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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年02月09日

鳥インフルエンザの本当の問題について(2004.03.16)

食と生活
 
私たち通訳者は、世の中で新しい言葉が使われ出すと、「英語ではなんて言うの?」とすぐチェックします。(いつ何時、どのような場面で出てくるかわからないからです。気になって仕方ない、というのは一種の職業病?かも。^^;) 「鳥インフルエンザ」は、bird flu。文字どおり、ですが、小鳥がクシャミをしているような軽いイメージとはまったく異なる大きな問題の、ひとつの表出だと思っています。 狂牛病(BSE)にしても、今回の鳥インフルエンザにしても、別個の問題ではない、根っこは同じじゃないか、そしてこれからももっともっと同じような問題が出てくるのではないか、、、と感じていました。 そう思っていたときに、「あしがら農の会」の笹村さんがお書きになった「自然卵養鶏 自然養鶏での病気対応のあり方」をあるMLで拝読しました。ご本人の許可を得て、ご紹介します。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「強毒型鳥インフルエンザに関して」今起きている状況の説明と、とるべき対応策を書かせていただきます。今回の事態は私たち自然養鶏を行うものにとって、生活のかかった大きな岐路になると思います。 現在、鶏に関して間違った獣医学に基づく、病気対策が法律化されています。ワクチンで予防する事を絶対として、義務化しています。ところがワクチンでは対応できない病気は無数にあり、今後も出現する可能性は高いと思われます。大変虚弱に成っている今の養鶏用鶏種をケージ飼いすれば、忽ち、病気が蔓延することに成ります。畜産のあり方全般に対し、徹底的な見直しを行う事が急務と成っています。 しかし、いかにもこうなってから問題にするのでは、状況が悪すぎます。5年前「発酵利用の自然養鶏」の中で、この問題を予測し発言した時、ある鶏の会を除名されました。場合によっては法に触れ、飼育が出来なくなる可能性のある発言の為です。ここでもその覚悟で発言する内容です。これはあくまで笹村個人の考えであることを確認しておきます。 私の予測した通り、動物由来ではないかと言われる、新しい病気が次々に、エイズ、SARS、BSE、サルモネラ、鳥インフルエンザ、と出現しています。 何故か、先ず原因調査を徹底しろ、と言いながら結局曖昧に終ります。今回もそうなるに違いありません。それは渡り鳥由来だ、となると、今までの対応策を根底から変えなければ成らないからです。すでに根拠もないまま、渡り鳥説否定の予防線を張っています。こうした時一番の問題は、せっかちで忘れやすい消費者に追随する、風評被害を生む、報道関係者の情けない姿勢です。 鳥インフルエンザの発端が野生の鴨、或いはその周辺の野鳥にあることだけは確かです。鴨はこの抗体を持ったものがいることが確認されています。日本の鴨からも弱毒タイプのものは見つかっている、という情報があると、畜産保健所の方が言われていました。野鳥は発病しても、大量死することはありません。勿論餌付けで集めるような日本のやり方は自然とはいえないでしょうから、大量死の原因になっているかもしれません。いずれ野生は抗体を獲得するか、弱れば淘汰されてしまうかでバランスがとれる、自然の仕組みです。そうやって、自然界の免疫システムは出来ていて、人間がかかわらなければ、上手く調和するようになっています。ハクビシンがSARSで問題がないのと同じで、人間にだめだからと言っても、他の野生の生き物では克服されています。鶏ではサルモネラ菌がそうしたものでした。人でも東洋人の方がサルモネラの発病の可能性は低いとされているようです。 それでは何故こうした新しい病気が出現してくるのか。この原理を考える必要があります。当然、野生動物の生肉を食するようになったからではないでしょう。大枠で見ると、人間が弱くなってきた事があげられます。O157の流行時、そうした大腸菌に弱くなっている現代人が問題にされました。おかしな衛生観念のため、「自然免疫の獲得が出来ない人類」の出現です。水道局では確か、塩素の濃度を上げるという対策をしたはずです。そういえばあの時も貝割れ大根に責任を押し付けて、ごまかして終わりでした。貝割れ大根の会社が農協と対立していたのが原因だった、と言うような馬鹿げた話が後でありました。 もうひとつは「化学物質による病原菌やウイルスの変異が推理される」と考えるのが、妥当だと思います。弱毒タイプのウイルスの強毒への変異が増加している根拠です。化学物質は農薬もあれば、焼却由来のダイオキシン等、エントロピーの増大で、無限に増加している新しい化学合成物質が想像されます。環境ホルモンと言うようなものも影響しているのかもしれません。科学的に考えれば未解明分野で諸説はあるでしょうが。私達実践者は体験的な直感的な類推をする立場に立つべきです。畜産では飼料の単価、飼料効率、機械化、廃棄物の再利用等の為に、本来自然界では食べないものを無理やり食べさせる事になっています。保存料や添加物、消化促進剤のような危ういものが紛れ込む危険が潜んでいます。過去に大きな問題になった、抗生物質と殺虫剤を畜産で大量消費する中で、耐性菌の出現があり、ウイルスや病原菌の変異が呼び起こされ、禁止されてきた経緯が思い起こされます。ともかく、合成化学物質は極力減らす事でしょう。 シベリアに暮らす鴨にとっては韓国もベトナムも日本も生活の場ですから、当然行き来しています。鴨が持っているウイルスは、必ず他の野鳥に感染していると見なければ成りません。人間に発見されているかどうかは別にして、自然界には人の知らない病原菌を含めて、様々な病原菌が存在すると考えるのが普通です。何処にだって病原菌はあるのですから、アイガモや放し飼いの鶏に感染するのは必然です。昔からそうだったのです。それで異常な蔓延が起きなかったのは、自然のバランスの中で行われる範囲では、何羽かが死んで、免疫を得て生き残ったものが次世代の親に成り、永続性のある畜産が行われていたのです。 可能とは思えませんが、飼育している鶏を全て隔離し、ワクチンで感染を防いだとしても、鴨から野鳥への感染を防ぐ事は出来ません。そこでの強毒化したインフルエンザはどうなるのでしょう。公園の鳩からの感染はどうしたらいいのでしょう。かつてそうした事が問題にならなかったのは、自然界ではバランスが取れてきたことであって、大規模養鶏が登場して問題化したということは、大規模養鶏のやり方のほうに問題があると考えるべきでしょう。 鶏を野鳥から遮断しようと言うのが今の防疫の発想です。ウインドレス鶏舎で、できるだけ無菌状態の閉鎖した飼育をして行こうという流れです。実はこれは大企業が待っていた、作り出そうとしている流れなのです。日本に養鶏業は飼料会社直系の10軒でいい、と豪語していた人を知っています。読売新聞などはすでにこうしたお先棒の記事を載せました。見識のない恥ずかしい新聞です。よく考えて見て下さい。鶏がウインドレスで薬漬けでしか生きられないとしたら、人間は大丈夫なのでしょうか。 この先待っているものは、人間がウインドレス室の中でしか生きられない世界です。今畜産で起きていることは、必ず人間におきて来る事の前触れです。SFの世界ではありません。今起きていることは人類の史上初めての事態です。人間が自然の中で生きられなくなっている。環境を遮断して病原菌の居ない無菌に近い状態でしか安全では居られない。新しい時代の登場です。 こうした状況の中、家畜保健所は消毒を徹底しなさい。放し飼いはいけません。野鳥が入らないように。と指導して歩いています。消毒薬の大量輸入が報道されています。国内の会社も増産中でしょう。何と言う浅はかな事でしょう。鴨や烏やスズメも病気発生の30キロ以内を絶滅しようと言う事でしょうか。今、泡を食ってやっている目先の対応は、この場は凌ぐかもしれませんが、必ずもっと深刻な状況がこの先来る事は目に見えています。自然界を消毒して病原菌の居ない世界にし様などと言う発想は、天につばを吐くことでしょう。「沈黙の春」の世界が現実になってきています。 病原菌は存在しているのが当たり前です。人間が生きると言う事は、病原菌とどう折り合いをつけていくかです。私のところの鶏は、ニューカッスルの抗体を持っていました。一切のワクチンをしていませんから、私のところで孵化した鶏は、野外毒から感染したはずです。しかし、発病した徴候はありません。ニューカッスルになれば大半が死滅すると獣医学では考えています。抗体を持つことは免疫システムであり、発病とは違います。ワクチンをしていないのに野外毒によって接種したと同様の免疫力を得ているということです。今度の鳥インフルエンザも同様です。感染はしても発病はしない自信があります。そして免疫を獲得する。私はそれだけ強健な種、「笹鶏」を作出目標にしてきました。 又その自然免疫を獲得する飼育法を模索してきました。自然界には免疫を獲得する仕組みがあります。自然養鶏ではそれを応用した飼育法をとる必要があります。野外毒を遮断するのでなく、孵化直後から、いわば微生物に満ちた堆肥状の床の上で育雛します。適正なレベルで、親の免疫がある間に、その場所にいる菌に触れさせてゆきます。そして、発酵飼料、緑餌、生餌、薬草、ミネラル、等を使いながら。健全ではあるが甘やかさない、ぎりぎりの飼育をしてゆきます。弱い雛はここで淘汰してゆきます。その結果、自然免疫を獲得する、能力の高い鶏が作られることに成ります。それには少羽数で目の届く管理をする必要があります。私の経験では春先、自家採種した卵を孵化するのがいいと思います。 こうしたいわば江戸時代におこなわれていた、村落ごとに地鶏が居るような小規模で、自然に適合した方法でしか、家畜を永続的に飼育することは不可能のようです。 さらにひとつの岐路があります。食べ物が柔らかく甘く濃厚に、消費者に迎合してゆきます。消費者は私から見ると食べ物とは言いたくないような、60日雛の鶏肉を、柔らかくておいしいなどと言います。1年の「笹鶏」を硬くて鶏肉として使えないと言います。お世辞ではおいしいと言ってくれますが。二度買いに来 ない人が大半です。本当の食べ物は健康的な食べ物のはずです。効率だけを重視して、2ヶ月で食べてしまう鶏は、2ヶ月だけ生きていればいいのです、強健さは無視されています。私の作出した笹鶏は産卵率で考えると60%行けばいいという能力です。世間の産卵鶏は90%を越えるわけです。産卵率だけ高ければ、病気に弱い事など、薬で対応すればいいとされています。本来農村でその地域に適合していた強健な鶏種は、今やどこにもいないのです。だから一個10円の卵が出現して、卵は物価の優等生などと、馬鹿げた事が起こるのです。 こうした消費者を背景とした畜産の世界で、効率と採算性だけに翻弄されて、作り上げられたのが、ウインドレスの畜産です。そうした尋常でない環境でのみ有効な、異常な飼育法および鶏種が、アジアの農村にも一気に広がったのです。ここでのやり方は山口での方法と大きくは違いません。今アジアで起きている、鳥インフルエンザの猛威はまさにケージ飼い養鶏の不健康さから直接的には起きています。山口の養鶏場も同様です。こうした劣悪な環境での鶏のケージ飼育はヨーロッパでは禁止している国もあります。卵を産み機械のような狭いおりで身動きも出来ず、卵だけを産みつづける悲惨な状態では、鶏に病気を克服する力はありません。こうした鶏と自然養鶏の鶏と同列に議論して、野鳥と触れるから危険だと斬り捨てるのは暴論です。鶏種は大企業にすでに独占されています。何処に行ってもアメリカかヨーロッパの鶏種です。種鶏会社はより大きな消費者に合わせた、効率は良いがひ弱な飼いにくい鶏種を作り出しています。異常な病気が出現して来る背景は進んでいたのです。 私が5年前に提言した時、世間は対応してくれなかったのが、残念で成りません。こうした状況に及んでは戦いは、極めて不利に追い込まれていると言えます。妥協的な対応しかできなかった、その付けが自然養鶏にも及んできています。鳥インフルエンザが人間に感染する、此の点が非常に恐れられるため、もう5年前の主張では通用しないでしょう。鶏ならばある程度自然淘汰され、バランスがとれるという考えが通用しますが。 「対応策です」 地域に適合した、強健性のある鶏種の作出を行う事。
畜産はできる限り小規模で自然から離れない方法で行う事。
合成化学物質の増大を防ぎ、飼料への混入を禁止する事。
地球規模で実現できるよう、日本がその模範になる事。 文化として、「人間の暮らしに於いて食の安全とは何か。」という根本から考えれば、精神文化まで含めて、食糧の生産が暮らしのレベルから見えなくなるということは、大変危険な事だという認識が必要です。そして、人間も最後に病院で薬漬けになって生き永らえるのではなく、健康な体と精神力を持って病原菌に負けない免疫力を付けることが必要です。そして病気になったら死ぬのが自然であると言う事を受け入れて、病原菌に向かい合う必要があるところだと思います。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 笹村さんにお願いのメールを送ったところ、すぐにお返事を下さいました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 あしがら農の会の笹村と申します。鳥インフルエンザについて関心を向けてくださり、有り難うございます。感染の不安から、この問題はゆがんだ情報になって流れております。これは始まりです。次々に起こってくると予想される、感染症に対し、どうのように対してゆけばいいのか。その事を考えるいい機会だと思います。 肉や卵はやたら食べるものではない。今の暮らし方がおかしい。問題は大規模畜産にある、という大きな背景がなかなか理解してもらえません。 私の所だって何時感染するかわかりません。少し危険度が低いというだけです。野鳥が感染しているのです。いい飼い方をしていれば、それですむという問題ではないのです。被害が小さいという程度の事です。しかし、今の対応は一羽でも陽性なら全て淘汰ですから、同じことです。 今後アイガモ農法はやっていたら犯罪人扱いになりかねません。有機畜産基準では放し飼いを義務化していますが。これも出来ません。 昔の暮らしはのどかでいいが、大変な折り合いのつけ方が必要なのです。こうした病気はあって当然の事です。どう折り合いをつけるかしかないのです。その覚悟を持たない、死なないと考えて暮らしている現代人への警告です。 感染を広げているのは以前から日本にいる野鳥全体です。いくら消毒をしても無駄な努力です。浅田畜産さんの対応は実は隠れて繰り返されてきた。いつものやり方です。養鶏仲間の間では常識です。承知で後押ししてきたのが、農水省を始めとする行政の姿勢です。 一般の人たちの反応は、菌を根絶する為に日本への野鳥の飛来を阻止しようという。恐ろしい話にないます。 添付された資料は1月に発生があってすぐ書いたものです。内容的に不適当な部分があるかもしれません、今考えている事を書き添えました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 [No.937] で >> 海外のMLで、面白いウェブページの紹介がありました。Factory Farm(効率や儲けだけを考えて、薬漬けで食肉を作っている工場化した農家)に関する警告と「ではどうしたらいいか」という行動および情報源をまとめたページです。(英語ですが、アニメもよくできていて、取り組みとしても興味深いです)http://www.themeatrix.com/ << をご紹介しました。また、[No.956] のアランからのニュースレターにも >> ミートリックス
長編シリーズ映画「マトリックス」を大胆にも風刺しているアニメである。この短い作品は、近代工業化農場経営の裏に隠された真実を暴いている。非常に面白く、詳細に調査された事実と、より健全で動物を大切にする農場への支援への呼びかけによって、知らず知らずのうちに視聴者の意識が高められるのである。(注:視聴にはショックウェーブのソフトが必要) http://www.themeatrix.com << とあり、私とアランが同じMLでこのサイトを知ったことがわかります。(^^; (ちなみに、『成長の限界』を書いたメドウス夫妻のはじめた、バラトングループのMLです) この映画は非常に良くできているので、一度ぜひご覧下さい。(世界中で450万人が観た、と書いてあります) 英語ですが、日本語版の台本も載っているので、ご理解いただけると思います。http://www.themeatrix.com/intl/docs/The_Meatrix_japanese.pdf 20世紀の半ばから、大手企業の牛耳る工場型農業が広がる中で、動物たちの環境の悪化、病気の蔓延、地元の小規模農家の壊滅といった問題が大きくなってきていることに警告を発しています。 詰め込み飼育での病気を防ぐために、抗生物質を使いすぎ、その結果、耐性を持った病原菌がどんどんできているので、「そのうち歯止めのかけようのない伝染病が大発生することになる」というセリフは、まさしく......、という感じです。 「しかし、まだ手遅れではない」と登場人物は言っています。「このような現実を広めて多くの人に知ってもらうことだ。そして何よりもあなた方、消費者こそが力を持っているのだ。工場型農業を支持しないように」。 ゼロ・エミッション構想の提唱者であるグンター・パウリ氏はかつてから「自然界には5つの界がある。動物界、植物界、藻界、菌(きのこなど)界、バクテリア界だ。動物の廃棄物はバクテリアのエサになるなど、異なる界では、廃棄物をエサとしてやりとりすることができるが、同じ界のなかではそれはできない。 それなのに、効率がよいからと牛骨粉を牛に食べさせた。これは自然界の法則に反している。ので、狂牛病になった。エビも同じだ。私はもうエビは食べないことにしている。エビもエビの廃棄物を食べさせて養殖しているところが多く、そのせいで、40%のエビはウィルスを持っているという」と言っています。 何度もメールニュースなどにも書いたり講演でも話したりしていますが、笹村さんのメッセージを読んで、「効率至上主義」の行き着くところ、そして「小さな循環」の大事さをふたたび強く思います。 ところで、狂牛病は英語ではそのまま「mad cow disease」と言います。正式には、bovine spongiform encephalopathy というので「BSE」です。 「狂牛病に鳥インフルエンザ......動物たちの逆襲が始まった!」とある人に言ったら、「死をもっての逆襲じゃ、かわいそうだね」と言っていました。自然界から見れば、「狂牛病」じゃなくて、「狂人間病」なのでしょう。
 

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