エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年12月26日

米国経済に打撃を与える米対外政策

 
                                               (レスター・ブラウン) 先週、私は81カ国もの国会議員が集まってフランスのストラスブールで開かれた国際会議とベルギーのブリュッセルで開会中の欧州議会に、2日間ずつ出席した。人口、食糧、水、気候変動、エネルギーなどの問題について講演するために招かれたのだったが、質疑応答でも個人的に交わした会話でも、きまって話題になったのは米国の対外政策だった。 他国の議員は、理解できない米国の対外政策に当惑するばかりか、次第に怒りをつのらせている。今彼らの目に映るアメリカは、かつてのあのアメリカではないのだ。 米国の対外政策に憤慨しているのは議員だけではない。反米感情は世界中に広がりつつある。今年3月、米大手世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが行った国際的な世論調査の結果によると、「イラク戦争から1年経ち、米国やその政策に対する不満は収まるどころか高まっている」という。 この調査結果を見ると、「イラク戦争によって、海外で米国に対する信頼が揺らいでおり、戦争はテロ撲滅の闘いを前進させるどころか、後退させることになっているという点で、調査が行われたほぼすべての国でおおむね意見が一致している」ことが明らかである。 単独主義的な政策決定を行う米国の傲慢さが、激しい怒りを買っているだけでなく、多くの国にとって、米国はもはや信頼できる国ではなくなっている。米国の対外政策に対する拒否反応は、米国ブランドの製品の拒絶というかたちで表れてきている。事実、ヨーロッパの人々は、日々の買物を通して、米国の対外政策の是非を問う経済的な国民投票を展開している。現在、米国企業の2004年第3四半期決算報告の発表が始まっているが、米国の大手企業数社の決算にその影響が見られる。 世界の製品ブランドのトップ10のうち、8つが米国ブランドだ。これらのブランドは、米国外での売上が半分以上を占める。ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・クエルチ教授は「米国の対外政策に対して強まっている反感がこれらのブランドの長期的な強さを脅かしている」と述べている。 フィナンシャル・タイムズ紙が報じたところによると、コカ・コーラ、マクドナルド、GAPなど、世界的にも最強の消費者ブランドの中に大きな打撃を受けている企業があるという。ドイツでのコカ・コーラの売上高は、前年同期比で16%の下落となり、同社は「現地での事業用資産の減損を受けて」3億9200万ドルを損金処理している。 マクドナルドは歴史的な目覚しい成長を遂げた企業であるが、ヨーロッパ全体で売り上げの伸びが止まった。GAPはドイツから完全に撤退し、このことが海外での売上高を10%下落させる一因となった。パリ郊外にあるディズニーランド・パリでは、入場者数の減少によって収益が悪化し、親会社の救済を仰ぐこととなった。世界中で最も成功した小売業者ウォルマートも、米国、日本に次ぐ第三の経済大国であるドイツで大幅な損失に直面している。 ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードも、ヨーロッパでの自動車販売台数が低迷している。ヨーロッパで2億3600万米ドルの損失を計上したGMは、ドイツで1万2000人の従業員を一時解雇する予定だ。フォードもまもなくこれに追随する可能性がある。 反米感情を煽りたくないため、企業はたいてい、売り上げ減少の原因は経済状態にあると主張しているが、国際通貨基金(IMF)が2004年9月に発表した世界経済見通しでは、ドイツの同年の経済成長率は2%と、前年のマイナス成長から大きく回復すると予想されている。米国製品の売り上げはフランスでも落ち込んでいるが、同国の成長率も、前年の0.5%から2.6%まで上昇すると予想されている。 米国企業の海外での売り上げと収益は、前述の大手ブランドで特に目立って落ち込んでいるが、全体的にみても米国製品は売れなくなっている。ほかに海外で消費者離れが進んでいる米国有名ブランドには、マイクロソフト、ナイキ、ヤフーなどがある。しかし、有名ブランドに限らず、さらに多くの会社が危機に瀕している。国際的に事業を展開している何千という米国企業が今後経済的な影響を受けるだろう。 イラク戦争が米国経済に与える間接的な影響は、近いうちに大きな問題となるだろう。この点ではクエルチ教授も同様の考えを示しており、「米国経済が被る損失は、この戦争そのものの費用よりはるかに大きくなるのではないか」と指摘している。 このような海外での米国製品の売り上げ減少は、なんらかの形ですべての米国民に関係してくると思われる。国内では雇用創出と株式市場に影響が出るだろう。およそ9000万人の個人投資家の持ち株や、投資信託と年金基金の時価、さらに、それらで賄われる退職年金にも影響が出るだろう。財団の助成金支給や大学の運営費補填を支えている寄付金の額も減るであろう。 私は、1956年の後半をインドの村々で過ごすために初めてアメリカを離れ、ニューヨークからボンベイに船で渡ったのだが、それ以来、50年近く海外を旅してきた。その間、私は今日見られるほどの米国対外政策への懸念を目の当たりにしたことはただの一度もなかった。米対外政策の長期的影響の全貌を把握するには時期尚早かもしれないが、いくつかの経済的影響がじわりじわりと明らかになりつつある。 米国は新たな対外政策を創り出すべき時期にきている。世界中の懸念やニーズに応える政策だ。今日のように統合された世界経済体制の下では、例えば貧困を根絶することは、テロの根絶と同じくらい米国の安全保障に貢献するかもしれないのである。
 

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