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「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>後編

2019年04月13日
「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>後編

出典:首相官邸ホームページ 平成31年4月2日 パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会

http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201904/02kondankai.html

長期戦略懇談会の「提言」のエダヒロ解説の続きをお届けします!

前号について、専門家の方々から2点、ご指摘をいただきました。大事な点なので、急ぎ、修正させていただきますね。

1つめは、「実質ゼロ」の意味について、温暖化科学者の江守正多さんからです。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

>最終到達点としての「脱炭素社会」とは、人間による排出量が地球の吸収できる
>量を超えない社会、ということです。排出量をゼロにする「絶対ゼロ」は不可能
>ですが、地球が吸収できる量までしか排出しない、つまり、排出しても吸収して
>くれるわけですので、「実質ゼロ」です。「カーボンニュートラル」とは、「炭
>素中立」、つまりプラスマイナスゼロ、ということです。

 人間による排出量=自然の吸収量

のように読めますが、パリ協定は、

 人間による排出量=人間による吸収量

であることにご注意ください。

「温室効果ガスの人為的な排出量と吸収源による除去量との均衡」は、「人為的な」が「排出量」と「吸収源による除去量」の両方にかかります。

こちらに詳しく書きました。
https://news.yahoo.co.jp/byline/emoriseita/20151220-00052600/

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

ヤフーの記事には、江守さんもテレビ番組で「人間による排出量=自然の吸収量」という解釈でお話しされたが、そのあと調べてみると、英語の表記ではどちらともとれる書き方だが、フランス語の文書では、「人為的な」という形容詞が、「排出量」と「吸収量」の両方に1つずつついていることから、「人間による排出量=人間による吸収量」であることが確認された、と書かれています。

たしかに、「人間による排出量=自然の吸収量」では、大気中のCO2濃度が今よりも増すことはありませんが、CO2濃度を下げていくことはできません。

「人間による排出量=人間の吸収量」は、「人間による排出量=自然の吸収量」よりも厳しい目標となります。

それは果たして可能なのか?という問いに対しては、江守さんが「理論的には可能」として、その考え方を書かれていますので、ご覧ください。
https://news.yahoo.co.jp/byline/emoriseita/20151128-00051826/

もう1点、専門家からのご指摘をお伝えします。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

日本のビジョンがG7で一歩先に進んでいるというところなのですが、
英国とフランスについては、以下を承知しています。

1)英国
2017年に長期戦略(2050年80%減)を出したものの、
IPCC1.5度レポートの発表の後、政府が気候変動委員会に
「2050年ネットゼロ」の実行可能性について分析を依頼し、現在検討中。

UK climate targets: request for advice from the Committee on Climate Change
https://www.gov.uk/government/publications/uk-climate-targets-request-for-advice-from-the-committee-on-climate-change

UK will legislate net-zero carbon emissions target, says minister
https://www.climatechangenews.com/2018/04/17/uk-calls-advisory-body-test-net-zero-carbon-target/

2)フランス
今月、「2050年ネットゼロ」の法案を提出。今後数か月で議論されるとのこと。

France introduces 2050 carbon-neutral law
https://www.climatechangenews.com/2019/02/08/france-proposes-2050-carbon-neutral-law/

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

両国とも「2050年ネットゼロ」というビジョンなので、日本よりも進んでいるのでは、というご指摘です。日本の「今世紀後半のできるだけ早い時期」に対して、「2050年」が目標年限になれば、たしかにそうですね!

日本が議長国を務める6月のG20までに両国の「2050年実質ゼロ」が成立するかわかりませんが、いずれにしても、「先進国の中でも進んでいる」と胸を張るよりは、「日本もひけをとらないビジョンを設定した」と言うぐらいが良いかもしれないですね。

専門家の方々にもチェックいただけて、大変ありがたく思います。また間違いや誤解、新たな動きなどが出てきたら、修正・更新しながら、お伝えしていきたいと思います。


さて、前号までで第3章までお伝えした長期戦略懇談会の提言解説の続きをお届けしようと思います。

パリ協定長期成長戦略懇談会提言
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/siryou1.pdf

「第4章:各分野の将来像及び最終到達点に向けた視点」は、以下のように具体的な分野ごとに将来像や最終到達点(=脱炭素社会)に向けた視点が挙げられていますので、ご関心のある部分をぜひ見ていただけたらと思います。

 Ⅰ.エネルギー
  1.全般
  2.エネルギー効率向上
  3.電力
   (i)総論
   (ii)再生可能エネルギー/蓄電池
   (iii)分散型エネルギーシステム 
   (iv)石炭火力発電等 
  4.水素
  5. CCS・CCU、カーボンリサイクル
 Ⅱ.産業
 Ⅲ.運輸
 Ⅳ.地域・くらし

私が大事だと考えるポイントを拾っていきます。飛び飛びになりますので、詳細は提言をご覧ください。※としてエダヒロのひとり言を添えます。

~~~~~~~~~~~~こから引用~~~~~~~~~~~~~~~

「日本における温室効果ガスの9割はエネルギー起源である。エネルギー政策と気候変動対策は表裏一体」

※温暖化対策はエネルギー対策である、ということを何度も肝に銘じましょう!

「エネルギー転換には、国富または地域の富の流出を削減するという観点も重要である」

※地域経済を重視する観点も反映されています。

「国際的に高水準にあるエネルギーコストの更なる上昇をもたらす施策は、3つのEのバランスを崩しかねないことへの留意が必要である」

※3つのEとは、脚注にありますが、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)です。

※海外では、石炭火力発電よりも原子力発電よりも、風力発電のほうがコストが低いというところも増えています。そうすると、「安いエネルギーを使えば、自然と脱炭素社会にシフトできる」わけですが、日本の課題は、まだ再エネコストが高いことです。

※再エネコストが高いからといって敬遠していては、いつまでたっても普及せず、規模の経済が達成できず、コストが高いまま、となってしまいます。かといって、エネルギーコストの急上昇は企業にとって死活問題となります。このバランスをどうとっていくのか、どこまでの長期的視点をもって、どのようにきちんと国民や企業に展望を説明するのか、が非常に大事なことです。

「エネルギー転換を促進する施策としては、R&D支援、規制、コストに反映させる方法、経済インセンティブなどがあるが、民間の視点からは、コスト高を抑え、民間の活力やイノベーションを引き出すような施策を講ずることが重要である。エネルギー転換のための施策はどうあるべきか、総合的な議論及び政策意思決定が必要である」

※ここに明示的には書かれていませんが、「コストに反映させる方法」というのは、懇談会の論点の1つ、「カーボンプライシング」をめぐる課題でもあります。「議論と政策意思決定が必要である」となっているのは、懇談会では結論を出せなかった、ということです。この点はのちにより明示的に出てきます。

「現在、日本は再生可能エネルギー、蓄電池、水素、原子力など、非常に幅広い技術的選択肢を持っているが、長期的にもエネルギーに関する選択肢は多く持っておくことが必要である」

※化石燃料を自国に持っていない日本は、エネルギーに関する選択肢を多く持っておくべきだ、という議論はエネルギー政策をめぐる議論で必ず出てきます。レジリエンスの基本の1つは多様性ですから、そのとおりだと思うのですが、なんでも選択肢として含めるべきなのか、それとも「選択肢が多いほうがよいと言っても、これは入れるべきではないよね」というものがあるのか、が議論の分かれるところです。具体的にポイントの1つは原発をどう位置づけるか、ということです。この点については、今後しっかり議論していく必要があります。

「エネルギーの転換・脱炭素化には、電力・運輸部門に加えて、地域熱供給の普及など熱の利用についても対策を進めることが必要である」

「この他にこれまでの役割を超える取組が重要である。例えば、住民が、需要家としてではなく、発電者・投資家としても参加する地域分散型のエネルギーシステム、社会づくりも目指すべきである」

※電力だけでなく熱も含めての地域分散型のエネルギーシステムの重要性が謳われているのは心強く思います。いまは先進的な地域の取り組みはいくつもありますが、全国に展開していくための具体的な政策が待たれます。

「エネルギー効率の向上(省エネ)は、エネルギー部門の脱炭素化に向けた取組の中軸の一つである。エネルギーコスト低減、エネルギー安全保障の観点からも重要である。産業、運輸、家庭・業務など社会のあらゆる場面におけるエネルギー効率の向上を追求すべきである」

※省エネは基本中の基本ですよね。省エネして、それでも必要なものを再エネ、という順番であって、使いたい放題使うために再エネをいっぱい入れろ、というのではないですものね。

「住宅や建築物など一度作られると数十年の寿命を有するインフラについては、インフラ更新(新築)の段階で、その時点で最も優れたエネルギー効率設備が導入されるよう、今から施策が打たれるべきである」

※2号前の「内容編その1」で、「ロックイン」という話をしましたが、住宅や建築物も同じです。いったんつくられると数十年は基本的にそのまま使い続けられるため、建設時点でどういう設備を入れるのか、建て方をするのか、が鍵を握ります。

※他方、他国に比べて日本が弱いのではないかと思っているのが、既築住宅への取り組みです。新築のように最初から設備などを入れているわけではない住宅を対象に、どのように断熱性能を高めるなどして省エネを進めるか、再エネ設備を入れるか。ここへの強力な取り組みが必須だと思っています。

「2050 年に向けて再生可能エネルギーの主力電源化など電力分野のエネルギー転換・脱炭素化を進める」

※エネルギー情勢懇談会→昨年のエネルギー基本計画の流れを踏襲し、「再エネの主力電源化」が位置づけられています。

「しかしながら、電力分野のエネルギー転換・脱炭素化は容易ではない。選択肢にはそれぞれ課題があるが、どれも全力でチャレンジすることが必要である。例えば、
① 再エネの課題である「自然変動性」は、送配電網、蓄電池や水素等による克服
② 化石燃料の課題である「脱 CO2 」は、CCSやCCUでの克服
③ 原子力の課題である「安全確保」は、安全技術の向上での克服
といった議論を今後も継続していく」

※再エネ、化石燃料、原子力のそれぞれの課題に対して技術開発を進めるとして、先ほど述べた「多様なオプションの確保」をはかる、という考え方であることがわかります。

「そうした議論を経て実用に移される技術・仕組みは、地方創生や分散型社会で強靭性(レジリエンス)を高めるためにも必要であり、環境と成長の好循環社会をいち早く日本で実現し、その社会モデルを世界に共有することもビジョンとすべきである」

※地方創生・分散型という視点が入っています。

「エネルギーと電力は、電源や送配電網への投資が停滞している。研究開発と設備投資をしっかりやっていくことが必要であり、日本政府としてそのための事業環境整備を行うべきである」

「電力分野のエネルギー転換・脱炭素化に向けて、送配電網増強を含め、電力システム全体のあるべき姿の議論を深めるべきであり、国民各層への一層の情報提供と対話が不可欠である。送配電網増強についても、関連する情報開示が必要である」

※これらの点については、昨日4月8日に、経団連からの提言も出されています。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2019/031.html

「原子力については、可能な限り原発依存度は低減しつつも、バックエンド対策、立地対策や規制対応、技術開発を含め、安全性確保を大前提とした原子力の活用についての議論が必要である」

※上記の経団連からの提言では、「原子力は、日本と世界が将来にわたってエネルギーを安定的に確保し、脱炭素化を目指していくうえで不可欠なエネルギー源。既設発電所の着実かつ迅速な再稼働に取り組むとともに、リプレース・新増設を政策に位置づけるべき。安定的な事業環境の確立や技術開発も重要」と、原発を大きな柱の1つとして位置づけています。

※本懇談会には、経団連の中西会長も委員として参加されていますが、懇談会では原発の位置づけに関しては結論が出ず、提言では「議論が必要」という表現になっています。

「昨今、大規模な再生可能エネルギーの開発による森林破壊、コミュニティの対立などの問題も起きている。ソーシャルインパクトを考え、他の問題を引き起こさない形での再生可能エネルギーの開発を最大限進めることが重要である」

※再エネを普及拡大することは必須ですが、同時に、それを「他の面での問題を引き起こさない」形で進めることも重要です。社会への影響(ソーシャルインパクト)を考えると、「良い再エネ」もあれば、「悪い再エネ」もある、ということです。電源としてのkWhだけでは測れないソーシャルインパクトもきちんと把握しながら、再エネを促進していく必要があります。この点がきちんと書き込まれていることは非常に大事だと思います。

「分散型エネルギーシステム」については、私も強調してきた点なので、この部分全体を引用します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)地域におけるバイオマスや水力等の再生可能エネルギーといった分散型エネルギーの活用は重要である。地域が主体となった分散型のゼロエミッション社会を目指すべきである。地域が再生可能エネルギーや分散型グリッドを構築することで電力が地場産業となり、スマートモビリティなど新たな需要を支えていく社会を構築すべきである。

(2)そのため、政府による地産地消型エネルギーシステムの構築支援や、汎用性の高い技術をESG投資で誘導しつつ作り上げていくこと、さらに再生可能エネルギーの高効率化、VPP技術17により再生可能エネルギーと電動車や蓄電池等を結び付けた新たなビジネスモデルを生み出すことが重要である。その際、閉じたシステムでなく、社会全体として俯瞰する視点も不可欠である。

(3)固定価格買取制度(FIT)後の再生可能エネルギーが引き続き有効な地域エネルギーとして円滑に移行できるよう、技術開発、制度設計を進めるべきである。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

特に最後の点については、第4回の懇談会で、以下のように資料にして、強調していたポイントが反映され、うれしく思います。

ーーーーーーーーーーーーーー
第4回懇談会 枝廣資料 10ページ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/dai4/siryou2-2.pdf

FIT後の地域エネルギーの設計
移行を支援する技術開発、制度設計を

○うまく移行できれば
・ ソーラーパークなどは地元エネルギー生産拠点に
・ ゆくゆく数百万戸の家庭がオフグリッド化!?
・ 自家発電の住宅をつないで地域で融通!

○さもなくば、FIT後、悪夢の状況も......
・ 日本の再エネ率は下落、CO2増加
・ 各地に大規模ソーラーやバイオマス発電所の廃墟

ーーーーーーーーーーーーーーーー

その次の「石炭火力発電等」の部分も重要であり、懇談会で意見が分かれたとこ
ろでしたので、その部分の全体を引用します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)脱炭素社会の実現に向けて、パリ協定の長期目標と整合的に、石炭火力発電等からのCO2排出削減に取り組む。そのため、石炭火力発電等への依存度を可能な限り引き下げること等に取り組んでいく。長期的なエネルギー転換の中においては、CO2の大気中への排出を削減するため、将来的には、我が国の技術力を活用し、排出したCO2を効率的に回収し、燃料や原材料等として再利用する新しい循環(カーボンリサイクル)をつくることで、CO2の排出抑制を目指す明確なメッセージを打ち出し、CCS・CCU等の技術の開発・普及に取り組む姿勢を世界や企業に示すべきである。また、これにより前向きな投資を促進することも重要である。

(2)石炭から水素を生成する技術の確立などにより、CCSや水素転換を日本として主導し、石炭火力発電等の脱炭素化に向けた取組を実現する。

(3)なお、CCSについては実現可能性と持続可能性等の制約を克服しながら、果敢にイノベーションに取り組む。ドイツについては採用しないことを宣言しているが、こうした各国の状況等も見ながら、日本の事情を踏まえた方針の検討が必要である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

石炭火力発電について、私は先述した第4回の資料の7ページで以下のように記載し、重要なポイントとして強調しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今回の長期戦略で大事なこと:石炭の位置づけを明示

・ 海外でも批判:「新規石炭建設計画を支援している銀行と機関投資家の第1,2,4位は日本の金融機関だ」

・ すぐにゼロにできないとしても、長期的にゼロに向かっていくという姿勢は明示

・ 世界にも企業にも方向性を示すべき

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

石炭火力発電については、国内と海外への輸出の2つの面で大きな課題となっています。

提言では、「石炭火力発電等への依存度を可能な限り引き下げる」とした点は、大きな一歩だと思います。

一方、「排出したCO2を効率的に回収し、燃料や原材料等として再利用する新しい循環(カーボンリサイクル)をつくることで、CO2の排出抑制を目指す明確なメッセージを打ち出し、CCS・CCU等の技術の開発・普及に取り組む姿勢を世界や企業に示すべき」として、「ゼロ」に向けての方向性は打ち出されませんでした。

国内的には、再エネがまだ主力電源化しておらず、国際的にもコストが高いため、コストの安い石炭火力発電のオプションを残しておきたいという声も強くあります。

また、海外輸出に対しては、環境NGOなどからも強い批判が寄せられていますが、他方、「コストの高いオプションを選べない途上国の状況を考えると、石炭火力発電の輸出をやめることはできない」「日本は石炭火力発電の輸出やめると言っても、結局、中国製や他国製のよりCO2排出の多いものになるだけではないか」という声も多々聞かれます。

今回の提言を安倍総理に手渡すにあたって、北岡座長は「石炭火力発電の海外輸出に関する論点については、複数の委員から、公的資金による支援は原則行わない、とすべき、いう声もあった。一方、石炭を使わざるを得ない途上国もあるという意見もあり、委員間で議論した結果、提言には明記しないことにした。ただ、こうした議論があったことは紹介しておきたい」と両論あって明記されていないことを明らかにしてくださいました。

また、委員の意見表明後、外務・経産・環境の3大臣が発言されましたが、河野外務大臣は「石炭火力に対する公的支援については、国際会議の場では石炭火力が座礁資産になりかねないという議論が行われていることを考えれば、この問題は政府の方でも真剣に議論していかなければならない。しっかりと引き取らせていただきたい」と発言されました。しっかりウォッチしていきたいと思います。

「2018年10月に世界で初めての「水素閣僚会議」を日本で開催したが、国が水素社会実現という大きな将来像を掲げ、こうした会議などを通じて、国際的に連携しながら、CO2フリー水素の製造コストを2050年までに現状の10分の1に下げ、天然ガスよりも割安にすることを目指すことを含め、産学官で水素の安価・安定・大量製造技術や供給インフラ整備のための技術開発に取り組むべきである。こうした取組を国の長期戦略の柱の一つにすべきである」

※CO2フリー水素の製造コストを2050年までに10分の1にしていく、というのも、今回の提言の目玉の1つです。

「CCS・CCUを2030年までに実用化し、日本から世界に輸出することを検討すべきである」

※CCS、CCUについては先に説明しましたが、2030年までの実用化をめざす、というのは具体的な目標の提示となります。

「基幹産業である鉄鋼業では、現在の製鉄技術の延長では、どうしても炭素で鉄鉱石を還元することが最も効率的であり、石炭を原料として使い続ける必要がある。今後、炭素を排出せずに水素をつくり、それを使った水素還元製鉄、それから人工光合成などによるCCUに果敢に挑戦することが必要である。日本鉄鋼連盟は 2018 年 11 月に発表した「長期温暖化対策ビジョン」に従って、水素還元製鉄等による「ゼロカーボン・スチール」に向けて挑戦する意向を示している。規制的手法によらず、官民連携して環境整備を進めていくことが必要である」

※ここも提言の目玉の1つとして報道記事などで取り上げられていました。

※CO2排出量のうち、鉄鋼・セメントの占める割合は大きく、ここの脱炭素化が大きな鍵を握っています。

※「2045年までに化石燃料ゼロの国になる」ことを宣言しているスウェーデンにも鉄鋼業界があります。SSAB(スウェーデンの高炉メーカー)は、「2045年までに化石燃料ゼロの鉄鋼を作る」という目標を掲げ、研究開発を進めています。

※日本でも、日本鉄鋼連盟が「ゼロカーボン・スチール」に向けて挑戦するとのことが提言に盛り込まれました。懇談会の委員のお一人は、日本製鉄の進藤会長です。日本鉄鋼連盟「長期温暖化対策ビジョン」をみると、実用化は2050年以降2100年に向けて、という時間軸のようです。
http://www.jisf.or.jp/news/topics/documents/zerocarbon_steel_honbun_JISF.pdf

「社会的に関心を集めている石油起源のプラスチックからバイオマスプラスチックを含む代替素材への転換を促進するとともに、フロン系ガスを温暖化係数ほぼゼロの代替物質・技術にできるだけ早期に転換する」

※プラスチック問題、強力な温室効果ガスであるフロンについても盛り込まれています。

「分散型社会の世界は、各地域に根差した経営マインドにあふれる新興企業が登場する可能性がある。たくさんの産業や新しい企業を起こしていくことも重要である」

※地域の視点が入っています。

「世界のエネルギー供給とも連動して、燃料から走行まで全過程の排出量をゼロにする「Well-to-Wheel Zero Emission」に貢献する」

※これも提言の目玉の1つとして取り上げられています。委員のおひとり、トヨタの内山田会長が強調されたポイントの1つです。

「人口減少社会の中で、地域で低排出でのモビリティを確保することを目指してその方策を検討するべきである。自動車以外のモビリティについても、パリ協定の長期目標と整合するように、今世紀後半のできるだけ早いタイミングでの脱炭素化を目指す」

※スウェーデン政府の担当者と意見交換したときに、「電源の再エネ化はほぼ終わっているし、熱の再エネ転換も進んでいるが、最後まで残るのがモビリティだ。そこに集中して取り組んでいる」と話していました。ここへの取り組みを、人口減少社会の中での地域での移動の足の確保も考え合わせて進めていくことになります。


「IV.地域・くらし」は、特に私が重視・強調してきたところなので、少し長いですが、全文引用します。みなさん、どのように感じられるでしょうか?

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)気候変動は、これまで主として国や企業の問題として語られてきたが、社会システムの転換を引き起こしていく過程においては、国民一人一人が自覚をもって「自分が何をできるか」考える必要がある。個人、家庭、地域レベルでの意識改革が重要である。意識改革を促す上で日本の歴史的、文化的、地理的また経済的な特徴をよく踏まえた自然と社会の在り方、持続的な共生との概念を基本としたい。

(2)人口減少・高齢化が進む日本においては、特に地域の力を高める成長戦略が重要となる。少子化・高齢化問題を逆手に取り、地域を持続させ発展させようとする住民の思いが実現する方向で気候変動に対応する条件整備をしていき、その中での意識の変化を図ることも必要である。その地域の人たちがそこに住み続けることができる、そういった地域の活性化につながる成長戦略を示すべきである。

(3)そのため、地域の豊富な資源を最大限に活用し日本の成長にもつなげる「地域循環共生圏」の創造に取り組むべきである。地域間のネットワークも組み合わせた社会システムにより、脱炭素化だけでなく環境・経済・社会の統合的向上によるSDGsモデルを地域で実践していくべきである。

(4)そこにおいては、2050年までに、カーボンニュートラルで災害に強靭で(レジリエントで)快適なまちとくらしを実現することを目指すべきであり、可能な地域、企業などから、2050年を待たずにカーボンニュートラルを実現していくための支援を行うべきである。

(5)具体的には、地域が再生可能エネルギーや分散型グリッドを構築することで電力が地場産業となり、スマートモビリティなど新たな需要を支えていく社会を構築することが重要である。また、地域におけるバイオマスや水力等のエネルギーを活用するため、汎用性の高い技術を ESG 投資で誘導しつつ作りあげていくことも重要である。

(6)また、地域におけるリサイクル経済の観点も重視すべきである。

(7)今後、人口減少社会・インフラの老朽化などの課題に対処するために、交通などのインフラを含む地域のまちづくりを見直す必要がある。その中で、エネルギー使用の効率化と脱炭素化の視点を盛りこんで課題解決を目指すべきである。

(8)ガソリンスタンドの消滅・減少を始め、中山間地域の抱える課題やお年寄りが持つ生活面での不安の解消などの地域の課題に対応することも重要である。将来にわたって持続性を高めるには、電動車など、それぞれの地域の現場が求めるサービスや技術がイノベーションによって提供され、広く普及することが重要であり、それがひいては国全体の発展につながる。

(9)農山漁村地域は、食料を始め日本の社会・経済を支える資源を供給する重要な役割も果たしている。再生可能エネルギー、木材などバイオマス資源の地産地消を進めるとともに、地域外への供給を通じて、脱炭素社会への転換に貢献するべきである。これにより、地域を活性化し、人口減少、高齢化などに伴う地域の多様な課題解決を目指すべきである。

(10)地域レベルでは、気候変動教育を始め学校や病院の設備を気候変動に強靭な仕様にすることも考えられる。地域の住民は、日常の消費活動が変わることで、社会の変革に携わることができ、それが大きな力となる。生活者、消費者、生産者として、製品・サービスの選択や生活様式により脱炭素化に関わっていく視点が重要である。くらし・ライフスタイルの変革とともに、それに向けた教育が重要である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~


さて、ここまでで、提言の構成のうち、
ーーーーーーーーー
はじめに
第1章 気候変動に関わる最近の情勢及び変化
第2章 長期戦略の策定に当たっての視点
第3章:長期戦略に盛り込むべき特に重要な要素
第4章:各分野の将来像及び最終到達点に向けた視点
ーーーーーーーーー

までを見てきました。

あとは、「第5章:分野横断的な対策・施策」だけです。ここにも議論が分かれたポイントが出てきます。

第5章:分野横断的な対策・施策

 I.イノベーション

この「イノベーション」という言葉に、脚注がついていて興味深いので紹介します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

イノベーションは、しばらく前の日本の訳語である「技術革新」を意味しない。むしろ、1912年でのシュンペーターの歴史的提案である「新結合」、すなわち、これまで行われなかった要素と別の要素の新しい組み合わせ、例えば、新しい技術と別の技術の結合、新しい発想と別の発想の結合、などを実現することによって実現される価値の創造、と考えるべきである。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

  1.分野横断的なイノベーションの必要性

「今日、エネルギー、モビリティ、デジタル化などにおいて分野を超えた相互作用により世界的な変革、イノベーションの波が押し寄せている。これは、「Society5.0」の実現に向けた幅広いイノベーションの促進が、気候変動対策分野にとどまらない、すなわち、温室効果ガスの大幅な削減に必要な技術革新を生み出し得ることも意味する」

※「Society5.0」は最近政府や経済界がよく口にするキーワードですが、脚注にこのように説明されています。「狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、新たな社会。サイバー空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」。

  2.実用化・普及のためのイノベーション

イノベーションがテーマだった第3回の懇談会で、「先端技術のイノベーションだけでなく、汎用化のためのイノベーション、誰ひとり取り残さないイノベーションも大事」と発言した私の思いも反映してもらえたようでうれしいです。この箇所を引用します。コストを下げることの重要性は産業界の委員が繰り返し強調されていたポイントです。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~

(1)脱炭素社会を実現していく上では、「イノベーション=技術革新」という単一的な見方を是正し、最先端の技術を創出するイノベーションと併せて、技術を社会実装していく「実用化・普及のためのイノベーション」の推進が不可欠である。

(2)性能や効率も重要だが、ユーザーに選ばれることができなければせっかくの性能も発揮できない。技術側からの発想だけでなく、ニーズ側から発想する逆向きのイノベーションも重要である。

(3)技術が普及するためには、世界最高効率といった科学的な価値観だけではなく、コストが低いことが絶対条件である。技術の「コスト」を下げるイノベーションや、市場、インフラ、制度・規制のイノベーションが重要である。こうしたイノベーションによって、技術の汎用性を高め、社会の隅々に技術を普及させ、脱炭素社会につなげていく。また、新製品・サービスの開発・販売力を向上し、市場を獲得していくためには、イノベーション実現のスピードと費用が鍵。そのためには官民の役割分担を明確にし、それぞれがその役割を果たしていくべきである。

(4)また、先端技術だけでなく、今ある優れた技術を普及させることも重要である。そのためには、それらが普段の生活において真に必要とされ、受け入れられるような変革を含め、脱炭素化に向けたサプライチェーンの構築や、産学官民を始めとする多様な利害関係者(ステークホルダー)との連携が不可欠である。

(5)加えて、国民一人ひとりが持続可能なライフスタイルの在り方や暮らし方を変える「ライフスタイルのイノベーション」、技術をどう使うかという「暮らし方の質」なども重要である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

  3.政策の方向性

「民間の活力を最大限に活用し、資金・投資を呼び込むことが不可欠である。そのためには、国による「野心的なビジョンに向けた一貫した気候変動政策」と「投資環境の整備」が必要である」

※第4回の懇談会で、「長期目標を出すだけではなくて、それが今後もぶれないという保証をしっかり出すこと。例えばスウェーデンは、政党が代わってもこの目標を変えないということを決めており、長期的な投資ができるという状況になっている」と発言した私の思いも反映されているようです(「一貫した」をどう確保するかが次の課題です)。

「社会にとって有用なイノベーションを起こすという意識が、このところ大学に欠落しつつあるように思える。特に応用科学系では、インパクトファクターという価値観のみにとらわれず、社会への貢献が条件となるノーベル賞を目指すという高い意識も必要である」

※大学への厳しい言葉がありますが、大学への期待・変化の必要性は、何人もの委員から出された点でした。

  4.科学的知見の充実

「未来は不安定で不確実である。そのような中で温室効果ガスの長期の大幅削減につながるイノベーションを実現していくためには、様々な技術を実現した際のインパクトの大きさから分析し、優先度の高いものから導入していくという視点が必要である。

目指すべきビジョンを見据え、複線シナリオを念頭に、あらゆる選択肢を追求し、技術革新や不確実性の状況を見極めながら、社会的価値を科学的・客観的に評価すること(科学的レビュー・メカニズム)を進めていくことが必要である」

※エネルギー情勢懇談会で明確に提示された「未来は不安定で不確実で予測不可能である」という認識が政府の基本認識となっているようで心強く思います。決め打ちの未来を描いて政策動員するのではなく、emerging(出現しつつある)未来とダンスを踊るような、adaptive(適応型の)な政策形成・実行ができればいいなあと思います。

 II.グリーン・ファイナンス  1.グリーン・ファイナンスの重要性

金融機関ならびに、企業への強い期待のメッセージです。この箇所を転載します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)技術・経済・社会システムにおけるイノベーションを創出するためには、民間活力を最大限に生かすことが鍵であり、その際、ファイナンスの果たす役割は極めて重要である。日本の金融機関は、再生エネルギー関連プロジェクトファイナンスで世界最大の資金供給を行っていることを踏まえ、国内外への資金の出し手として、気候変動にかかわっていくという役割も期待されている。

(2)投資の引き揚げ(ダイベストメント)だけでは気候変動に対応できない。これからは脱炭素に向けた設備投資やイノベーションを積極的に評価するESG資金獲得競争の時代へ向かう。ESG投資の促進のため、企業・団体の長期展望に示された考え方や視点を活用し、脱炭素イノベーションに取り組む企業には、資金が集まるメカニズムを構築していく必要がある。

(3)特にESGファイナンスについて、国内において大規模な資金需要を伴う案件が少ないとの指摘もある。我が国でイノベーティブなプロジェクトを生み出すことにより、世界の資金も日本に向かわせることが必要である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

  2.政策の方向性

ここも企業がしっかり見ておくべきメッセージがありますので、引用します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

イノベーションを進めるためにも、日本が金融安定理事会(FSB)に設けられた気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:The Task Force on Climate-relatedFinancial Disclosures)を含むESG情報開示のモデル市場となることにより、世界の投資家の評価を向上させる。バリューチェーン全体の炭素効率は日本企業の強みであり、日本企業はそれをアピールできるTCFDへの更なる賛同を行い、積極的な情報開示を進め、世界に先駆けるべきである。

加えて、各国機関や産業界など国際的な連携を通じて、情報開示の底上げにもつなげていくことが望ましい。また、積極的な取組や情報開示を行う企業に資金が回るよう、投資家自身も具体的な取り組みを行うべきであり、長期投資家は ESG へのコミットメントを明確に行うべきである。また、金融機関によるESGへの取組も不可欠であり、金融機関・投資家自身による情報開示や、脱炭素化につながる技術開発等への幅広い支援等の取組を検討すべきである。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

TCFDについては「内容編その2」に書きましたので、ここではこれだけ強い思いで推進しようとしている、ということの確認まで。

「パリ協定長期成長戦略懇談会」提言のエダヒロ解説<内容編>その2

提言では、企業に対して具体的に、「経済産業省が2018年 12 月に政府として世界で初めて策定した TCFDガイダンスを活用し、金融機関・投資家に対し自らの取組を「見える化」し、金融機関・投資家も「見える化」された情報に基づき投資判断するべきである」「環境省の「ESG金融ハイレベル・パネル」の場を活用し、投資家・金融機関のESG金融に関する取組状況をフォローアップすることなどを通じて、金融機関等のESG金融へのモメンタムの維持及び醸成を行っていく」と続けています。

同時に、政府として、「ESG先進国となるべく、例えばグリーン国債の発行などグリーンボンド(債券)市場拡大等を通じ、この分野での積極的なコミットメントを示すことで、日本の資本市場のグリーン・ブランド化を図る。また、政府は、脱炭素社会に向けた予算の内容を明確にする必要がある。また、世界へ技術とファイナンスをセットで提供し、気候変動分野におけるリーダーシップを発揮していくべきである」としています。

「脱炭素社会に向けた予算の内容を明確にする」というのはこれまでにない取り組みではないでしょうか。大いに期待したいと思います。

III.ビジネス主導の国際展開、国際協力
  1.ビジネス主導の国際展開、国際協力の重要性
  2.政策の方向性

「海外におけるエネルギーインフラ輸出については、パリ協定の長期目標と整合的にCO2排出削減に貢献する目的で、支援を行う」

※前号でも取り上げた「石炭火力発電の海外輸出をどう位置づけるか」という点については、前述したように、懇談会でも議論が分かれました。提言では、「パリ協定の長期目標と整合的に」という文言となっています。

「日本国内の都市や地域での成功モデルを発信・横展開し、「課題解決先進国」となることにより、世界を牽引する日本のモデルとなることを目指す」

※本当にそうすべきだと思いますが、まずは日本国内で都市や地域での成功モデルをつくること。もちろん個別の先進事例はいくつもありますが、国内での横展開ができている状況ではなく、横展開のやり方を学ぶためにも「隗より始めよ」ですね。


 IV.その他
  1.人材育成
   (i)人材育成の重要性 
   (ii)政策の方向性 
  2.カーボンプライシング

ここに、議論の分かれたポイントが出てきます。引用します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

カーボンプライシングについては、既に欧州諸国や米国の一部の州を始めとして導入している国や地域があり、中国でも全国規模で排出量取引制度を導入している。一方、日本はCO2 の限界削減費用が高く、エネルギーコストも高水準、またエネルギー安全保障の観点においてもエネルギー資源の大半を輸入しているという事情がある。カーボンプライシングには、市場を介した価格付けだけでなく、税制も含まれる(既に一部導入)が、制度によりその効果、評価、課題も異なる。国際的な動向や日本の事情、産業の国際競争力への影響などを踏まえた専門的・技術的な議論が必要である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

私も含め、カーボンプライシングをしっかり提言に位置づけるべきだとした委員
がいた一方、経団連は公式にカーボンプライシングに反対しています。

経団連「パリ協定に基づくわが国の長期成長戦略に関する提言」
http://www.keidanren.or.jp/policy/2019/022_honbun.pdf

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

炭素税や排出権取引制度といった明示的カーボンプライシングの強化は、既に国際的に高水準にあるわが国のエネルギーコストのさらなる上昇を通じた経済活動の減退と国際競争力の低下をもたらすばかりか、企業の研究開発・投資原資の減少にもつながることから、長期温暖化対策に必要となる民主導のイノベーションを阻害するものであり、経済界は一貫して反対の立場である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

懇談会では意見の歩み寄りはなく、提言では両論並記し、「議論が必要」という書きぶりになっています。


  3.適応策
  4.公正な移行
  5.進め方とレビュー

最後の部分です。引用します。

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

(1)長期戦略については、情勢の変化等を踏まえ、適切にレビューを行うことが望ましい。また、それら含めた事情や情勢変化等を踏まえ、地球温暖化に関する計画や、エネルギーに関する計画もレビューされることを期待する。

(2)この長期戦略は、成長戦略であるからこそ、戦略を絵に描いた餅にせず、長期戦略と、特にそこに盛り込まれたビジョンに照らして、現行制度、施策、政策が整合的かどうか、いかに強化・変更することが必要か、情勢に応じた検討・見直しが必要である。

(3)気候変動がもたらす経済の負の影響と、日本の成長機会についての分析と公表を行うべきである。

(4)2050年の社会を想定し、国土、気候、資源等の限界などを定量的に解析し、得られた情報を公開していく取組が必要である。

(5)長期戦略のレビューや実践に当たっては、SDGsの「誰一人取り残さない」「パートナーシップ」という概念も踏まえ、多様なステークホルダーの連携や対話を進めることが必要である。

~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

第4回の懇談会で、「今回決めて「おしまい」ではないわけなので、どのように進捗管理・軌道修正していくか。このメカニズムをきちんと入れ込む必要があると思っている。例えばイギリスの気候変動委員会のように、客観的に進捗を見ながら科学的レビューができるような形が必要と思う」と発言しました。

この長期戦略のレビューだけでなく、「気候変動がもたらす経済の負の影響と、日本の成長機会についての分析と公表」「多様なステークホルダーの連携や対話」はひじょうに大事なことだと思っています。このあたりがどのように具体的な政策に落とし込まれるのか、しっかり見守り、声をあげていきましょう。


これで終わりです。おつきあいありがとうございました。自分の予想を超えて、内容編が「その4」まで行ってしまい、最初に「前編」とつけなくてよかったなあと思っています(^^;

自分も関わった懇談会の提言をこうして丁寧に見てみると、もちろん、まだまだ足りないところや、力及ばずのところも多々ありますが、それでも、かなり多様なそれぞれの委員の発言内容を組み込みながら、1つのまとまりのあるものに仕上げるのは本当に大変だっただろうなあ!と思います。北岡座長、そして事務局のみなさま、ありがとうございました。

これまで、2008年の洞爺湖サミット前に福田総理の立ち上げられた「地球環境問題に関する懇談会」、3.11後には「基本問題委員会」、最近は「エネルギー情勢懇談会」、つづいてこの「パリ協定長期成長戦略懇談会」と、国の方向性に関わる大事な委員会に参加させていただいていることは、本当に幸せなことだと思っています。

エネルギーや温暖化の専門家でもない私にできることは、「知ること」「学ぶこと」、そして「伝えること」。今回の懇談会は終わりましたが、これからも、知り、学び、伝え続けていきたいと思っています。

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