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エネルギー情勢懇談会最終回より「可能な限り原発依存度低減」をめぐる議論

2018年05月19日

エネルギー情勢懇談会の最終提言には「可能な限り原発依存度を低減する」という文言が盛り込まれていますが、最終回まで、原発の位置づけについては意見が一致しませんでした。今回は最終回の会合での、原発の位置づけについての事務局の説明、各委員の発言をしたのか、エネ庁の対応について、その部分だけを抜粋してお伝えします。

実際の発言やその他の発言については、この下の方にある「動画」をご覧ください。
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/009/

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~

エネルギー情勢懇談会(第9回)平成30年4月10日

「各エネルギーの選択肢が直面する課題、対応の重点」をめぐる発言から要旨を抜粋

<事務局説明>

・原子力については、やはり福島第一原発事故の経験を教訓に、我が国としては安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原子力発電への依存度を低減するとの方針は堅持する。

・脱炭素化の選択肢である原子力に関しては、世界的に見て、一部で脱原発の動きがある一方で、安全性、経済性、機動性のさらなる向上への取り組みが始まっている。

・我が国においては、さらなる安全性向上による事故リスクの抑制、廃炉や廃棄物処理などバックエンド問題の対処といった取り組みにより、まずは社会的信頼の回復が不可欠である。

・このための人材、技術、産業基盤の強化に直ちに着手し、安全性、経済性、機動性にすぐれた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発も進めなければならない。こうした福島第一原発事故の原点に立ち返った責任ある取り組みこそ重要である。

・この原子力の部分については、枝廣委員、船橋委員、中西委員、飯島委員、坂根委員からそれぞれご意見をいただいた。

○船橋委員

・大きな方向性は2つあると思う。1つは再生エネルギーを主力電源として、原子力も一つのオプションとして残すこと。もう一つは、分散化とデジタル化という技術革新によって、消費者が電力を自分でやりくりする、管理するという社会イノベーションを進めていくということ。国民一丸となって、市場、需要、地域という大きな面で脱炭素社会に向けていこうということが大きなメッセージであり、これを内外に明確に示し、市場にそのシグナルを明確に伝えることが政府としてのこれからの非常に大きな仕事になる。

・再生エネルギーを主力電源とするという明確な方針を出したが、重要なことは、再生エネルギーを「正義」にしないということ。そうすると、再生エネルギーに都合の悪いものが出きても隠そうとするかもしれないから注意すべき。

・原子力は脱炭素の一つのカードだが、私はむしろエネルギーセキュリティーの観点で残しておくべきオプションだろうと思う。もちろん、ここは原子力の安全規制のリスクとガバナンス、特にソフトウェアのところとバックエンド、この2つが前提で、ありこれをしっかりやらなければ原子力は使えない。

○坂根委員

・今回のこの提案は、地球温暖化問題との対応は整合がとれているかは極めて疑わしいと思う。

・2009年から2013年、経団連の環境安全委員長としてCOPに5回連続参加し、2014年からは総合資源エネルギー調査会の会長としてエネルギー基本計画づくりをやってきている経験から、この問題の本質は「2050年もしょせん一里塚であって、最後はとにかく化石燃料はなくなるのだから、その後のエネルギーをどうするか。一方で、そこまで地球温暖化はもつのか」だと考えている。

・「化石燃料がなくなった後のエネルギー確保は何でやるのか」が一番本質的な問題。そこまでを化石をばんばん使っていたら地球温暖化がもたないから、2050年で少なくとも先進国はCO2を80%削減しようというのがパリ協定。エネルギーと地球温暖化問題というのは全く不可分の関係。

・現行の2015年につくった2030年の基本計画では、再エネ+原子力で44%。44%をゼロエミエネルギーでやって、CO2は26%の削減だ。2050年の80%削減は、どうやったら実現できるのか私には想像ができない。

・提言案の19ページに今回も「原子力は限りなく削減」といった従来のスタンスが書かれているが、「地球温暖化問題の80%減」を頭に置いたときに、これには全く合理的な根拠はないと思う。 脱炭素=「水力を含む再エネ」ではない。プラス原子力だ。

・同じ島国の英国は原発を諦めていない。日本はドイツを参考にしてきているが、隣国と自由に電力を輸出入している国なので、明らかに日本とは状況が違う。だが、彼らも脱原発と言ったものの、もう壁にぶつかっている。隣国のフランスが原子力比率を下げていって、原子力発電の電気を売る余裕がなくなってきたらドイツはギブアップだ。

・だから、エネルギー問題と温暖化問題は合体しない限り絶対に答えは出ないというのが私の主張だ。したがって、政府は原子力問題から逃げないでほしい。

・パリ協定の80%削減について、「これだけ原発事故を起こした国だから勘弁してくれ。80%削減はとてもこの国はできない」というなら、それも一つの行き方だと思うが、今の段階で80%削減をギブアップする理由づけは難しいだろう。だとしたら、中西委員も前回言われたが、「原子力比率を限りなく削減」という表現に私は反対だ。

・2030年に向けてのエネルギー基本計画づくりでは、少なくても3.11の前よりは原子力比率を下げているが、それから先に本当に原子力比率が下がるのか、厳密にCO28割減を検討したときにそうなるのか、大きな疑問を持っている。

○枝廣委員

・大きな方向性としては、「再エネを主力電源化する」ということ、「原子力発電の依存度を可能な限り下げていく」という2つの柱を大きく掲げていること、そして、私は今回の一番大きなポイントは「分散型」だと思っているが、それもきちんと位置づけられていて、全体的には良いと思う。

・原子力の位置づけについては、19ページにある(19ページの記述:「我が国においては、更なる安全性向上による事故リスクの抑制、廃炉や廃棄物処理などのバックエンド問題への対処といった取組により、社会的信頼の回復がまず不可欠である。このため、人材・技術・産業基盤の強化に直ちに着手し、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発を進めなければならない。福島第一原発事故の原点に立ち返った責任感ある真摯な姿勢や取組こそ重要であり、これが我が国における原子力の社会的信頼の回復の鍵となる」)

・しかし、技術開発だけでは社会的な信頼は回復できない。特にバックエンド、核廃棄物にしっかり取り組んでいかないと、原発の再稼働やその先についての話もできない。

・坂根委員と同じく、政府は逃げてはいけない。私は原子力発電を進めないほうがいいと思っているが、進めなくても核廃棄物は何とかしないといけない。「トイレのないマンションだ」というだけではなく、では、「どうやってトイレをつくるか」をしっかりやっていかないといけない。

○飯島委員

・全てのオプションを保持するという総力戦の対応に、科学的レビューを入れているという意味では、提言としてはきれいによくできていると思う。

・しかし、電源についてのメリハリが利き過ぎている。私が心配するのは、「では各電源、例えば原子力、再生可能を含めた人材をどう確保するのか」というときに、提言で「原発はどんどん低減していく」となっているとき、そういった斜陽産業に人材は本当に行くのか。

・今度どうやって原発人材を養成していくのか、電源開発をするときの投資をどのように進めていくのか、政策対応が重要になってくる思う。

・原子力の取り扱いについては、エネルギーセキュリティーの問題もあるが、今後大事なのは、脱炭素の重要な有力な選択肢だと考えたときに、「脱炭素」では原発と再生可能エネルギーは表裏一体だということ。

・現在のエネルギー基本計画で、「2030年にゼロエミ電源を44%に」というとき、原発は20~22%、再エネは22~24%と数字が決まっているが、そうではなくて、この比率はフレキシブルに移動させるぐらい、原発についてはしっかりとした技術革新をしながらやっていかないといけない。「減らしていく、どんどんなくなる」ということだと、優秀な人材は集まらない。下手をすると、原発についても外国人材に頼らざるを得ない形になる。

○日下部資源エネルギー庁長官

・皆さんの議論を聞いていて、「2050年のマイナス80%」という目標は相当高いと思っている。さらにその先に、坂根委員の言うように、最後は化石資源が枯渇をしたときにどのエネルギー源で食べていくのか。そうなってくると、自然エネルギー、あるいは原子力という選択肢に焦点が集まってくる。中西委員の「核物理の基盤を残しておかないといけない」という議論もそこに共通する課題だ。今回の提言全体では、「全ての選択肢の可能性を追求する」というところが基本になっている。

・その上で、全ての選択肢が完璧かと言えば、再生可能エネルギーも原子力についても、たくさん課題がある。その認識は各委員共通だと思う。

・どの課題の解決が容易なのかも、最後は技術革新のブレークスルーがないとわからないので、今の段階では見きわめがたいという、難しい局面だ。

・したがって、提言に書かれているのは「脱炭素化に向けて、可能性のある選択肢は捨てない」。捨てないということは、その課題については正面から取り組むという方針を打ち出すということ抽象的に言っていてもだめなので、「科学的なレビューメカニズム」という議論をしている。ある特定の情報だけで物事を判断するのではなく、全ての情報をきちんと集めて、そこでメリハリをつけて、国民的にもコンセンサスを得て、手を打っていく。

・もう一点、福島第一原発の事故の経験は、非常に重いものだと、この議論を通じてやはり感じている。

・福島第一原発の事故を経験していない、例えばほかの国であるならば、原子力のありようについて、再生可能エネルギーと相対的にどちらを主力という議論は全く要らないと思うが、原子力の扱いについてのメッセージについては、やはり3.11の事故を踏まえた上でのスタンスが大事ということで、こういう方針を書いている。

・坂根委員や飯島委員から、全方位をやると言っておきながら、1つの選択肢について、特定のベクトルを出すことについての懸念や問題意識が出されているが、一方で、この提言では原子力について、単に「依存度低減」と書いているわけではなく、「社会的な要請に向けて、さらに進化をしていく、その挑戦も必要だ」ということも書いている。

・最後に残るのは、どうしてもこの「原発依存度を低減する」という方針になるが、事務局の整理としては、そういった今までの議論を踏まえた上で、「全方位で全ての可能性を追求する」。

○小澤資源エネルギー政策統括調整官

・長官のコメントに少し補足すると、脱炭素化の中で特に重要な選択肢である再生可能エネルギー、原子力については、それぞれ人材、技術、産業基盤の強化に直ちに着手して、挑戦していくというメッセージを盛り込んでいるとご理解いただきたい。

○白石委員

・先ほどの飯島委員の「本当にこれで将来きちんとわれわれが行ってほしいというところに人材は行くのか」というのは非常に重要な問題。特に原子力の課題解決方針のところでは、少なくとも技術開発投資については今以上の水準の資源を投入するくらいのことは入っておいてもよいと思う。

・原子力発電の依存度をどうするかは、最終的に政治家が決める問題というか、政府が決める問題。政治家が逃げているから、ある意味こういうところに課題がおりてきていると常々思っているが、少なくとも技術投資については、「今以上の水準は維持すべき」ぐらいのことは入っておいてよいと思う。

○坂根委員

・パリ協定の80%を原子力ゼロで実現するというのは、一体どんなエネルギーミックスなのかという試算を粗くてもよいのでやってほしい。

・「技術自給率」については、現実の産業界にかかわっている中西さんや私や飯島さんからしたら、投資機会のないようなものに民間はビジネスも研究開発投資もするわけがない。海外に投資機会があることが明確ならまだ良いが、今の状態では、ビジネスとして「やってみよう」ということにならない将来性なら、人材投資は行われないに決まっている。

・私は今、福島の廃炉の委員をやっているが、40年間人材投資が続くのか、本当に心配に思う。今大学卒業した人が定年までの期間、それは一方で原子力というものがありながらの話。

・この国の将来考えたときに、本当に経済活動の中で成り立つものにしていかないといけない。それを、国民にわかりやすくどう言うかが、今回の提言の勝負ではないか。空論ばかり言っていても、誰もやる人がいないような社会になったら、成り立たない。

・私はそのころには生きていないので、若い人にぜひ本当に理解してほしい。本当にひどい世の中になる。

○枝廣委員

・「原発の依存度を可能な限り低減する」をめぐっての議論だが、1つは、長官が言うように、福島事故がなかった国とは違う選択、考え方を私たちはしないといけない。福島はもちろん東電の責任でもあるが、国の責任でもある。「各国はそれぞれ固有の条件を鑑みながらエネルギー政策をつくらないといけない」というならば、日本は福島事故が起こった国であるということは、その固有の条件の一つに入れざるを得ない。

・その責任感からの姿勢として「可能な限り低減する」と打ち出している。人材や資本・資源が集まるかに関しては、打ち出し方として「バックエンド、それから安全性、経済性、機動性に優れた炉の追求等、新型の新しい技術の開発である」と書いてある。廃炉、それから核廃棄物については、技術が絶対に必要。そこをしっかりやっていくことは、日本の国としても必要なので、人材等にきちんとアピールするように打ち出すのが良い。

・坂根委員は「原子力の依存度を低減すると、ひどい世の中になる」とおっしゃったが、本当にそうなるのかを、きちんと検証する必要がある。

・いくつかの独立系の研究所などが、「2050年に向けて、パリ協定の80%削減と原子力ゼロを両立するシナリオは可能」と発表している。「2050年では無理」という研究所もある。それらを持ち寄って、どこまでが同じ前提を置いていて、どこか違っていて違う結論になっているのか、そこをどのように乗り越えていったらいいのかを議論・検討していく場をつくってほしい。

○中西委員

・原子力産業は、始めたら100年やめられない。社会的責任も含めてそういうものだという認識がなくては、この産業には入れない。そういう前提に立つと、経営者としては何とかやれるようにするという義務がある。それが一番大きな仕事だ。

・3.11の直後には、株主総会でも「原発やめろ」という話がずいぶん出たので、私は「とんでもない」と反論した。今はそういう声はなくて、無視されている。「あいつかやっている限りはやめないから大丈夫」と思われているのかもしれないが、これはやはりちゃんと真正面から議論して、どういうふうに受け止めてやっていくかを考えるべき。きちんと政治も含めて真正面から議論することを継続してやりたい。さもないと、本当に坂根さんの言われるように、足りる足りない以前に、とんでもないことになる。

○日下部資源エネルギー庁長官

・再生可能エネルギー系の技術でも、原子力系の技術でも、それぞれの課題があるので、日本として人材と技術と産業基盤の強化に着手をしろと書いている。

・これを受けて、政府はどういうアクションをとるんだという議論があるが、一方で、産業界サイドはこれに応えてどういう提案をやっていくのかもある。この2つがあって初めて、船橋委員の言う「能動的な対応」という議論になるのではないか。

・今回は、数字を特定して何%と言っていないので、考え方自体が伝わりにくいところもあるとは思うが、日本が直面している危機感を主体的に捉えて、エネルギー転換と脱炭素化という、この軸をぶらさずに、次の社会に向けて人と産業と技術について、そこに集中投資をしていくということをうまく伝えるものになっているかをもう一回見させていただきたい。

・今回が最終回なので、エネルギー情勢懇談会の提言について、議論を踏まえた上で、事務局で預からせていただければありがたい。

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~

というやりとりがあって、事務局預かりとなり、最終的には、修正することなく、「可能な限り原発依存度を低減する」という文言は残りました。

この提言は、エネルギー基本計画について議論する総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会の第26回会合(4月27日)に提出されました。
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/026/

この提言を反映する形で、第5次のエネルギー基本計画が策定されることになります。現在、上記の資料を見ていただくとわかるように、骨子案について議論されています。

実際のエネルギー基本計画に、2050年の長期的なエネルギーについて議論してきたエネルギー情勢懇談会の提言がどのように結実するのか、注視していきたいと思います。

 

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