ホーム > つながりを読む > IPCC第48回総会で採択された「1.5度特別報告書」の内容と意義

つながりを読む

IPCC第48回総会で採択された「1.5度特別報告書」の内容と意義

2018年10月20日
IPCC第48回総会で採択された「1.5度特別報告書」の内容と意義

Global Warming of 1.5 °C

https://www.ipcc.ch/report/sr15/

今月はじめに、気候変動に関する重要な会合がお隣の韓国で開催され、特別報告書が公表されました。

気候変動の専門家としてWWFジャパンから会合に参加されていた小西雅子さんがその内容や意義について大変わかりやすいレポートを送ってくださいましたので、ご紹介します。

「パリ協定に提出されている2030年までの現状の各国の国別目標では、3度程度の上昇をもたらす」「1.5度達成経路に必要な削減量は、2030年に2010年比で40~50%」とのこと。

> 1.5度上昇した場合にすでにあらゆる面でかなりの悪影響が予測されることを初
> めて示したこの1.5度報告書は、この夏に猛暑や洪水などの極端な現象を経験し
> た日本にとって、貴重な知見を提供しています。私たちは知るべきです!

> 1.5度を達成する排出経路は、未知数のジオエンジニアリングなどを使わないで
> も達成できる道があることが示されました。不可能、と決めつけるのではなく、
> 検討の材料として真摯にこの報告書の内容を検討することが、日本にも強く求め
> られます。

小西さんがお書きになった岩波ジュニア新書もわかりやすいです。

『地球温暖化は解決できるのか――パリ協定から未来へ! 』(岩波ジュニア新書)

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第48回総会において採択された1.5度特別報告書が、10月8日に韓国仁川にて公表されました。これは、世界の平均気温が産業革命前に比べて1.5度上昇した場合の影響や、1.5度を達成する排出シナリオを示したものです。195の政府が承認したこの報告書は、パリ協定の長期目標の努力目標である1.5度以下を検討する重要な科学的根拠となります。

この報告書では、はじめて1.5度上がった場合の影響が示され、1.5度が2度よりも様々な面においてより安全であることが明らかになりました。またどのようにすれば1.5度を達成できるのか、いくつかの排出経路(グローバル)が示され、具体的な方策が示されました。

簡単に報告書の概要と、承認されるまでの議論の様子をお伝えします。

(※速報ですのでデータに間違いがある可能性があります。1.5度報告書をご確認ください)

人間活動によって、産業革命前に比べて約1度気温が上昇しており、現状のまま温室効果ガスの排出量が増加するならば、2030年から2052年の間に1.5度に達する見込みが示されました。

これまで研究が進んでいなかった1.5度と2度との影響の違いも今回の報告書で初めて示されました。気候モデルは、1度上昇の現状と1.5度上がった場合と、1.5度と2度との間に、大きな違い(robust difference)があることを示しています。

これは、たとえば居住地における異常高温、激しい降雨、干ばつのレベルの差に見られます。台風に関連する豪雨も2度の場合には1.5度よりも多くなることが予測されています。また、2100年に海面上昇は、1.5度の場合は2度よりも約0.1m低くなると予測されています。これは海面上昇に関連するリスクにさらされる人口を1000万人まで増加させるレベルです。

また、影響を受ける昆虫や植物、脊椎動物も1.5度と2度の場合に2倍以上異なる予測です。さらに人の健康に対する影響にも差があり、2度の場合は、1.5度の場合と比べて、熱中症に関連する罹患率および死亡率も高くなり、マラリアやデング熱などリスクも高まります。この報告書はこういった影響に対する備え、適応のオプションをも示しています。

2度と1.5度の影響の違いに関してインフォグラフィック(WWF作成)がありますので、のちほどWWFウェブサイトでご高覧ください。

※こちらかなと思います。とてもわかりやすいです!(エダヒロ)
https://blogs.wwf.org.uk/blog/climate-energy/1-5-degrees-paris-agreement/

そして1,5度を達成する排出経路について新しい研究成果が示されました。

ほとんどのオーバーシュート(いったん1.5度を超えてから戻ること)しないモデル排出経路(with no or limited overshoot)では、2030年に2010年比で約45%温室効果ガスを削減し、2050年ごろには実質ゼロにする必要があると示しました。ちなみに2度未満に抑える排出経路は、2030年に約20%、2075年ごろに実質ゼロと示されています。

異なる緩和戦略によって、1,5度を達成する4つの説明的な経路が示されており、中でもP1と呼ばれるモデル排出経路は、大気中からCO2を除去する技術(CDR)やCCS(炭素回収貯留)も使わないで達成する道筋となっています。これらは、今後10年単位の早期の対策の強化がカギであることが指摘されています。

対してP4排出経路は、経済成長とグローバリゼーションが高炭素ライフスタイルを継続させるシナリオで、大量にBECCS(バイオエネルギー+CCS)など空気中から炭素を除去する技術を前提としています。

オーバーシュートしない1.5度排出経路(with no or limited overshoot)においては、再エネは、2050年には電力の70-85%を占め、ほとんどの排出経路で原発とCCS付き化石燃料の使用は増加します。どの排出経路にも共通しているのは、電力における石炭の使用は急激に減少し、2050年にはほぼ0%になることです。

報告書には、パリ協定に提出されている2030年までの現状の各国の国別目標では、3度程度の上昇をもたらすことが明記されています。1.5度達成経路に必要な削減量は、2030年に2010年比で40~50%と示され、対策が遅れれば、より達成が困難になることも指摘されています。

そして対策には、非国家アクターとのパートナーシップや国際協力の強化が重要であると示されています。

この報告書のSPM(政策決定者のための要約)が195の政府によって承認されるまでの間には、政府間の激しい応酬があり、5日間の日程のうち最後の2日間はほぼ徹夜となって翌日までずれ込みました。しかし最終的には各国政府のコンセンサスの下で科学的に厳格な報告書がまとまりました!

1.5度上昇した場合にすでにあらゆる面でかなりの悪影響が予測されることを初めて示したこの1.5度報告書は、この夏に猛暑や洪水などの極端な現象を経験した日本にとって、貴重な知見を提供しています。私たちは知るべきです!

そして今まで日本ではほとんど議論の遡上にも上がらなかった1.5度を達成する排出経路は、未知数のジオエンジニアリングなどを使わないでも達成できる道があることが示されました。不可能、と決めつけるのではなく、検討の材料として真摯にこの報告書の内容を検討することが、日本にも強く求められます。

対策が遅れれば遅れるほど、実現がより困難となることが改めて示された今、たった今からの早期の行動が私たちにもっとも求められています。日本は早期にカーボンプライシングなどの効果的な削減政策を導入して削減を進め、再エネシフト、石炭のフェーズアウトの決定など、今できることを直ちに進めていくべきです。

12月に開催されるCOP24において、タラノア対話の重要な要素となるこの1.5度報告書は、2020年のパリ協定の実効力のあるスタートに向けた議論の科学的根拠となります。2019年G20のホスト国として日本にはこの1.5度報告書を議論に取り入れることをリードすることが求められます。

小西 雅子
WWFジャパン自然保護室 室次長  
博士(公共政策学) 気象予報士
(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
URL: http://www.wwf.or.jp/

~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~

「2019年G20のホスト国として日本にはこの1.5度報告書を議論に取り入れることをリードすることが求められます」というところ、委員を務めている「パリ協定長期成長戦略懇談会」でもしっかり伝え、求めていきたいと思います!

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ