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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年02月14日

世界の食糧事情〜「さぬきの夢2000」(2004.07.29)

食と生活
 
日本は多くの食べ物を輸入しています。「あの国でしか取れないけど、食べてみたい」という贅沢品の輸入でしたら、「お金がなくなったらやめる」ことができます。でも、日本はカロリーベースで60%を世界に頼っています。コメ以外の穀物を始め、「お金がなくなったら」「輸出国が輸出してくれなくなったら」輸入をやめればいい、とは言えない、基本的な部分を外国に頼っています。 「自分の食べる分も自分で作れない」状況はかなりもろい立場ですが、「それぞれの国が得意なことをすればよい」という国際分業の考え方にのっとって「日本は工業製品を輸出し、食料やエネルギーは輸入する」政策を進めました。 この国際分業の考え方は、確かに合理的に思えます。安く作れるところで作って運んでくる一方、付加価値の高いものを輸出するほうが儲かるのでしょう。しかし、このしくみは「お互いにほしいものをほしいだけ出してあげられる」ときにはうまくいきますが、交換対象の物資が不足してくる状況では、機能しません。これまで頼ってきた食糧供給国が「無い袖は振れない」状況になったら? 工業製品を食べて生きるわけにはいきません。 日本の工業製品と引き換えに、食糧を供給してくれてきた世界の状況はどうなのでしょうか? 日本人が輸入している食糧を生産するために、日本は日本にある農地の約2.5倍の世界の農地を「借りている」そうです。その「世界にある日本の農地」の状況はどうなのでしょうか?  もうひとつは、世界から食糧を供給してもらっている国は日本だけではない、ということ。輸入国が増えれば、ライバルが増える、限られたパイを奪い合う、ということになります。そして、もし不足の時代になったら、これまでの輸出国が輸出し続けることは不可能になるでしょう。その点で、世界の状況はどうなのでしょうか? さきほど「国際分業の考え方は、確かに合理的に思えます」と書きました。「合理的」という言葉は、環境問題に限らず、日常生活でも私たちはよく使い、判断基準とし、物事を決定する根拠にしています。でも、ちょっと待てよ、と考えるべきは、「短期的合理性」と「長期的合理性」です。 「短期的に見れば合理的だけど、長期的には合理的ではない」ことがよくあるのです。「合理的」というときには、どこまでの時間スパンで考えているのか、自分でも意識する必要があります。そして、この場合「国際分業」の合理性は、長期的なものではなく、短期的なものではないか、と私は思うのです。 世界の食糧状況について、今年の4月28日に、アースポリシー研究所のレスター・ブラウン氏が出したニュースレターを、環境英語ML(オンライン自主勉強会)で訳し、実践和訳チームのメンバーがとりまとめてくれましたので、ご紹介します。原文はこちらにあります。 WORLD FOOD PRICES RISING:
Environmental Neglect Shrinking Harvests in Key Countries
http://www.earth-policy.org/Updates/Update39.htm
Copyright c 2004 Earth Policy Institute 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 高騰する世界の食品価格
長年の環境軽視で主要国の収穫量減少 今年の穀物収穫が始まる5月には、世界の穀物の備蓄量は59日分にまで落ち込むと見られており、これは過去30年で最低の水準である。備蓄量がこの水準まで下がるのは1972〜74年にまで遡る。当時は小麦とコメの価格が倍になり、米国のような食糧輸出国では、輸出を制限し、食糧不足を政治的駆け引きに利用するなど、不足に対応する政策が打ち出された。エチオピアやバングラデシュをはじめ食糧不足の国々では、数十万人が餓死した。 約30年経った今、同じような事態が展開されつつあるが、その原因は異なっている。世界の穀物収穫量は1950年から1996年にかけて約3倍に増えたが、その後は頭打ち状態だ。ここ4年間というもの、世界の穀物生産量は毎年消費量を下回り、必然的に備蓄が取り崩されている。この間、砂漠化の進行、地下水位の低下、作物を枯らしてしまうほどの高温、その他さまざまな環境の変化により、農業における技術の進歩や追加投資といったプラス要因はほぼ帳消しになっている。 基本となる食糧と飼料の価格が高騰している。シカゴ商品取引所での2004年5月の小麦先物取引は、昨年1ブッシェル(*1)当たり2.90ドル程度だったのが、4ドル超と38%値上がりした。同様に、トウモロコシは36%、コメは39%、そして大豆に至っては1ブッシェル当たり5ドル超だったものが、10ドル超と2倍になった。世界の二大主食である小麦とコメ、主要飼料であるトウモロコシと大豆の価格上昇が一因となって、世界中で食品価格が高騰しており、そこには世界最大の食糧生産国である中国と米国も含まれる。 中国では、穀物の価格が一年前に比べて30%上昇している。同国の国家統計局によると2004年3月の食品小売価格は前年同月と比較して7.9%値上がりしており、植物油の価格は26%、肉は15%、卵は19%それぞれ上昇している。 あらゆる国において、世界的な基本食品価格上昇の影響が出ている。米国最大の農業者団体であるアメリカン・ファーム・ビューローのマーケットバスケット方式(*2)による調査では、米国32州における基本食品16品目の小売価格の動向を追跡しているが、それによると2004年第1四半期の食品価格は前年同期比で、10.5%の上昇となっている。 食品価格の上昇率は、牛乳の2%から、卵の29%にまで及んでいる。植物油の価格は23%上昇したが、これは大豆価格が2倍になったことの影響が出始めたことによる。食肉の価格も軒並み上昇している。牛肩挽肉は1ポンド(約454グラム)あたり、一年前の2ドル10セントから2ドル48セントと18%上昇した。若鶏1羽の価格は18%、豚肉の切り身は10%値上がりした。パンとジャガイモの価格上昇率は、それぞれ4%と3%だった。(データ参照 www.earth-policy.org/Updates/Update39_data.htm.) 食品価格の上昇は依然として第2四半期も続きそうである。というのも、大豆は15年来の高値となり、小麦とトウモロコシもここ7年間で最高値をつけているからだ。大量の穀物を必要とする畜産品の価格は、穀物価格の上昇に非常に影響を受けやすい。対照的に、パンの価格は通常さほど上がらない。これは1斤のパンの原価に対して、小麦の占める割合が1割にも満たないからだ。たとえ小麦の価格が2倍になったとしても、パンの価格が大幅に上昇することはないだろう。 食品価格は、ほぼ世界中で上昇している。今年の2月、ロシアではパンが不足したため、パンの価格が前年同月比で38%上昇した。これに危機感を抱いたロシア政府はトン当たり35ユーロの輸出税を課し、小麦の輸出を制限した。 南アフリカでは、2004年初頭にトウモロコシの先物価格が急騰した。主に主食とされる白トウモロコシの価格は、2003年12月から2004年1月の間に1.5倍以上になった。主に家畜用飼料として使われる黄トウモロコシの価格も、同時期に30%値上がりした。このような価格の上昇は需要が急増しているにも関わらず、生産が落ち込んでいる事態を反映したものである。世界の人口が毎年7千万人以上増えていること、収入の増加に伴い世界中でさらに多くの人々が、穀物で肥育された畜産製品を消費できるようになっていることが需要の増加につながっているのである。 世界の穀物生産量の伸びは、需要の増加に追いついていない。それというのも、砂漠化の進行、地下水位の低下、そして気温の上昇といった主に環境面での変化が原因となって、多くの国で収穫量が減少しているからである。カザフスタンを例に取ってみよう。旧ソビエト連邦時代、同国では1950年代に未開拓地プロジェクトが実施された。ソビエト政府は、穀物生産を拡大するため、手つかずの草地を開墾したのだ。その面積は、オーストラリアとカナダの小麦耕作地の合計を上回った。これにより生産量は劇的に増えたが、1980年までには土壌浸食により、その生産性は徐々に低下していった。それから24年間で、この国の穀物耕作地の半分が放棄されるに至っている。 1980年代後半、サウジアラビアは小麦の自給を目指して大掛かりな計画に着手した。地下深部の帯水層から水を汲み上げることにより、1980年には30万トンだった収穫量を、1994年には500万トンまで伸ばしたのだ。しかし残念ながら、帯水層からの大規模な揚水には限界があり、2003年までに小麦の収穫高は220万トンに減少した。水不足に直面している隣国のイスラエルでは、もはやわずかに残った小麦畑にさえ水を引けなくなりつつある。これは、既に90%を超える輸入穀物への依存度がさらに高まることを意味している。 中国は主要な食糧生産国では初めて、収穫高の減少に直面しているが、その一因となっているのが砂漠の拡大と帯水層の枯渇である。中国のおよそ2万4000の村が、押し寄せる砂漠化の波で廃村となったか、もしくは農業経済に壊滅的な打撃を受けた。 小麦の大部分は同国の北半分を占める乾燥地域で生産されているが、そこでは毎年何万という井戸が枯れている。こうした環境の変化に加え、穀物価格の低迷により作付け意欲が低下した結果、ピーク時の1997年には1億2300万トンあった収穫高が、2003年には30%減の8600万トンにまで落ち込んでいる。 今日の穀物減収の原因となっている環境の変化のなかで、おそらく最も広範にわたるものは、気温の上昇であろう。米国農務省は2003年9月に発表した世界穀物等需給見通しの月次報告で、8月に出した予測から3500万トンの下方修正を行った。この減少分は米国の小麦収穫量の半分に匹敵するが、その要因はもっぱら8月にヨーロッパを襲った熱波であるとみられる。ヨーロッパでは農作物が枯れてしまうほどの高温が続き、西はフランスから東はウクライナにいたる地域で収穫が減少した。 2002年は記録的な暑さと干ばつが重なり、インドおよび米国の両国で、収穫高が減少した。主要食糧生産国で記録された史上最高、あるいはそれに匹敵するほどの高い気温が原因で、世界中で2002年は9100万トン、2003年には1億500万トンというかつてない量の穀物が不足した。 目下の問題は、農家が昨年の膨大な不足分を穴埋めできるほど今年の穀物収穫量を引き上げられるかどうかということだ。残念ながら、主要生産国で収穫が減少する一因となっている砂漠化や地下水位の低下、気温の上昇を逆行させるほどの試みは何一つ行われていない。このような無策の状態では、食品価格は上昇し続けるだろう。 (注*1) ブッシェルは穀物(などの)取引の単位。1ブッシェルの量は穀物の種類や状況に依る。ここで使われている米国取引市場の小麦の場合、1ブッシェルは60lb(パウンド:重量)、約27.216kgに相当。 (注*2) 「マーケットバスケット方式」とは、生活に必要なすべての消費財とサービスなどを、物量に換算し、その購入価格の合計を算出することで、生計費の比較購買力を測るもの。消費者物価指数などは、この方式で求められる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 水不足や温暖化による気温上昇、土壌侵食などによって生産量が減ってきていること、生産国では国内の政情不穏を抑えるために、不足が明らかになるに従って輸出制限をしはじめていることがわかります。状況が厳しくなると「輸出禁止」にもなるでしょう。輸出によって国内の食糧が不足し、食べ物の価格が上昇する、という事態は政治家にとって命取りになりますから。 日本に目を転じてみると、日本は狭い国土とはいえ、現在使われていない農地がたくさんあります。幸い、水にも恵まれています。そして、食品リサイクル法のおかげもあって(?)たい肥もたくさん作れます。国際分業をやめよう!と極端なことはいいませんが、「できるところで、自分たちのできる食べ物を作る」取り組みは、日本のため、その地域のため、そして世界のために、とても重要なことだと思うのです。 そして、そういう取り組みが少しずつ、草の根的に広がっていることは心強いです。イギリスでは、1970年度の自給率は46%と、当時は60%だった日本以下でしたが、食糧自給率の低下に危機感を感じて、国として対策を進め、2000年度には74%にまで大きく自給率を上げました。スイスも1970年には40%台だった自給率を2000年には60%にまで回復したそうです。 スイスの場合には、憲法に小麦の自給率を明記して取り組んだ、と聞いています。イギリスやスイスのように、日本政府ももっときちんとやるべきことはあると思いますが、「政府が手伝ってくれないからやらない」というのも違いますものね。 そういう意味で、「日本の自給率は40%かもしれないけど、この町の自給率は80%だよ」「この農作物に関しては100%だ」というビジョンや願いに向かっての地域の取り組みが、日本のあちこちで生まれていることはとてもうれしいです。 私は幸い、各地の情報を送っていただけることが多いので、このような取り組みが「同時多発的」に広がっているようすを実感しています。この動きは、政府の政策などとは関係なく、もっと人間としての根源的な「感覚」や「サバイバルのための本能」に根ざしているように思え、だからこそ、希望を感じます。 NHKのプロジェクトXにも取りあげられたそうなので、ご存じの方も多いでしょうが、日本の誇るうどんの原料である小麦を日本で作ろう、という取り組みが香川県で進められてきました。http://www.pref.kagawa.jp/seiryu/yume/ 現在の日本の小麦の自給率は約13%といわれます。さぬきうどんで有名な讃岐でも、かつては国産の小麦を使っていましたが、昭和30年代に起こった不作をきっかけに、外国産に頼るようになり、いまはほぼすべてが輸入小麦です。 でも「香川県産のうどんに適した小麦でつくったさぬきうどんを食べてみたい」という製めん業者や消費者の声を受け、香川県では「さぬきうどん」の付加価値を高めるとともに、県内小麦の生産振興を促すことを目的に、1991年から香川県農業試験場で「さぬきうどん」用の小麦品種の育成にとりかかりました。 こうして県と製粉業者、製麺業者、生産者や消費者までが協力し誕生したのが「さぬきの夢2000」です。まだ生産量は少ないそうですが、この小麦を使って麺を作っているお店がどんどん増えればいいなあ、と思います。 小麦全体では自給率は10%ちょっとかもしれないけど、「さぬきうどん」と名が付くうどんは、100%讃岐の小麦「さぬきの夢2000」をつかっているさ、という日が来ないかな〜。「さぬきの夢2000」の夢、です。(^^; この「さぬきの夢2000」を使って製麺しているお店は、それとわかるようアピールしているそうです。讃岐におじゃまする楽しみができました。 余談ですが、まえにおじゃましたとき、「信号の数よりうどん屋が多い」と言われる土地柄だけあって、本当にうどん屋さんが多い。おいしい。そして安い! タクシーの運転手さんが「日本のサラリーマンの平均昼食代、香川がいちばん少ないんですよ。だって、1玉100円、上にいっぱい具を載せて、2玉食べても300円ぐらいですからね」と胸を張っていました。 このとき、何回もタクシーに載ったのですが、どの運転手さんも熱心に「マイうどん」などのうどん談義をしてくれます。週に5回は食べている、という人も何人もいました。うどん以外の話でも、自分の住んでいる土地がお好きなんだなあ、と感じることもしばしば。この「愛」の強さからも(^^;)、讃岐地方のうどん小麦の自給率はきっとぐんぐん高まるに違いない、と思っています。
 

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