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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年02月04日

「つながるいのち 生物多様性からのメッセージ」(2006.02.03)

生物多様性
 
先日、NHK総合番組「地球だい好き 環境新時代」のコメンテーターとして、収録をしてきました。(明日放送です) これまでこの番組では「森林・林業」にかかわるテーマでの登場が多かったのですが、今回は、北海道でその勢力を拡大し、地元の産業への影響も出始めている肉食の外来魚、ブラウントラウトをめぐる番組でした。 「外来魚に揺れる川」 http://www.nhk.or.jp/kankyo/bangumi/ NHK総合番組「地球だい好き 環境新時代」 放送は、2月4日(土)午前11:00〜11:30 再放送2月12日(日)午前4:30〜4:59 (関西地域は、通常翌週の放送となりますが、詳しくはNHK大阪放送局HPhttp://www.nhk.or.jp/osaka/guide/kankyo.html を参照ください、とのこと) 2001年5月に出した[No. 466] 「生物多様性について〜植物の話」で、 > 私は以前から、その他の問題に比べて、この「生物多様性」の問題って「わかる > ようなわからないような」感じだなぁ、と思っていました。 と書いたことがあります。そのときは、国立環境研究所ニュースから、「生物多様性を守るものー技術力か洞察力か」の一部を引用させてもらいました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 (前略) しかし,はっきり言って,野生生物を保全するのは難しいことではない。本気で保全する気があるのなら,ターゲットにする生物(群)を決め,十分な面積の生息地をしっかり守ってやり,監視のための時間と労力をほんの少しだけかければいいのだから。このことは植物でも動物でも同じことである。どのくらいの面積 が必要か対象生物の生活様式を考えて,絶滅が当分ありえない位の生息地面積を確保することが最も重要なポイントである。それでも絶滅してゆく生物は,人間がいくら努力しても絶滅してしまうだろう。それまでも人類の責任と考える必要はない。 難しいのは,野生生物の絶滅を加速する原因となっている人類の経済活動をコントロールすることである。そのために研究者に何ができるだろうか。経済活動は野放しにしておいて,野生生物の絶滅を防ぐために小手先の技術開発を行っても,その効果はたかが知れている。それは,風邪をこじらせた病人に医薬を与えて事足れりとするのにも似たやり方である。(後略) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 今回の番組収録でも、ブラウントラウトにしてもブルーギルにしても、それらは単に今「矢面」に立たされている生物であって、また、それらの外来種がいては経済的に困る人たちと、いなくては経済的に困る人たちとの戦いのように見えるが、もっと本質的な問題をわれわれひとりひとりが考えなくてはならないのではないか、という念を強くしました(そういうコメントをしました)。 以前から「生物多様性」という言葉自体が、なんだか難しそうで、よくわからないな〜、と思っていました。いえ、その定義はわかりますが、なんとなく実感としてピンと来ないなあ、と。 この番組収録の準備をしていたときに、まえにプレゼントしてもらった素敵な本を読みました。 『つながるいのち 生物多様性からのメッセージ』(山と渓谷社) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4635310213/junkoedahiro-22/250-7996800-4874649 > 「生物多様性」という客観的で無機的な響きすらある科学用語にかわる大和言葉 > を探してみた。万物一体、森羅万象、一木一草、山川草木、つながるいのち、八 > 百万のいのち、いのちのにぎわい、しなやかないのちの流れ、などがあげられた > が、いずれも単に観察の対象としてだけでなく、人間の、自分自身の命や生き方 > とつながる視点が欠かせない。 (「はじめに」より) 同書は、「生物多様性」をキーワードに、さまざまな分野の17人の識者・文化人の声を収録したもので、とても面白く、楽しく読みました。自分のメモから少し抜き書きを紹介します。 たとえば、哲学者の内山節氏の「家庭内多様性」という視点や、村人の「自然は美しく保護すべきもの」だけではない、複層的な自然観のお話。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 たとえば、ソバの実を挽く場合、石臼がいちばんだけど、急いで挽くと熱が出ておいしくなくなる。おばあちゃんが孫でもあやしながらだらだら挽いてくれるのがいちばんいい。こういう低能率でおこなう仕事は、30代から50代の人にはやれない。そうした人は力仕事で能率良くやらなきゃ行けない仕事を受け持ち、暇仕事は高齢者がいてくれるからこそ成り立つのです。3世代くらいが同居して、それぞれの世代がそれぞれにあった仕事をする。それによってはじめて、村らしい暮らしができるのです。 自然界のものをいただくが、いただいた以上はすべてを利用する。それができずに殺すだけというのはいやなのです。 村の人たちが生き物を見る目は一様ではない。仲間であり、害獣であり、神のお使いだったりする。そのいろんな関係を前提として、今はどんなバランスを保つのが最良なのか、を見出す能力を村の人間は持ってきました。 村人のように多層的な発想で自然とつきあってきたのではなく、極端に言うと、自然保護といえば、それしかないような単純な発想の持ち主たちが山に来る。そういう人たちも含め、サラリーマン化が進む村で、自然の共有と言うことを語らなければいけなくなってきました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 たとえば、エコツーリズムのピッキオ社長の南正人氏。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 入社してすぐに星野社長(星野リゾート)から言われた。「自然保護をしたいと思っているだろうけど、今のままではできないよ。森をゴルフ場にしたら儲かるが自然保護では無理だ。その仕組みを変えない限り自然は守れない。森を残したままそこで楽しく遊ぶ。それで経済的に成り立つ仕組みをつくれば森は残る、ゴルフ場に勝てる。そういう仕組みなくして、今の日本で自然、森、海を残していくのは難しい。それを君がやってみないか」 ピッキオの環境教育プログラムのなかには、森にいるクマを知ってもらうためのものもある。「子供たちはクマを捕まえたという劇を見た後、実際に軽井沢の森を歩いて回る。スタッフが扮した「役場職員」「ペンション経営者」「別荘管理会社社員」からそれぞれの立場の意見を聞きます。 「ペンション経営者」はクマなんか恐くないからどんどん餌をやればいい、と言うし、「管理会社社員」はクマがいるから別荘が売れない。クマなんか全部殺せばいい、と話す。その後、殺すべきか一緒に生きていくべきかについて、子供たちで討論してもらいます」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 獣医師の羽山伸一氏のお話は、欧米と日本との大きな違い、日本での専門家養成の必要性を突きつけます。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 欧米をみると、動物保護のめざすところや意識、スケールの違いが歴然。米国では絶滅危惧種のレッドリストに掲載されると、危惧の状態から脱するまで回復される義務が生じる。たとえば数年前にハクトウワシがレッドリストから削除されたが、自然生態系の中で生存も繁殖もできるようになり、絶滅しない状態まで回復したということ。これには20年を要したそう。 自然を守るには、現場で働く専門家を多数必要とする。北米のワイルドライフ・マネジメント分野では、年間5,6千人の卒業生を輩出。無給のインターンから、薄給のレジデント、さらにフルタイムとキャリアを積んでいく。半年のインターン、2,3年のレジデントを経て、フルタイムに。厳しい訓練を経て専門家になっ ていく。現場の専門家を養成するのに適したシステム。 日本で現場の専門家が少ないのは、人材育成システムが未熟であり、職場も少ないから。「日本にはいままで現場教育の場がなかったため、プロが育たなかった。若者の意欲を延ばしていくしくみを作る必要がある。それには、自然保護はプロでないとできない、仕事としてお金を支払ってやってもらわねばならない、と言う世界の常識を、日本の常識にしていかなければならない。このままだと日本は、野生動物を共存できない社会になってしまう」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ほかにも、「日本には約7千種の野生植物があり、うち日本にしか生えていない植物は約2900種もある。日本の草木のうち約4割が日本固有の植物。この豊かさ、多様さこそ、日本の自然の最大の特徴」であることや、 「高山蝶のウスバキチョウは幼虫の時、高山植物の女王といわれるコマクサの葉だけを食べる。だからコマクサがなくなるとウスバキチョウも絶滅してしまう。でも実は、植物と昆虫の関係でわかっていることはごくわずか。知らないところ、目に見えないところでたくさんの生き物が絶滅しているかもしれない。ひとつの植物が絶滅するということは大変なこと」 など、いろいろなつながりがわかったり、新しい知識や情報がたくさん盛り込まれていて、でも、堅苦しい学術書ではなく、各界の方々が自分のフィールドから見える「生物多様性」を、自分の言葉で語っている、読みやすい本です。 500万年前にサルからヒトが分かれたそうですが、「サルの起源はモグラ」だなんて、ご存じでした? 「モグラのうち地上に出てきたものが、肉食獣がうじゃうじゃいる地面を避けて樹上に生活圏を見つけ、サルに進化していったようだ」とのこと。面白いですねぇ。 「生物多様性」も、「つながるいのち」と思えば、自分に近い(自分もそのシステムの一部だ)と感じられます。ブラウントラウトだって、つながっている。。。 人類も含め、「いのち」の来し方行く末に思いを馳せた読書タイムでした。
 

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