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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年06月12日

移動と運動、一石二鳥―自転車の復権:
2000年に1億台を超えた自転車販売台数

 
レスター・R・ブラウン 2000年に世界の自転車生産台数は1億100万台に達した。同じ年に生産された自動車台数4,100万台の2倍以上である。自転車の販売が伸びているのは、数十億の人々に手ごろな移動手段を提供し、健康を増進し、交通渋滞を緩和し、大気を汚染せず、気候変動を招く二酸化炭素を排出しないなどの理由である。 50年前には多くの人が、自動車の生産台数があっという間に自転車を超えるだろうと考えていた。実際に、1965年までは、第二次世界大戦以降急速に伸びていた自動車生産は、今にも自転車生産に追いつきそうな勢いだった。しかし、そうはならなかった。環境問題への関心が高まったため、自動車の生産が伸び悩み、自転車の生産が勢いづいた。1969年から最初のアースデーがおこなわれた1970年にかけて、自転車の販売台数は2,500万から3,600万に急増したのである。 1970年代には、第1回アースデー後間もなく、2度のオイルショックが起き、移動を石油に頼っていてはリスクがある危ないことが浮き彫りになった。1973年から1983年の間に、自動車の販売台数は3,000万台前後で伸び悩んだが、一方、自転車の販売台数は5,200万台から7,400万台へ跳ね上がった。
http://www.earth-policy.org/Updates/Update13_data.htm 自転車の最大の魅力は価格が安いことだ。自動車を買うには自転車の値段の100倍以上を払わなくてはならないが、自転車だったら車には手が届かない数十億人の人々でも移動手段を手に入れることができる。その万人向けの手頃さから、1990年代には9億6,000万もの人々が自転車を購入した。それに対し、自動車購入者は3億7,000万人であった。 自転車を使うようにすれば、舗装しなくてはならない土地の面積も少なくてすむ。自動車1台が使用する道路の面積があれば、通常、自転車なら6台通ることができる。駐車する際の利点はさらに大きい。自動車1台分の駐車スペースに20台の自転車が駐輪できるのだ。 世界中で自動車が増加し、人々が都市に押し寄せるようになると、交通渋滞はかつてないほどに悪化し、都市特有の自動車問題が生じてきた。今日、ロンドン市内での自動車の平均速度は、100年前の荷馬車の速度とほぼ同じである。バンコクのマイカー利用者は、1年間のうち平均44日分の勤務時間に相当する時間を、動かない車の中で座って過ごしている。ある一線を越えると、車が増えるほど、移動性は減少してしまうのだ。自転車のもう1つの魅力は、毎年300万人の命を奪う大気汚染に寄与していないことである。 ここ数十年の間に、人口が密集する北欧の国々では、交通渋滞を緩和し、大気汚染を改善する策として自転車が注目されるようになった。世界の中でももっとも豊かな都市に数えられるストックホルムでは、ここ数年自動車の利用が減っている。それは、電車やバス路線に歩道や自転車用通路をつなげる動きが進んでいるためである。スウェーデンの都市部では、移動の約10%に自転車が利用されており、公共交通機関の利用率とほぼ同じである。移動の約40%が徒歩で、自動車利用は36%にしかすぎない。 オランダには、自転車が移動手段の50%を占めている都市もある。オランダやドイツでは、農村部と都市部をつなぐ自転車専用の道路や車線が広がっており、オランダでは約19,000km、ドイツでは31,000km以上にも及ぶ。こうしたネットワークによって、自転車利用者は専用の道を確保できるため、自動車やトラックを気にすることなく安全に移動できる。 コペンハーゲンでは、人口の3分の1が自転車で通勤している。コペンハーゲンの画期的な「自転車都市計画」では、市内で無料利用できる自転車を2005年までに3,000台提供する予定だ。市内での自転車利用は増え続けると予測されているが、それは以下のような理由があるからだ。都市計画当局がただでさえ高い自動車の駐車料金を今後15年間で毎年3%引き上げ、高い燃料税と車両登録料を課金し、今後は専ら鉄道網を開発する方針なのである。 米国の多くの都市では、自動車では得られない機動性を自転車が実現している。現在、全都市の5分の4以上の警察には自転車警官隊が存在している。自転車に載って駆けつければ、たいていはパトロールカーよりも早く犯行現場に到着できるため、1日の逮捕件数は5割方増えている。財政に神経をとがらせている市政当局にとって、自転車1台あたりのコストの低さと、その自転車を利用することで警官が上げる成果の高さは魅力的な組み合わせだ。 現在、都会の自転車による宅配便が大都市で普及している。インターネット上で取引を行う会社にとって、迅速な配達をおこなうことがより多くの顧客獲得につながる。このような現状から、ニューヨークのような大都市では莫大な自転車便の利用が見込まれ、およそ300の自転車便会社が年商7億ドルのビジネスを巡ってしのぎを削っている。 また、土地不足も世界を自転車社会へと導く要因である。特に人口が密集し、世界人口の半数が居住しているアジアでその傾向が強い。人口密度が高く、暮らしが豊かな日本では、自転車は重要な役割を担っている。東京では働く人の90%が電車で通勤しているが、そのうち30%が最寄りの駅まで自転車を利用している。 1994年、中国政府は自動車中心型の交通システムを整備する方針を打ち出した。するとすかさず、著名な科学者グループがその政策を疑問視する見解を示した。科学者たちは報告書をまとめ、その中で政府の計画がうまくいかない理由を示した。最初に指摘したのは、中国には、自動車に必要な車道や高速道路、駐車場を建設し、かつ全国民の食料を生産するだけの土地がない、という点である。従って、自動車ではなく、鉄道や自転車を軸とした交通システムを整えるべきだと、科学者らは主張した。 北京や上海など中国の主要都市では自動車が優先され、自転車の使用は制限されている。だが、中国全体で自転車保有台数は増加の一途をたどっている。自動車保有台数が100万規模なのに対し、自転車保有台数は1億規模に達している。 自転車は、商品を運ぶにも便利だ。アフリカの農村部では、女性たちが自転車で農作物を市場まで運んでいる。その結果、市場は拡大し、農作物の生産高も増えている。ガーナでは、エイズ(HIV/AIDS)の予防教育に取り組む人たちが自転車を利用している。そのおかげで徒歩で動くより50%も多くの人に手を差し伸べることができている。 何十年間にもわたり、米国の交通システム計画の視野には、自転車は入っていなかった。政府の予算は、高速道路の建設ばかりに投入されていた。こうした事態が変化し始めたのは1991年である。その年、交通システムの整備にあたって自転車の役割を見直し、各州が「自転車コーディネーター」を1名配置するという画期的な法案が議会で可決された。その後1992年から1997年にかけて、10億ドル以上の政府資金が自転車のインフラ整備に投じられた。これにより、ニュージャージー州では、州全体に800マイル(約1,287km)に及ぶ自転車専用道路が建設された。 こうした政府の取り組みにより、米国における自転車の販売台数は、1991年の1,500万台から、2000年には2,100万台に伸びた。1998年、クリントン大統領は「21世紀交通最適化法」に署名し、交通システム計画に自転車が組み込まれるようになった。 先進国では、自転車はよい運動になるとして人気を博している。現在、米国、ロシア、ドイツ、イギリスなどでは成人の半数以上が太りすぎとされ、肥満は世界的に重要な公衆衛生上の課題となっている。米国では、肥満が原因の死亡者数は年間30万人で、喫煙による死亡者数の42万人に迫る。 このように、世界の交通システムにおける自転車の役割は増している。自転車は低コストの移動手段であるばかりか、都市では自動車より小回りがきく。簡単に移動でき、運動になる。大気を汚さず、気候変動を招くことはない。しかも土地の効率的利用につながる。自転車は、今後欠かせない移動手段として見直されているのである。
 

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