ホーム > 環境メールニュース > ロンドンだより(1) ウェールズ訪問記(2000.12.20)

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年06月21日

ロンドンだより(1) ウェールズ訪問記(2000.12.20)

世界のわくわくNews
 
「本当にロンドンにいるの?」と思っている方もいるようです。もともと発信時間がけっこうメチャクチャなので、メール時間で測れる時差も証拠にならないし、「アリバイ作りに(何のアリバイ?)、ロンドンにいることにしているのでは」と・・・。 証拠づくりに?、週末にウェールズへ行ったときの様子を書きます。いつも仕事でロンドンにきても、ホテルとオフィスの往復以外ほとんどどこも行かない私たちを知っているこちらの人が、「今回は週末に、僕のカントリー・ハウスでミーティングをしよう」と誘ってくれました。 ロンドンから西へまっすぐいけば車で2時間ほど、ブリストルの対岸にある村はずれに、彼の「カントリー・ハウス」はありました。それはそれはステキなところで、森の中の一軒家です。手入れの行き届いた可愛いおうちで、夜は暖炉のまわりでお喋りをし、朝は早くから小鳥たちの声が響きます。 朝、階下に下りてびっくりしました。小鳥だけじゃなくて、ガチョウやアヒル、それにクジャクもベランダを歩いています(最近、どこからか迷い込んできたんだよ、とのこと。 「こんなステキなのんびりしたところで週末を過ごしながら、環境問題のシナリオや本を書くなんて、よっぽど想像力がなくちゃできないわよねぇ」と私たち。 ロンドンからカントリー・ハウスへの途中、ストーンヘンジに寄ってくれました。確か中学の頃、教科書に載っていたけど、実物を見るとやっぱり何だかスゴイ。「だれがなぜ作ったのか。それは謎です」という解説を聞きながら、同行の日本人、「単に面白かったから作ったンだよ」ととってもわかりやすい新説? あと、マルボローという小さな市場町に寄りました。クリスマス前ということもあり、賑わっています。町のあちこちで、小さな楽隊や数人のコーラスがクリスマスの曲を演奏し、道行く人々が置かれた帽子にお金を入れて行きます。 「これは全部、恵まれない人への寄付になるのよ」と英国人の奥さんが教えてくれます。みていると、かなりの確率でお金を入れていきます。 「この小さなお店は、チャリティーのお店でね。要らなくなった洋服などを持っていくと、ここで販売して、売上はやはり慈善団体へ行くのよ」。伝統的なミンスパイなど手作りパイを路上で売っているグループもあって、「クリスマスのプレゼントを恵まれない子どもたちに届けるため」の活動だそうです。 まえにナショナル・トラストなどのNPOがとても厚い層に支持されているという話を書きましたが、その原点を見たような気がしました。これがキリスト教の伝統からきているのかわかりませんが(そう聞いたら、奥さんは「違うわよ。今はほとんどだれも教会にもいかないし」と言っていましたが)、ごく自然に、日常生活の中に、他の人を援助しようという思いや行為が根をおろしているのだなぁ、と思いました。 古い教会にも寄りました。連れていってくれた英国人に「日本では、仏教などの宗教家も環境への取り組みをしている方や団体もあるけど、教会はどうなの?」と聞いたら、「いいや。少なくとも英国では何もしていないね。ドイツの教会ではそういう動きもあるけど」といっていました。 ところで、道のあちこちに「洪水!」と立て札が立っていて、本当に浸水状態の箇所がけっこうありました。ご存知のように、10月以来、大雨が続き、多くの家が水に沈むなど、大きな被害が出てきます。 「英国政府はこの大雨と気候変動を結びつけて考えているの?」と聞いたら、「今度はそのようだね。環境大臣が毎日マスコミに対して、気候変動の結果としてこの大雨・洪水の話をしていたから、今では国民も気候変動について知るようになってきたよ」。 先月レスターが来たときに、「環境税などの税制改革を含め、大きく社会の仕組みを変えていくべきだが、その支持を国民から得るために、政府はもっと教育・啓発に力を入れるべきだ。北極海の氷が融けてなかった、などという新聞記事を使って、そういう関連を伝えていけるのに」といっていました。 ああ、英国政府は、今回の洪水でちゃんとそれを行っているのだなあ、と思いました。日本でも「シロアリが北上している」とか「紅葉せずに緑のまま落ちる葉が増えている」とか「ドングリの様子がおかしい」とか、いろいろな"素材"はあるのだから、政府の「広報・啓発」力に期待したいと思います。 テレビも時計もないような小さな山小屋で、「ここで生活していたら、きっとメールニュースも月に1本くらいになりそう」(じゃ引っ越せって?)と思うほど、ゆっくりした一泊後、「本当に慌しい訪問でしたね」といわれつつ、ロンドンに戻ってきました。 帰りに、近くの村にあるTintern Abbeyという僧院の遺跡に連れていってもらいました。1131年に建てられた大きな僧院で(200人ぐらいの僧がいたとか)、 その後、ヘンりー8世が壊してしまいました。今でも屋根はないのですが、壁や土台などの骨格は残っています。石の文化なんだなぁ〜、と思いました。だからあちこちに古いのが残っていて、英国人の「古い建造物を大切にする」伝統があるのだなぁ、と。 私たちが訪れたときには、霧がかかっていて、その中にどこまでも高く、古い石壁が浮かび上がっている、何とも胸に迫る景色でした。祇園精舎の鐘の声が聞こえそう・・・、と思って、前から聞いてみたかったことを聞いてみました。彼は、私の知るかぎり、他の英国人に比べると日本人的感覚をわかってくれる人です。 「日本人はこういう光景をみると、『無常』を感じるのよ。俳句って知っているでしょ。『夏草や つわものどもの夢の跡』という有名な句があるの。英国人はこういう光景をみると、何を感じるの? たくさんの人が見に来るのだから、何か胸に迫るものがあるんでしょ?」(注:どういう英語にしたかは聞かないで下さいね) 彼は「そうだねぇ。過去の人々がこのような素晴らしいものを作り上げた、その努力や苦労を偲ぶねぇ。すごい、と。それから時の移り変わりもね」。 「時の移り変わりというと、私たちは寂寥感を覚えるのだけど、そういう感じ、あるの?」と私。「そういうのはナイね。ただ時が経ったんだなぁ、と」。 彼の感覚が英国の標準かはわかりませんが、彼にいわせると、「過去の人々の偉業に対する敬意と感嘆の念」のようです。「翻って我が身の儚いことよ」とはあまりならないみたい。 帰りに記念に絵葉書を買おうと思ったのですが、どの写真も、お日様きらきらの下に偉大なる遺跡がそびえたっている写真ばかりで、私のほしい「霧に霞む古の僧院」の写真はなかったので、あきらめました。そして、面白いなぁ、と思ったのでした。 まあ、こんな貴重な経験もしながら、仕事のビジネス会談もすべて終えて、今から空港に向かいます。来る飛行機で「お客さん、本当によく寝られますねぇ」とスチュワーデスさんに感心?されましたが、帰りもきっとあっという間に成田につきそうです。
 

このページの先頭へ

このページの先頭へ