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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年12月26日

「人間会議」冬号から特別対談「世界の情勢からエネルギーの未来を読む」(2005.12.26)

水・資源のこと
 
先月、レスター・ブラウン氏(アースポリシー研究所所長)が来日した折に、宣伝会議が出している「人間会議」に掲載する特別対談の通訳をおこない、そのあと、対談記事にまとめるお手伝いをしました。(通訳して翻訳したので、一粒で2度楽しめました!) そのレスターと桝本晃章氏(電気事業連合会副会長)の特別対談の掲載された「人間会議」冬号が発売されています。 人間会議 2005年冬号/12月5日発売 価格:950円(税込) 特集 豊かさの新基準 豊かな時間を生きる 目次はこちら。お申し込みもできます。 http://www.sendenkaigi.com/hanbai/magazine/ningenkaigi/index.html ごいっしょさせていただいた特別対談では、とても重要なポイントが語られていたので、ぜひとお願いし、メールニュースへの掲載を許可していただきました。ほかにも興味深い記事や勉強になる情報が満載の「人間会議」ですが、ここでは、この対談をご紹介させていただきます。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 特別対談 新技術で飛躍 世界の情勢からエネルギーの未来を読む レスター・ブラウン(アースポリシー研究所長) 桝本晃章(電気事業連合会副会長) 「世界の情勢からエネルギーの未来を読む」 食糧、水、人口増加......。 地球の限界がみえ、世界情勢が大きく変わろうとしている。 昨今の原油価格高騰が世界の食糧問題に与える影響、地球環境問題を解決するための経済システムの再構築や企業の技術革新の重要性について、率直な意見が交わされた。 <世界の食糧、人口、水 人類の未来への警鐘> 桝本:1974年にワールドウォッチ研究所を設立されてから、人類の未来について警告を発し続けられているご活動に心から敬意を抱いております。 最近出された『フードセキュリティ』では人口、食糧、水などの重要な問題について取り上げられていますが、日本についても触れられていますね。 ブラウン:日本のように工業化が始まる前から人口密度の高い国では、経済発展に伴って穀物の需要は急増しますが、土地や労働力を工業にとられるため、生産量は減少していき、やがれは穀物輸入国に転じます。 最初にこの現象が起こったのが日本だったので、私はこれを「日本シンドローム」と呼んでいますが、15年後に韓国と台湾が、いまでは中国が同じパターンをたどっています。 しかし一方で、日本は世界の農業に対して非常に大きな貢献をしています。そのひとつが、イネの品種改良で短桿種(たんかんしゅ:背丈の低い種)を作り、光合成産物が種子に回る割合を20%から50%近くに引き上げたことです。これが「緑の革命」につながり、世界のコメ生産量が3倍になりました。 桝本:日本人がそのような貢献をしていたということは大変うれしいですね。一方、世界には饑餓に苦しむ国も多いのに、日本や米国は飽食の国です。世界全体を改善していくためには、大きな力が必要だと思いますが......。 ブラウン:人口増加に伴い、一人当たりの耕地面積・灌漑用水が減っています。私たちは1日に4リットルの水を様々な形で飲んでいますが、1日に食べる食糧を作るには2千リットルの水が必要です。1トンの米や小麦を作るには千トンの水が必要なのです。水不足は必ずや食糧不足を引き起こします。 現在、中国・インド・米国という世界の三大穀倉地帯で地下水の汲み上げすぎによって灌漑用水が減りつつあります。水の供給量そのものが減るうえ、工業用水として利用する方が大きな収益を生み出せるため、農業用水はますます減らされています。 世界中で水の効率的利用を進める必要があります。農業ではスプリンクラーや点滴灌漑を使うこと、都市部では下水も含め、水のリサイクルを進めること。技術はすでにあるのですから。 <石油高騰が食糧にも影響を与える> いま食糧問題に、石油価格の高騰という新しい脅威が生じています。バレル当たり40ドルを超えると、トウモロコシや小麦をエタノールに、大豆をバイオディーゼルにと、食糧を自動車用燃料に転換することが商業ベースに乗ってきます。原油価格が60ドル近い現在、ブラジルなどで、サトウキビ畑やエタノール抽出工場に膨大な投資が投下されつつあります。新しいビジネスチャンスになっているからです。 最近まで、農産物市場の主なバイヤーは食品加工業者だけでしたが、いまではエタノールやバイオディーゼル精製業者もバイヤーです。つまり、食糧としてより燃料としての価値が高まれば、小麦なども食べ物ではなく燃料に転換されてしまうのです。自動車を所有する豊かな8億人が、20億人の貧しい人々と小麦やトウモロコシ、大豆を取り合うという新しい社会問題が世界規模で生じているのです。 米国では今年3千4百万トンのトウモロコシがエタノールに加工されています。これは米国のトウモロコシ生産量の7分の1ですが、カナダの小麦生産量と等しく、主要なコメ輸出国であるタイのコメ生産量の2倍に相当します。 今後その量が増えてゆくでしょうから、飼料用のトウモロコシを米国からの輸入に頼っている日本は直接的な影響を被るでしょう。 <中国経済が世界に与える影響> 桝本:世界の全ての国で見ると、50年から100年ほども経済発展の進み具合に差があります。世界全体を平和に安定させていくことは難しい課題だと思いますが、世界の政治家やビジネスリーダーに何を期待されますか? ブラウン:これまでも「このままいったら危ないぞ」という警告は発してきましたが、今日の中国を見ると、この警告に極めて説得力があることがわかります。 中国はすでに、穀物、食肉、石炭、鉄鋼の総消費量で米国を追い越しています。そして、中国経済が現在の8%前後の成長を続けると、2031年には一人当たりの所得が今日の米国の水準になります。同じ消費パターンを想定すると、そのときに中国は世界の穀物生産量の8割を、紙製山稜の2倍を消費することになります。  また現在の世界の産油能力は日産8千4百万バレルなのに対し、中国一国で9千9百万バレルを消費することになるのです。  西洋型の化石燃料に頼った自動車中心の使い捨て経済は、中国では成立しないことが明らかです。中国以上の人口を抱えることになるインドも、他の途上国も、日本も米国も同じです。国境なきグローバル経済においては、すべての国が同じ食糧や資源をめぐって争うことになりますから。再生可能エネルギーとさまざまな交通手段を用いる包括的なリユース・リサイクル経済にシフトする必要があります。さもないと、経済発展は維持できません。 桝本:エネルギーに関しては、省エネ技術の促進と原子力発電を選択肢から除外しないことが重要だと考えます。再生可能エネルギーはクリーンですが、安定性に欠け、高くつく場合があります。 <必要なのは経済の再構築> 桝本:地球温暖化問題の面からも、化石燃料への依存を減らす経済に変えていかなくてはなりません。価格は高めでもハイブリッド車が売れているように、環境面での購買基準を持った消費者が増えていることは心強いことですね。 ブラウン:経済を再構築するうえで最も重要なことは、市場に環境面の真実を語らせることです。ガソリン値段は、原油採掘、精製、ガソリンスタンドまでの輸送コストで決まっていますが、ガソリン燃焼による呼吸器疾患や酸性雨、温暖化のコストも入れるべきです。  米国で1,2年前の出された包括的な研究によると、ガソリン価格に上述のコストや中東での軍事力維持コストなどをすべて含めると、ガロン(1ガロン=約3.8リットル)当たり2ドルではなくて11ドルになります。  こうなるとハイブリッド車は経済的にも魅力的になります。消費者も行政も企業も投資家も、経済性という基準で意思決定をしますが、現在の市場の出している情報が正しくないために、正しくない意思決定がおこなわれているのです。  所得税を下げ、環境破壊活動に課税することで、市場に環境面の真実を語らせることができます。 桝本:欧州では税金や規制といった人為的制度による温暖化対策を進めていると理解していますが、一方で、日本企業は30年前に、窒素酸化物や硫黄酸化物について、それまでの外部コストを内部化しました。温暖化についても、課税ではなく、企業自らがその対策コストを内部化し、価格に適正に反映することで、しっかりした対策ができると思っています。 <産業界は地球環境に貢献できる> ブラウン:たとえば米国民がみんな、家庭でも充電できるような強力なバッテリーを新たに搭載したハイブリッド車に切り替え、かつ、国中で風力発電をすれば、短距離走行をすべてこの電力で賄えることになり、全米のガソリン消費量を7割も減らすことができます。  ハイブリッド車は、一企業がリスクを負い、世界に先駆けて新技術を開発した例です。欧州の風力発電分野でも同様に、企業の技術革新の力を感じます。企業は技術を通じて大きな貢献ができます。 桝本:温暖化問題には長い時間をかけての取り組みが必要であり、技術革新に大いに期待すべきだと思っています。企業の技術革新を促進する状況づくりが重要であり、過剰な税や規制によって企業のダイナミズムを殺さないようにすべきです。 --私たち一人ひとりの意識を変えることで、地球規模の問題も変えていけるのだと思いました。本日は、ありがとうございました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 レスターは以前から、「バイオエネルギーは、農業や林業の残余物や食品廃棄物を使う場合以外は、本質的な解決策にはならない。なぜなら、エネルギー作物を栽培するにも食糧生産にも、土地が必要で、この両方を十分満たすほどの土地は地球上にはないからだ」と言っていました。 原油価格の高騰で、レスターの危惧していた状況(自動車燃料の生産のため、食糧生産が犠牲になる)がまさに起こりつつあります。 温暖化を進めないためには、化石燃料からの脱却が必要で、バイオマスエネルギーは有力な候補として(日本でも他国でも)推進されています。「その問題」だけを見ている分にはそれでよいとしても、そのために「食糧・饑餓問題」という別の分野に新たな脅威が生じているというのは、まさに「要素のつながりを見、システムとして全体の状況をとらえる」システム思考が欠如していることを示しています。 チェンジ・エージェントでは、個人や組織のレベルでシステム思考を身につけることをめざして、セミナーやワークショップを開催し、情報発信をしていますが、究極的には「世界全体でシステム思考を体現するためのしくみ」が必要だと改めて痛感しました。少しずつ考えていきたいと思っています。 http://www.change-agent.jp/
 

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