ホーム > 環境メールニュース > ローストビーフのお話

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2005年05月17日

ローストビーフのお話

新しいあり方へ
 
>> 若い夫が、妻がいそいそとローストビーフを焼く様子を見ていました。妻は、オーブンに入れるまえに両端を少しずつ切り落としていました。「おや、どうして両端を切ってからオーブンに入れるの?」と尋ねると、「だって・・・お母さんがいつもそうしていたんだもの」。 夫婦で妻の実家に遊びに行く機会がありました。ご馳走のローストビーフを焼く義母を見ていたら、やっぱり両端を切り落としてオーブンに入れています。「お義母さん、どうして両端を切ってから焼くのですか?」と婿が尋ねると、お義母さんは「さあ、どうしてでしょう・・・? いつも母がそうしていましたから」。 夫はついに、妻の祖母に会いに行きました。「お祖母ちゃん、どうして、ローストビーフを焼くときに、両端を切り落としていたのですか?」お祖母ちゃんはニコニコと「オーブンが小さくて、入りきらなかったからですよ」。 << 環境関係の会議や話し合いに出ていると、決まり文句か結論のように出てくるのが、ひとりひとりの「ライフスタイルを変えないと」「価値観を変えないと」いけない、ということです。 そうなんだけどね〜、と思います。でも「ライフスタイルを変える」というと、明日から車は絶対使わないとか、オーガニックしか買わないとか、かなり大きな変化をイメージして抵抗する人も多いように思います。 でも考えてみると、「ライフスタイル」と呼ばれているものは、私たちの毎日朝起きてから夜寝るまでの行動と選択の積み重ねなのだと思います。 朝何時に起きるか、起きて何をするか、歯を磨くときに水を出しっぱなしにするか止めるか、どの歯磨きチューブをどのくらい使うか、朝食は食べるか、何をどのくらい食べるか・・・という瞬間瞬間の行動(行動しないことも含めて)と選択が織りなすものが、その人のライフスタイルなのでしょう。 そう考えると、「ライフスタイルを変えるのは簡単である」といえます。これまで歯磨きのときに水を出しっぱなしにしていたけど、今日からはコップを使って蛇口は止めます、とすれば、「ライフスタイルが変わりました!」ってことです。 では、「どうすればライフスタイル(行動の選択基準)は変わるか?」ですね。いろいろあると思いますが、今のところ、私が考えているのは、 (1) 情報:知らなかった事実を知ること。自分の行動が及ぼす影響を知ること。
(2) 気づき:これまで意識していなかった自分の行動の不合理性に気づくこと。
(3) ノリ:かっこいい、オシャレ、何となく(みんながやっているとか) です。どうでしょうね? アイディアをください。 (1)はよくいわれていることで、このためのさまざまな努力がなされています。情報はふんだんに手に入るようになりましたが、足らないのは「環境マーケティング」だと思います。つまり対象者をセグメントに分け、それぞれのニーズやプロフィールに合わせて、どう「環境」を売り込んでいくか? です。 先日、「環境を考える経済人の会21」のシェルパ・フォーラムに出席させてもらって、そこでも発言しましたが、NGO・NPOの弱い(これまで力を入れてこなかった)部分がこの「環境マーケティング」だろうと思います。そして、このシェルパ・フォーラムのテーマ「企業とNGOの共同活動」どおり、この部分は企業からいろいろなノウハウやコツを学べる領域だと思います。 (2)の例が、上記のローストビーフです。お祖母ちゃんの答えを聞いたら、そのうえもしお祖母ちゃんが「数年前に大きなオーブンに替えてからは、もちろん両端を切り落とすなんてもったいないことはしていませんよ」といったりしたら、お義母さんも若妻も、これからはきっと、両端を切らずにお肉を焼くことでしょう。 こういうことって、よくあるように思います。個人でも、組織の内にでも。 先日、「議論で打ち負かすのではなく、我慢大会でもなく、乗り換えられる船を用意してあげることだ」というコメントをもらいました。これはとても大切なことです。「船を乗り換える」ためには、なぜそもそもその「船」に乗っているのか、を乗っている人が意識することが大切です。 「なんでそれ(便座の暖房や皿洗いのお湯など)を使っているの? 何のため?」というのがわかれば、その機能やサービスを別の環境負荷の低いもので代替することが考えられます。カーシェアリングなどで「所有から、機能やサービスの利用へ」という話をしますが、同じ路線ですね。 ところで、このローストビーフの話、大学院で勉強していた臨床心理学の本で読んだものです。「価値観の変容」というのは、心理学も大いに活躍すべき領域です。論理療法、行動療法、学習心理学、モデリング理論等々、いろいろ参考になるものがあります。 そしてこのローストビーフの話を最初にしたのは、私が大学院を卒業して就職した会社でした。ここでは毎週の朝会で当番制で社員が話をしていました。(この年の唯一の) 新入社員の私の最初の番になったとき、私はこの話をして、 「皆さんはずっとこの会社にいるので、きっとローストビーフの両端を不要に切り落とすようなこともしていらっしゃるでしょう。私は新参者ですから" あれ?"と思うと思います。いちいち"それはなぜですか、おかしいのではないですか?"といいますから、いっしょに会社をよくしていきましょう!」 ってなことを喋ったのですね。 昔から生意気だったんですねぇ。
 

このページの先頭へ

このページの先頭へ