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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年03月01日

英国政府の報告書「危険な気候変動を回避する」(2006.03.01)

温暖化
 
気候変動(温暖化)に関する話で、「アイピーシーシー」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。IPCCは、Intergovernmental Panel on Climate Changeの略で、「気候変動に関する政府間パネル」といいます。 各国の研究者が政府の資格で参加し、地球温暖化問題について議論を行う公式の場として、国連環境計画(UNEP)及び世界気象機関(WMO)の共催により1988年11月に設置されたもの。 温暖化に関する科学的な知見の評価、温暖化の環境的・社会経済的影響の評価、今後の対策のあり方の3つの課題について検討している。1990年8月には第一次評価報告書(FAR)を、1995年に温暖化の予測、影響、対策を網羅する総合的な評価を第2次評価報告書(SAR)として取りまとめた。さらに2001年には、第3次評価報告書(TAR)を発表している。(EICネットより) よく「×℃気温があがるかもしれない」などというときの数字やデータ、論拠として、よく引用されるのがこのIPCCです。上記にあるように、5年ごとに報告書を出しており、次回は第4次評価報告書が2007年に出される予定です。 温暖化が進むと、植物が種子をまいては生育することで移動できる速度よりも気温上昇の速度が上回り、多くの植物が絶滅すると心配されていますが、同じように(?)、温暖化が進むと、IPCCの5年ごとのレポートで科学的事実を伝え、警鐘を鳴らすのでは間に合わなくなると心配されています。 そういう背景もあり、いまや温暖化対策のリーダーとして名を馳せている英国政府の肝いりで、昨年2月に、「危険な気候変動を回避しよう」をテーマに、世界の第一線の気候科学者が集まり、英国で気候変動国際会議が開催されました。
http://www.defra.gov.uk/news/2005/050203c.htm 30ヶ国から200人以上の科学者・研究者、政策担当者らが集まって開かれた3日間の会議を、「日本でもこんな会議が開けたらなぁ。日本政府もリーダーシップを発揮できるのに!」と思ってみていました。この会議で議論された論文は、2007年のIPCC第4次報告書にも役立つことになっています。 それから1年後、このときの会議が報告書として出版されました。
(プレスリリースは http://www.defra.gov.uk/news/2006/060130c.htm ) 内容はこちらにあり、すべてダウンロードできます(本自体は400ページを超えますので、ご注意!)。
http://www.defra.gov.uk/environment/climatechange/internat/dangerous-cc.htm さくっと(英語ですが)読むなら、要旨はこちらです。
http://www.defra.gov.uk/environment/climatechange/internat/pdf/avoid-dangercc-execsumm.pdf この報告書の内容と、報告書の出版にあたって英国のマーガレット・ベケット環境大臣が2006年1月30日のBBCニュースでのインタビューに答えた内容を、簡単にまとめてもらいました。 インタビューの要旨はこちらです。音声でインタビューを聞くこともできます。(比較的わかりやすいですので、英語のリスニング練習にもどうぞ!)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/4660938.stm =================================== 温暖化・脱温暖化に関する最新情報             (by 枝廣淳子+実践和訳チーム温暖化サブチーム) ※このメールニュースの目的は、温暖化・脱温暖化に関する世界の最新情報をいち早くお届けすることです。英語による最新情報を発信しているサイトなどをご存じの方は、ぜひ教えて下さい。 ※印刷物への転載は、著作権の関係がありますので、無断ではできません。メールでの転送やウェブへの転載は、以下の出所を付記していただければ、歓迎です。 枝廣淳子の環境メールニュース
http://www.es-inc.jp/lib/mailnews/index.html 温暖化・脱温暖化に関するバックナンバー
http://www.es-inc.jp/lib/archives/11.html 『英国政府の報告書「危険な気候変動を回避する」』 英国政府は、『仮邦題:危険な気候変動を回避する』(Avoiding Dangerous Climate Change)と題する報告書を発表した。
http://www.defra.gov.uk/environment/climatechange/internat/pdf/avoid-dangercc.pdf 報告書では「温室効果ガスの排出量を危険レベル以下に抑えられる可能性は極めて少なく、温室効果ガスの大気中濃度の上昇は、これまで考えられていた以上に深刻な影響をもたらす」と述べられている。 この報告書は、2005年2月に英国気象庁が開催した気候変動国際会議に基づいて作成されたもの。 英国の環境・食糧・農村地域省のマーガレット・ベケット大臣(Margaret Beckett)は「気候変動が、取り返しの付かなくなる転換点に来ていることは、なかなか実感できないかもしれません。でも、この報告書は、そのことを痛感させるものになるでしょう」と語った。 報告書の主なテーマは以下の2つ。 【1】温室効果ガスの大気中濃度をどのレベルで安定化させるか。
【2】そのレベルを超えないためにはどのような選択肢があるか。 【1】まず、気温が以下のように上昇した場合の影響について、次のように分析している。 ・1℃:危険性がかなり高まる。影響を受けやすい生態系や生物種は、そのリスク増大のスピードが速まる場合もある。
・1℃〜2℃:世界レベルで危険性が高まる。地域によっては深刻なケースも出てくる。
・2℃以上:危険性が一気に高まる。大量絶滅や生態系の崩壊、饑餓や水不足リスクの増大、特に途上国で社会経済へのダメージなど。 研究者たちは、気温が2℃上昇すると、以下のような状況が起こるという。 ・先進国でも途上国でも、穀物の収穫量が減少する
・ヨーロッパやロシアでの不作が3倍になる
・砂漠化が広がり、北アフリカで大量の難民が発生
・28億人が水不足に直面
・珊瑚礁の97%が消失
・北極海の氷が夏のあいだ完全に溶解し、ホッキョクグマやセイウチが絶滅
・アフリカや北米でマラリアが流行
・グリーンランドや南極大陸西部で氷床の融解が進み、世界の海面水位の上昇につながる(平均海面水位は1000年で7メートル上昇) この分析結果を踏まえると、欧州連合(EU)がこれまで掲げてきた「世界の平均気温の上昇幅を2℃以内に抑える」という目標は、極めて不十分である。 では、こうした危険を回避するためにはどうしたらよいか。 大気中の温室効果ガスの濃度を、二酸化炭素換算で450ppm以下に安定化させる必要がある(産業革命前は約275ppmだった二酸化炭素濃度は、現在約380ppmまで上昇)。そのためには、世界の温室効果ガス排出量を、2015年頃をピークに、2050年までに1990年比でおよそ3〜4割も削減しなければならない。 これについて、英国政府の主席科学顧問であるデイビッド・キング卿は、「10年後には400ppmに達するだろう。世界的にエネルギー需要が高まる中、どの国も温暖化防止のために発電所を止めようはしないだろう。450ppmという目標は実現不可能に近い」と発言している。 また、「大気中の二酸化炭素の濃度はどこまで上げても安全か」という議論は、「毎日何本までならタバコを吸っても安全ですか?」と医者に聞くようなもの、という声もある。 【2】「危険レベルを回避するための選択肢」については、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギー、クリーン石炭技術の推進といった技術的な選択肢や、排出量取引などの資金メカニズムがすでに存在する。 しかし、ここで大切なのは、「これらの技術をいかに迅速に、より多くの国が取り入れるか」である。気候変動政策を実施する上で最も大きな問題は、技術やコストではないのだ。 既得権益や認識の欠如、環境コストを反映していない価格設定、変化に対する抵抗、効率的な投資環境の欠如から途上国に技術移転ができないといったさまざまな政治的、社会的、文化的な障壁、そして「実際の行動を起こす」という壁を超えられるか、こそが最大の課題であると結論づけている。 (小野寺春香)
 

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