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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年02月25日

パネルディスカッション「持続可能な未来をつくる地球環境技術-環境の世紀と人類の課題」での発言録その1(2005.11.02)

コミュニケーション
 
9月1日に、財団法人2005年日本国際博覧会協会主催、日本経済新聞社共催で開かれた「愛・地球賞 記念シンポジウム」に参加しました。 「持続可能な未来をつくる地球環境技術-環境の世紀と人類の課題」というタイトルのパネルディスカッションで、清水正巳氏(日本経済新聞社論説委員)の司会のもと、シュミット・ブレーク氏(ファクター10研究所所長)、森島昭夫氏( (財)地球環境戦略研究機関理事長)、山本良一氏(東京大学生産技術研究所教授)という重鎮テーブルの端っこに座らせてもらって、自分でとても大事だと思っていることをいくつか発言させていただき、楽しいひとときでした。 そのときの自分の発言をご報告します。(シンポジウム全体のようすは、9月18日付の日本経済新聞に掲載されています) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ご紹介、ありがとうございます。いま紹介いただいたように、私は技術の専門家ではありませんので、どちらかというと技術のソフトサイドの立場、先ほど山本良一先生のお話にも、「社会で普及していくことが必要だ」という話がありましたが、消費者・生活者の立場からのお話させていただければと思います。 今回、この愛地球賞の審査委員を務めさせていただき、愛地球賞を行ったこと自体がまず素晴らしい、と思いました。愛地球賞が設けられたおかげで、世界中から、そして日本各地からたくさんの素晴らしい技術が集まりました。その国やその地域だけでなくて、広く知られるひとつのきっかけになったと思います。 また、きっと、「日本の万博で愛地球賞というのがあるらしい」「選ばれると100万円もらえるらしい」「100も選ばれるらしい」「もしかしたら、うちも可能性があるかもしれない」と、締め切りを目指して、あちこちで頑張ったんじゃないかと思います。 「締め切りのパワー」というのがありますね。皆さんそれぞれ、粛々とやってらっしゃるのですが、「○日までにまとめて提出しよう」と思うと、やはりぎゅっと頑張るのだろうと思います。おそらく、今回愛地球賞があったおかげで、日本各地、世界各地の技術が、いろいろな意味でぐいっと進んだのではないでしょうか。 さきほど、山本先生がエンジニアとして、技術でどのように地球環境問題を解決するかという話をされました。技術は本当に大切なものだと思います。私は、そのように各地でいろいろ開発されている技術を、いかに使っていくかというサイドから話をします。 たとえが適切かどうかわかりませんが、技術というのは「種」というか、たとえばイネの種、米粒のようなものかなと思います。それ自体、非常に大切なのですが、そのままでは私たちは食べられないし、消化できません。その米粒をおいしいご飯にして、そしてやっと消化することができる。おいしいご飯にしてこそ、たくさんの人が食べることができる。開発された技術をどうやっておいしいご飯にして、たくさんの人に食べてもらうかという話をしたいと思います。 先ほどご紹介していただいた環境メールニュースというのを、6年近く前から出していて、たくさんの方に読んでいただいています。ごく普通の方が多くて、環境に関心があるという共通点以外は、いろいろと多岐にわたる方々が読んで下さり、フィードバックを下さっているので、そういった方々の声も踏まえてお話をします。 それからジャパン・フォー・サステナビリティといNGOは、3年前に仲間と一緒につくった日本の環境の取り組みを英語で世界に発信するというNGOです。すでに1,00本ぐらい、日本のさまざまな取り組みを発進しています。英語と日本語と同じページがウェブにあるので、見ていただくと、日本各地のいろいろな取 り組みを日本語でも読んでいただけます。300人ぐらいのボランティアの方々の力を借りて、そして60数社、支援をしてくださる団体・企業と一緒に活動しています。 いま世界179ヵ国に情報発信をしているんですが、発信すると返ってくるんですね。「もっとこういうことが知りたい」とか「日本のこういう技術について教えてほしい」とか、技術に関する世界からのコメントを少しまとめてきたので、それを後半にご紹介しようと思います。 もともと通訳をやっていたこと、環境関係の国際的なネットワークに入っていることから、世界のいろいろな方々に教えてもらっている立場にあるのですが、その仲間のひとりであるデニス・メドウズさんたちが30数年前に『成長の限界』という本を出し、30年後にどうなったかという『成長の限界 人類の選択』という 本を出されました。それを訳して、この3月に出版しましたので、そこから少し、技術に関するところでデータを持ってきました。 このグラフは、世界のエネルギーの使用量を表しています。天然ガスも石油も、それぞれ軒並み伸びていることがわかります。いまガソリンの価格がどんどん上がっていますが、産油量がそろそろピークで、これからは減る一方ではないか、と「石油の枯渇」ということが言われるようになっています。そうすると、代替のエネルギーとして、天然ガスだと言われます。いま、天然ガスの開発がすごい勢いで進んでいます。 もうひとつ、温暖化に対する懸念もあります。石油よりは天然ガスのほうが二酸化炭素を出しませんから、「温暖化を防ぐためにも天然ガスだ」というシフトが起きています。 では、肝心の天然ガスのほうはどうなっているのでしょうか? このグラフの太線は、一定の割合で天然ガスを使い続けると、現在あると考えられている量でどれぐらい持つかを示しています。いまと同じペースで使うと、260年持つという計算です。 しかし最近、天然ガスの消費量は年率2.8%ぐらいで増加しています。もし2.8%の増加が続いたとしたら、どうなるのでしょうか? 260年持つはずだったのが、75年しか持たないのです。 そして、いま言ったように、石油の代わりとか、温暖化対策とか、ますます天然ガスをいろいろなところで利用する技術開発が進んでいます。そうなってくると、もしかしたらもっと、5%ぐらいの勢いで消費量が増えるかもしれない。そうすると50年ぐらいしか持たないのです。 つまり、いま天然ガスを使うためのいろいろな技術開発がなされていいるけれども、それがゆえに、天然ガスはまたたくまに枯渇してしまう。そういった問題に直面しています。 このデニス・メドウズたちの書いた『成長の限界 人類の選択』は、ご興味があればぜひ読んでいただきたいのですが、問題は、資源の枯渇ではなくて、農業や汚染や資源といったいろいろなところで、問題が同時多発的に起こるために、それぞれに対応するための資金や人などが足りなくなるのが問題だということがわかります。 『成長の限界 人類の選択』では、30年前も今回もそうですが、シミュレーションの結果を示しています。システム・ダイナミクスという理論に基づいて、コンピュータ・シミュレーションをしているのですが、本書には9つのシナリオが載っています。 ここでは詳しく説明しませんが、このままだったらどうなるか、そして、もちろん技術で解決するというオプションもありますから、では、いろいろな技術を開発・導入していったらどうなるか、をシミュレーションしています。たとえば汚染を防ぐ技術、農業の生産量を上げる技術、土壌の浸食を防ぐ技術、そして山本 先生やシュミット・ブレークさんがずっとやってらっしゃる資源をもっと有効に活用する、つまり資源効率を上げる技術などを導入したらどうなるか、というシミュレーションをしています。 そのような変数を変えても、だいたいこのような崩壊のシナリオとなってしまいます。ある時点まではうまくいくけれども、あるところを過ぎてしまったら、たとえば汚染がもう止められなくなるとか、食糧がつくれなくなるとか、いろいろな意味で、私たちが望まないような未来が来てしまう。こういったシナリオが多い。それだけでは非常に暗い話になってしまいますが、ただ、どうして技術の力だけでは解決できないのか?を考えなくてはなりません。 先ほど言ったように、技術を使うためにはコストがかかります。そしてそのリソースは、ほかのところから回してこないといけません。「ほかのところ」もいろいろな問題に直面してリソースが必要になってきますから、そのあたりが非常に難しいのです。 もうひとつは、時間的な問題があります。もし私たちが永久に近い時間を持っていたら、多くの問題は技術で解決できるでしょう。しかしいま、時間的に限られている状況にあるので、どんどん時間が迫っているなかで、いくつの問題に同時に直面している状況はやはり難しいということです。 この本の後半のシミュレーションは、ではもし、技術や市場の力を使うだけではなく、私たちや私たちの経済が、「もっと大きくなろう」「もっと金持ちになろう」「もっと人を増やそう」といった成長欲求自体を抑制することを選んだらどうなるか、が示されます。 まず人口は、先ほど森島先生のお話にありましたが、子どもの数を2人に制限する。しかし、それだけでは、問題が解決できません。次の要素として、子どもの数を2人にした上に、「足るを知る」暮らしにする。つまり、私たちの生活水準をある一定レベルで抑え、それ以上望まないようにする。 でも、実はそれでも解決ができません。そのような「子どもの数を制限する」「生活レベルを制限する」ことに加えて、先ほど挙げたさまざまな農業や土壌や省資源の技術をすべて開発し実用化してはじめて、このグラフに示すような持続可能なシミュレーションの結果が出ます。 このように、持続可能な未来をシミュレーションすることは可能なのです。このような未来はあり得ます。私たちが正しい技術を選び、使っていくこと。そして、技術だけではなくて、子どもの数や生活レベルをきちんと抑制することができれば、崩壊を回避できるというのが、この本の大きなメッセージです。 では、この持続可能な未来に向かって進んでいくのに何が必要なのでしょうか?まずひとつは、本当の解決策を見出すために全体像を把握することです。先ほど森島先生からもお話がありましたが、システムとして見ていくことです。システム思考という考え方があります。 また、自分たちがそれぞれ目の前のことを一生懸命やっているけど、そういうのをつなぎ合わせて全体として、日本は、もしくは世界はどこに向かっていくのか。そういったビジョンを出していくということ。 それから、そのような全体像やビジョンに沿って技術を開発したり、製品をつくったりしたとして、そのあと、それをどうやって広げていくのか。「広げていくための技術」は、これから開発していかなくてはならないと、ここ数年思っています。具体的に言うと、効果的なマーケティング活動をすることです。「いいものをつくっているんだから、わかってくれるだろう」「環境にいいものなのだから、売れるだろう」--このような考え方ではなかなか通用しないことは、技術に携わっている方や企業の方ならわかると思います。 そして、コミュニケーションです。伝えていくということ。これもひとつの技術です。この力をもっともっとつけていかないといけない。 全体像という話に戻ると、私たちの環境の取り組みには、このイラストが示しているように、ひとつの問題が解決したと思ったら別の問題が起こったり、いまはいいけれども、あとで大きなツケがやってきたりするようなことがよくあります。たとえばフロンの問題もそうですね。冷媒として便利なフロンをつくった。その時はよかったけど、そのために後々までオゾン層が破壊されてしまう。こういった問題があります。全体像を見ることは、非常に複雑化している社会の中では難しく、どうしても自分の目の前のことだけで、部分最適化を図る傾向になってしまいがちです。 私たちの考え方は、往々にして線型思考です。「○○だから△△になる」と直線的に考えますす。たとえば利益は売り上げとコストからなっている。売り上げは価格と数量からなっている。だから「どこをどういじろうか」という話を各部署でやるわけですが、実はこれは全部つながっています。 森島先生が「環境問題もいろいろと相互につながっている」とおっしゃったように、私たちの住んでいる世界も社会も生態系も、すべてシステムであり、すべてがつながっていますから、どこか1ヶ所いじるとほかのところにも影響がでてきます。それをシステムとして考えていこうというのがシステム思考です。 今日は詳しくお話しすることはできませんが、全体像を見て考えていくという手法はすでにあります。理論もあるし、研究もあるし、実用化も進んでいる。こういったものをもっともっと身につけていかないといけないと思っています。 それから、物事にはツボがあります。技術だったら何でもいいから開発しようとか、何でもいいから使おうではなくて、選択と集中という形で、いまいちばん必要な技術はどういう方面のどういう方向のものなのかを考えていく必要があります。それをやっていかないと、お金や人といった資源も無限にあるわけではないので、効果的に進めることができなくなります。システム思考では、ここに力を入れると大きくシステムを変えられる大きなポイントを「レバレッジ・ポイント」と呼んで、それを見つけて進めていこうとします。 こちらは、ナチュラル・ステップからお借りしている図ですが、ビジョンをつくっていくときに、目の前のことを解決しようとするのではなくて、究極どういう姿にしたいのかということを考えて進んでいくというバックキャスティングを示しています。 それから、実際にそういったビジョンをつくって「じゃあ、やっていこう」といったときに、今度はそれを広げていく必要があります。その役に立つ、イノベーションを広げるための理論があります。 技術ても考え方でも、まずだれかが新しく考えつきます。エンジニアや技術者、開発者などは考えつくのは得意ですが、往々にして伝えるのはあまりお上手ではないという場合が多いといいます。 そのときに、「これはこういう意味なんだよ」「使うと、こういういいことがあるんだよ」と、通訳なり翻訳をして、世の中に伝えていくチェンジ・エージェント(変化の担い手)という役割が必要になります。そうしてはじめて、「じゃあ、使ってみるか」という、初期導入者(最初に使ってみる人たち)が出てきます。その人たちの様子を見て、みんなが「じゃあ、使おう」と。こういうふうに新しい物事は広がっていくと言われています。 この流れで考えると、「技術の開発」は、最初の考えつくところですよね。それはとても重要ですが、いくら考えても、たくさん技術があったとしても、それを社会にちゃんと伝えて、わかってもらって、使ってもらわないといけない。広げるという役割の人も同時に育成していかないと、「技術はたくさんあるけど、環境負荷を下げることにはあまりつながっていない」のでは、ほんとにもったいないことだなと思います。 今回愛地球賞ということで、たくさんの、世界、日本から技術が集まり、それをみんなにお返しする機会をつくってもらったということは素晴らしいことだと思っています。でもそれで終わらずに、ぜひ選んだ技術を実際に使ってもらえるようにしていくこと、そして使ってどうだったかというフィードバックをもらって、またそれをみんなに返していけるような、この賞がそんな仕組みの第一歩になったらと願っています。これで最初のコメントを終わります。ありがとうございました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 つづきのコメントもご報告しようと思います。 ところで、昨日、レスター・ブラウン氏の対談の通訳をしてきました。今回の来日では残念ながら昨日が通訳できる唯一の機会でしたが、レスターはいつもどおり元気で、新しい話もいくつもしてくれて、興味深かったです。 レスターは「プランB 2.0」という本を来年1月に出します。目次はこちら。 第1章がダウンロードして読めるようになっています。 (出版後はすべての章を無料でダウンロードできるようにすると言っていました) 私は、出版前のゲラをもらって読んでいるのですが、特に第2章は、具体的な数字を出しての思いもよらない現実--現在の石油価格高騰の意味するもの--に「がーん!」という感じです。昨日の対談でもまさにその点が取り上げられたので、誌面に載りましたら、ご紹介したいと思います。
 

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