ホーム > つながりを読む > 海士町の「ビジョンづくり」のプロセスから生まれたもの(1) 漁協・藤澤裕介さん

つながりを読む

海士町の「ビジョンづくり」のプロセスから生まれたもの(1) 漁協・藤澤裕介さん

2020年05月17日

コロナ危機下で講演や出張の仕事がなくなっているため、その時間を活用して、本の執筆を進めています。仮題「まちづくりのホップステップジャンプ!」 「はじめに」の草稿から、どんな本か、ご紹介します。


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~


私は20年以上前から環境問題に取り組む中で、また数年前から地方創生に取り組む中で、私なりの「まちづくりのプロセス」を作り上げてきました。ホップ、ステップ、ジャンプ!と、3つのステップを踏んでいくプロセスで、どのまちのお手伝いをする時にも、基本的にこの3ステップからなるプロセスをベースにお手伝いをしています。

この3ステップは、本質的な変化を創り出すためのシステム思考や、コミュニケーション手法、社会的合意形成などの考え方がベースになっています。そして、大学・大学院時代に専攻していた教育心理学・臨床心理学がその根底にあります。「ビジョンのつくり方」「方向性を示し、進捗をはかるための物差し(指標)」などは、自分のこれまでの人生で自分なりに試行錯誤してきたものでもあります。

この3つのステップをわかりやすく紹介し、「それぞれの地域で使ってもらえるようにしたい!」と書いたのが本書です。これまで自分が勉強・実践してきたこと、そして様々な地域でのお手伝いの経験から、基本的な進め方、大事なポイント、留意すべきところ、具体的な事例などを盛り込みました。

大小問わず、日本の各地のまちが、行政も住民も一緒になってまちの今後について、悲観的でなく現実的に考え、信頼関係に基づくまちづくりの仲間や取り組みが自己組織的に生まれ、新しい動きが次々と始まり、笑顔と会話が広がる、元気と勢いの感じられるまちになっていったらいいなあ!

本書が、持続可能で幸せなまちづくりの小さなお手伝いの1つになれば、これ以上うれしいことはありません。


~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~


コロナに関係なく、構想していた本ですが、今回のコロナ危機でますます本書がお役に立てるのではないか、と思っています。「これまでどおり」が選択肢でなくなってきた現在、どうやって自分たちのまちづくりを進めていくか、その具体的な手法やプロセスが求められるようになると思うからです。

この本には、私がこれまで定期的にお邪魔してまちづくりのお手伝いをさせていただいてきた島根県海士町、北海道下川町、熊本県南小国町、徳島県上勝町の事例をいっぱい盛り込んでいます。

バックキャスティングでのまちのビジョンをつくる具体的な方法や、ワークショップでの実際の問いなど、実践のための参考になればと思っています。そして、このように海士町の事例を紹介したいと思っている部分があります。まだ草稿ですが、ご紹介します。


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~


○海士町の「ビジョンづくり」のプロセスから生まれたもの

これまで紹介してきたように、海士町ではあすあまの会が中心となって「ありたい島の姿」としての共有ビジョンを描き、ループ図をつかって、まちの現状と望ましい未来の構造を考え、構造を変えるための打ち手を考えました。そのプロセスの間にも、そしてできあがったビジョンを町長に手交した後にも、あすあまのメンバーが次々とプロジェクトを生み出し、まちに変化を創り出しています。

あすあまでの経験をベースに、自分の職務の中で展開しているプロジェクトもあれば、あすあまメンバーやほかのまちの人たちと一緒に進めている地域のプロジェクトもあります。「ビジョンをつくって終わりではない」好例として、あすあまの会をきっかけに海士町で展開している具体的なプロジェクトをいくつか紹介しましょう。


~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~


オンラインで取材をさせていただくなどして、いくつかの具体的な「共有ビジョンをつくったあとの取り組み」を書いています。そのなかから、ご紹介しましょう。メールニュースでの紹介にもご快諾をいただき、ありがとうございます!


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~


漁協・藤澤裕介さん

魚と食べることが大好きで、東京から海士町に移住し、漁協で働いている藤澤さんは、あすあまを振り返って、こう話してくれました。「いちばん大きいのは『仲間』ができたことですね。そして、自分が見ている世界だけではない、自分でいえば魚のことはいつも考えていているけど、他のことはそんなによくわかっていなかった状況から、全体的に俯瞰してみる作業ができたことも大きかった。さまざまな視点から島のことを知って、みんなで考えるという、すごく大きなきっかけだったと思っています。部活みたいな感じで楽しかったです」。

あすあまでは、全体のループ図を全員でつくりつつ、いくつかのチームに分かれて、自分たちにより関わりのある領域のループ図もつくっていきました。藤澤さんはほかの4人と「未利用資源の活用」に取り組みました。

漁協の藤澤さんにとっての未利用資源は、定置網に入っても規格外で市場に出せない、ハネモノと呼ばれている小さな魚などです。チームのメンバーと議論し、試し、また議論し、というプロセスを繰り返しながら、使われていない海産物に付加価値をつけて活用し、漁師さんの収入にもつなげたい、というプロジェクトがいくつも生まれました。

町内に未利用資源のことを知ってもらうことも大事だよねと、産業祭やキンニャモニャセンターの創業祭といった町のいろいろなイベントに出店も。実際に利用されていなかった小さいアジや、捨てられているカワハギなどを使ったメニューを開発して販売し、あわせて現状を知らせるチラシも配布。わいわいと楽しみながらやっているそうです。

また、あすあまで地域内経済循環のことも知り、「島内でできるだけ魚を消費するために、どうしたらよいか?」と考えました。「水産加工があればいろいろなことができる!」と、停止していた漁協の加工部をもう一回立ち上げました。いまも引き続きやっていて、学校の給食用や、鯛の一夜干しといったお土産品、ふだんのお惣菜に使ってもらえる加工品を作ったりしています。

「海士は学校給食の地元産率が高いんです。毎年県内で調査がありますが、何年も続けて、海士が1位なんですよ! 野菜もそうですけど、水産物が地元で調達できていることが圧倒的な強さになってます」。

漁協で給食用の加工をするようになる前は、学校給食は県内の給食食材を扱う事業者から買っており、海外からの輸入も多く、県産のものすらあまりなかったといいます。学校給食側からも、「給食に地元のものを少しずつ増やしたい」という要望もあり、漁協の加工部でもいろいろ相談しながら、骨を抜いたりなど給食に合わせた仕様を開発をして、少しずつ取り扱い品目を増やしていったそうです。「今では、鮭など島で獲れないものは別として、給食に出る水産品のかなりの割合が島のものです」。

また、加工部が次に注目したのは、お土産品でした。海士町のフェリー乗り場には漁協の直売所がありますので、そこでの売上も見込めます。「お土産品は、ニーズはあるけど、外に漏れているな」と思い、地元の産品を自分たちで作って売りたいと考えた結果、缶詰をつくることになりました。サザエやアワビも名産品ですが、持ち運びが大変です。常温で扱えるというメリットもあり、缶詰にしたそうです。小ロットで商品開発をしてくれる会社とつながり、共同開発して、「海の宝」という素敵な缶詰が誕生しました。
http://ama-gyokyo.shop-pro.jp/?pid=145470051

「サザエのアヒージョ」「白イカのこじょうゆオイル煮」「真鯛のアクアパッツァ」の3種類で、発売開始から1年半ほど経ちますが、お土産品として好評を博しています。「これも地域内経済循環のために、島内産に切り替えるということで開発した1つです」と藤澤さん。

また、経済的なインパクトはそれほどないものの、とても大きな機会になったのが、島内外から多くの人が集まる大きなワークショップが海士町で開かれたときです。あすあまの「未利用資源の活用」チームのメンバーを中心に、「懇親会は、やっぱり地元のものだけでおもてなししたいよね」という話になり、料理人や野菜の生産者などに声をかけて、それぞれが作ったものを用意してもらって、100人ぐらいの食事を用意したそうです。それが大好評で、そのあとも人数が集まる会議などがあると、「打ち上げ、またやってよ」と声をかけてもらうようになり、年に何回か、地元の食材だけにこだわった会食を楽しんでもらっています。

もう1つ、加工部の象徴的な取り組みに「ブリナゲット」という商品があります。これは主原料(小麦粉、片栗粉を除く、塩は海士町産!)に100%海士町産の魚を使ったナゲットです。この開発秘話を紹介しましょう。

海士町では毎年「子ども議会」が開かれます。これは、海士町にある2つの小学校の生徒たちが、6年生の総合学習時間のまとめとして、町長に対して町政に対する提案を行うというものです。インタビューをするなどしっかり準備した資料をもとに、町長や役場の職員への厳しい提案も出てきます。そして、「海士町ふるさと検定」の創設や、レジ袋削減のための「エコポイントカード」制度など、子ども目線の提案をきっかけに町が行動を起こして実現したものもあります。

その海士町のこども議会で、ある児童から「町の主要な魚であるブリを使った特産品をつくる!」という提案があったのです。そこで、藤澤さんたち漁協チームはその児童と共同開発をしました。試作からキンニャモニャ創業祭での試食販売までを一緒に行い、その後、漁協加工部で製品化したのが「ブリナゲット」なのです。

今では町の学校給食の定番メニューとなっており、2019年度は小学校・中学校の児童に3回で約650食を提供しました。保育園の給食にも採り入れられるようになり、2019年度は2回で220食を提供しています。また、直売所でも販売しているので、そこで購入する福祉施設もあり、少しずつ定着してきました。魚介類だけでなく、塩や卵、たまねぎを地域で調達できることが海士町の強みです。

藤澤さんはこう話してくれました。「もともとは自分のお弁当のおかずとして開発したいという動機だったのですが、今では息子たちも給食で食べてくれているので、なんだか誇らしい気持ちです」。


~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~


海士町、さすが! あすあまの会で共有ビジョンをつくるプロセスのお手伝いをさせてもらえたこと、そのあともこうしてつながって、応援させていただいたり、いろいろ教えていただいていること、本当に幸せだと思っています。

海士町さすが!の取り組み、あとおふたり、ご紹介予定です。どうぞお楽しみに!

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ