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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年06月12日

サウジ、石油で米国を支配 ――穀物と原油の交易条件が激変

 
レスター・R・ブラウン 1970年の国際市場では、小麦1ブッシェル(注1)が原油1バレルと交換できた。それが今では、原油1バレルを買うのに9ブッシェルもの小麦が必要である。このような穀物と原油との交易条件の激変から最も影響を受けたのは、米国とサウジアラビアの2カ国だ。 原油輸入量も穀物輸出量も世界最大の米国では、小麦と原油の交換比率変動のあおりを受け、ガソリン価格が上昇している。原油に対する小麦の価値が9分の1に下がったために、米国史上最大の貿易赤字を招き、それが記録的な対外債務を生み、米国経済が弱体化している。対照的に、世界最大の石油輸出国であり有数の穀物輸入国であるサウジアラビアは、見事にその利益を享受している。 1970年代初頭には、米国は原油の輸入にかかる支出を穀物輸出でほぼ賄えていた。しかしその後、石油輸出国機構(OPEC)による原油価格引き上げを経て、2003年には990億ドルもの原油輸入額のうち、穀物輸出で賄えるのはわずか11%になっていた。穀物と原油の交換比率が不利になる中、米国内の石油産出量は減少し、一方で消費量は増加を続けている。つまり、輸入量が増加しているのだ。2003年の全消費量のうち、輸入は60%にのぼる。 小麦価格(穀物価格の代わりに用いる)と原油価格との交易条件は、今もなお劇的に変動している。1950年から1973年までは、小麦も原油も価格が非常に安定しており、両者間の交換比率にも変動がなかった。その間、23年にわたって、国際市場で小麦1ブッシェルが原油1バレルと交換できたのだ(詳細は、http://www.earth-policy.org/Updates/Update38_data.htmの表とグラフを参照のこと)。 原油・小麦間の交換比率に初めて大きな変動が起きたのは、1973年末にOPECが原油価格を3倍に引き上げた時だ。1974年から1978年まで、原油1バレルを購入するのに3ブッシェル前後の小麦が必要になった。さらにOPECは2度目の原油価格の引き上げを行い、1978年に1バレル当たり13ドルだった原油価格を1979年には30ドルにまでつり上げたため、しばらくは原油1バレルに必要な小麦が7ブッシェルという状態になった。 こうして原油の購買力が急伸し、史上最大規模の富の移転が起きた。サウジアラビアやクウェート、イランといった主要な石油輸出国の国庫がドルで溢れ始める一方で、多くの輸入国の財政は困窮するようになった。 高値に反応して、OPEC加盟国以外での石油生産が増大したため、次第にOPECの原油価格に対する支配力は弱まり、原油価格は1985年から1986年の間に半値に下落した。それ以降1999年まで、原油1バレルの購入に必要な小麦は平均5ブッシェルだった。それが、2000年から2003年までは7ブッシェル、2004年初頭の現在9ブッシェルとなっている。 小麦と原油の交換比率が今後どうなるのか、確かなことは誰にもわからない。今後もずっと続くであろう穀物生産とは対照的に、石油生産はおそらくこの先5年から15年以内のある時点でピークを迎え、減少に転じるだろう。 正確にいつ石油生産のピークが訪れるかは、大手石油会社と石油輸出国が採用する生産戦略によって決まる。「減産によって、先細りする埋蔵量を長くもたせ、油田の可採年数を延ばす」と決めれば、ピークを遅らせることができるだろう。しかし、もし目先の売上を伸ばすことに終始すれば、生産量は今よりも早いペースで増加し、上げ止まりから減少に転じる時期を早めることになるかもしれない。 石油生産量がそのうち減少に転じることが予想されているにもかかわらず、中国やインドなど急激に工業化の進む国々では特に、石油消費量が増え続けている。中国の消費量はすでに日本を抜き、米国に次いで世界第2位となった。 米国はサウジアラビアに対し石油の増産を強く求めているが、本当にとるべき道は、サウジアラビアの増産ではなく、米国の消費削減だ。OPECによる原油価格の引き上げが、石油消費量削減の必要性を示していたにもかかわらず、米国では燃費の悪いSUV(スポーツ用多目的車)が急増しており、石油の消費量と輸入量の増加はとどまるところを知らない。 米国の中東への原油依存度が増すと同時に、中東の政情不安も高まっている。イラク国内で広がる暴動が、他の石油輸出国に飛び火して原油の供給に混乱をもたらすかもしれない。車の燃費の改善に真剣に取り組むべき時があるとすれば、それは今だ。 米国がその気にさえなれば、既存の技術で石油の使用量を減らす方策はたくさんある。例えば、最近のトヨタのプリウスやホンダのシビックハイブリッドといったガソリン・電気ハイブリッド車は、燃費がずば抜けて良い。2004年現在、米国環境保護庁が認定した新型プリウスの燃費は、市街地走行と高速走行を併せて平均でリッター23.4キロと、他の中型車の2倍ないし3倍にもなる。 仮に米国内すべての自動車の燃費を向こう10年間でプリウス並みに向上させれば、国内のガソリン消費量を半減できるだろう。台数をまったく減らさなくても、燃費の良いエンジンを使うだけで、これだけの削減が可能なのだ。 ガソリン・電気のハイブリッド車は、現在実用化されている自動車としては、最先端技術の粋を集めたものといえよう。ハイブリッド車を設計した技術者たちが実のところ成し遂げたのは、「燃料を使わずに先進技術を使って車を動かす」ことだ。 次の段階は明らかに、このハイブリッド車の蓄電容量を適度に大きくすることだ。そうすれば、電力需要が下がる夜間に電源に接続してバッテリーを充電できるようになる。そして、短距離の通勤はすべて電気で賄い、ガソリンはたまの遠出にとっておける。これによって、米国ではガソリンの代わりに安価な風力エネルギーを使えるようになり、ガソリン消費量をさらに削減できるだろう。 ハイブリッドエンジンの動力源に占める電気の割合を高めることで、米国の膨大な風力資源開発に関わる収益性の高い新規投資機会が生まれる。米国エネルギー省によれば、同国内で利用できる風力資源は、総電力需要の数倍にも及ぶという。現在、国内の風力発電容量は急速に伸びている。1995年の1600メガワットから2003年には6400メガワットと、4倍になった。 風力タービンの設計が進歩して風力発電のコストが下がったおかげで、いまや22もの州に商業規模の風力発電施設があり、域内の送電網に電力を供給している。化石燃料への補助金とバランスをとるために策定された風力発電に対する税制優遇措置が継続されれば、風力発電の成長は今後さらに勢いを増し、何千人もの雇用が創出されるだろう。 中東から原油の調達を続けるために、米国はあまりに多くの血を流し、あまりに多くの財源も費やしてきた。米国のシンクタンクであるランド研究所の分析によると、中東からの原油を確保するために必要な駐留米軍の維持費として、平時でさえ少なくとも年間300億ドルが必要だという。今こそ変革の時だ。 米国がリーダーシップをとらなければ、サウジアラビアはこれからも原油と穀物の交易条件を支配し続けることになる。つまり、サウジアラビアが米国のガソリン価格をも支配するのだ。 世界最大の石油の消費国であり輸入国である米国は、石油への依存度をぐんと下げれば、原油価格への影響力をいくらか取り戻すことができる。そうすれば、石油生産のピークを遅らせ、世界がポスト石油時代へ円滑に移行するための時間稼ぎもできるだろう。米国にはこうした取組みをリードするだけの技術とエネルギー資源がある。世界が今必要としているのは、原油ではなく、リーダーシップなのだ。 (注1:) ブッシェルは穀物(などの)取引の単位。1ブッシェルの量は穀物の種類や状況に依る。米国取引市場の小麦の場合、1ブッシェルは60ポンド(約17kg)に相当。
 

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