エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2011年01月25日

脱クルマの道路づくり

 

                         レスター・R・ブラウン

車があれば方々に移動ができる。そのことを実感するのは主に田舎の場合だ。しかし都市化が進み人類の半数以上が都市に住むようになったことで、必然的に車と都市との間で摩擦が生まれている。

ある時点を過ぎると、車の増加は車から移動の便利さを奪う。それどころか、車を不便なものにするのだ。車の増加に伴って大気汚染が広がり、健康被害も現れる。都市交通システムとしては、鉄道、バス路線、自転車道路、歩道を組み合わせたものが、移動の便利さ、低コストの交通、健康な都市環境を提供できる最も望ましい形である。

非常に多くの人たちを車からバスに移行させることになった最も革新的な公共交通システムのいくつかが、ブラジルのクリチバとコロンビアのボゴタで発達している。トランスミレニオと呼ばれるボゴタのバス高速輸送システム(BRT)がそれだ。

これは、バス専用の高速レーンを設けることで人々の市内での移動が速くなるようにしたもので、今やそのシステムはコロンビア国内のほかの6つの都市だけでなく、メキシコシティー、サンパウロ、ハノイ、ソウル、イスタンブール、キト(エクアドルの首都)など国外でも多く導入され、同じように成功を収めている。メキシコシティーは2020年までにBRT路線を10本整備する計画である。

北京は中国の国内でBRTが運用されている11の都市の一つである。中国南部では、広州が2010年の初めにBRTの運用を正式に開始した。すでに1日80万人以上の乗客がBRTを利用しており、年内にはその数は100万人になる見込みである。地下鉄との連絡を3カ所で行い、ほかにも、BRTの全路線に並行して間もなく自転車道路が設けられる予定だ。さらに自転車とBRTを併用する人たちのために、広州では5,500台分の駐輪場が設置される運びになっている。

イランではテヘランが2008年の初め、BRTの一号路線を開通した。現在、さらにいくつかの路線の開発が進み、いずれそれらはすべて、市の新たな地下鉄路線と一体化される予定である。アフリカでも数都市でBRTシステムの導入が計画されている。先進国でさえ、例えばオタワ、トロント、ニューヨーク、ミネアポリス、シカゴ、ラスベガス、それに非常に喜ばしいことだが、ロサンゼルスといった都市でも、BRTをすでに導入したか、あるいは導入が現在検討されている。

シンガポールやロンドン、ストックホルム、ミラノのように、都心に乗り入れる車に税金をかけ、それによって交通渋滞と大気汚染を減らした都市もある。最近まで、自動車の平均速度が1世紀前の馬車並みだったロンドンでは、2003年早々、混雑課金を徴収することを決めた。当初、その額は5ポンド(約700円)とされ、午前7時から午後6時半の間に都心に入ってくる全車両を対象に課金がなされた。その結果、都心に流入する車の数は即座に減少し、車の流れはスムーズとなり、大気汚染や騒音が減った。

この新税が導入された最初の1年間で、都心にバスを利用して訪れる人の数は38%増え、主要な大通りを走る車の速度は21%速くなった。2005年7月、混雑課金は8ポンド(約1,120円)に引き上げられた。その混雑課金による収入は公共交通機関の整備と拡大に使用されることから、ロンドン市民は乗用車からバス、地下鉄、自転車へと、利用する交通手段を着実に変更している。混雑課金施行後、交通量がピークの時間帯にロンドン市内に流れ込む車や小型タクシーの数は36%減り、逆にその時間帯の自転車は66%増えている。

2008年1月、イタリアのミラノは、平日、昼間の時間帯に歴史地区に入ってくる車に対して14ドル(約1,200円)の公害税(pollution charge)を課すことを決めた。これと同じような措置はサンフランシスコ、トリノ、 ジェノバ、キエフ、ダブリン、オークランドなどほかの都市でも検討が進んでいる。

2001年にパリ市長となったベルトラン・ドラノエは、当時、欧州で最悪だった交通渋滞と大気汚染問題のいくつかを前任者から引き継いでいた。そこで彼は2020年までに交通量を40%減らすことを決断した。まず手を付けたのが、パリ首都圏に住むすべての住民が質の高い公共交通機関を利用できるように、都心から離れた地域にある交通機関の整備に資金を投入したことだ。そして次に、主要な道路にバスや自転車用の高速レーンを整備し、自動車の車線数を減らした。

パリで行われた3つ目の革新的な取り組みは、市内の至る所に1,450のレンタル自転車置き場を設けて、2万600台の自転車を利用できるようにした市営レンタサイクル事業を立ち上げることだった。自転車を借りるにはクレジットカードを使い、利用料金は1日ほんの1ドル(約87円)強程度から年間40ドル(約3,500円)で、1日、1週間、年間単位で料金を選ぶことができる。自転車の利用時間が30分未満なら乗るのは無料だ。レンタサイクルの人気が絶大であることは明らかで、2009年末の時点で利用実績は6,300万回を超えている。

ドラノエ市長は現在、2020年までに自動車交通量を40%、炭素排出量も同じだけ削減するという自身の目標を実現するために奮闘中だ。この自転車シェアリング事業は人気を博し、パリ郊外の30の町に拡大、またロンドンなど、触発された都市も自転車シェアリングを導入するようになった。

多様な都市交通システムの開発で欧州にかなり遅れをとっている米国では、「完ぺきな道(コンプリート・ストリート)」という動きが急速に広がっている。これは、「道路を自動車だけでなく歩行者や自転車にも優しいものにしよう」という取り組みだ。同国では、歩道や自転車用レーンがない地域が多く、歩行者や自転車利用者が安全に移動するのが難しくなっており、特に交通量の多い道路ではそれが著しい。

このような「自動車オンリー」のモデルは、天然資源保護協議会(NRDC)、全米退職者協会(AARP)、多くの地方や全国規模のサイクリング団体をはじめとする、様々な市民団体で構成される強力な組織「全米『完ぺきな道』同盟(National Complete Streets Coalition)」から問題視されている。

この「完ぺきな道」運動に拍車をかけているのは、肥満の蔓延、ガソリン価格の高騰、緊急を要する炭素排出量の削減、大気汚染、そして、高齢化するベビーブーマーたちが自由に移動できなくなるなどといった問題だ。歩道が整備されていない都市部に住み、自動車を運転しなくなった高齢者は、自宅に閉じ込められているも同然なのである。

全米「完ぺきな道」同盟は、「2010年4月の時点で、カリフォルニアやイリノイを含む20の州と71の都市で『完ぺきな道』政策が施行された」と報告している。州政府がこのような政策の法制化に関心を持つようになった理由の一つは、「自転車用道路や歩道を最初からプロジェクトに組み込む方が、後で追加するよりもはるかに低コストで済むこと」である。

この取り組みと密接に関連しているのが、徒歩通学を奨励し、手助けする運動だ。1994年に英国で始まったこの運動は今、米国を含め、約40カ国に広がっている。40年前には、米国内の子どもの40%以上が徒歩や自転車で通学していたのだが、現在その割合は15%もない。

今日、60%が車に乗せてもらったり、自分で車を運転したりして通学している。このような状況が子どもの肥満の要因になっているだけでなく、米国小児科学会が報告しているように、車で通学する子どもの死傷者数は、徒歩やスクールバスで通学する子どもに比べて格段に高いのである。「歩いて通学」運動の潜在的なメリットとして、肥満や若年性糖尿病の低減も挙げられている。

非常に発達した都市交通システムを持ち、自転車用のインフラが成熟している国々は、自動車に大きく依存している国に比べ、世界的な石油生産量の減少という重圧に対してはるかにうまく耐えられる状況にある。徒歩や自転車といった選択肢が揃っていることで、自動車による移動回数を簡単に1割から2割減らせるのだ。

新しい世紀が進むにつれ、世界は、交通について考える際に100年間で最も根幹的な転換の一つとして、都市における自動車の役割を見直しつつある。課題は、地域社会を再設計して、公共交通機関を都市交通の軸とし、道を歩行者や自転車に優しいものにすることだ。

これはまた、緑化や公園を整備し、駐車場を公園や遊び場、運動場に転換するということでもある。私たちは、炭素排出量を削減したり、健康に有害な大気汚染を解消したりしながら、毎日の日課に運動を取り入れることで体系的に健康を取り戻す、という都市のライフスタイルをデザインすることができるのだ。

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ