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「これからの地域に必要な "折れない力"とは」~海士町での講演録より

2016年05月26日 |コラム

昨年、島根県の離島・海士町の福祉協議会主催の集まりで、「これからの地域に必要な"折れない力"とは」という演題でお話をさせていただきました。「レジリエンス」がキーワードです。講演録をお読みください。

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~

皆さん、こんにちは。今ご紹介いただきました枝廣です。海士町にお邪魔するのは、今回で5回目です。

最初のころは、来ると嵐で船が欠航。「枝廣が来ると嵐だ」みたいな話になりました(笑)。昨日も来た時は雨がすごくて、嫌な予感がしましたが、今日は晴れて、うれしく思っています。

今日は地域福祉の発表会の前座として、いろいろなほかの地域や世界の様子を見ていて思っていることを少しお話しさせていただいて、この地域でやってきたこと、そしてこれからやっていくことにとって、何らかのヒントになったらうれしいなと思っています。

「折れない力」というのが今日の私のお話のテーマになっていますが、まず、どうして最近このようなことを考えるようになっているかをお話します。私は、元アメリカの副大統領だったアル・ゴアさんの『不都合な真実』という本の翻訳をしたり、ずっと環境の分野で活動してきました。温暖化とか、エネルギーをどうするとか、国の委員会に入ったり、企業にいろいろアドバイスをしたり、国際的な委員会に出たりしてきています。

温暖化に関して、海士町で直接温暖化の影響を感じていらっしゃる方がどれぐらいいらっしゃるかわかりませんが「何か、最近おかしいな」と思われている方はいらっしゃるのではないでしょうか。日本の各地で猛暑や豪雨、洪水、土砂崩れといった現象が起こっています。気象庁の定義で言うと、30年に一度くらいしか起こらないものを「異常気象」と呼びます。しかし、最近は毎年のように、「今年も異常気象です」という感じになってきています。

海士町に実際にどういう影響が出るか。それはきっとこれから、もしかしたらすでに、農業や、山の様子、漁業、海の中などに変化が出てきているかもしれません。

このまま温暖化が進むと、2100年には最高で6.4度と、かなり温度が上がるだろうと言われています。洪水や雨が増える。海面が上昇する。そうすると日本全国で80%の砂浜が消えてしまうと言われています。暑さが原因で亡くなる方が2倍以上、最大13倍という予測も出ています。

海士町でも、これまでと同じように暮らしていても、暑さで体を弱めたり、亡くなったり、いろいろな被害が出る可能性があります。これはもちろん海士町に限ったことではなくて、日本そして世界中の地域が、温暖化の影響をこれから受けてしまうだろうということです。

地域が受ける影響は温暖化だけではありません。たとえばエネルギー問題があります。電気を使っている、ガスを使っている、ガソリンを使っている。私たちの暮らしは、エネルギーがないと動かないですね。この集まりだって、皆さんそれぞれ、ガソリンというエネルギーを使ってここまで来たから、みんなで集まることができていますよね。

そのエネルギーが、これから世界で1.5倍くらい使われるだろうと言われています。これは主に途上国がどんどん豊かになって、人口が増えていく。そして先進国でもまだまだ、たくさんエネルギーを使う。そういった形になってきています。

日本の場合、今、原発が止まっているので、日本の電力の90%以上は化石燃料、石油・石炭・天然ガスで発電しています。この原料が、石油で言うと8割、天然ガスで言うと2割が、ホルムズ海峡という所を通って輸入されています。

あのあたりは複雑な問題があり、イラン、イラク、サウジアラビアなどの動向などがいろいろなニュースが新聞にも出てくると思います。この海峡が封鎖されるという事態もあり得ます。そうすると、日本にエネルギーが入ってこなくなるかもしれない。石油が止まってしまうかもしれない。そういうリスクがあります。仮に止まらなくても、エネルギーを使う量が世界的に増えれば、価格も上がっていきます。

「シェールガスが出たから大丈夫だろう」と言う人がいますが、シェールガスもそんなに長くは持たない。そうすると、エネルギーの値段、たとえば、石油・石炭・天然ガスを使った電力の価格は上がっていくでしょう。

海士町と同じくらいの規模の徳島県の村のデータがあります。人口2500人の村で使っているガス、ガソリン、灯油や電力に7億円のお金がかかっています。毎年7億円のお金が村の外に出ていく。ほとんど中東にいっているんでしょうね。

多分、海士町でも同じような状況だと思います。同じように海士町もエネルギーを海外に頼っているとすると、これからエネルギーのコストや電気代が、もしかしたら2倍、3倍に上がるかもしれない、ガソリン代が2倍、3倍に上がるかもしれない。それだけではなくて、もしかしたら輸入ができなくなるかもしれない。そういうリスクがあります。

さらにリーマンショック、金融ショック。これは、根本的な原因は解決されていないので、これからまた起こると言われています。

リーマンショックの後にも、たくさんの人が失業したり、お金に困ったりしました。日本だけでなくて、アメリカが特にひどかったんですが、もしまた金融ショックが起こったら、海士町に住んでいる人たちも、もしかしたら仕事が減ってしまったり、仕事がなくなってしまったりするかもしれません。最悪は日本円が価値を持たなくなる、ということもあり得ます。円が暴落して日本円が使えなくなる。輸入もできなくなる。

暗い話ばかりしていますが、そういうことも考えなければいけないような時代になってきているのですね。

それに加えて、地域の側はどうかと言うと、これは私より皆さんのほうが実感を持っていらっしゃるでしょうね。海士は、全国の中では人口減少に歯止めを掛けている、数少ない地域の1つですが、しかし全体で言うと人口は減少しています。

日本の人口は、この100年で3倍になりました。このままだと、次の100年で3分の1になります。それぐらい、急速に増えて急速に落ちる。3分の1は落ちすぎだから何とかしましょうと、総合戦略などに取り組んでいますが、人口の維持は難しい。減り方を減らすことはできるかもしれない。それでも、100年で3倍になって、100年で3分の1になるというほどの規模での人口減少が始まっているということです。

それに加えて高齢化。そして財政。地域自体もそうだし、国からの補助金・助成金というのがこれからどんどん減っていくことを想定せざるを得ない。日本国というのは赤字で、一人当たり何百万という赤字を、国民が背負っているような所です。国はそのうち「ない袖は振れない」ということになるでしょう。今すでにそうなりつつあります。

地域に打撃を与えるようなものはたくさんあって、一方で、受けて立つ地域の土台は弱くなりつつある、という状況です。これを何とかしておかないと、何か起こったときに、ポキッと折れてしまう地域になってしまいます。それでは困る。今日、私が一番お伝えしたいのは、世界的にも「レジリエンス」が大事だよねという話になってきているということです。

「レジリエンス(resilience)」というのは英語なので、片仮名ですが、日本語にすると「回復力」とか「再起力」「弾力性」などと訳されます。私は「しなやかな強さ」と訳しています。

レジリエンスとは何か? 竹を思い浮かべてください。竹というのは、強い風が吹いたり、重い雪が載ったときに、しなりますよね。ポキッと折れないですよね。しなって、風がやんだら戻りますよね。

この「外から何か力がかかってもポキッと折れないで、また立ち直る力」をレジリエンスと言います。

たとえば金融危機が起きたり、エネルギーの輸入が止まったり、円が使えなくなったり、温暖化で非常に大変な気候になったり、そういう外からの強い力が掛かっても、ポキッと折れる地域ではなくて、それでもしなやかに立ち直れる地域しておかなければ駄目だよね、というのが「レジリエンス」という言葉の背景です。

私は、レジリエンスがとても大事だと私は思っているのですが、まだあまり知られていないので、これがどういうものかを紹介するため、『レジリエンスとは何か』という本を出しています。

心の問題でも、レジリエンスは大事です。たとえば、愛する人が亡くなったり、自分が戦争に行って大変な場面を見てしまったり。いろんな大変な状況にあって、心が折れてうつになってしまう人もいる。けれど、それバネにまた成長する人もいる。それは、その人のレジリエンスの違いだと思います。ポキッと折れてしまわないで、立ち直ってさらに強くなる。その力が心のレジリエンスです。

では、地域のレジリエンスを高めるにはどうしたらいいのでしょうか。これは、先ほど言ったように、今、私たちの暮らしは、海士町であっても、外のものに支えられているものが多い。エネルギーをはじめ、多くのものがそうですね。

海士町で使っているエネルギーのうち、海士町の中でつくり出しているのは、おそらく1%ぐらいだと思います。ソーラーパネルとか、風力発電とか、これから少しずつ増えていくと思いますが、皆さんが使っている、ディーゼル車にしても、ガソリン車にしても、なかなか置き換えは難しいですね。それらのエネルギーは現在は外から持ってきています。

食料自給率はどうでしょう? お米は、海士町でたくさん作っていて、ほかの地域に送ってあげられるほどだと思うけれど、ほかの食べ物は、どれぐらいのものが外に依存しているか。それから私たちが着ているものはどうでしょうか?

そして、今日のテーマである福祉で言えば、ケアもそうですね。福祉に必要なサービス、サービスを提供する人、もしくはそれに必要な器材などのうち、どれくらいを外に頼っているか。

暮らしに必須のものを、できるだけ域外に頼らないで、自分たちで何とかしていく。これがレジリエンスを高める一番確実な方法です。暮らしに必須のものとは、食べ物とか、エネルギーとか、仕事とか、お金ですよね?

たとえば、食料が輸入できなくなったら?と考えてみる。それでも海士町は、みんな自分たちで食べ物を作っていますから、外がどうであっても大丈夫ですよね。

日本円でモノが買えなくなったら?と考えてみる。海士町には、「ハーン」という地域通貨がありますよね。なので、仮に日本円が使えなくても、ハーンが使えれば、少なくても海士町の中では、モノやサービスのやりとりはできるよねということになります。これはとてもレジリエンスが強い状況だと思います。私は、日本のほかの地域に行ったときに、海士町のハーンの話をするんですよ。

ギリシャで経済危機がありました。あの後、ギリシャの通貨が使えなくなったので、地域通貨を作るという取り組みが生まれ、、現在では、1,000人ぐらいの人が使う地域通貨になっています。

日本円が使えなくなってから、地域通貨を作るのは、けっこう大変です。海士町のように、平時からみんなそれを使える状況になっていて、非常時にはそれに切り替えられるというのが、一番レジリエンスが高いなと思います。

このように、食べ物とか、エネルギーとか、お金とか、仕事とか、暮らしに絶対必要なものを、何もないときは外とやりとりしていたらいいけど、いざというときは自分たちで回せるようにしておけば安心だよね、という動きが今日本でもとても広がっています。

さきほどの地域福祉発表会の内容をいろいろ聞かせていただいて、海士の地域福祉モデルというのを、「エネルギーや経済を自分たちの手に取り戻す」という、世界各地で広がっている取り組みと同じように考えていくのだろうなあと思いました。

「ケアを自分たちの手に取り戻そうとする試み」。誰かに頼る、外に頼るのではなくて、自分たちのケアは自分たちで考えていこうよ、ということです。

福祉という非常に大切な分野において、ある程度の主導権を握る取り組みだということです。「国のあれがこうだから」とか、「国がこう言うから」ではなくて、福祉は自分たちにとって大事なんだから、自分たちで主導権取ってやっていこうよと。これが今回発表される地域福祉の考え方ではないかと思います。

それによって海士の社会が安定するし、何よりもみんなが安心して暮らせる。そいう海士になるよねという、そういうことではないかと思っています。

私は、あちこちの地域でお手伝いをしたり、取材しているのですが、そういう動きの部分的な取り組みは、日本の中にも出てきています。

神奈川県の茅ケ崎の取り組みですが、大災害に備えて、介護できるような資格とかスキルを持った人に事前に登録してもらう。何かあったときには、茅ケ崎の中にできる32カ所の避難所にその人たちを派遣して、介護をやってもらおう、ケアをやってもらおうということを、この4月1日に始めています。

これは大災害時に備えてですが、これは普通のときにもできますよね。地域で、「私はこういうことができる」ということをで出し合って、別に災害を待たなくても、平時でもお互いにケアをするとか、何かあったときに介護し合うとか、そういうことがきっとできるだろうなと思います。

私自身が福祉関連で何ができているかなと思ったときに、社員10人ぐらいの小さな会社を経営しています。全国的にそうですが、東京でも認知症が増えていて、認知症のサポーター養成講座というのがあります。これは2時間くらいの講座で、認知症ってどういうもので、そういう人がいたときに、どういうふうに対処したらいいか。家族にそうかなと思う人が出てきたら、どこに相談に行ったらいいかという、認知症の入門コースです。このコースを企業で受講できるという制度があるので、昨年の秋にこの講座を私も含め、社員みんなでで受けました。

そうすると、すぐに何かではないかもわからないけど、道端で、この人、もしかしたら認知症かなというときに声をかけるとか、その声のかけ方、その後、どこにお連れしたらいいか、そういうことをうちの社員が、少なくても10人が知っていれば、ゼロよりましかなと思います。こういう動きも今、あちこちで広がっていると思います。

最後に、レジリエンスをつくり出す、しなやかな強さをつくり出す3つの要素をお話しして、私のお話はおしまいにします。

1つ目は「多様性」です。1つのものに頼っていると、それが駄目になるとつらいですね。椅子の脚は、多ければ多いほどいい。椅子は3本脚で成り立ちますが、3本脚だと、1本折れると倒れますね。でも、椅子の脚が4本、5本、6本とたくさんあれば、1本グラグラしたって大丈夫じゃないですか。

たとえば、ケアにしても、福祉にしても、エネルギーにしても、食料にしても、どこか1個所に頼るのではなくて、たくさんの所を持っておくというのが1つ目です。

2つ目は、「モジュール性」という、ちょっと変な言葉ですが、いざというときは、自分たちを切り離して、自分たちだけで何とかできるようにしておくということです。

さきほど言った、円が暴落するとか、世界で戦争が起こって石油が入らなくなるとか、そういうときに、外からのものがなかったらつぶれてしまいます、ではなくて、そのときは海士町の中で何とか回るよね、という仕組みにしておく。

海士町の場合、食料はきっと大丈夫だと思いますし、水も大丈夫だと思うので、これからエネルギーとか、福祉をどういうふうにしていく、ということかもしれません。

最後の3つ目は、「何かおかしいかもしれない」という前兆を素早くとらえて、ちゃんと伝えるべき所に伝えるという仕組みを持っておくということです。でなければ、手遅れになってしまうんですね。

「このままでいいのかな?」「これ、もしかしたら危険信号かな?」というアンテナを立てて、「この信号を誰に伝えたら、ちゃんとなるのかな」と。そういった仕組みをつくっておくということです。

このあたりを、今後のまちづくりに活かしていけたらと思っているし、今日お話がある地域福祉の計画の中でも、きっといろいろな形で盛り込まれているでしょう。実現していくのは海士の皆さん一人ひとりになると思います。

そのような話をまた、後段のパネルディスカッションでもできればと思います。私のお話はここまでにします。ありがとうございました。

 

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