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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年06月03日

東大五月祭のパネルディスカションより その2(2006.06.03)

 
何か人々が変えるとき、これはチェンジプロセス、チェンジマネジメントという言い方をしますが、どういうふうに変えていくのでしょうか? まず最初に、変わったあとどうなりたいかというのを考えるんですね。これをビジョンをつくる、ビジョニングと言います。それから「今、その理想の姿じゃなくて、こういう現実の姿になっているのはなぜなのだろう?」と状況の診断をします。それがわかった上で、どこにどう働きかけたらいいかを考えます。それから、具体的に行動に移していく。実行しないと形になりませんから。 ビジョニングと、そして実際に今どうなっているかの診断、どこに働きかけたらよいかを考えるときに、システム思考という考え方が役に立ちます。チェンジ・エージェントでは、、今このシステム思考を日本に普及しようと活動しています。 私たちが何かをするときに、まずどこに行きたいかというのをつくるのが最初なのですね。「ビジョン」です。そして、思いつきや熱い思いだけで進んでいくのではなく、何があってもビジョンに近づいていくための「マネジメント・システム」の二つがあってはじめて、行きたい所に行けるのではないかと思っています。 私は5年ぐらい前からよく言っているのが、「バックキャスティング」という考え方です。「今の目の前の現状をどうするか」と考えるのではなくて、「まずどうなりたいか」という理想像を考えて、そこから今を振り返って、その間を埋めていこう、というアプローチです。 先ほどスウェーデンの例を出しました。現在の技術や制度を積み上げて、2020年に石油を使わない社会になれると思って言っているわけではないのです。2020年に石油を使わないというビジョンを先に描いて、そのために今どうしたらいいかを考えています。こういう順番で考えるのを、バックキャスティング型のビジョニングと言っています。こういった手法を、できるだけ広く伝えていきたいと思っています。 もう一つが、システム思考です。システム思考でよく言うのですが、「今日の問題は昨日の解決策から起こっている」とも言えます。環境の分野でも、職場でも、自分自身でも、ある問題が解決したと思ったら、そのせいで別の問題が起こる。こういうことはよくあります。それから、今はいいけれども、あとでツケが回ってくる。でも取りあえず、目の前の問題を何とかしたいと行動してしまう。こういったこともよくあります。 私たちはよう、論理的思考という言い方をしますし、そういう教育をよく受けていることもあり、問題から原因、そして対策や手段をいくつも考え、その一部を切り取った形でプロジェクトをおこないます。もちろん、切り取らないと手に負えないのですが、そこで必要なことは、「あの対策を取ることによって、ほかの原因に影響を与えるんじゃないか?」「この原因はもしかしたら別の問題にもつながっているんじゃないか?」と、つながりを考えに入れることなのです。つながりを考えに入れないで、スパッと切り抜いた形でプロジェクトをつくっても、その中で成功したとしても、ほかに影響が出てくる。あとで影響が出てくる。そういったことはよくあります。 これは多分、人間の習性なのだと思うのですが、私たちはどうしても直線的に考えがちなんですね。たとえば道路が渋滞するんだったら、道幅を増やせば走りやすくなるはずだ。走りやすくなったら車は減るはずだ。渋滞は減るだろうと。そういうふうに考えて、道路工事をたくさんやります。バイパスをつくったり道幅を広げるわけですね。 ところが世界中の都市で、そうやって道路を拡張したあと何が起こるかと言うと、拡張した瞬間は渋滞が減ります。でも、すぐに戻ってくるんですね。5年ぐらいで戻ってくるという統計もあるそうです。場合によっては悪化することも結構あります。なぜそうなってしまうか? やはり直線的に考えるところに限界があるからだと、私は考えています。 拡張すれば走りやすさが良くなる。そうすると渋滞は減るだろうと思うんですが、実際は走りやすくなると、走る車の台数が増えるんですね。「あの道、すいてるよ」と、ほかの所からも車が来る。もしくは「じゃあ、そこも通勤圏になるから、住宅つくろう」。また車が増える。そうすると結局、解消するはずの渋滞が悪化しちゃうんですね。 そうするとどうなるかと言うと、「渋滞ひどいから、もっとバイパス、つくりましょう」「もっと道幅広げましょう」。これをすると悪循環ですね。走りやすくなる。ますます車が増える。ますます渋滞がひどくなる。 システム思考で考える道路の渋滞を『日経エコロジー』の3月号に掲載してもらったのですが、このループ図というのがシステム思考のツールです。じゃあ、どういう要因がどのようにつながっているだろうということをループで表していきます。そうすると、単に道路の道幅を増やせば渋滞が減るという直線的なものではなく、それはそれぞれ何に影響を与えるかということを考えることができます。実際に現場に行ったり、確認したりしてループ図をつくっていきます。 http://change-agent.jp/news/000012.html このように、今見えていることだけではなくて、実際にはどこにどのような影響があるかということをいろいろ考えると、働きかけのポイントをいろいろ考えることができます。 渋滞の例で言うと、走りやすくなると車が増えてしまう。だったら走りにくくしようという発想もあるんですね。これはスウェーデンのストックホルムでやっています。バンプという、ガタン、ガタンというのをたくさん置いて、市内の道路を30キロぐらい走行速度を制限して、走りにくくしている。渋滞が減っているそうです。 もしくは、自動車がほかの公共交通機関よりも魅力的だと、みんな車に乗りますね。それを逆転するために、ロンドンなどあちこちでもやっていますが、渋滞税をかける。市内に入ってくる車に税金をかける。もしくは逆に、バスとか電車の魅力を高める。こういうことをやって実際に渋滞を解消している都市が、先進国にも途上国にもあります。 システム思考というのは、単に目の前の「渋滞がひどい」とか、企業であれば「売り上げが落ちた」とか、環境で言うと「また二酸化炭素が増えた」とか、そういう出来事ではなくて、それがどういうパターンで起こっているのか、そのパターンを起こしているのはどういう構造なのか、ということを考えていくアプローチです。部分ではなくて全体を見て、つながりを見ることで考えていく。 システム思考のなかでも、私が好きなポイントは、「人を責めない、自分を責めないアプローチ」だということです。何か問題が起こったときに、「あいつが悪い」とか「あの部署があんなことをやったからだ」とか「自分がいけなかった」などと考えるのではなく、「人が変わっても、構造が変わらなければ同じ問題が起きる」と考えます。だったら、みんなで構造がどうなっているか考えよう。どういうふうに変えたらその構造が変えられるかを考えよう。そういうアプローチなのです。 最後に「広げること」ということについて話します。ここに来ていらっしゃる方は、環境に関心があって、それぞれ活動されている方も多いと思います。そういった活動をどうやって広げるのか。どうやって周りの人や、もしくは知らない人にも広げていくのか。これを私は今いちばんの自分の研究課題として考えています。 たとえば、イノベーション普及理論という考え方があり、実践があります。自分でもいろいろ実験をしているのですが、先ほど最初にお話をされた竹村さんと一緒にやっている「100万人のキャンドルナイト」という活動も、私にとって、一つの広げ方の実験のつもりです。 キャンドルナイトとは、夏至と冬至の夜、2時間だけ電気を消して、ロウソクでスローな夜を楽しみましょうという、それだけの活動です。私たちは最初に、「100万人って、きりがいいし、それぐらい参加してくれたらいいね」と始めたんですが、ふたを開けたら、最初の年に500万人参加をしてくれました。 ある活動に500万人いきなり参加するって、すごい普及なんですね。この時の成功の要因は何だったのか、それをどういうふうにほかに活かせるかということを考えることができます。 ちょっとPRになりますが、今年の夏至に向けて、キャンドルナイトのホームページでキャンドルスケープという、先ほど「触れる地球」をつくられた竹村さんのチームがつくった、日本と世界が目で見える、そして自分も参加している、みんなも参加している、そのメッセージが地球の上を飛び交うという、これはホームページ上で体験できるページもできます。ぜひ見に来て下さい。 最後に、私がいろいろな活動をしているなかで、特に最近思っていることをお話ししておしまいにしようと思います。 多分、残念ながら、これからますます厳しい時代になると思っています。先ほどの先生方のお話からも、温暖化にしても水にしても食糧にしても、そうだということはよくわかると思います。 先ほど住先生が、不安というのは死に至る病だというお話をされました。不安というのは、確信がないと解消できないものだと。そういう意味で言うと、ますますみんなが不安になってくる時代になると思います。 そのときに何が必要なのか、何ができるのか? 私は先ほど話した1日1本ずつ、月に30本ずつ、日本の進んだ取り組みや勇気づけるような取り組みを世界に発信しているジャパン・フォー・サステナビリティの活動を中心に、枯れることなくこんこんとわき出る希望の泉のような活動をしていきたいと思っています。 どんなに世界の状況が悪化しても、日本からは必ず1日1本ずつ前向きな新しい考え方・取り組み、企業であれ自治体であれ市民であれ、何か進んだという成果が届く。鼓動のように届く。それが、ますます厳しい時代になって、不安になってくるときに、何か頼れる一つの確信につながれば、と思っています。 このような活動をしながら、先ほど言ったように、実際にどうやったら人の行動をもっと効率的に変えられるのか、そしてそれを自分一人でやっているのではなくて、どうやって広げることができるのか。NGOと二つの会社と、個人的な活動と、大学という場などで、いろいろ実験しているところです。ありがとうございました。
 

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