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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年06月12日

バブルがはじける前に経済を縮小させる

 
レスター・R・ブラウン 「私たちは、バブル経済を作り出している。このバブル経済は、地球の自然資本を消費することによって、生産高を人為的に膨張させている」とレスター・R・ブラウン氏は新著 『プランB:エコ・エコノミーをめざして(PLAN B: RESCUINGA PLANET UNDER STRESS AND A CIVILIZATION IN TROUBLE)』の中で述べている。(PDF形式のファイルを無料ダウンロードできる。または書籍の注文も可能。) ワシントンDCに本拠を置く独立環境研究機関であるアースポリシー研究所の所長であり、創設者でもあるブラウン氏は、「地球に対する私たちの需要が増大するにつれ、バブルも年毎に大きくなっている。世界規模の経済バブルがはじける前にしぼませること、それが私たちの世代が取り組むべき課題だ」と語る。 人類史上の大半を通じて、私たちは地球がもたらす持続可能な産出物、すなわち自然資本から得られる利益に依存して生活してきた。ところが現在、私たちはその自然資本そのものを食いつぶしている。現在の経済生産の一部は、生長を待たずに樹木を切り倒し、過放牧により牧草地を砂漠に変え、帯水層から水を過剰に汲み上げ、河川を干上がらせた結果として得たものだ。多くの耕作地では、新たな土壌形成を上回る速さで土壌浸食が進んでおり、次第にその土地が本来持っている生産力を奪いつつある。海においても、繁殖のスピードを上回る速さで魚を獲り続けている。 「私たちは地球が吸収しきれない程の速さで二酸化炭素(CO2)を大気中に放出し、その結果、温室化を引き起こしている。大気中の二酸化炭素濃度が上昇することによって、今世紀中の気温上昇は、最後の氷河期から現在までの上昇に匹敵するだろう」と『プランB』の中でブラウン氏は述べている。この著作は国連人口基金から資金を得て作られたものだ。 バブル経済は目新しいものではない。米国の投資家たちがバブル経済を目の当たりにしたのは、2000年にハイテク株のバブルが崩壊し、これらの株の指標であるナスダックが75%もの下落をした時のことである。日本でも、不動産バブルがはじけて、株と不動産の資産価値が60%下落した1989年に、同様の経験をしている。不良債権をはじめとする様々なバブル崩壊の影響を受け、かつて活力に満ちていた日本経済は以来低迷を続けている。 これら二つのバブルが崩壊した時、直接に影響を受けたのは、主に西側先進諸国と日本の人々だった。しかし、地球の自然資本の過剰消費に基づいたバブルがはじければ、その影響は全世界に及ぶだろう。 これまで、帯水層の枯渇や漁業の崩壊、森林破壊など、自然資本の過剰消費による被害は、ほとんどその地域に限られていた。しかし、このような事象を表す数字や規模の大きさを見ると、近いうちに地球全体に影響を及ぼすと思われるレベルに達しようとしている。特に食糧は景気後退の影響を受けやすい経済分野のようだ。その主な理由は、ここ数十年の目覚しい生産量増加が一部の過剰揚水と過剰耕作を下敷きにしていたためである。過剰揚水は歴史的にみて最近のことであり、ディーゼルポンプや電動ポンプが広く利用可能となってから、ほんの50年ほどしか経っていない。帯水層の過剰揚水は多くの国で行われており、中国、インド、米国も例外ではない。この三カ国の穀物収穫高の合計は、全世界の収穫高の半分近くに相当する。 過剰揚水は、食糧安全保障の面で危険な錯覚を生む。なぜなら、過剰揚水は現在の食糧生産高を拡大させているが、やがて帯水層が枯渇すれば、将来的には食糧生産高はほぼ間違いなく減少するからだ。これまで、帯水層の枯渇による食糧生産への影響はサウジアラビアなど比較的人口密度の低い国々に限られていたが、今では中国でもこうした影響が表面化しつつある。 中国の穀物生産量は、1950年の9,000万トンから1998年に史上最高の3億9,000万トンへと驚くべき生産拡大をしたあと、2003年には3億3000万トンまで落ち込んだ。この6000万トンという落ち込みは、カナダの穀物収穫量を上回る。中国では、これまでのところ、減産を豊富な備蓄で埋め合わせている。おそらく向こう1、2年はその方法で何とか凌げるかもしれないが、その後は大量の穀物輸入を余儀なくされるだろう。 世界市場に頼るということは、世界最大の穀物輸出国である米国に頼ることを意味し、それは地政学的に難しい状況をもたらす可能性を示している。1,000億ドルの対米貿易黒字を抱える中国の、13億人もの消費者が、米国の穀物を米国の消費者と奪い合うことになり、食料価格の高騰を招くだろう。 中国で見られるような水不足は、国際的な穀物取引を介して国境を越え、地球規模の問題になりつつある。 水不足に直面している国々はたいてい穀物という形で水を輸入している。穀物1トンを生産するには1,000トンの水が必要なため、これが最も効率よく水を輸入する方法である。穀物は、国が水収支の帳尻を合わせるための貨幣のような役割を果たしている。今や穀物先物取引は、ある意味では水先物取引なのだ。 また、農業従事者は今、農業が始まって以来の高い気温に直面していると言えるだろう。1880年の観測開始以来の気温を暖かい順に並べると、16位まではすべて1980年以降が占めている。すべて1980年以降である。観測史上最も気温が高かった年の上位3位、1998年、2001年、2002年は、全て過去5年間のことであり、作物は記録的な暑さによるストレスを受けている。フィリピンの国際稲研究所と米国農務省の農作物生態学者らは、「穀物の成長期に気温が摂氏1度上がる度に、収穫量が10%減少する」という経験則を導き出した。 なぜ過去4年間に渡って毎年、世界の穀物収穫高が消費量を下回り、世界の穀物貯蔵量が1世代のうちに最低水準にまで落ち込んだのか、その原因は地下水位の低下と気温の上昇で説明がつくだろう。もし穀物不足が続けば、価格が高騰し、政府の不安定化やこれまでにないほどの貧困層の増大を招くかもしれない。 「プランA、つまりこれまで通りのやり方では通用しなくなっている。バブル経済を作り出しているからだ。プランBでは、バブルがはじける前に、いかにしてそれをしぼませるのか、その方法が記されている」とブラウン氏はいう。「例えば、帯水層が持続できる状態にまで水の需要を減らすことが求められ、そのためには、早急に水の生産性を上げるとともに、小家族化を促す必要がある。2050年までに増加する約30億人のほとんどが、既に水不足に直面している国に生まれる見込みで、水供給への圧迫はさらに高まる。速やかに人口が安定しないと、水不足に対処できなくなる国も現れるだろう」 小家族化を促し、速やかに人口を安定させるために重要なことは、女性がリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する健康管理)を受けられるようにすること、家族計画の現実とのギャップを埋めること、2015年までに全人類が初等教育を受けるという国連が掲げた目標を達成するために、教育への重点投資を行うことである。女性たちがより多くの教育を受けることで、選択肢が広がり、出産する子どもの数は減少する。今なら、私たちには人口急増を助長している貧困を根絶するための富も知識もあるのだから。 「気温の上昇による農作物生産量への悪影響を防ぐということは、気候の安定化に向けて素早く行動を起こすことである」とブラウン氏は語る。「『プランB』の中で、私は2015年までに地球全体の(二酸化)炭素排出量を半減させることを提案している。これが十分に実現可能であることは、最近の多くの研究が示している。気温の上昇により生産量が減少すれば、石炭や石油から、天然ガスや風力、水素へ転換しようという社会の圧力が世界中で高まるだろう」 旧式の白熱灯を高効率の電球形蛍光ランプに交換するという極めて単純な方法で、世界中の何百という石炭火力発電所が閉鎖できるであろう。アルミ缶のような詰め替え 不能な飲料容器を詰め替え可能なビンなどに代替することで、最大90%までエネルギー使用量を削減できる。米国の自動車がすべて現在の内燃機関のものから、トヨタのプリウスやホンダのインサイトのようなハイブリッド車に替われば、ガソリン使用量は半分に削減できる。炭素排出量を半減させることは、もはや、技術という問題ではなく、政治指導力の問題であると言える。 「私たちは人口を安定させ、水の生産性を上げ、気候を安定させなければならないばかりか、それらを戦時下にあるかのような猛スピードで行う必要がある。炭素型エネルギー経済から水素型エネルギー経済へ素早く移行するカギとなるのは、農作物に被害を及ぼす気温上昇や、破壊力を増す暴風雨、海面上昇などの気候変動に伴うコストを化石燃料の価格に組み込むことだ。環境への影響を考慮に入れた、真のコストを市場に反映させる必要がある」 米国疾病対策および予防センター(CDC)の試算によると、タバコ1箱の社会的コストは、喫煙に起因する疾病の治療費や労働生産性の低下を含め、7.18ドルになるという。では、ガソリン1ガロン(約4リットル)の燃焼にかかわる社会的コストは、タバコ1箱の社会的コストと比べて、はたして多いのだろうか、少ないのだろうか。 「残念なことに、2001年の同時多発テロ事件以来、世界中の政治主導者やマスメディアの関心は、テロリズム、そして最近ではイラク侵攻の問題に集中している」とブラウン氏は語る。「テロリズムは確かに懸念すべき問題です。しかしテロリスト、オサマ・ビン・ラディン一派は、人類の未来を破滅に導きつつある現在の環境問題の動向からうまく私たちの関心をそらせたあげく、取り返しのつかないほど環境が破壊されてしまうとすれば、自らも思いもよらなかった方法で彼らは、当初の目的を達することになるだろう」 バブル経済を縮小させる鍵のひとつは、安全保障の定義を見直すことである。つまり、将来予想される軍事的な脅威が、地下水位の低下や気温上昇といった環境的な脅威に取って代わられてきていることを認識することである。脅威の定義を見直すということは、優先順位を見直すことであり、軍隊に費やしている資源を、人口や気候の安定化へ移すことである。残念ながら、米国はあたかも私たちの将来を決定付ける、新しい脅威への何らかの対処法だと考えているかのように、史上最強の軍隊に対して重点的に投資を続けている。 米国の国防予算3,430億ドルは、同盟諸国や他国の国防予算を圧倒している。米国の同盟諸国の年間国防予算は2,050億ドルであり、ロシアは600億ドル、中国は420億ドル、そして、イランとイラク及び北朝鮮を合わせて120億ドルである。元米海軍少将の故 ユージーン・キャロルは「45年間にわたった冷戦で、私たちはソ連と軍事拡大競争を行った。だが今や、その競争相手が私たち自身であるかのようだ」と鋭い指摘をしていた。 今日の世界が直面している緊急事態は、少なくとも、1940年初頭に米国が軍事動員した時の状況に匹敵するほど重大である。その時には、当時年間300万台という世界で最も強大な製造能力をもった自動車産業でも転換が起きた。自動車の生産が打ち切られ、戦車や装甲兵員輸送車、さらには航空機の製造へと切り替えられたのである。 今日、世界全体に及ぶリスクはさらに高まっている。自然資本を過剰消費することで成り立っていた古代文明の考古学的遺跡から、私たちが学ぶべきことはたくさんある。 「技術の進歩と富の蓄積により、私たちは新たな世界、今よりももっと安定した安全な世界を築くことができる。将来世代の可能性を損なうことなく、より満足感のある恵まれた生活を送れるのだ」ブラウン氏は語り、最後にこう締めくくった。「私たちの世代は、これまで通りのライフスタイルを維持して、はじけるまで膨張を続けるバブル経済を世界中で推し進めることもできる。あるいは、人口を安定させ、貧困を解消し、気候を安定化させる世代にもなれる。どちらが選択されたかを後に記録するのは歴史家だが、いま選択をするのは私たちの仕事なのだ」
 

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