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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年11月04日

システム思考についてのトーク録(2005.03.01)

システム思考を学ぶ
 
先日、カフェスローで『ドミンゴ』の創刊記念トークをしました。
http://www.gihyo.co.jp/magazines/domingo/ 私は「きのころ」と「システム思考」について話しました。今回は、システム思考についてのトークを少し整理して、お届けします(ボランティアでテープ起こしをしていただきました。ありがとうございます) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 システム思考のアプローチで、本当に進んでいこう 枝廣淳子 こんな話があります。実際にあった話だそうです。 1950年代、ボルネオ島での話です。ここのある村で、マラリアが大流行しました。マラリアは蚊が媒介するのですね。ですから、WHO(世界保健機構)が、DDTという薬剤をまきました。蚊はみんな死んで、マラリアの流行は終焉しました。めでたし、めでたし、ですよね?  ところが、そのあと、いろいろと不思議なことが起こり始めました。まず、民家の屋根がボロボロと落ち始めたのです。どうして?  DDTをまいたので、民家の屋根に住んでいたスズメバチがみんな死んでしまったのでした。ところで、スズメバチはイモムシを食べていたのですね。そのスズメバチがいなくなったので、イモムシが大繁殖して、屋根を食べちゃった。それで屋根が壊れちゃったのでした。 政府は、しようがないので、トタンの板を配って、「これで屋根をふきなさい」と言いました。そしたら、今度はみんな、不眠症になっちゃった。なぜでしょう?  熱帯ですからね、すごい雨が降るんです。トタン板の屋根ではうるさくて、寝られたもんじゃない、というわけです。 また、別の問題も出てきました、DDTをまいたので、たくさんの虫が死にました。死んだ虫を、これ幸いとヤモリが食べました。そのヤモリをネコが食べました。なんだか水俣病と同じような話ですね。そう、そうやって、「生物濃縮」というのですが、食物連鎖をあがっていくたびに、DDTが濃縮されていき、高濃度のDDTを摂取したネコたちがどんどん死んでいったんですね。 余談ですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」を思い出しませんか? ちなみに、どうして「風が吹けば桶屋が儲かる」か、ご存じですか?  「風が吹く → 砂ぼこりが舞う  → 砂ぼこりが目に入り、目を悪くする人が増える → 目が悪くなると三味線を弾く人が増える(江戸時代は目の悪い人は三味線で生計を立てることが多かったそう) → 三味線を求める人が多くなると、三味線の皮に使うネコの皮が不足する  → ネコをたくさんつかまえるようになる → ネコが減る → ネズミが増える → ネズミが家庭にある桶をかじる → 桶を買う人が増える→ 桶屋が儲かる」という、なんとも壮大? な絵巻物語があるんですねぇ。 それで、江戸と同じく、ボルネオでもネコがバタバタと死んでいくと、ネズミが増えていきました。ネズミが増えると、今度はチフスだ何だって、また別の伝染病の心配が出てきたんですね。 さて、困ったのはWHOです。「自分でまいた種」とはこのことですね。どうにかして刈り取らなくてはならない。どうしたと思いますか??? なんと、1万4,000匹のネコにパラシュートをつけて空からまいたんだそうです! 「パラシュートキャット」というぬいぐるみがあるぐらいなので、ほんとなのかなあと思います。 どう思います、この話? 「バカじゃないの?」って思いません? 何やってるんだろう、って。でも実際に、「バカじゃないの?」っていうこと、すごくよくありますよねぇ。 たとえば、道路が渋滞しているから、渋滞解消のために道路を拡張したら、走りやすいものだから、もともとその道を走っていなかった自動車までが走るようになった。結局、もっと渋滞がひどくなっちゃった。 ごみの埋め立て場が足りなくなってきたので、「とにかくごみは燃やせばいい」と焼却炉をいっぱいつくり(日本には、全世界の焼却炉の70%があるんですって! ご存じでした?)、今度は焼却炉からダイオキシンが出ると大騒ぎになって、焼却炉の高度大型化を進めるだの、規制を作るだの。 ほかにも、こういうこと、いっぱいありますよね。良かれと思ってやったのに予期せぬ結果が出てきたり、部分しか見ず、全体を見ていなかったり。今はいいけど、あとでこうなっちゃう、というのを知らずに動いてしまったり。環境の分野だけではなくて、私たちの身のまわりや組織や、自分自身のことでも、思い当たりません? そんな世界に、そんな日本に、そんな組織に、そしてそんなあなたに必要なのは、「システム思考」――さまざまな部分がからみあった全体をシステムとして見るアプローチです。システム思考は、欧米ではごく普通に使われて、大学などでも教えられているのですが、日本にはまだあまり入ってきていません。 何か問題があったときに、「あなたが悪い」「あいつが悪い」「世間が悪い」「あの出来事のせいだ」と、人や個別の事象の責任に帰するのではなくて、「問題があるのはシステムだ。だから、たとえ人が変わっても、構造が同じなら同じ問題が起こる」と考える。 人を責めるのではなく、問題をいろいろな要素の絡み合ったシステムの問題として考えます。その構造=システム自体を変えないと、いくら人を取り換えても、いくら人を非難しても、うまくいきません。 一つの問題も、いろいろな要素が関連しあっているシステムから起こっていますが、システムには、「ここを押せば動く」という、小さな力でも「てこ」を使うように、ぐっと大きなものを動かせる点があります。それを探して、効果的にシステムを変え、問題をモトから断つための考え方です。   システム思考はみんなの役に立ち、日本をよりよい方向に力強く進めてくれるアプローチだと信じています。私は幸いシステム思考の専門家の国際的なグループに属しています。システム思考を教え、トレーニングするための方法を日本に紹介していこう、日本向けのワークショップやセミナー、本を作って、たくさんの人が使えるようにしていきたいと思っています。 10年後には、日本でもふつうにだれもがシステム思考の考え方で、問題を全体的に構造的にとらえ、長期的な全体最適化を基本原則に、持続可能な社会に向かって進んでいる――これが私の夢であり、めざしているビジョンです。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 3年前にバラトングループの合宿に参加して以来、「いつかシステム思考を日本に紹介し、"読み書きそろばん、システム思考"というぐらいのリテラシーとして、広げていきたい」と考えていました。 今年、自分の重点分野として、具体的に5つのプロジェクトで実現へ向けて進めていきます。最初にカタチになったプロジェクトは、今月10日に刊行されるデニス・メドウス氏らによる『成長の限界 人類の選択』の翻訳出版です。 この本は、1972年刊行の『成長の限界』の第3弾になります。本自体が、システムダイナミクスのモデリングに基づくシミュレーションをもとにしており、全編を貫く考え方は「システム思考」です。 システム思考の日本での普及を、と動き始めたら、「環境システム学というのがありますよ」と教えていただきました。日本でのこれまでのシステム思考的なアプローチの展開と現状についても、いろいろと教えていただいているところです。 えっ? 残りの4つのプロジェクトは何かって? それはこれからのお楽しみ!  このメールニュースでご紹介しながら、展開していこうと思っています〜。
 

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