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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2008年08月04日

石炭火力発電所の新設禁止に向かう米国

 

                      レスター・R・ブラウン

米国エネルギー省は、2007年初頭に編さんされたレポートの中で、建設が計画されている石炭火力発電所151カ所を掲載し、石炭火力発電の復活について述べている。しかし2007年の一年で、建設が予定されていた石炭火力発電所のうち59件は、州政府による許可が下りなかったり、建設計画がひそかに断念されている。また建設中止となった59の発電所に加え、およそ50件に及ぶ建設計画は訴訟中で、残りの計画についても許可が下りる段階に至るまでに、建設に対する異議申し立てを受ける可能性が高そうだ。

石炭火力発電に抵抗する地域レベルのさざ波は、瞬く間に環境団体、健康関連団体、農業関連団体、地域団体から発せられる全国的な草の根の反対運動という大波へとうねりを広げつつある。またこの動きに追随する州政府の数も急激に増えている。社会の趨勢も石炭には反対だ。2007年9月、調査会社であるオピニオン・リサーチ・コーポレーションが行った全国調査では、「電力源として好ましいものは何か」という質問に「石炭」と回答したのは3%にすぎなかった。

石炭業界にとって最初の大打撃となる出来事が起きたのは、2007年初頭である。環境団体が、テキサスに本社を置く電力会社TXUを説得し、テキサスで計画されていた石炭火力発電所の数が11から3に減ったのだ。そして現在では、その3件さえも、建設に対し異議申し立てを受ける可能性がある。一方、テキサス州政府内では主要なエネルギー源を風力にシフトする計画がある。風力により、石炭火力発電所23カ所分に匹敵する2万3,000メガワットの発電量を賄おうというものだ。

5月には、フロリダ州の公共サービス委員会が総工費57億ドル、1,960メガワットの発電力をもつ巨大な石炭火力発電所建設の申請を却下した。「省エネ化やエネルギーの効率化、また再生可能なエネルギー資源に投資するよりも、発電所を建設する方が低コストである」ということを電力会社が証明できなかったからである。

このような論拠は非営利の環境法律事務所であるアースジャスティスがつきつけたものだが、「フロリダ州にこれ以上石炭火力発電所はいらない」という住民の反対意見表明と相まって大いに広がりを見せ、結果として同州の4つの石炭火力発電所建設計画はひっそりと取り下げられた。フロリダ州が海面上昇に対して脆弱であることを痛感しているチャーリー・クリスト知事(共和党)は、石炭火力発電所の新設反対に積極的に取り組んでおり、世界最大の太陽熱発電所を建設する計画を発表した。

石炭火力発電所の新設に反対する主な理由は、気候変動に対する懸念が高まっていることであるが、これに加え、建設費用が急上昇しているという理由も新たに出てきている。さらに米国では、発電所からの大気汚染で年間2万3,600人が死亡していることや水銀の排出に対して健康面での不安も強まっている。
(詳しいデータはwww.earthpolicy.org/Updates/2008/Update70_data.htm を参照)

電力会社は、石炭火力発電所の煙突から出る二酸化炭素(CO2)を回収し、地中に貯留できると主張している。それで業界存続の希望をつなぎとめようとしているのだ。しかし2008年1月30日、ブッシュ政権は、予算が大幅に超過するという理由で、イリノイ州に地下炭素隔離システムを備えた実証用石炭火力発電所を建設するという計画から撤退すると表明した。

政府はこの事業計画を、電力会社や石炭を扱う企業を合わせた13団体と共同で進めていたのだが、2003年の計画発表当時には9億5,000万ドルだった建設費用が、2008年初めまでに15億ドル以上に膨れ上がり、今後もさらに上昇すると予想されているのである。この政府の撤退で、事実上、炭素隔離技術をともなったあらゆる石炭火力発電所建設が、はるか遠い将来にまで延期されたため、炭素隔離技術は早急に進めるべきものではなくなってしまった。

中には、「電力需要を賄う対策として、電力使用の効率向上を図るなど、石炭利用に代わる手段を試していない」という理由で、石炭火力発電所の建設許可が下りていない電力会社もある。例えば、建物を断熱すれば、冷暖房に要するエネルギーを大幅に減らせる。また、電球をより省エネのものに替えれば、米国内にある80の石炭火力発電所を閉鎖できるほどの電力を節約できるだろう。

この問題について米国内のリーダー的存在であるシエラ・クラブは、何百という地方団体とともに、次々と各州に法的な異議申し立てを行なっている。国内の団体で積極的に関わっているのは、米国熱帯林行動ネットワーク、天然資源保護評議会、エンバイロメンタル・ディフェンスなどである。石炭火力発電所に反対する草の根レベルの今の動きは、Coal Moratorium NOW!(今こそ石炭使用の一時停止を!)というウェブサイト(cmnow.org)でわかる。

炭素排出量の削減に取り組んでいる州は、「自分たちの炭素削減の取り組みが帳消しにされかねない」とばかりに、ほかの州で新たに石炭火力発電所が建設されるのをやめさせようと結束している。例えば、2006年の終わりには、カリフォルニア、ウィスコンシン、ニューヨーク、そのほか北西部の州の検事総長が、700メガワットの石炭火力発電所2カ所の建設許可を取り消すよう、カンザス州の衛生当局に要請文を書いた。その後、2007年4月に連邦最高裁判所で判決が下されたように、CO2は大気汚染物質であり規制されるべきだという言及のもと、許可はされなかった。

また、同様に複数の州が集まって、サウスカロライナ州ピーディー地域における600メガワットの石炭火力発電所の建設許可申請を却下するよう求める書簡を、2008年1月22日付けで同州保健環境管理局に出している。

石炭火力発電所は前途もまた多難である。金融業界が石炭業界に背を向けているからだ。2007年7月、米国金融大手のシティグループは石炭関連株全体の格付けを下げ、他のエネルギー株へ切り換えるよう顧客に促した。2008年1月には、証券大手のメリルリンチも石炭関連株を格下げした。

2月初旬には投資銀行のモルガン・スタンレー、シティ、JPモルガン・チェースが、「火力発電所については、『将来導入が予想される連邦レベルでの炭素排出規制に伴ってコストが上昇したとしても採算がとれる』と電力会社が実証できなければ、今後は融資をしない」との方針を発表した。そして同月13日、バンク・オブ・アメリカもその動きに追随すると発表した。

石炭業界は2007年8月、政治的にも大きな痛手を受けた。地元で3つの石炭火力発電所建設に反対してきたネバダ州選出のハリー・リード上院多数党院内総務が、今度は、「世界のどこであろうと石炭火力発電所の建設には反対する」との見解を発表したのだ。

投資銀行や政治的指導者は、米国航空宇宙局(NASA)のジェームス・ハンセン氏など気候科学者にはすでにかなり前から明白だったことをようやく理解し始めたようだ。つまり、同氏が唱えているように、「数年後には一気に壊さなければならない石炭火力発電所を建設することは無意味である」ということだ。

2007年11月初旬には、カリフォルニア州選出のヘンリー・ワックスマン下院議員が、「環境保護庁(EPA)が石炭火力発電所から排出される温室効果ガスに規制をかけるまで、大気汚染防止法の下で、石炭火力発電所の新規建設許可を凍結させる法案を提出するつもりである」と発表した。このような国レベルでの凍結法案が議会を通過すれば、それを機に米国における石炭火力発電は終焉の道をたどることになるだろう。

われわれは、気候安定化に向けて世界各国が努力する中で、歴史的な勝利を勝ち取る寸前まで来ているのかもしれない。新著『プランB3.0』で私は、2020年までに炭素排出量を80%削減することを提案している。

その第一歩は、石炭火力発電所の新規建設を止めることだ。米国がデンマークやニュージーランドにならって新規建設を凍結すれば、世界各国に力強いメッセージを送り、炭素削減に向けた取り組みを後押しすることになるだろう。そして次のステップは、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止していくために、世界中の莫大な潜在能力を早急に引き出してエネルギー効率を向上させ、風力、太陽光、地熱など再生可能エネルギー源の開発を大規模に進めていくことだ。

世界は気候問題で政治的な転機に向かっている。その転機が遅くなければ、われわれは壊滅的な気候変動をまだ避けられるかもしれない。

 

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