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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年06月21日

有機農場訪問記 (2000.02.16)

日本のありもの探し
 
先日、環境会議のあとに行われた埼玉県小川町の有機農家を訪問するスタディ・ツアーに、通訳としてご一緒しました。とてもステキな1日でした。 農場主の田下さんは、都会育ちだけど土に密着して生活したいと思っていた、という奥さんと、16年前に脱サラして農業をいちから始めました。 最初に温室で農場の概要や作っている作物について説明をしてもらいました。普通の温室では苗床用に電気で暖房するそうですが、田下農場では、稲藁その他の農業廃棄物を外で2年寝かしておいて、余分な栄養分などを取った堆肥を鋤き込み、その発酵熱で保温していました。苗床にささった温度計は30℃。電力もサーモスイッチも要らない、天然暖房です。 作っている野菜を並べて見せてくださいましたが、どれも本当にどっしりと存在感のある野菜たちでした。「この野菜は育てられたのではないのですよ。自分の力で育った野菜なのです」という説明もナットクの立派さでした。このメールニュースの最近の流行言葉(^^;)でいうと、持って生まれたポテンシャリティをできるだけ発揮した「もったい」ある野菜たち、でした。 そして、じっくりそれぞれの野菜の潜在力を、苗床から育て、手と時間をかけて立派な野菜になるお手伝いをする農業は、肥料や殺虫剤をふりかけて「育てる」農業よりどんなに大変か、と思いました。でも田下さんの文字通り「地に足のついた」存在感は、ご自分の農場のお野菜と同じくらい、明るくてどっしりしていたなぁ。 この小川町には、自然エネルギー学校を開いて全国から集まる人々に、ソーラーやバイオガス・エネルギーの原理や体験、運用のノウハウなどを提供する一方、NGOとして東南アジアでのソーラー発電の展開のサポートをするなど、活発に新エネルギーを推進するグループがあります。田下さんもその仲間です。 田下農場でも、何ヶ所かでソーラーパネルを使っています。たとえば、水田の雑草取り担当の合鴨たちを外敵から守り、同時に逃げないように張ってある電気網。夕方には合鴨は小屋に戻りますから、昼間だけソーラーパワーが得られればよいのです。 それから、温室の近くの井戸水汲み上げポンプを動かすのも、2枚のソーラーパネルと蓄電池です。1週間は日が照らなくても十分なほど蓄電できるので、極めて実用的です。 アジアからの参加者が、「ソーラーシステムのコストと、どのくらいで回収できるかを知りたい」と質問をしました。田下さんは、ソーラーパネルは補助が出るし、蓄電池は中古だから、全部で10万円弱かな、と答えた後、ちょっと遠くを見つめるようなまなざしで、 「回収には長い時間がかかるでしょう。水道料金はとても安いからです。でもここに井戸がある。ポンプの電気もソーラーで得られる。外から水や電気を買わなくても、頼らなくても、自分たちで得ることができる。だから使っているのです」 投資やその回収、見返りなどとは違う軸とその力強さに、参加者と一緒に私も感動したのでありました。 農場でいちばん儲かるのは、養鶏や家畜だそうです。 「でもウチの農場では、いまは養鶏は増やしません。鶏や家畜の糞を肥料として畑に返しています。糞の量が畑に返せる範囲で、飼っています。この農場では、いろいろなものが循環しているので、どれかを近視眼的に増やしたりすると、全体のバランスが崩れてしまうからです。」 当日、田下農場には、ある県の畜産関係者が視察に来ていました。家畜廃棄物の処分で困っているそうです。田下さんの例を見て県にお帰りになったあと、畜産家と農家(そして畜産課と農業課)の戦略的アライアンス(パートナーシップ)を提案してくれたでしょうか? 田下農場のもうひとつのスポットは、バイオガス設備でした。人間も家畜もその廃棄物は貴重な"原材料"です。地下の発酵槽からチューブを引いて、ガスを取り出すという極めてシンプルな作りですが(臭いもナシ)、田下家(住み込みの有機農業研修生を含む)9人の煮炊きを冬でも7割はまかなえるガスが得られるそうです。 夏に発酵が盛んになるので、発生するガスの量が増え、自宅の調理や暖房用だけでは余ってしまいます。これをどう使うか?田下農場の楽しい試行錯誤や夢を聞かせてもらいました。 発電機。でもガスを電気に換える効率が悪いので、もったいない使い方。今度の夏には、池の上に小さな電灯をつけて、集まる虫が池に落ちるようにして、それで池で魚を育てようかな。 ガス冷蔵庫。冷蔵庫が必要なのも夏なので、これは合理的でしょう。今度の夏には、余ったガスでトマトを煮て、ペーストやケチャップに加工してみよう。そうしたら、夏のエネルギーを変換して、冬に使えますね。 農場の隅々まで、「知足」が行き渡っているような、何となくほっとできて居心地の良い、穏やかな田下農場でした。 ただ、これだけの手間をかけ、全体のバランスを優先して農業をしているけど、なかなか、それをちゃんと評価する市場や消費者は少ないようです。私たちにもこれまでと違う「軸」がいるんだよなぁ、と思いました。 田下農場の「もったい」ある野菜たちは、年間契約で毎週届けているそうです。野菜の種類は選べません。「土地のことを考えて、60種類ほどの作物を順繰りに作っているからです。そして何より旬の野菜を食べてほしいから」と。
 

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