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伊那里イーラ「ボランティアガイドブック」より、川廷昌弘さんとのSDGs対談

2018年04月19日
伊那里イーラ「ボランティアガイドブック」より、川廷昌弘さんとのSDGs対談

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「農村と都市企業との共生についてSDGsを通して考える」をテーマに、SDGsの普及・啓発に尽力されている博報堂の川廷さんと対談をさせていただきました。長野県の伊那里地域で活動するまちづくりNPO・伊那里イーラさんからのお声がけです。川廷さんからは南三陸の事例、私からは北海道の下川町、島根県の海士町の話など、たっぷり話をしていますので、ぜひご覧ください!

内容は下記サイトやデジタルブックでもご覧いただけます。

【伊那里イーラ ボランティアガイドブック】

ちなみに、以下の私のプロフィールは、東京都市大学の所属になっていますが、この3月末をもって都市大を卒業しました。今年の8月から、大学院大学至善館で、持続可能性とシステム思考などの授業と、社会起業・地域起業のゼミを担当する予定です。
http://shizenkan.ac.jp/

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~

伊那里イーラの都市交流プログラムは、農作業や環境教育、食育、田舎暮らしをはじめ、自然環境に恵まれたこの地域ならではの体験が200近く用意されています。

このプログラムに参加するのは、主に都市企業の社員の方々で、目的は社員研修や環境・CSRの一環として活用されています。運営は、地元の人びとが主体的に行っており、地元の人たちと都市企業の人びとが直接交流するため、深いつながりができると評判です。

今回は、こうした農村と都市企業との共生について、今注目のSDGs(※)の視点からどう見えるのか、SDGsの公式日本語クリエイティブおよび公式公共映像の制作に携わった博報堂の川廷昌弘さんと、環境ジャーナリストで東京都市大学教授の枝廣淳子さんに語っていただきました。地域、企業とそれぞれの立場でどうSDGsとのつながりを考えるのか、さまざまな事例にヒントが詰まっています。

SDGs(※)とは2015年9月に国連で全会一致で採択された「持続可能な開発目標(SustainableDevelopment Goals=SDGs)」。ミレニアム開発目標(MDGs)の後継で、17の目標と169のターゲットから成りたち、2030年までの達成を目指す。

■プロフィール
川廷昌弘
博報堂広報室CSRグループ推進担当部長
1986年博報堂入社。2005年より環境省「チーム・マイナス6%」に関わり環境コミュニケーション領域に専従。2010年「生物多様性条件締約国会議(COP10)」で「教育とコミュニケーション」決議で提言し成果を挙げるなど非営利活動にも取り組む。グローバル・コンパクトネットワーク・ジャパン SDGタスクフォース・リーダー、公益社団法人日本写真か協会の会員で写真家協会でもある。

枝廣淳子
東京都市大学教授、幸せ経済社会研究所所長
『不都合な真実』(アル・ゴア氏著)の翻訳をはじめ、環境・CSRに関する講演、執筆、コンサルティングや異業種勉強会等の活動を通じて、国内外の動き、新しい経済や社会のあり方、幸福度、レジリエンス(しなやかな強さ)を高めるための考え方や事例を研究。企業や自治体での合意形成に向けての場づくりやファシリテーターも数多く務める。

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■SDGsは幸せな社会や地域を作るために必要な目標

川廷:「国連が採択した目標」と聞くと、グローバルや国際的な目標であって、自分にはあまり関わりがないと思うかもしれません。でも、実際には「国際」という国も、「グローバル」という国も存在しませんよね。「グローバル課題」というのは、一つ一つの課題を突き詰めると、実は、自分たちの地域コミュニティで起こっている様々な課題とつながっている。世界の課題は複雑で多様性に富んでいます。それを人類の共通ビジョンとして、国連が17の目標と169のターゲットに整理したのがSDGsです。

枝廣:私は、SDGsについては「持続可能で幸せな地域」や「社会や国、世界をつくるための考える枠組み」と説明しています。温暖化のような個別の課題はあるものの、持続可能で幸せな社会や地域をつくるために必要な17の目標に整理して解決に導くものだと思います。どこの地域や社会でも持続可能で幸せな社会を作ろうと思ったら、濃淡はあっても目標は必要です。もちろん、全ての地域が目標すべてに取り組む必要はありません。ただ、少なくとも17の目標をひとつひとつ確認するチェックリストとして使ってもらえたら、と思います。

川廷:CSRや経営企画に携わっている企業の方から、「CSRとSDGsってどういう関係があるのですか?」とよく聞かれます。その時には、SDGsはCSRや社会課題のガイドラインであり、同じくチェックリストでもある、と伝えています。今までは目の前の課題をやらなければいけないことが多かったと思いますが、世界の優先課題と言われるSDGsの17の目標ができたことで、自社の取り組みとどう関係があるのかをチェックし、改善策に生かすことができます。

枝廣:また、企業にとってはESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮している企業に投資すること)のうごきがSDGsを語る上で欠かせないと思います。ESG投資は今や世界全体の3割以上、ヨーロッパだと6割ぐらいまできています。日本はまだ1%ですが、 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の動きもあり、日本も大きくESG投資に舵を切りました。ESG投資をする判断基準の1つとしてSDGsが使われているので、今企業がこぞってSDGsに注目していますよね。

SDGsでおもしろい取り組みをしているオランダのDSMという企業を紹介しましょう。この会社は高機能プラスチックなどを扱う総合化学メーカーで、10年前に本部の社長が変わったことがきっかけでSDGsに取り組み始めたのですが、とても本気度が高いんです。

例えば、どの部署も自分たちの事業がSDGsとの位置づけを証明できないと、事業自体をやめさせられますし、経営陣も保有するストックオプションがダウジョーンズのサステナビリティ・インデックスやGHG(温室効果ガス)の効率改善などの環境指標に連動させるなど、さまざまな評価につながるようにしているんです。トップもボーナスやインセンティブも変えたらやっぱり会社の意識は変わりますよね。

川廷:素敵ですね。圧倒的に意識が変わりますよね。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのSDGsタスクフォースも関わって、企業のSDGs認知度についてのアンケート調査を2017年度に実施し、経営層の認知度は28%、中間管理職は5%程度という結果でした。経営層はESG投資の評価にただ注目するだけでなく、自社の社員に伝えていかないと、事業部はこれまでと変わらず、今日明日の売上に走ってしまいます。担当役員から「SDGsとこの事業は、このようにつながっているね」という助言がもらえたら、中間管理職の意識にも変化が現れますね。

枝廣:日本の企業はボトムアップばかりが多く、せっかくの動きが途中でどこか消えてしまっているんですよね。

川廷:SDGs推進に向けた企業の取り組みは、国連からも非常に期待されています。期待されている分、日本企業は、経営層と社員が一丸となってSDGsに取り組んでいきたいですね。

■日本特有の課題にも、SDGsは活用できる

枝廣:次に、地域と都市の関わりについて考えてみましょう。SDGsの目標11に「住み続けられるまちづくりを」というのがあって、ここでのまちづくりは「都市」について言っています。人口の半分以上が都市に住む時代なので、都市問題ももちろん重要なのですが、一方で、日本ではこれから人口減少で過疎地域が急速に増えていくことを考えると、「地域」も同じように大事だと思うんです。

ただ、世界では「地域」はまだそこまでの問題になっていないため、SDGsの目標の中でも意識が薄い気がします。ですので、SDGsを日本に照らし合わせて使うときは、「sustainable city」のところを「city」だけじゃなく、地域も都市と連携が図れるような枠組みだと良いと思っているのですが、川廷さんはその辺はどのように考えていますか?

川廷:私が関わっている南三陸では、日本ではじめてASC認証、牡蠣の養殖認証を取得しました。今までは養殖の牡蠣の育て方は、たくさん牡蠣棚をつくって、3年かけていっぱい育成していました。この方法では、働く人にとっても牡蠣にとっても労働環境や育成環境に課題が多く、様々なリスクを考えて、必要以上に牡蠣を生産しなければなりません。

でも、3 11の津波で、すべて流されてしまったんです。まさにゼロスタート。生活の基盤がなくなってしまっているわけですから、極端にいえば、マイナススタートです。そんな中でまず牡蠣の漁師たちが、今まで通り牡蠣をたくさん育てていくのか、議論を重ねた結果、「よし生産量を減らそう」となったんです。そこで、彼らはポイント制を導入し、年功序列ではなくて、子育て家族をはじめ経済的に必要なところにちゃんと分配しよう、と意見がまとまりました。

枝廣:へー、すごいですねー!

川廷:ポイント制を導入したら、なんと1年で生産量を3分の1に減らせたんです。それだけ減らせたら当然、持続可能な漁に変わってきて、ASC認証の取得ができたわけです。実際1年やってみて売上自体も以前と変わらなかった上に、これまで3年かかって育てていたのが1年でぷりぷりの牡蠣ができたんです。週末に子どもたちと遊べる時間もでき、まさにディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の例ですね。彼らにとってこれが持続可能で幸せな生活なんだと、現場をみて感じています。

枝廣:うーん、説得力がありますね。

川廷:再スタートをきることができたのは、当然その地域に豊かな自然資源があったからですが、地域で生産量を減らすという選択やポイント制を導入したことで、結果、皆がやりがいを感じ、家族との時間ができる、さらには若者の就労が増えて街が若返りしているという循環につながっているんです。対処療法ではなく、根本治癒。これぞまさにSDGsです。

枝廣:私は島根県の海士町の総合戦略策定のお手伝いにずっと関わっていて、昨年からは北海道の下川町のお手伝いも始めています。お手伝いをして一番思うのは、地域に経済をもう一回取り戻さないとだめだなと思います。

ちょうど、「地元経済を創りなおす」っていう本を書いているんですけどね、都市に住む人が、地域に移住しても仕事がないと、また都市に戻ってしまうので、地域にしっかりした経済が回っていることが重要だと思います。それには、これまでのような中央からお金を持ってくるような交付金や企業誘致では、地域内で循環せず、地域の外に資源(人・モノ・金)が流れていってしまうんです。

調べたところ、日本には人口3万人以下の自治体が900位あって、これは全自治体の面積の50%ほどになるんです。だけど人口3万人以下の自治体の人口でみると、対象地域を全部合わせても日本の人口の8%ぐらいにしかならないんです。一方、面積で合わせると国土の48%にもなる。つまり、8%の人たちが国土の半分を守ってくれているわけです。もしその地域で、経済が回らなくなって人が住まなくなったら、国土も守れないことになります。

たぶんSDGsを作った時にはこういう問題は全くなかったと思います。むしろ世界では、人口が増えて困る、という視点です。日本でSDGsについて取り組むときに世界で決めた17目標には抜けていて違うものを入れていかなければいけません。例えば企業がSDGsを進めながら、日本の地域の問題解決にも資するというような、そういう枠組みができるといいなと思いますよね。

川廷:SDGsには169のターゲットがありますけど、ここに当てはまらない日本特有の社会課題はいくつもありますよね。よく私も講演するときには「おそらく企業担当者としてSDGsの17の目標や169のターゲットと自社の活動を照らし合わせてみると、しっくりくるものがないと思います」と言います。

ただ、しっくりこなければSDGsに自分たちが関われないんじゃなくて、ないならないで自分たちのSDGsを作ればいいという話をしています。169の中になければ170番目、171番目を自分たちで作ってみる。それはテーマとしてみたときには17の目標の中に入っていると思うので、それを「自分たちのSDGs」として取り組むと、具体的に何を目標としていつまでに何をやるのかが見えてきます。

枝廣:例えば、日本ではまだ東京に人が集まってきているので、地域としての18番目の目標を作ることを考えてみましょう。大都市から地方に人を戻すことが日本のSDGsにとって非常に大事な目標を掲げたとすると、何人送ったとか、どれだけのお金を地域に戻したのかを測れれば、それはそれで企業にとっても重要な指標になるんじゃないでしょうか。

川廷:ボランティアとして社員が地域に関わっている活動を、地域経済を活性化させるための企業の貢献として、社会が評価するようになるといいですね。

枝廣:下川町は、2030年までの自分たちの町のSDGsビジョンを半年で作ろうとしています。町民も一緒にこのプロセスに参加するため、「SDGsって何?」というところから勉強を始めました。そして、「内陸にある下川町で皆が川にゴミを捨て、それが海に流れ出て、その先に何が起こりうるのか」、といったような身近にある問題とSDGsにつなげて考えるようにしています。

また、こうした課題を考える時に役に立つ、さまざまな物事のつながりをたどり、俯瞰する「システム思考」と、2030年から「バックキャスティング」でビジョンを描くという、二つの手法を使いながら、皆で進めています。一方で、企業がSDGsで何かやりたいということであれば、CSR活動でできるだけ、地域と都市のつながりを上手に組み合わせていきたいですね。

■市民社会、企業、個人一人ひとりがパートナーシップを組んではじめて成果を上げることができる

川廷:SDGsは社会課題の視点でいろんな人とつながったり、共通言語として機能しはじめているので、企業の担当者は自社の課題や取り組みをSDGsと関連づけて話したほうが、理解されやすい環境になりつつあると思います。

枝廣:そこで、目標17のパートナーシップ(パートナーシップで目標を達成しよう)なんですが、SDGsではグローバルパートナーシップのことが主に書かれていますが、要は民間企業が大事なゴールに向けてやっていくためにはNGOや地域や自治体などいろいろなところとパートナーシップを組み、つながっていくことが大事なんですよね。

川廷:地域課題についての情報提供や、自治体や地域人材との連携の分野において、企業はNGOの活躍を期待しています。僕もNGOのミーティングなどで講演するときは、企業がどういう社会課題や問題意識があるのかを理解したうえで、「うちにはこんなスキルがある、こんなフィールドがある」という材料を提供するようにしてください、とお話ししています。ウィンウィンの関係づくりをするためにもNGOから積極的に企業に情報を提供していただきたいですね。

枝廣:仰るとおりですね。私は海士町以外にも南相馬にも関わっているんですけど、両方とも企業研修を結構やっています。現場に企業の社員たちが来て、町の人たちと一緒に町を歩いて、現場の社会課題を自分たちで見つけて、それに対する解決策を考えられる人を企業は養成したいんですね。

そのフィールドに社員を野に放てばできるかというとそうではなくて、ちゃんと現地で何を学びとして持ち帰ってもらうかを地域の人とディスカッションすることで地域の人との理解が深まって、解決策も見えてくるし、企業の人たちもリアルに問題解決能力が身につくんです。確かに地域やNGOは、これまではお金くださいモードだったけど、、、お金がないと動けないのでそれは必要だけど、もうちょっと対等に一緒にやっていくという感じが欲しいですよね。

川廷:まさにここで目標17のパートナーシップが考えられるんじゃないかと思います。人材教育までなかなか手が届かなくて困っている企業もまだまだあるので、お互い補いあえるようにできればいいと思います。

枝廣:地域と都市交流の視点でお話ししてきましたけど、最後にSDGsを日本で、世界と日本の問題解決につなげていくためにひとり一人がどんなことを意識して考えていくとよいと思いますか?

川廷:やはり「自分事」で考えることです。SDGsの公式日本語版アイコンを制作した時にSDGsの認知度を広げ、理解を深めてもらうために、17の目標だけでなく、169のターゲットが示していることも組み込み、2行に表現しました。

たとえば、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」は、「それは大事だよね」で、終わってしまうのではなく、「あなたが使っているエネルギーはどう?エネルギーはクリーン?」という自分が意志をもって選択ができるように。

AとB、2つの電力会社のうち、自然エネルギーの割合が高いのがBの電力会社。だけど値段が高い。じゃあ、どちらを選ぶのか。選択の結果は誰も見ていません。どちらのほうが自分は幸せなのかが、判断基準なんです。そういった「自分事」で考える意識でSDGsの公式日本語版アイコンを見てほしいな、と思います。私自身も、自分の中に選択肢が生まれ、何を考えるにしても立ち止まって考えるようになりました。「自分事」で考え、選択できるようになることは、それだけで幸せなんじゃないかな、と思います。

枝廣:これまでは単一の価値観である、経済合理性(安い方がいい、お金貯めた方が良い)だけのみんな同じ価値観だったけれど、別の価値観があるなら高い方を選ぶとか、幸せにつながるという「違うモノサシ」を持つことが大事なんですよね。SDGsの目標から自分事にひきつけて考える時に大いにヒントになりそうです。ありがとうございました。

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~~

昨年2017年は、日本のSDGs元年といえるような年でしたが、今年2018年は、さらに進んで、単に「我が社もSDGsに取り組んでいます」と、CSRレポートにSDGsのロゴをちりばめたりするだけでなく、「それでどういう成果が出てきているの?」「その先、どうするつもりなの?」が問われるようになっていくと思っています。

SDGsの取り組みを通して、社会にどのような影響を与えているのか(ソーシャル・インパクト)を測定する手法も登場しつつあります。私自身も先月その勉強のために英国に行ってきましたので、またそのあたりの動きや実例も紹介しますね!

 

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