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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年04月01日

ビジネス雑誌「エルネオス」よりSABミラー〜企業の社会的責任について(2006.03.31)

 
ビジネス雑誌「エルネオス」で、「枝廣淳子のプロジェクトe」という連載を担当しています。毎月、本気で持続可能性に取り組んでいる企業や、環境や持続可能性をきっかけに大きく変化を遂げているビジネスや取り組みを紹介しています。雑誌の購読や問い合わせ先はこちらをどうぞ。http://www.elneos.co.jp 少し前に取り上げたSABミラーという会社の「CSR(企業の社会的責任)」に対するスタンスや実際の取り組み、成果などは、日本企業でCSRに取り組んでいらっしゃる方々にも、行政や市民、学生などさまざまな立場の方々にもきっと参考になるのではないかと思い、ご紹介します。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 エルネオス「枝廣淳子のプロジェクトe」第21回 SABミラー 昨今、日本ではCSR(企業の社会的責任)が流行語のように唱えられていますが、コンプライアンス(法律遵守)中心の取り組みや「みんながやっているから」式の反応も多いようです。今回は、CSRに戦略的に取り組むことで企業の体質強化をはかりつつ、本当の意味での「企業の社会的責任」を果たそうとしている企業を紹介しましょう。 SABミラーは、もともとSouth African Breweries(SAB)という、主にアフリカでビジネスを展開する世界でも十指に入る規模の南アフリカのビール会社でした。 ビール業界が合併吸収を繰り返す時代に入ると、同社は成長戦略の一つとして他社の買収合併を考えました。そのためには金融市場で資金を調達する必要があり、そのためには株主に信頼される会社でなくてはなりません。 人種差別などの問題も抱える南アフリカの企業として、同社は以前から社会的な活動をおこなっていましたが、上場するための厳しい条件をクリアするためにも、いかに自社の社会的責任をさらに広く、深く果たせるかを考え、実行に移していきました。社会的な倫理意識もありましたが、事業戦略としてロンドンの金融市場に成功裏に上場するために、CSRを事業戦略に組み込んで推進したユニークな例ともいえます。 同社はCSRに取り組むという決断とともに、トップマネジメントレベルの委員会を構成し、外部の専門家を重役として招き、全社のCSR活動を推進し始めました。 南アフリカでは環境への取り組みにはそれほど注目されていなかったため、まずはすでにISO14001の認証を受けているハンガリーのビール会社を買収して、その知識やしくみを全社に広げることで、環境マネジメントシステムを構築しました。ステークホルダーとの対話を重視し、「自分たちの社会的責任は何か」と考えつづけています。 同社の取り組みは大きく六つほどありますが、その一つは本業を通じての地元経済の活性化です。グローバル企業は原材料をコストの安い国で調達したり、本国から運ぶ傾向が強いため、途上国で商品が売れても、そのお金はほかの国に流出してしまい、地元経済の活性化につながらないという問題があります。 この問題に対処するために、同社は各地域での需要のうち現地の国で調達している割合を国別にすべて計算しました。その結果、世界全体では原材料の87%はその国でまかなっていますが、アフリカはその割合がわずか20%しかないことがわかりました。 同社は、これでは地域経済に貢献できないと、その比率を高める方策を打ち出しました。麦を育てる技術のない場所には農業の技術指導をする。技術が不足している麦の加工工場と合弁事業を立ち上げ、SABミラーの技術を持ち込むことで、現地での原材料調達の比率を高めています。 このような現地調達率を高める方策によって、タンザニアやウガンダ、ガーナなどでは地元の原材料を活用し、その販売額を伸ばしています。このように、グローバル経済の中で小さい循環を創り出そうとしているのです。 原材料だけではなく、人に対しても同様の取り組みを進めています。アフリカでは、ビールを配達するトラック運転手や販売する居酒屋などの職業に黒人の割合が高いのですが、同社はこれらの黒人の経済的地位を高めようとしています。黒人のトラック運転手に10年リースでトラックを貸与し、元手がなくても運搬事業が始められるようにしたり、居酒屋に経営や責任ある販売方法について指導をおこなったりしています。 このように、融資やリース、経営指導などのサポートを提供することで、経済的に弱い立場の人々にも機会と支援を提供することで、経済的な地位を高めようしています。これは単なる「与える社会貢献」ではなく、当事者たちに力をつけてもらうことを重視して経済活動をおこなっているのです。 また、HIV/AIDSの分野でも顕著な活動を展開しています。アフリカにはHIV陽性の人がたいへん多く、エイズ患者を含めて世界全体の4千万人のうち約半分がアフリカにいるといわれており、いまなお感染者が爆発的に増えている国もあります。   SABミラーは、従業員および顧客とHIVという観点から、大きな関心を寄せ、積極的な取り組みをしています。従業員が罹患すると、仕事に支障が出るほか、医療費の問題も出てきます。同社では、従業員が罹患した場合には、差別防止やプライバシー保護を図りながら、国の制度以上に厚い保険で支える仕組みになっています。しかし、そうするからには、罹患者の増加を止めないとコストがどんどん増えてしまいます。 また、この勢いでどんどん罹患者が増えると、同社の潜在顧客が減ることにもなります。一企業市民としての務めとして、という理由もあわせて、HIVの感染防止やエイズの発病抑止活動を社内外で進めています。 早期発見と早期治療のための知識に重点を置いて、HIVやエイズに対する態度や知識などに関する調査を実施しながら、エイズに対する知識や態度を強化しようとしています。 SABミラーは、このような活動を進めることで、自社の社会的責任を果たそうとしています。同社はこうした活動と平行して、ロンドン市場での上場に成功しました。株式上場のあと、株を市場に出すことで資金を集め、もともと自社よりも大きな規模だったミラーという米国の大きなビールメーカーを買収しました。そ こからの利益を使って、ほかの地域にもグローバル展開をしています。 買収・展開した世界中の会社とも同社の環境活動や社会活動のベスト・プラクティスを共有することで、全体のレベルアップをはかっています。 CSRを切り口に、従業員の支援やモラルアップを促進し、自社の体質強化をはかることによって、金融市場で次の段階に展開するために必要な資金を得、展開した先にも高いレベルでのCSRを根付かせていく――CSRが同社の成長の大きな原動力となっていることがわかります。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 CSRの取り組みは、その企業が「社会」をどのような範囲や対象としてとらえているか、その社会とどのような距離や位置関係で自社を位置づけているかによって、さまざまです。企業による違いはもちろん、大きくいえば国や地域による違いも感じられます。 個人的な感想ですが、日本企業のCSR活動で、もっと考え進めていくべきではないかと思うのは、特に「本業」と「社会」との関係や距離感です。日本には社会にも企業側にも、「社会貢献はビジネスとは切り離すべきである」、極端に言うと「本業を推進するためにおこなうのは邪である」という美意識が強いように思います。 それはそれで正しい部分もきっとあるのだと思いますが、社会貢献にせよ、社会的責任の実行にせよ、企業から一方的に社会に「与えるもの」ではなく、与えることによって得るものがあり、それによって進化していくことが最大の社会貢献であり社会的責任ではないかと思うのです。 もちろん、グリーンウォッシュ(環境によいことをやっているというイメージだけを自社PRやブランディングのために用いる)はいけないことですし、市民も企業のコミュニケーションを厳しい目で見るとともに、表面だけに惑わされない賢さを身につける必要があります。 しかし同時に、企業が社会との関係性ややりとりをどのように考え、作り出そうとしているか、そしてそれによってその企業がどれだけ学習し、変化し、進化しているか--これもしっかりと見ていきたいと思っています。 (ところで、環境に興味がなくても株をやっている人だったら、やはりこの点に着目すべきです。企業の将来の株価を大きく左右する大きなポイントですから!) 社会に対して閉じていて、自己完結の世界で作り出したものを一方的に社会に「貢献」したつもりになっている企業も、まだけっこう多いように思います。 一方で、多様性のリスクを強みに変えるしなかやな強さを持ち(少なくとも、持とうと努め)、自らを取り巻く環境からのインプットやフィードバックを積極的に求め、活かし、変化していこうとする企業もあります。 そのためのフィードバックループの最初の働きかけとして、また自分たちの学習の結果を実地で試し、評価する活動として、社会貢献などの取り組みを位置づけている海外の企業を見るにつけ、日本の企業も怖がらないでがんばって〜!と思います。 真空地帯でビジネスをやっているのでないかぎり、環境(社会)から質の高いフィードバックを得て、そこからの学習する能力は、企業の競争力の源泉のひとつなのですから! そして、複雑性を増す社会や世界の中で、その重要性はますます増していくだろうと思っています。
 

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