たちと、そのネットワークを温かく応援するシステム思考やシステム・ダイナミクスの専門家の集まりです。

この記事に出てくるシステム・ダイナミクスの創始者といわれるジェイ・フォレスター氏も(80歳を越えていらっしゃいます)最初から最後まで参加され、分科会にも出て、あれこれと参加者や講師と議論をされていました。

ほかにも、デニス・メドウズ氏、ピーター・センゲ氏、ジョン・スターマン氏と、この分野の第一人者が勢揃い。私たちが日本からの初の参加者でした。デニスとはもちろん、ピーター・センゲ氏やジョン・スターマン氏とも、個別に1〜2時間話し込む時間を持つことができ、今後のプロジェクトにもつながりそうです。
いずれ、日本にもお呼びできたらいいな、と思っています。

システム思考の会議の後、デニスの自宅に呼んでもらい、近くにある大学に彼の作ったアウトドア研修所を見学させてもらいました。そこからバーモント州まで2時間。ドネラ・メドウズさんが作ったCobb Hillという小さなコミュニティとサステナビリティ・インスティチュートを訪問し、1泊させてもらいました。スタッフともいろいろな話や情報交換をし、こちらでもいくつかのプロジェクトが始まりそうです。(おみやげに持っていったかりんとうがウケていました!)

山のようなおみやげ(今後のプロジェクトのタネ?)を持って、あと30分でボストン空港へ向かい、帰途に着きます。

 

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