ホーム > 環境メールニュース > グローバル・ディミング〜温暖化は実際にはもっと強烈かもしれない(2006.03....

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年03月10日

グローバル・ディミング〜温暖化は実際にはもっと強烈かもしれない(2006.03.10)

温暖化
 
英国のBBCが2005年の1月15日に特集を組んで放映した「グローバル・ディミング」という現象に、世界の注目が集まっています。私が属しているバラトンググループ(国際的な環境研究者たちのネットワーク)でも、時々この言葉が出てくるので、少しまとめて調べてみました。いまの自分の理解の範囲でしか説明できませんが、大事な問題ですのでご紹介したいと思います。 (日経エコロジーで連載している「目からウロコの環境英語」というコーナーでも、4月号で取り上げています。短く読みたい方は、そちらをどうぞ!^^;) 晴れた日にはさんさんと降り注ぐ太陽の光、いつも地上に届く太陽の太陽光は変わりがないように見えますが、この50年間10年ごとに2、3%ずつ、地表に届く太陽光が減ってきていることをご存じですか?  この現象はグローバル・ディミング(global dimming)と言われています。dimとは陰らす、暗くするという意味で、グローバル・ディミングはまだ日本語で決まった訳語がありません。「地球薄暮化」「地球暗黒化」などと呼ばれていますが、地表に届く太陽光が減ってきている現象を指します。 この現象に最初に気が付いたのは、スイスの研究所の日本人研究者、大村氏だったそうです。30年で10%以上も地表に届く太陽光が減っているということを発見しましたが、当時は誰もその研究結果に目もくれなかったといいます。 その後、ほかにも世界の各地で地表に届く太陽光が減ってきているという研究論文が出てきました。「ソ連では1960年から87年の間に20%も減った」という結果も出てきました。しかし、「そんなことはあり得ない」と、認めらませんでした。 多くの研究者は「ほんとうに太陽光が減っているならば、地球は温暖化ではなく寒冷化しているはずだ。しかし、実際に地球は温暖化しているのだから、あり得ない」と考えたのです。 科学者もマスコミも認めず、IPCCの報告書にも出ていないこのグローバル・ディミングの現象は、2001年、2002年に出された論文で、実際に起こっている現象であることが実証され、今では多くの科学者が注目をしています。 実際にどれぐらい地表に届く太陽光が減ってきているのでしょう? その数字は地域差もあり、研究者によってもさまざまですが、10年間で2〜3%という数字が多く、北半球中緯度の地域でこの現象が激しいとされています。 グローバル・ディミングは、別の分野の研究者たちを悩ませていた謎の一つを解いてくれることになりました。実は、地球の温暖化に伴って気温が上がっているのに、水の蒸発量は減っているという、世界中からのデータを前に、悩んでいた研究者たちがいたのです。気温が上昇すれば水の蒸発量も増えるはず。ところが実際には、世界各地で水の蒸発量が減っていたのです。 研究の結果、水の蒸発は気温だけではなく、水の表面に当たる太陽光(光子)の力に影響されることが大きいことがわかり、水の蒸発の研究結果からも、地表に届く太陽光が減っているということが明らかになりました。こうして、最初に研究発表が出されて20年近くたってようやく、科学雑誌サイエンスに取り上げられるまでになりました。 それでは、なぜ地表に届く太陽光が減っているのでしょう? 太陽からの光の量は変わっていません。地球側の要因が変わってきているのです。多くの研究者は、主に石炭や石油、木材などを燃やすことによる大気汚染物質が原因だと考えています。二酸化硫黄やススなどです。大気中に浮遊するこのような微粒子をエアロゾルと呼びます。 余談ですが、私が通訳を始めたころ、温暖化の会議で時々、このエアロゾルという言葉が出てきました。ただ、発表している科学者の間でも、これが温暖化に何らかの影響を与えているらしいが、温暖化を進める影響なのか抑制する影響なのか、まだよくわかっていないという歯切れの悪い説明に、通訳をしながら落ち着かない思いをしたことを思い出します。 このように大気中に浮遊している微粒子は、太陽光を反射し、地上に届く前に宇宙にはね返してしまいます。それだけではありません。エアロゾルは、雨粒の中核となって雲の生成を促進します。巨大な鏡のような雲をつくり、太陽光を反射してしまうのです。このようにして、人為的に排出された二酸化硫黄やススなどの大気汚染物質によって、地表に届く太陽光が減ってきています。 グローバル・ディミングは、どのような影響を与えているのでしょうか? まず、植物にとっては光合成にかかわります。光がふんだんにあり、光合成の制約要因が水などの場合は別ですが、光の量が制約要因となっている高緯度の地域では、1%太陽光が減ると生産性も1%下がると言われるほど大きな影響があります。(ですから、ビニールハウスの天井は太陽の光ができるだけ通るように、いつもきれいに洗っているのです)。 また、このグローバル・ディミングの研究をしている研究者によると、天候パターンにも大きな影響を与えるといいます。1970年代〜80年代、サハラ以南の地域で、毎年降る夏の雨が降らず、日照りが続き、大変な飢饉が発生し、多くの人が餓死しました。 これも実はヨーロッパや北米での石炭や石油の燃焼による汚染物質が、空で雲をつくり、太陽光をはね返したため、降雨パターンが変わったためだと考える研究者もいます。私たちが車に乗ったり、発電所で石炭や石油を燃やすことが、遠くアフリカの何百万もの人々の命を奪い、窮状をつくり出しているのだ、と。 グローバル・ディミングは、どんどん悪化しつつあるのでしょうか? 実際には、1990年代以降、グローバル・ディミングはマシになってきたという調査結果があります。 特に、ヨーロッパ、北米などでさまざまな公害防止の手段が取られ、大気中に排出されるエアロゾルが減少したため、グローバル・ディミングの影響も小さくなってきたのです。1990年以来、10年間で4%ずつ空が明るくなってきているという報告もあります。実際に空の衛星写真も明るくなってきているそうです。 これはもちろん、人々の健康にとって、また90年代以降は、以前ほどはひどい日照りは起こっていないサハラ以南の国々に住む人々にとっても、うれしいニュースです。 しかし、グローバル・ディミングには実は、別のもっと恐ろしい問題を抑える作用もあることがわかってきました。地球温暖化です。グローバル・ディミングは太陽光を反射することによって、地球を冷却する効果を持っているのです。 考えてみれば奇妙な状況です。石炭や石油、木材という燃料を燃焼することにより、目に見えない汚染物質である二酸化炭素が排出されて、地球温暖化をもたらしています。これについてはよく知られているところです。 しかし同時に、その燃焼から、目に見えるススや二酸化硫黄といったグローバル・ディミングの作用を持つ汚染物質も出ているのです。それらは地球を冷却する効果を持っているのです。 言ってみれば、一つの部屋の中でストーブをどんどんたいている。薪をどんどんくべているけれども、それほど室内の温度は上がっていない。安心していたけれど、ふとクローゼットを開けてみたら、そこに強力なクーラーが働いていて、部屋の温度を一生懸命下げていた、ということがわかった。そのような状況ではないでしょうか? 産業革命以前に比べ、大気中の炭素濃度は280ppmから380ppmへと100ppm増えています。氷河期にこれほどの二酸化炭素の増大があった場合、地上の気温は6℃上がったとも言われています。しかし、現在の温度の上昇は0.6℃です。 実はこの上昇がそれほど大きくないことも、科学者たちの頭を悩ませていました。もしかしたら、石炭・石油・木材などの燃焼から、"温暖化汚染物質"である二酸化炭素と、"冷却汚染物質"である二酸化硫黄やススなどが同時に排出されていて、両方が相殺することで、0.6℃の温度上昇で済んでいるのかもしれません。 そして近年、二酸化硫黄やススといった"冷却汚染物質"は、どんどんと減っています。健康被害や酸性雨といった目に見える問題を起こしているため、「削減せよ」という政治的な圧力がかかること、二酸化炭素に比べて目に見える汚染物質であること、脱硫装置や排煙装置などをつければ、ライフスタイルを大きく変えることなく削減できることなどが、「減らしやすい」理由です。 "冷却汚染物質"は減らしているのに、"温暖化汚染物質"は減っていません。これはストーブに薪をくべるスピードは変えない(または加速している)のに、室温のバランスを保っていたクーラーを弱めているという状況に例えることができます。 では、"冷却汚染物質"の作り出す雲の冷却効果はどれほどのものなのでしょうか? これは、不幸な出来事から期せずしてできてしまった大きな実験から、とても大きな効果であろうと考えられています。 9・11の後、アメリカの上空を3日間一機も飛行機が飛ばなかった時期がありました。この時、科学者たちは初めて、飛行機雲(ディミングの大きな要因)の影響がなかったら、実際には温度はどうなっているのかを測定することができたのです。 この3日間の温度の計測記録によると、昼間の暖かい気温と夜の冷たい気温の間の差が、それまでに比べて、1℃も大きかったといいます。すなわち、昼間の気温を冷却して上昇を抑える効果があることがわかります。 たったの3日、アメリカの上空を飛行機が飛ばなかっただけでも、1℃もの差が出る。二酸化炭素を排出する燃焼を止めることなく、地球規模で"冷却汚染物質"である大気汚染物質を減らしていくと、2100年には、今言われている最大5.8℃どころか、10℃も気温が上昇するのではないかと心配している科学者もいます。 つまり、グローバル・ディミングの冷却効果によって、実際の地球温暖化の影響が弱いように見えてしまっているということです。科学者たちの間でも、グローバル・ディミングの冷却効果を考えに入れずに計算をしていたため、これまでの地球温暖化の効果や影響力や、予想される気温上昇はかなり過小評価だったのではないかという声が上がっています。 実際にグローバル・ディミングの影響がどれぐらいのものであるのか、これはまだはっきりとした数字が出ているわけではありません。しかし間違いなく言えることは、グローバル・ディミングによって、温暖化の影響が実際よりもまだ小さくしか出ていない、ということです。 グローバル・ディミングはなくしていく必要があり、実際に小さくなりつつあります。そのときに同時に、ストーブにくべる薪(温暖化を引き起こす二酸化炭素)も減らしていかないと、あっという間に、予想もしない範囲にまで温暖化が進んでしまう恐れがあります。
 

このページの先頭へ

このページの先頭へ