ホーム > 環境メールニュース > ワシントンでの「ビジネスと持続可能な開発会議」パネルディスカションでの発表内容(...

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年06月28日

ワシントンでの「ビジネスと持続可能な開発会議」パネルディスカションでの発表内容(2006.06.25)

 

いま、米国に来ています。ワシントンで開催されたWBCSD(持続可能な開発に関する世界ビジネス評議会)後援の「ビジネスと持続可能な開発会議」に参加しました。

私は「持続可能性パフォーマンスのコミュニケーション:何が問題なのか?」と題するパネル・ディスカッションに、ワシントンポスト記者(メディア代表)、フォードの方(企業代表)とともに、パネリストとして参加しました。

パネルディスカションでは、まず各自から20分のプレゼンテーションということで、トップバッターの私は、以下のような話をしました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

トムさん、丁寧なご紹介をありがとうございました。枝廣淳子です。日本の環境情報を世界に発信することで、世界日本を持続可能な方向へ動かしていこうという、非営利環境コミュニケーション・プラットフォーム、Japan for Sustainabilityを立ち上げ、共同代表を務めています。

また、伝えること、つなげることで社会を変えていくための有限会社イーズと、変化の担い手を大量生産することで、社会のうねりをつくり出していこうという有限会社、チェンジ・エージェントを立ち上げ、経営を行っています。

Japan for Sustainabilityは、日本の進んだ持続可能への取り組みを世界に発信することで、環境先進国の取り組みをさらに刺激し、進めるとともに、公害や大規模発電所など、先進国の二の舞をすることなく、途上国が幸せな暮らしを営むための技術や考え方、制度を伝え、また、世界からのフィードバックを日本に伝えることで、日本の取り組みを前進させようという使命を持って、2002年8月につくりました。

毎月30本の日本からの情報を記事として発信するほか、毎月のニュースレターで、日本の注目すべきトピックスを伝え、世界中からの問い合わせに対応するなどの取り組みをしています。また、持続可能な日本の姿を描き出し、そこへの進捗を図ろうという指標プロジェクトも行っています。

これが私たちのWebサイトです。さまざまな検索で、日本の進んだ取り組みを知ることができるので、興味のある方はぜひのぞいてみてください。ニュースレターに登録すると、毎月ニュースレターと、毎週、前の週にアップされた記事のダイジェストがメールで届く仕組みになっています。

現在、182カ国、約8,000人以上の環境オピニオン・リーダーに情報を届けています。さきほど発表された「暗いメート・グループ」のマークさんも読者のひとりで「役に立っているよ」とおうかがいしてうれしく思いました。
 
今日はこのような背景と経験から、個人的な意見を含め、まず日本企業の持続可能性への取り組みのこれまでと現在、持続可能性コミュニケーションについての見方、企業に求めることや考えるべき大事なことについて申し述べたいと思っています。

日本では、2000年を過ぎてからCSRブームですが、実は、「社会との共生」というCSRの考え方は、江戸時代の多くの商人が商業活動の基本としてきたものです。

日本には多くの家訓が、企業本来の姿を伝えるものとして残っていますが、たとえば、
「公益を先にし、私利を後にすべし」
「公益を図るをもって事業経営の方針とし、決して私利に汲々たるなかれ」
「徳義は本なり、財は末なり。本末を忘るるなかれ」
「先義後利」
「国家的観念を持ってすべての事業に当たれ」
「三方よし:売り手よし、買い手よし、世間よし」。
 
このように、自社の利益のみを追い求めるのではなく、自社の利益は社会に対する貢献に対する見返りであるという見方で、公のため、社会のために事業活動を行っていた企業がたくさんありました。
 
第二次世界大戦後に、戦後の復興から高度成長時代になり、して、このような社会の共生を忘れた、もしくは環境を犠牲にしても自社の利益を上げようという風潮が広がってきました。ここで失ったものは多かったと考えられます。その後、1970年代〜80年代、四大公害をはじめ、多くの公害に苦しみ、その結果、厳しい公害規制が行われました。
 
その一方、70年代に「マスキー法」という米国の自動車規制に対し、日本の自動車業界が先手を打って競争力につなげたことから、環境が競争力の源泉になるという意識や、そのための環境技術を強化しようという動きが、日本の産業界の中に生まれてきました。
 
90年代に地球環境問題に直面するようになりました。日本の企業は先手を打って対応するという感じではありませんでしたが、ISO14001はブームとなり、世界でももっとも多くの企業がISOの認証を取得している国となりました。
 
大企業から中小企業に目を転じてみると、再び日本の商人の良さ、「自らも立つが先も立つ、社会も立つ」という思想や、「成長一辺倒は良いことではない」という思想を取り戻す時代が始まっていると、私は考えています。
 
たとえば従業員20人ほどの向山塗料という中小企業では、成長を抑えることで社員の幸せを大きくしようと、過去8年間、前年比92%といった売り上げ目標を立て、事業の拡大を行っていません。一方で、会社の菜園を作り、従業員に農作業を奨励することで、土や環境とのつながりを取り戻す手伝いをしています。
 
伊那食品工業という寒天の大手企業は、低成長こそが持続可能な成長であると、わざわざ成長率を抑える政策を取っています。そのために、利益を拡大再生産に投資するのではなく、地域社会に還元するなどの方策をとっています。
 
現在の企業の持続可能性に関するコミュニケーションの現状としては、日本は人口・経済ともに米国の約半分の規模ですが、環境報告書、CSR報告書、持続可能性報告書を発行している日本の企業は1,000社を超えています。サイトレポートを出している企業も多く、またユニークは試みとしては、子供向けの報告書を出したり、東芝のように、学生たちに取材をさせて作らせるというユニークな試みをしたところもあります。

コミュニケーションと一言で言っても、ただ活動している、もしくはコミュニケーションしているという証拠づくりのコミュニケーションから、コミュニケーションすることで社会を動かしていこうというタイプまで、いくつものレベル、タイプがあります。
 
現在、企業の多くがワンウェイのコミュニケーションを行っています。これは、自分の企業が何を行っているかを理解してもらおうというためのコミュニケーションです。環境報告書等の報告書、多くの場合のWebサイトによるコミュニケーションもここに入ります。
 
二つ目のタイプはツーウェイのコミュニケーションで、一方的に出すだけではなく、フィードバックをもらうことで、かかわりの意識を高めるとともに、そのフィードバックから自社も学んでいこうというものです。

たとえば持続可能性報告書にアンケートを入れている企業も多いですが、返却率は低いため、アンケートに頼るだけではなく、持続可能性報告書をさまざまなステークホルダーとともに読んだり、さまざまな課題をともに話し合うステークホルダー・ダイアログが、日本ではよく開かれています。また、いくつかの企業では、社外のNGO、学識専門家、消費者団体の代表などを交えたアドバイザリー・ボードをつくって、経営層に対し、直接外部の意見を伝えるチャンネルを確保している所もあります。

最初のワンウェイのコミュニケーションでは、伝えることで、伝えている内容そのものは変わりません。ツーウェイになると、フィードバックを受けて、次のサイクルのときに伝える内容が改善・変更されることもあります。

3番目は、ともに持続可能な社会をつくるために、コラボレーションするためのコミュニケーションです。これはコミュニケーションによって、伝えるものそのものが変わってくる例です。

アメリカでは、Environmental Defense とマクドナルドのコラボレーションがよく知られていますが、日本では同様にパナソニックとグリーンピース・ジャパンが、初めは反発していましたが、コラボレーションすることでノンフロン冷蔵庫を開発し、日本でも売り出すことができたという成功事例があります。

また、もう一つのコミュニケーションのタイプをご紹介したいと思います。これは意識的に伝えようとしたメッセージではない場合も多いのですが、持続可能な社会に向かうために重要なメッセージを社会に発信しているというコミュニケーションの例で、さりげない形で、しかし人々の価値観やライフスタイルを変えて
いく力を持っているという意味で、私は大いに注目しています。三つの例を紹介しましょう。

これはリコーの広告ネオン塔「お天気次第」です。これはソーラーと風力だけで賄われています。普通は、ソーラーと風力でやっていると、晴れなかったり風が吹かなかったら止まるので、必ず電源をつないで補助電源で照らすようにしているのですが、これはそれを一切やっていません。ですから、ずっとお天気が悪かったり、ずっと風が吹かなかったら、ネオンは消えてしまいます。

リコーは、このネオン広告塔を作るにあたり、『自然のご機嫌がナナメの時はあきらめよう』という、企業広告としてはあまり類のない発想で取り組んでいます。「ヨットも風がふかなければ止まる。自然環境とは本来気ままなもの。環境に負荷をかけず、自然のエネルギーを利用させてもらうには、それくらいの発想の転換が必要な時期になっている」とのこと。
http://www.japanfs.org/db/database.cgi?cmd=dp&num=384&dp=data_j.html

これは素晴らしい環境コミュニケーションだと思っています。再生可能エネルギーって、そういうものなのですよね。でも、それでもいいじゃない。ネオンが時々薄くなったり消えたっていいじゃないという、それぐらい緩くたっていい、もしくは緩くないとこれからやっていけないというメッセージを多くの人に伝えている
のではないかと思います。
 
敦賀信用金庫という地方の信用金庫もとても面白い取り組みをしています。「エコ定期預金」です。その銀行のある地区で、ゴミが出ますね。そのゴミをできるだけ資源の回収に回しましょう、ゴミを減らしましょう、という動きを支援しています。ゴミがどれぐらい減ったかによって、金利を上げるのです。現状を店頭
に張って、「今、リサイクル率はこれぐらいまで上がっています」と出しているそうです。
http://www.japanfs.org/db/database.cgi?cmd=dp&num=995&dp=data_j.html

これはまた素晴らしい環境コミュニケーションで、「エコはエコ」(環境に優しいことは経済的にもおトク)で、みんなでやればみんなのプラスになる、というメッセージです。

実際に資源再生率がかなり増えて、ゴミが減っていると聞いています。地域の人をエンパワーメントし、やればできる、みんなでやればできる、自分たちにもいいことが返ってくる――素晴らしい一つの環境コミュニケーションであり、地域づくりだと思います。

もう一つは、イオンのイエローレシートの活動です。月に1日、レシートが黄色い紙で出てきます。このレシートをそれぞれの店頭の、地域のNGOの名前が書いてある袋や箱に入れる――お客さんが投票する――と、入れられたレシートの金額に応じて、そのNGOにイオンから資金が提供されます。

これはまた地域に、地元のこんなNGOがあるんだということを知らせたり、自分が一票を投じる――レシートを入れることで、自分が地域につながっている、貢献している、そういったことを皆さんに意識させるという意味で、素晴らしい環境コミュニケーションだと思っています。

最後に、企業に対する私の要望を、特にコミュニケーションという点でお伝えします。経営そのものもそうですが、長期的な視点を持ってほしいと思います。長期的なビジョンとそこに至るロードマップを考え、不完全な形であっても、伝えていただきたいと思います。ある完成された小さなものを見せられるよりも、未
完成であっても、そこへ向かおうとしている大きなものを見せてもらうほうが、私たち市民を感動させ、また動かしていく力を持っているからです。

また、これはシステム思考の中心的な考え方でもありますが、評価のための時間軸を長く取ってほしいと思います。四半期ごとの株価や売り上げに一喜一憂していては、特に持続可能性に必要な取り組みを進めることはできません。

往々にして「worse before better」、すなわち良くなる前にはいったん悪くなる、もしくはなかなか改善しないということがあり得ます。その段階で見切ってしまっては、低い枝に付いた実を取るという、小さな活動しかできない。本質的な問題解決につながらない可能性があります。

また、コミュニケーションとしては、自分たちができていることだけを伝えるのではなく、ネガティブな情報を伝え、ぜひそれを活かしてほしいと思います。また、見せたいところを見せるだけではなく、包括的な情報提供を、そして、一方的に伝えるだけではなく、ツーウェイで、またコラボレーションにつながる形でのコミュニケーションを増やしてほしいと思っています。
 
コミュニケーションというのは、単体で存在するものではなく、常にマネジメントのサイクルの一部として位置づけるべきです。マネジメントサイクルを動かすためのフィードバックを得る手段として考えるべきだと思っています。

活動した結果、ある成果が得られ、それを伝え、フィードバックを得ることで次の活動に伝えるという「シングル・ループ・ラーニング」だけではなく、そのフィードバックによって、活動や組織の目標や方針も変えていく「ダブル・ループ・ラーニング」をつくり出すことこそが、真の意味で経営や企業を持続可能な方向へ動
かしていくための鍵であると考えています。
 
最後に、本質的な問いかけをして終わりたいと思います。今回のテーマは「持続可能な開発」ですが、「持続可能な開発」とは果たして可能な目標なのでしょうか? これほど限界に突き当たっている世界の中で、現実的な目標と考えられるでしょうか? それとも、ジェームズ・ラブロックが言っているように、「持続可能な退却」しか残された選択肢はないのでしょか?

そのときに企業は何を提供することで、社会に価値を貢献することができるのでしょうか? 企業はどうやって「経済の発展」と「地球への環境負荷」を切り離すことができるのでしょうか?

「持続可能性」という言葉は、当たり障りがなく言いやすく、誰も反対しないため、よく好まれます。しかし、この言葉を使うときには、「何のため、もしくは誰のために、何を持続するのか」をしっかりと考えなくてはなりません。ありがとうございました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この内容を英語で20分きっかり使って話しました。ここで紹介した向山塗料さんの取り組みは、[No.1090] でご紹介しました。こちらのアーカイブにあります。
http://www.es-inc.jp/lib/archives/051106_040008.html

もうひとつご紹介した伊那食品工業さんについては、取材させてもらって、雑誌「エルネオス」の連載に書かせていただいたことがあり、許可をいただいているので、次号でご紹介したいと思います。

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ