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IPCC第6次評価報告の解説と生物多様性の現状~科学的見地からの報告と解決策に向けて

2021年11月15日
IPCC第6次評価報告の解説と生物多様性の現状~科学的見地からの報告と解決策に向けて

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が、「グラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)」を採択し、閉幕しました。

 「グラスゴー気候協定」には、パリ協定が目指す「産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える」努力の追求が明記されたものの、石炭使用をめぐって対立がつづき、当初「段階的な廃止」とされるはずだった表現が「段階的な削減」と弱められてしまいました。

政治の場での駆け引きは今後も続くでしょうが、温暖化対策はまったなし!です。「温暖化対策」というと、「省エネ・再エネ」と浮かぶ方も多いと思いますが、ほかにもたくさんの解決策があります。エネルギー対策と並行して、それらをどんどん進めていくことが大事です。

 ではどんな解決策があるのか? それらはどれぐらいの効果が見込まれる対策なのか? 科学的な分析に裏打ちされた「地球温暖化を逆転させる100の方法」とは?

 今週水曜日17日の18:30~20:30に開催する幸せ研の読書会では、世界的に著名な環境活動家・起業家のポール・ホーケン氏の『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』を取り上げます。

 エネルギー分野はお馴染みですが、「え、これがどう気候変動対策につながるの?」というものもいっぱい。もちろんブルーカーボンも出てきます。

 私がとりわけ気に入っているのは最終章、20の「今後注目の解決策」。近未来の解決策だけど、読んでいるだけでわくわくします! 読書会で一緒にわくわくしませんか?

https://www.ishes.org/news/2021/inws_id002968.html

 11月3日に設立記念シンポジウムを開催したブルーカーボンネットワークのWebサイトが立ち上がりました! いろいろな方からお寄せいただいた応援メッセージもお読みいただけます(これからもゾクゾクとアップの予定です)

https://bluecarbon.jp/

 こちらで、熱海での実験や、各地の取り組みなどいろいろと情報を発信していきたいと思っています。また、活動を支えて下さる個人サポーター会員と、企業等の賛助サポーター会員の募集も始めました。年4回のニュースレターで新たな動きを知りつつ、ブルーカーボンの取り組みが広がるよう、ぜひ仲間になっていただけたらうれしいです。

https://bluecarbon.jp/network.html#member

 また、ブルーカーボンネットワーク設立記念シンポジウムの動画もご覧いただけます。ブルーカーボンとは? どんな取り組みがあるの? ブルーカーボンクレジットとは?――ご興味のある方、ぜひご覧下さい。

https://mirai-sozo.work/topics/011184.html

 この取り組みを進めていくために、先日ご協力をお願いしました、ブルーカーボンネットワーク立ち上げに向けてのクラウドファンディング、おかげさまで目標額の30%を超えました。しっかり活動していくために、もうちょっとがんばって資金を集めたいと願っています。ぜひご支援・拡散に力を貸していただけたらありがたいです。よろしくお願いします。

 ★★【豊かな海を取り戻す】温暖化を止めるブルーカーボンの取り組みを熱海から広げたい!★★

https://camp-fire.jp/projects/view/514844

 

さて、今回のCOP26の議論の土台の1つとなったのが8月9日に発表されたIPCCの第6次評価報告書(第1作業部会)です。先日、私たちが主宰する異業種勉強会で、国立環境研究所の江守さんをお招きして、このIPCC第6次評価報告の解説をしていただきました。

 加えて、気候変動と生物多様性の関連に注目が集まっていることから、そのあたりの最新のお話もしていただきました。内容をお伝えします。

 ~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

『IPCC第6次評価報告の解説と生物多様性の現状~科学的見地からの報告と解決策に向けて』

国立環境研究所
地球システム領域 副領域長/連携推進部社会対話・協働推進室長  
江守 正多さま

今日はIPCCの新しい報告書の話と、IPCCとIPBESの合同ワークショップの報告書の話をする。IPCCの第6次評価報告書第1作業部会が8月9日に発表になり、私は前回の第5次報告書と今回の報告書の執筆に関わっている。

【IPCCについて】

IPCCは「気候変動に関する政府間パネル」で科学者の集まりだと言われるが、「政府間パネル」の名のとおり、主体は各国政府にある。各国政府がCOPなどの気候変動の国際交渉する際に科学的認識を揃えるための役割がある。
各国政府が政府報告書の作り方を決めてから科学者が集められて、執筆者チームに組織され、4年ほどかけて作成された報告書案を各国政府が審議して承認する流れである。

【IPCC報告書はなぜ信用できるか】

今回66か国から200人以上の専門家が集まり、14,000本の論文を引用して執筆している。
IPCC自体は研究を行わず、世界中の専門家がそれぞれに研究して出版した膨大な学術論文に基づいて全体として何が言えるのか、知見の評価をする。
3回にわたる査読があり、世界中の専門家や政府の代表から送られてきた78,000にものぼるレビューやコメントの一つ一つに対し、執筆者とは別に任命された各章のレビュー・エディター(査読編集者)が、すべてのコメントへの対応が適切に行われているかチェックし、責任を持って署名を行う。そして最後にすべてのコメントと、その対応方針の一覧が、ネット上に公開される。

IPCCは何か偉い組織だから信用できるのではなく、このように報告書の作成プロセスに信頼性を確保するための様々な工夫が施され、しかも透明性が高いものになっているからこそ、特別な信頼性がある。

【20世紀後半以降の温暖化の主な原因は人間活動である可能性が・・・】

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それでは中身に入っていく。

人間活動がどれくらい温暖化に影響しているのかについて過去から振り返る。2001年発行の第3次報告書から人間活動が温暖化の主な原因について書かれている。第3次報告書では「可能性が高い(>66%以上の可能性)」、2007年の第4次報告書では「非常に高い(>90%の可能性)」、2013年の第5次報告書では「可能性が極めて高い(>95%)」、そして今回は確率的な表現がなくなり、人間の影響が気候システムを温暖化させてきたのは「疑う余地が無い(unequivocal)」と断定した。

精緻になった理由は、実際の気温上昇が続いていることに加え、複数の観測データ(気温のほか、海洋の温度上昇、雪氷の減少など)の精度が上がり、シミュレーションも改良され、プロセスの理解も深まったためだ。


【20世紀後半以降の温暖化の主な原因は人間活動である可能性が・・・】

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その根拠の一つは世界平均気温の変化にある。産業革命前の気温が1850年から1900年までの気温に近いためここを基準期間に変化を見てみる。

黒の実線が観測値。ここ数十年は、ほぼ直線的に上がっている。オレンジ色と緑色がシミュレーションの結果で、物理法則をコンピュータで解いて地球の温度を計算したもの。
オレンジは、「自然の要因」と「人為的な人間活動による要因」両方のデータをインプットして計算し、観測値と近い上がり方をすることを示している。

「人為要因」とは、人間が温室効果ガスを排出して大気中に増えたことと、大気汚染物資を排出したことによるもの。
「自然の要因」は、太陽活動の変動と火山の噴火のこと。その両方を足すと、オレンジの色のシミュレーションになる。

一方で、緑色は「自然の要因」のみのシミュレーション。人間活動による影響がなく、太陽と火山の影響だけで地球の気温が変化した場合の計算結果を示している。
これを見るとオレンジ色でないと観測値の説明がつかないことがよく分かる。

今回、この基準期間(1850年~1900年)と比較して、2010年~2019年の地球の実際の気温上昇は1.06℃。そのうちの人間活動の寄与が1.07℃と評価されている。つまり、誤差の範囲で100%、人間活動の影響と評価されたことが示された。

【西暦1年からの世界平均気温変化】

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このグラフは1850年~1900年を基準とした、西暦1年から2020年までの世界平均気温(10年平均)の変化を表す。昔は温度計で気温を計っていないため、樹の年輪やサンゴの骨格、気温の指標となる代替的なデータを集めて推定した。1850年~2020年の黒の実線は観測値。ここから言えることは、最近の気温上昇が過去数千年において前例がないということを示している。

300年くらい前に少し下がるところがあるものの、ここから急に上がる理由は人間活動以外ありえない。過去の自然の条件では起こりえなかったことが確かめられている。
第3次報告書(2001年)あたりから、このように気温がほとんど横に真っ直ぐにきたものが、最近急に縦に上がっているかたちをホッケースティックと呼ばれていて、政策決定者向けの要約(ハイレベルな要約)の最初にこのグラフが載った。このグラフが掲載されたことで、多くの人が「最近の温暖化はなにか特別だ」と思っていたが、同時に「過去にもっと変動が大きかったはずなのに、このグラフはおかしい」という批判も当時はかなりでていた。しかし、その後の研究でも同じような結果がでたため、今回の第6次報告書で決定的になったと思ってもらえば良い。

過去のデータもより精緻になり、誤差幅が少なくなったため、今起きている高温は、過去地球規模で自然には起きていないことが結論付けられている。つまり、一時は疑問視されたホッケースティック曲線が20年の時を経て、今回のIPCC第6次報告書の最初のグラフとして戻ってきたと言える。


【観測された極端な高温の地域ごとの評価】

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今回の報告書でもう一つ注目されているのが、「極端現象」である。日本ではよく「異常気象」と言葉を聞くが、「異常気象」とは気象庁の定義では「30年に一度よりもまれな現象」という意味である。「極端現象」は特に頻度は指定せず、まれな現象のことを一般的に言う。
以前も言われていた極端な高温、極端な大雨、極端な干ばつなどの現象が実際に過去のデータとして増えていることが、さらにはっきりと言われるようになった。

この図は六角形で表現した世界地図で、赤色がついている部分が極端な高温が増えていると考えられている地域で、世界のほとんどで増加していることがわかる。また、六角形の中に点が3つ打ってあるのは、人間活動が影響している確信度が高いところ。世界のほとんどの地域で極端な高温が増えていて、人間活動の影響があると評価された。

降水についても同様の図があるが、変動が大きくなっている。人間活動の確信度はそこまで大きくないものの、温暖化が仮にしていなかったと考えると、今ほどの大雨というのは起きていないはずである。温暖化している分だけ、水蒸気が増えて、その分雨の降る量が一回毎に増えて、記録的な大雨が増える。このメカニズムを考えれば、降水についても人間活動の影響があると言える。


【平衡気候感度の評価の変遷】
「気候感度が低いかも」はもう通用しない

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平衡気候感度という指標がある。これはひと言で言うと、将来の気温の上昇の予測の精度が上がったということを示すグラフ。大気中のCO2濃度が仮に産業革命以前の水準の2倍に固定したとき、時間が経つと地球の平均気温が何度上昇するかという指標のことで、CO2増加に対する地球の温度の上がりやすさを示す。実はこの平衡気候感度というパラメータは40年前くらいから推定が始まったが、なかなか精度を高めることはできなかった。1.5℃から4.5℃上昇する可能性が高いという評価になり、3℃の推定幅を縮められずにいた。

地球の温度の上がりやすさの推定は非常に難しいもので、なぜかと言えば、温暖化が進むと雲がどう変化するのか。温暖化を増幅させるか、抑制するのか、そこが分からないことにある。
ただ、今回のAR6では過去の温度変化、気候モデルから得られた証拠など様々な研究を組み合わせて幅を絞り込んでいくという手法が確立し、2.6℃から4.1℃(推定幅1.5℃)の範囲にある可能性が高く、3℃が最も確からしいという評価を導き出した。
これまでは「地球の温度は上がりにくい可能性があるなら対策しなくてもよい」という声もあったが、そうした「気候感度が低いかも」という論法はもう通用しない。今回の報告書での平衡気候感度の最低ラインが1.5℃から2.6℃に上がったことを示したことは、CO2削減の重要性を訴える政策的にも非常に大きな意義がある。


【CO2排出シナリオ】

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今回5つのシナリオが使われた。グラフは、世界全体のCO2排出量が2100年までにどう変化するかを表したもの。CO2以外ではメタン含め全てのシナリオがあるが、5種類に設定されている。

  • 非常に低い(1.5℃を目指す):排出量が減り続け、2050年頃にゼロになり、さらにマイナスになっていくシナリオ。
  • 低い(2℃を目指す):今世紀の後半にゼロになり、それから少しマイナスになるシナリオ。
  • 中間:今世紀末になっても世界全体でみても脱炭素していない世界のシナリオ。今回の報告書ではどれが現実的シナリオかは明示していないが、「中間」が現実世界の経路ではないか、あるいはもう少し悪いかもしれないと言われている。
    つまり、パリ協定では世界は「低い」、「非常に低い」を目指しているものの、まだそれには乗れていない、そのペースでは現実には削減が進んでいないということ。各国が現時点で宣言している対策目標、あるいはすでに実施している政策に対応するのはおよそ「中間」のものだろう。対策が深掘りされずにずるずるといくと、この「中間」結果になるだろうと言われている。
  • 高い:より対策が後退したシナリオ
  • 非常に高い:最悪のケース

【世界平均気温の変化】

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それぞれのシナリオで進むと気温がどう変化するのか表しているグラフ。

  • 非常に低い:だいたい1.5℃前後で温暖化が止まる。
  • 低い:2℃より少し低いぐらいが最良予測になる。
  • 中間:2℃を超えて3℃近くまで温度が上がってしまう。よく言われていることとおよそ合っている。
  • さらに対策が後退する「高い」:4℃まで、最悪の「非常に高い」場合は5度近くまでになる。

今回ひとつ強調されたのは、2030年前後を見ると、2021年から40年までの平均が1.5℃を超えてしまう可能性が五分五分以上あること。高いシナリオだと可能性が高く、一番低いシナリオでもおよそ5割の可能性で、1.5℃に到達する。

ただそうなると、1.5℃を超えてしまう将来を受け入れるしかないと思われるかもしれないが、それでも「非常に低い」シナリオが進めば1.5℃前後でこの先止まっていくことになる。1.5℃を超えた途端に世界が終わるわけではない。引き続き脱炭素に取り組むことには何ら変わりない。

【気温変化の地理的パターン】

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気温変化の地理的パターンは昔から言われていることとだいたい変わりがない。北極の近くは温度上昇が大きい。1.5℃温暖化した時、2℃温暖化した時、4℃温暖化した時で、だいたい同じパターンで全体が増幅されていくと、定数をかけたような感じで進むことがわかる。

【50年に一度の暑い日】

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温暖化が進むと極端現象が増えることをお話してきた。「50年に一度の暑い日」を見てみると、産業革命前に50年に1度しか起きなかったようなまれな高温日が、1℃温暖化した現在の世界では、4.8倍起きている。つまり、50年に一度のまれな暑さだったのが、今は10年に一度ぐらいの頻度で起きている。これが世界平均気温1.5℃まで上昇すると8.6倍、2℃まで上昇すると13.9倍にどんどん増えていく。仮に4℃まで上昇すると39.2倍になり、ほぼ毎年起きると想定されている。

【降水量変化の地理的パターン】

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この図の緑色では降水量が増え、茶色の部分は降水量が減るところ。この中高緯度のところでは、移動性低気圧が通るので温暖化で雨が増え、熱帯の湿潤域でも増え、一方で亜熱帯、地中海沿岸とか熱帯の陸上の一部では減ると予測されている。これも1.5℃、2℃、4℃では、だいたい同じようなパターンで強くなっていくと予想されている。雨が減るところは当然干ばつが増えてくる。しかし、雨が減っていなくとも蒸発が増えるので、地面が乾きやすくなり、干ばつが増える地域もかなりあることが今回はっきりと書かれている。

【世界平均海面水位の変化】

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世界平均の海面水位がなぜ上がるのか。

一つの原因は海水の熱膨張で、もう一つ原因は陸上の氷が減って、海水が増えることにある。

現時点ですでに世界平均の海面水位は産業革命前に比べて20cm位まで上昇している。これがさらに上がり、1.5℃を目指した場合でも50cm位まで今世紀末に上がると考えられている。1.5℃を目指した場合は今世紀末には気温上昇はもう止まっているが、海面上昇は止まらず続いてしまうという点に注意しなくてはならない。

海は表面から温められて、海水が混ざることで熱がだんだん深いところに伝わり、深いところの海水がじわじわと温まって膨張する。表面が温められるのを止めたとしても、深いところに伝わった熱による海水の膨張は止められず、これからもずっと続いていくため、海面上昇はなかなか止まらない。氷ももしかしたら溶け続けるかもしれない。

非常に高いシナリオで進んだ場合は今世紀末で約1メートル上昇するという見通しがあるが、さらに上昇するシナリオもある。「非常に高い」シナリオで進む場合で、かつ南極の氷が不安定化して崩壊を始めることが起きた場合、これは科学的には本当に起きるかどうか分からないが、もしそれが起きた場合はもっと上がる。今世紀末で1.7、8メートル上がる。しかも海面上昇はこれから続いていくので、これで終わりではない。

2100年で終わりではなく、数百年から数千年海面上昇が続くと言われている。例えば2300年、低いシナリオで進んだ場合で2℃を目指した場合でも、0.5メートルから3メートル上がり、非常に高いシナリオの場合は2m~7mと言われている。

さらにこの場合で南極の不安定化がもし起きた場合は、2300年には15m上がる恐れがあり、その可能性が排除できないとある。海面上昇は実はまだ始まったばかりで、これからずっと続くという認識が必要だ。


【CO2累積排出量と気温上昇の関係】

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CO2累積排出量と気温上昇の関係は大体比例する関係がわかってきた(グラフ)。横軸は累積排出量で、人間活動で排出してきた量を過去から積算した値。縦軸は世界平均の気温上昇量。大体直線になる。ただ将来幅があり、ピタッとは決まらない。傾きに不確かさがあることも少し見ておいてほしい。

【CO2排出シナリオ(GtCO2/年)】

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気温上昇量はCO2の累積排出量にほぼ比例している。ということは、ある温度で温暖化を止めようとすると、そこまでに人間活動で排出をしてよい全体のCO2量が決まってしまう、これがカーボンバジェット(炭素予算)と呼ばれていて、有限の資源のようにみなすことができる。前回の報告書あたりから強調して言われるようになってきた。予算を使い尽くしたときはこのグラフのような温度になることが予想されている。

累積排出量をこのシナリオのグラフでは、青の面積で表している。カーボンバジェットがどれくらいかは報告書に表が載っている。傾きに幅があるため確率的な表現にはなるが、例にある、「50%の確率で1.5℃に留まるには500GtCO2(しか出せない)」というのは、500 GtCO2を出したところで1.5℃に達することを意味している。

現在の世界のCO2排出量は40 GtCO2/年なので、500 GtCO2で言えば、12年と少しで1.5℃に達する。面積が正方形ならば10年と少し、三角形ならば倍の期間。この見積もりも精緻になっているが、CO2以外のメタンなどの量をどれくらい出すかでも変わるので、目安として考えてほしい。

【科学は精緻になった やるべきことは変わらない】

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最後に、今回の第6次報告書について全体的に言えることは、「科学は精緻になり、より強い説得力を持って報告をしている」ことにある。2018年の特別報告書で指摘された「1.5℃を目指すのであれば2050年頃にCO2の排出を実質ゼロにしなければならない」ということと変わりはないが、今回の報告書になり、より一つ一つの結論がクリアになり、はっきりとしたイメージを報告書全体で結ぶようになっている。

今後、WGII(2022年2月) 影響・適応・脆弱性、WGIII(2022年3月)緩和策、統合報告書(2022年9月)が出てくるので、順次それらに何が書かれていくのかそれを見ながら政策的な議論になるので、しっかりと追っていきたい。


<2. IPBES-IPCC 合同ワークショップ報告書>

注)以降の説明は、IPBESに関わっている千葉大学の市井教授からスライドをお借りして話をする。

IPBES-IPCC 合同ワークショップは初めての試み。アセスメントレポートほどかっちりしたものではないが、既存の学術論文レビューとまとめ報告をした。

【ワークショップの目的としてはお互いの知見の統合】

  • 将来の気候変動が生物多様性や自然に対する影響
  • 気候変動と生物多様性の間のフィードバックを把握
  • 気候変動に対する緩和・適応策→生物多様性に対する影響
  • 生物多様性保全→温室効果ガス放出への影響
  • 気候変動と生物多様性を同時に改善させる対策の評価

これまでは、生態系の保全は、生物多様性の消失・気候変動を独立に扱うことが多く、または生物多様性は外部条件として見られていた。

両面を考えることで効果を最大化し、SDGsやパリ協定、生物多様性目標のようなグローバルな目標が達成しやすくなる。パリ協定の大本は気候変動枠組み条約で、これが生物多様性条約とともに1992年に同時に採択された条約なので、両方を視野に入れて議論することの重要性が自明だったが、話し合われてこなかった。

【気候変動の対策・生物多様性の保全の両面によいもの】
4つのカテゴリがある。

1.陸、海における炭素や種を多く含む生態系の損失を止める

森林、湿地、泥炭地、草地、サバンナ, マングローブetc. 深海や沿岸域(ブルーカーボン)も含む

2.炭素や種を多く含む生態系を修復する

修復(Restoration)は、最も安価、早い、自然ベースの方法
気候変動に対するレジリアンス(回復力)を強化する
洪水に対する強度、沿岸の保護、土壌侵食の防止
Nature Based Solution、Ecosystem based Adaptationなど自然を保護することで気候変動の適応・緩和の対策になることが最近で言われるようになっている。

3.持続的な農業・林業を推進する

耕作の種の多様化
耕作地、放牧地の管理を向上(土壌保持、肥料減らす)によって、3-6 GtCO2/年の放出緩和
モノカルチャー(単一栽培)ではなく、ポリカルチャー(多様混合栽培)に。生態系のマネをして農業を進める。
樹木種の多様化。
人間活動によって放出されるCO2の値が年間40GtCO2であることを考えると、3-6 GtCO2/年は大きな数字。

4.生物多様性に悪影響を与える対策について補助金などをなくす

森林伐採、過度な施肥、過度な採取
個別の消費パターンを変化させることができることも期待できる

【気候変動の対策で、生物多様性面から避けるべきこと】
さきほどはシナジーの話だったが、今回はトレードオフの話。

  • 広い地域に、バイオエネルギー作物を(単種で)栽培することは生態系にとっては有害

1.5℃を目指すシナリオの場合、今世紀後半にはカーボンマイナスにしていかなければならない。カーボンマイナスに向けての実現方法は、バイオエネルギー用の作物からエネルギーを作り、排出されたCO2はCCSにする。大規模にやれば大気から吸収して埋めることができると言われている。しかし実行するとなると、燃料用の畑が膨大に必要になるので、農業との競合や生態系破壊にもなる。単種(モノカルチャー)は生物多様性にとっては有害になる。

  • これまで森林でなかったところに植林をする、特に外来種の単一栽培
    ×気候変動は緩和できるかもしれないが、生物多様性にとってはダメージ
    気候変動への適応に対してはメリットがない

木を植えれば解決、ではない。植林する場合は、元の生態系が修復するように再現できるような植林でないと、生物多様性にとっては悪影響がでる。CO2だけのことを考えるならば、早く育つバイオマス用の単一種をたくさん育てて、カーボンオフセットを安く提供しようという考え方になってしまい、ビジネス化することが起きる可能性がある。

  • 灌漑能力の強化:水の争いへの発展の可能性、ダムの建設、土壌の劣化
  • 狭い視点の気候変動対策は、より広い視野で評価すべき
    広い土地を利用するような再生エネルギー
    ダム、防潮堤(sea wall)

日本は3.11から固定価格買い取り制度でいろんな業者が入り、メガソーラーが広まった一方で、自然破壊や土砂崩れにつながった(今は是正される方向に向かっているのでは)
適応策として防災の観点から防災強化をしなければならない。気候変動の大雨も増えることがわかっているためハードインフラから考えると生物多様性のトレードオフを考えていく必要がある。

【気候変動緩和・適応の対策が、生物多様性に与える影響】

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出所:20210609_scientific_outcome.pdf,p130
https://ipbes.net/sites/default/files/2021-06/20210609_scientific_outcome.pdf

どちらも対策左から右への影響を表す 【青線:プラス 赤線:マイナス】

【上図】(左)気候変動、(右)生物多様性  
気候変動のみに焦点をあてた対策は、生物多様性に対して悪影響の可能性がある。
悪影響があるのは植林(Afforestation)。先ほども指摘したが、その地域の特性にあった植生を無視しておこなう植林は悪影響を及ぼす。太陽光発電は一般論としては悪くはなく、水力ダムは悪影響があるという結果が出ている。BECCS(バイオエネルギー、CCS)も影響を及ぼす。

【生物多様性の対策が、気候対策に与える影響】

【下図】(左)生物多様性、(右)気候変動
逆はほとんどが青。生物多様性を保全する取り組みは気候変動にもよいと言える。悪い影響として挙げるとしたらBECCSやダムをつくる際の妨げになること。つまり、これらを作らない方がよいというのが結論づけられている。

【まとめ】
IPBES-IPCCの初めての共同作業による報告書(ワークショップレポート)で、現存する学術論文のレビューが構成されている(Best-knowledgeの集約)。
非常に多岐に渡る内容で、今後もこうした評価が必要になってくると思われる。
気候変動の対策においては、生物多様性への影響も考えること、そして生物多様性の保護や再生は、気候変動への対策にとってもプラスになることが多いことがわかった。

(以上)

 

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