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「世界標準、大崎」へ リサイクル日本一のまち・大崎町

2023年03月28日
「世界標準、大崎」へ リサイクル日本一のまち・大崎町

Image photo by craftbeermania.

https://www.photo-ac.com/main/detail/26154725

幸せ経済社会研究所から世界に発信したニュースレター(2023年2月号)の日本語版をご紹介します。

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~


「世界標準、大崎」へ リサイクル日本一のまち・大崎町

鹿児島県の大隅半島の東部に位置する大崎町は、人口12,342人(2023年2月1日現在)、志布志湾に面し、農業生産額が全国上位にランキングする農作物を中心とした自然豊かなまちです。

この大崎町のごみのリサイクル率は、全国平均約20%に対し、83.1%(2020年度)。日本一を14回達成しています。2019年にSDGs未来都市に選定され、ほかにもさまざまな賞を受賞しています。なぜ大崎町はこれほど高いリサイクル率を達成できているのでしょうか。その仕組みとリサイクル日本一の町の強みを活かした地域課題解決につながる取り組みをご紹介します。

○大崎町のSDGsの原点はゴミ問題

大崎町にはごみの焼却施設がありません。これまですべてのゴミは「埋め立てる」という方法で対応してきましたが、埋立処分場の残余年数がひっ迫し、このままでは処分場が満杯になってしまうという問題に直面したのが1998年でした。

当時、解決策として3つの案がありました。1番目は焼却施設の建設、2番目は新たな埋立処分場の建設、3番目が現在ある埋立処分場の延命でした。一番簡単な方法は補助金などを使って、焼却施設を作る方法です。しかし、大崎町の税収が年間約15億円に対し、焼却施設のランニングコストは3億円かかることが見込まれ、運営的に難しいことがわかりました。2番目の新たな処分場の建設は、住民の反対が多く出ました。そこで、ゴミを分別することによって、埋めるゴミそのものを削減し、現在ある埋め立て処分場を延命するという3番目の取り組みが進められることになりました。

○大崎リサイクルシステムとは

大崎町のごみの分別は現在27分類です。「これはひとりひとりの住民とリサイクルセンターや収集業を担う企業、そして行政、この3つの主体が、協働・連携しないと成り立ちません」と鹿児島県大崎町の中野伸一(なかのしんいち)企画調整課長は話します。

住民はまず家庭や事業所で分別を行います。生ごみは週3回、回収場所へ持ち込み、そのほかのゴミは、月1回、コンテナ回収を行うステーションへ持っていきます。リサイクルセンターは行政の委託によってゴミを回収し、ごみの検査を行います。検査を通過したゴミは、各商品として「出荷」されます。ゴミは「資源」という考え方により、ここでは「処理」ではなく「出荷」と表現されています。

行政の役割で一番重要なのが住民の皆さんへの説明です。25年前、分別の開始をするときには、約150の地域で約450回の説明会を行いました。現在も年1回、地域リーダーへの研修会を行っています。

行政が説明会を開催すると、通常は「何月何日に説明会をやるので、ここに来てください」というパターンが多いですが、大崎町の場合、「実際に家庭でゴミを分けている方が参加してくれる日時を各地域で設定してください」とお願いし、職員がその日に行くという方法で説明会を何度も開催しました。

廃棄物の問題は、基本的には行政の問題でもあり、住民も最初は当事者意識がありませんでした。ただ、もしかしたらあなたの隣に埋立処分場ができるかもしれない、という危機感と、徹底した情報開示を行うことで、行政対住民という対立構造ではなく、行政も一住民の当事者として、この問題に立ち向かうことをめざしました。3カ月間、全職員が徹底的に地域と向かい合った結果、住民が住民を説得するような光景も見られるようになり、お互い当事者としてこの問題に取り組む連帯感が生まれたそうです。


○「混ぜればゴミ、分ければ資源」から生まれたもの

大崎町の品目別の割合として多いのは、生ごみの24.5%、草木剪定の木くずの39.4%です。この二つを合計した約64%が、現在たい肥化されています。住民の皆さんがごみを分別し、リサイクルすることで、当初埋めるごみだったものが、資源ごみになったのです。分別開始当時の1998年から比較すると、現在では約84%の埋立ゴミを削減することができています。

1人当たりのごみ処理事業経費も、全国平均が16,800円に対し、大崎町は11,500円と低く抑えられています。この差額を町の人口で掛けると、約7,000万円が節約できていることになり、そこで得られた利益は福祉や教育といった他の分野に使うことで、財政的に大きな効果が得られています。近隣自治体もあわせて約10万人分の資源ごみを取り扱っている町内のリサイクルセンターでは、約40人の雇用も生まれています。

分別された資源ごみは素材ごとにリサイクルされますが、その一部は有償で売却されるものがあります。分別を始めてから現在まで、売却益の合計は約1億5千万円になりました。2018年にはこの売却益金の一部を活用した「リサイクル未来創生奨学ローン」を開始。経済的な理由で大学に行けない人に月5万円の奨学金を送る制度を作りました。また、町内だけしか使えない商品券を作り、赤ちゃんからお年寄りまで、全住民に一人1万円分の商品券を毎年還元し、地域経済の循環をはかっています。

さらに、2012年からは、JICAを通じてインドネシアのデポック市やバリ州のデンパサール市において、住民参加型の資源循環型のまちづくり技術支援事業を行っています。大崎町が創り出したリサイクルのシステムを伝えることによって、大崎町と同じく焼却施設が少ないインドネシアの首都ジャカルタでは、リサイクルセンターが設立されました。大崎町の低コストで持続可能な資源循環型の廃棄物処理システムがアジアを中心に展開されています。

○増え続ける地域課題への挑戦

全国で進む人口減少問題。大崎町も2030年には人口1万人を割ると予想されており、町としての持続可能性が大きな課題になっています。

医療費増加、空き家増加、担い手不足、教育費の負担といった増え続ける課題に対し、職員不足、財源予算の減少などによって、外部からは評価を受けていても、それが住民の満足度向上につながっていないことが問題となっていました。低い当事者意識と高い依存心、不平不満や不信感。同じ課題を共有している仲間なのに、なぜ争うのか。これらの原因は、「情報、知識、人材」不足による議論の不足ではないか、と町では考えました。

その解決策の一つとして町職員自身のレベルをアップすること、二つ目に外部からの情報、知識、人材の登用が行われています。

大崎町は、リサイクルの収益を活用し、鹿児島相互信用金庫と慶應義塾大学SFC研究所とで、地方創生や地域おこし、社会イノベーションを担う人材の育成と交流に関する目的で「大崎町リサイクル未来創生プログラムの共同開発に関する連携協定」を締結。慶応義塾大学の大学院修士課程へ町費で職員も派遣しました。

これにより、外部からの情報や知識の交流が生まれ、大崎町の取り組みをSDGsの視点から再定義することも実現しました。それらはジャパンSDGsアワードをはじめ、さまざまな賞の受賞にもつながっています。外からの大きな評価を受けたことで住民たちのモチベーションがあがり、誇りにもつながる好循環が生まれています。

○大崎町が掲げるサーキュラービレッジ構想

大崎町では、大崎システムをもとに、人口1万人規模で循環する社会を全国につくりたい、地域で応用可能な循環型地域経営のモデルを確立したいと考えています。そのためにはリサイクルや産業の担い手、多文化共生社会に対応した課題解決として、国際化や地域内外と連携した人材の育成がかかせません。

そのため、政府の都市部から地方へ専門の知見をもった人を派遣する「地域おこし企業人プログラム」を活用して外部人材を招聘し、民間と銀行と行政で社団法人を設立。企業と行政のあいだに立って活動してくれる組織をつくりました。また、Yahoo!Japanを通じて、日本初となる「カーボンニュートラル」をテーマにした企業版ふるさと納税(国が認定した地方公共団体の地方創生の取り組みに対し、企業が寄付を行った場合に、法人関係税から税額控除するもの)の寄付先に大崎町が選定され、2021年度には約3億5千万円の企業版ふるさと納税を得ることができました。

この企業版ふるさと納税を活用し、2024年までの第1期として、約10億円をかけた資源循環型のモデル都市(サーキュラービレッジ)整備事業を実施。大崎町が実施する実証実験に、企業から積極的に人材派遣を要請し、企業と地域が一体となって社会課題解決に向けた事業を進めています。

具体的には、紙おむつのリサイクルについて、メーカーであるユニ・チャームや近隣市と一緒に検討を進めています。現在大崎町で埋め立てられているゴミの3分の1が紙おむつであり、もし紙おむつがリサイクルできれば、大崎町の埋め立て処分場の延命にもつながります。

製品が原料から製造され、流通、消費、リサイクルされるサーキュラー・エコノミー(循環経済)を意識したとき、消費とリサイクルのための分別は大崎町でできますが、さらなる環境負荷の低減には外との連携が欠かせません。

町の埋立処分場の寿命は残り40年。40年後に生きている人のことを考え、大崎町の外にもリサイクルシステムを広げること、そしてゴミ問題の川上にあたる企業と一緒になって循環の仕組みをつくること、この両輪で持続可能な世界標準のまちを「みんなで」創っていきたいと考えています。

 

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