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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年11月02日

パネルディスカッション「持続可能な未来をつくる地球環境技術ー環境の世紀と人類の課題」での発言その1(2005.11.2)

 
(前号の続き) ――枝廣さんは、通訳を通じてとか、あるいは海外に情報を発信なさっているということもあって、日本がどう見られているのか、さらに先ほどの主なテーマで言いますと、地球環境技術を活用したり技術開発を進めていくための社会の仕組み――先ほどは社会システムの話、いまも社会システムの重要性の指摘がありましたが、そこで枝廣さんはどういうふうにお考えなのか、聞かせていただけますか。 ありがとうございます。諸先生がおっしゃっているように、政府なり政策なり税制を変えるなり、経済の仕組みを変えるということは非常に重要だと思っていますが、「じゃあ、それが整ってからやりましょう」というのでは、進みませんの で。 たとえば、今日のテーマである技術についても、もうすで技術はたくさん開発されています。それをより効果的に普及するためには、たとえば税制を変えるとか経済の仕組みを変えるとか、もちろんそれが大事ですが、それを進めていただき つつ、できることからやるためにということで、社会の仕組みという点で3つお話ししてから、海外の話をしたいと思います。 先ほど少し言いましたが、技術というのは、そのままでは使えないので、通常は商品とかサービスという形にして、使うことになります。ですから、まずどうやって実用化するか。それから、実用化したものをどうやって広げ、普及するかという点があります。その2つについてお話ししたあと、開発そのものについて話します。 まず、普及についてです。たとえば、皆さんの会社でエコ製品をつくった、エコサービスをつくった。いいものをつくったんだけど、なぜか、そんなにまだ普及していない、ということがありませんか? 「新しい考え方や新しいモノを普及するための5つの原則」というのがあります。イノベーション普及のための5原則ですね。ひとつは相対的な利点です。これまでのものと相対的にどう違うのか。どういうふうに良いのか。それを自分がわかっているだけではなくて、伝えることです。 2番目は、わかりやすさ。理解しやすさと導入しやすさです。3番目は試しやすさ。4番目は観測のしやすさ。効果が目に見えるということです。先ほどシュミット・ブレークさんがおっしゃっていたような、たとえば指標といった、わかりやすい尺度がここに来るでしょう。そして5つ目が、両立しやすさです。 何か新しい製品や商品を使おうと思ったときに、「あなたの価値観を変えてから使ってください」と言われたら、なかなか普通は手が出ません。ですから、自分の価値観や自分自身を変えなくても使えるという意味で、両立できるということ です。たとえばバイオディーゼルは、「エンジンは取り替えなくてもそのままでいいですよ」というところが、両立しやすさのポイントになっています。 このような普及のポイントを、いまある商品にうまく組み込む、もしくはこれはもしかしたらマーケティングや販促かもしれませんが、そこをうまく出して、伝えることで、すでにあるものを普及し、プッシュできると思っています。 2番目の実用化のほうですが、これはいろいろな事例があります。社会の仕組みを変えるということからすると、小さな事例かもしれませんが。ひとつは、この会場にもいらしていますが、ナチュラル・ステップの高見幸子さんに教えていた だいたスウェーデンの事例です。 市民グループがバイオディーゼル車を使いたいと思いました。そういう自動車を作る技術は、すでにありました。その技術を用いて車をつくってほしいという話になった時に、メーカー側はロットの問題がありました。型をつくるわけですか ら、そのロットの分が売れない限りは投資ができない。これはメーカーとしては当然の論理でしょう。 その時に、「では何台売れると確約できれば作れますか?」と聞いたら、「3,000台が最少ロットだ」ということでした。そこで、市民のなかで「できたら買う」という人が3,000人集まった。そして、メーカーがその自動車をつくったという事例をお聞きしました。   私もよく、「有機工業」と言っているんですが、有機農業ならぬ有機工業というつくり方が、これから出てくるだろうと思っています。自分でもいくつか実践をしています。もともと、これまでのつくり方、売り方というのは、会社がいいだ ろうと思ってつくって、市場に出してみて、売れるかどうかを見るというやり方です。そうではなくて、つくるところから、どういうものが欲しいかとか、どういうふうに使いたいとか、そこから消費者と一緒につくるというように、パラダ イムもきっと変わっていくことでしょう。 その実用化と普及を合わせた、インターネットを利用したおもしろいマーケティングのやり方が、いま出てきています。たとえば、本を出版するときに、ゲラの段階でインターネットに載せて、100人の人に読んでもらう。そこでコメントを もらって、そして本を仕上げる、というやり方があるそうです。 普通、本というのは、最終的にできてから、印刷して、書店に出して、売れるかどうかを見るのですが、そうではなくてゲラの段階でみんなに見てもらって、コメントをもらって、そして仕上げる。そうすると、本自体をニーズに近いものに 仕上げることができるばかりではなく、読んだ100人の人が自ら口コミのいちばん最初の人になるわけです。そういった形で、実用化と普及という意味でも、新しいやり方がいま出ています。 そして、そもそもの技術の開発についてですが、諸先生からお話が出ているように、別に環境のためとか地球のためといってお金が回るわけではないです。儲かるという採算性だけをいまの経済のなかで考えていると、「地球のため」とか 「未来世代」とか「地球の裏側」とか、そういった視点は出てきません。そういった視点を入れるひとつの力がNGOだと思っています。 アメリカを中心に活動しているエンバロメンタル・ディフェンスというとても大きなNGOがあります。このNGOは、企業と直接、守秘義務契約を結んで、一緒に技術を開発するというプロジェクトをたくさん薦めています。 このNGOの貢献を示すいちばんわかりやすい例をご紹介しましょう。ある時期にファーストフードのハンバーガーの包みが、発泡のフォームから紙に変わった時期がありますよね? いまは、みんな紙ですよね? あれもエンバロメンタル ・ディフェンスが、アメリカのマクドナルドと守秘義務を結んで、技術開発から一緒にやって、変えた結果です。それからいま、このNGOでは、宅配便のトラックの技術開発を宅配便の会社と一緒にやっているそうです。 日本でも、松下電器さんとグリーンピースがノンフロンの冷蔵庫を開発したり普及したりということをやっています。ですから、税制や経済の仕組みを変えることも大事ですが、それをさらに推し進めることができるような形で、成功事例や 新しい取り組み・それを受け入れる人が増えているということも重要です。 そういった流れで言うと、いまLOHASという新しいライフスタイル・新しい価値観を持っている若い世代が増えてきているのは心強いことです。これまでのように「安いから買う」というだけではない人たちが増えています。 そういった動きを取り込みながら、たとえばNGOや市民の力をもっともっと、一緒に使っていきながら、開発段階が得意なNGO、実用化段階が得意なNGO、広げていく段階で力を持っているNGOというように、NGOも機能分化しながら、進めていけるといいなと思っています。 私自身が共同代表を務めているNGOは、ジャパン・フォー・サステナビリティと言って、日本の情報を海外に伝えています。いま、月にだいたい50本~60本ぐらい、海外から直接メールが来ます。英語で来る分にはよいのですが、時々、そ れ以外の言語でも来て、300人のボランティアの人に、たとえば「ハングル語で来たんだけど、読める人、いますか?」と聞いて、読める人が翻訳をしてくれるというような形でコミュニケーションを取っています。 技術というキーワードで、ここ1年ほどの間にもらった海外からのメールを見てみました。いくつかの種類に分かれます。 たとえば、英国のBBC Educationというところから、「テレビ局のBBCで環境のデザインとテクノロジーの設計と技術の番組をつくっている。ぜひ、日本の技術に関する持続可能な方向を知りたいので、情報を欲しい」という申し入れがありました。先ほど山本先生が見せられていた年鑑に似ているんですが、「タイでも環境技術年鑑というのをつくっている。そこに日本の技術も盛り込みたいので、JFSのサイトに載っている技術を使っていいか」という依頼もありました。 私たちのサイトからは、企業の環境情報とか技術の情報も出しているので、具体的に、技術供与や技術ライセンスを申し込んでくるメールもたくさんあります。あと、英国の環境省からでしたが、「自分たちの職員の教育向けにイントラネッ トでJFSの技術情報をみんなに見せたいのですが、よいですか」というメールも来ています。 特に途上国からは、たくさんメールが来ます。「JFSの記事に載っている技術や製品をうちでも使いたい」とか「どういうふうに学んだらいいか」というメールなどです。最近、スリナムから、「ウッドチップを使った発電について知りた い」と来ていました。ほかにも、キューバ、カメルーンなど、あちこちから「技術を知りたい、ものにして、自国で使いたい」という熱い思いが寄せられています。 最近、バングラデシュの大学の先生から来たメールを最後に紹介して、皆さんにもぜひ考えていただきたいと思います。ソーラーと風力を合わせたハイブリッドシステムによる小規模発電技術を紹介した時にいただいたメールです。 「これは日本だけではなくて、途上国のように貧しい所にすごく役に立つ。途上国は、大きなものはつくれないけど、そういう小さいものだったらつくれるし、使っていけると思う。そういう技術を進めてくれるのはすごくうれしい」。そし て「バングラデシュにとって最も適切な技術を進めていくためには、どこでどういう情報を得たらよいか、どのように日本に協力してもらえる可能性があるか、教えてほしい」。 海外にたくさん情報を発信していると、海外からたくさんフィードバックやメールや依頼が来て、私たちのNGOはほんとに小さな規模でやっているので、対応がとても追いつきません。ですから、たとえば技術に関するところは山本先生と か、いろいろな日本の中の組織とも組みながら、少しでも、特に途上国の人たちが、先ほど山本先生がおっしゃっていたように、先進国のようになってからエコになるのではなく、私たちの二の舞になることなく、一足飛びに、カエル跳びの ように直接エコな生活にいけるように、そういった技術をもっともっと、途上国に伝えていきたいと思っています。 そういった点で、先ほどこの愛地球賞、「100選ばれて、すごい」と言いましたが、ぜひこれを、単にウェブで報告したり、表彰するだけではなくて、実際に途上国で使っていけるような形で、たとえば万博協会や日経新聞に進めていただき たいと期待しています。 ――最後に、ひとりひとりがやるべき大切なことについて、一言メッセージを。 「伝えること」です。それぞれ、環境問題にしても、ご自分が知っていらっしゃる情報にしても、新しいアイディアやライフスタイル、製品にしても、繰り返し、繰り返し、伝えることが大事だと思っています。 おそらくここにいらっしゃる方の多くが、変化の担い手、先ほど言ったチェンジ・エージェントでしょう。たとえばこれを社内で伝えていこう、地域でわかってもらおう、そういう活動をされている方が多いのだとと思います。 しかし、社内でも地域でも社会でも、一生懸命言ってもなかなか世の中やみんながわかってくれない、サポートしてくれない、というフラストレーションも感じていらっしゃるのではないかと思います。 『地球が100人の村だったら』を書いたドネラ・メドウズさんが、エッセイにこういうことを書いています。 「一度伝えて『わかってくれない』と、相手や世の中を非難するのでは十分ではありません。一度言って伝わるようなものではありません。あなたが大事だと思うことは、何度でも何度でも繰り返し言って伝えていきましょう」。 私自身も日々、自分で思っていますが、焦らず、くさらず、めげずに、大事だと思うことは1人でも2人でも伝えていっていただければ、と思っています。 ――ありがとうございました。 ~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~ このシンポジウムのあと、表彰式がおこなわれ、その後、パーティーにも出席しました。受賞企業の方々をはじめ、いろいろな方が声を掛けてくれました。多くの方が、「本当にそうなんですよー。環境によい技術を開発し、商品化したのに、思ったように売れていません。われわれの伝える努力をもっとしなくてはいけな いのですね」と。 「技術や商品を開発するスキルと、伝え、広げるスキルは別だと枝廣さんは言っていましたよね。われわれは、開発スキルはあるけど、世の中に伝えて広げるスキルはこれまで身につけてこなかった。どうしたら身につけられるのでしょう?」 このように、何人もの方々に熱く問われ、1年ほど前のバラトン合宿後に「そのうち、持続可能性のためのマーケティング研究所(Institute of Marketing forSustainability:IMS)を立ち上げて、伝え・広げる技術を研究し、実践できる形にしていきたい!」と思っていた夢を思い出しました。 どうやって伝え、どうやって広げるか――私にとっての変わらぬテーマです。広げるべき製品やサービスを持っている企業の方々といっしょに考え、切磋琢磨して、「伝え、広げるスキル」を高めていく機会を作っていきたいと思っています。
 

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