ホーム > つながりを読む > こども夢の商店街の「おむすび通貨」が地域を元気に強くする!

つながりを読む

こども夢の商店街の「おむすび通貨」が地域を元気に強くする!

2015年09月12日 |コラム
こども夢の商店街の「おむすび通貨」が地域を元気に強くする!

Copyright 一般社団法人 物々交換局 All Rights Reserved.

「おむすび通貨」という面白い取り組みをしている吉田大韋さんにお話を伺いました。わくわくする地域通貨の試みです! どのようにして「おむすび通貨」に至ったのか、その背後にある考え方や問題意識はどのようなものなのか、ぜひお読みください。

こども夢の商店街の「おむすび通貨」が地域を元気に強くする! 


「おむすび通貨」という面白い取り組みをしている吉田大韋さんにお話を伺いました。わくわくする地域通貨の試みです!

――もともとは何をなさっていたのですか?

大学で名古屋に出てきて、大学をやめたあと、1年くらい海外で働いていました。日本に戻ってきたあとは、しばらく洋書の輸入卸の仕事をしていました。結婚して資格をとって、今でも士業事務所を経営していますが、結婚してからずっと田舎に住みたかったんです。農作業をやるタイプじゃなかったんですよ。ただ川で釣りをしたり、山の中で遊ぶのが好きで、ただそれだけの理由で田舎に住みたかった。なので、2000年頃に当時の足助町に移り住みました。

設計士さんから紹介された土地が、宅地開発された土地ではなく、「農ある暮らし・自然との共生」というコンセプトで、地元のおじいちゃんの田んぼの指導までついてくる山林でした。それからなりゆきで、ずっと家族の米を作ってます。嫁さんも市民農園から畑を始めて、やったことはなかったのですが、今では五畝くらいの畑で家族分の野菜をほぼ自給してくれています。山羊も飼い始めて、今家に2頭います。

――おむすび通貨について教えてください。どういったきっかけと経緯だったのでしょう?

田舎に移住して、ストーブの薪を自給する技術を身につけるために森林ボランティア講座に参加したのをきっかけに、ダム問題や自然環境問題にも関心を持つようになりました。いろいろ見聞きし、勉強していくうちに、これは経済問題だと考えるようになりました。自然と経済が分断されている限り、問題は解決でき無いだろうと。これが1つです。


もうひとつは、田舎に暮らすようになって実感した「人のつながり」の豊かさです。田舎に住むようになったら、近所のおじいちゃん、おばあちゃんたちがすごく世話を焼いてくれたんです。とにかく良くしてくれて、野菜をくれたり、遊びにおいでと声をかけてくれたり。みんな、村に住んでいる人の家族構成を知っている。「あそこのおじいちゃんは今入院してるよ」とか。なんとなくお互いに気にかけながら暮らしている。だから、すごく安心できる、あったかい気がするんです。

近所の方から野菜をよくもらうようになって、「何かをもらったらお返しをしなきゃいけない」と思って、最初の頃は、都会で買ったおいしいケーキなどを買って来てお返しをしていたのですが、そのうち違和感が出てきたんです。「どんなお返しが妥当なのだろうか?」と考えているうちに、「お金に換算できない価値」について考えるようになりました。スーパーで買えば200~300円の野菜だと思うんですよ、きっと。だけど、それから得られる満足感――安心感やうれしさは、貨幣価値では換算できない。世の中に貨幣価値で換算できないものがたくさんあるのに、今はすべての価値を貨幣価値に換算して「どれだけ豊かになったか」とか言っている。その結果、人と人の結びつきが壊れてしまって、今はコミュニティの重要性が再認識されています。ところでコーヒーを喫茶店で飲むといくらくらいしますか?

――400~500円くらいですよね

じゃあ、喫茶店で飲むコーヒー1杯とご飯にしてお茶碗何杯分になるお米がだいたい同じくらいの価値だと思います? 

――5杯とか10杯とか?

コーヒーが500円として、たとえばご飯10杯分が等価だとすると、お茶碗1杯分になるお米の価値は50円ですね。だけど今、市場価格では、ご飯1杯分で20円くらいです。つまり、コーヒー一杯の価値は、ご飯で25杯分になるお米と等価ということになる。今の枝廣さんのお米に対する価値観は市場価格の2.5?5倍なんですね。そうすると、4000円くらいのコメでなくても、8000円とか1万円でもいいと思っているわけですよ。だけどスーパーに行ったら、絶対にそんな値段のコメは買わないじゃないですか? 僕らはスーパーに行って買い物をするときに3000円のコメと5000円のコメがあったら、同じものだったら間違いなく3000円の方を買ってしまうわけですよ。おかしいなと思いました。

「お金には3つの機能がある」と言われます。「交換機能」「貯蓄機能」、それから「価値尺度機能」です。お金は、売買に使われて商品と商品の交換を仲介するので、これが「交換機能」。価格を表す数字としてのお金の機能が価値尺度機能です。価格は、市場の機能で自動的に決められていく。高く売れるものはたくさん利益が出るからたくさん供給され、安いものはたくさん買いたい人がいる。その2つがバランスしたところで価格が決まる仕組みですよね。損得で考えれば合理的に見えるけれど、そこにはいろんな問題がある。

たとえば、うちの近所の農家がお米を作るのに、時給600円とか800円とか、愛知県の最低賃金くらいはもらえる賃金でお米を作ろうとすると、採算が合う売値は60kgで2万円を超えるんですよね。でも現在の農協の買い取り価格は、だいたい1万円なんです。赤字もいいところなんです。こんなことだから、農業は深刻な後継者不足になっていて、日本の食料自給率は4割を切ってしまう。

でもね、僕らは農業が大事だとかいくら思っても、スーパーに行って買い物をするときに3000円のコメと5000円のコメがあったら、同じものだったら間違いなく3000円の方を買ってしまうわけですよ。5000円の米を買ったら大損ですからね。

僕は足助に住むようになって、今まで知らなかった良さに気づいて、こんなにいい社会があるんだ、こんなに平和ないい暮らしがあるんだ、と感動しました。でも、僕が移り住んだときに1万人以上いた足助の人口が今は8000人くらいです。たった10年で20%も減っている。農林業が成り立たなくなって、若い人は都市部で工場勤めをするために出て行くからです。これは別に足助だけの問題じゃないし、都会でも同じ問題があるし、農林業だけの問題じゃない。漁業だって、職人仕事だって、商店街だって、家業的な小規模事業なら、みんな同じ問題を抱えている。いろんな家業の崩壊が、田舎でも都会でも、コミュニティ衰退の一因なんです。

いろいろ勉強しているうちに、シルビオ・ゲゼルの理論を知りました。ゲゼルが提唱したように、お金も、食べ物や衣服や家と同じように、時間が経つと価値が減ってしまえば、いろんな問題が解決するように思えました。だけれども、日本円の価値が減らないのに、どうやったら価値が減る新しいお金を受け取ってもらえるのか、それがわからなかった。

あるときふと思ったんです。価格としての数字が間にあって取引するときには、お互い「損得」を考えた交換をするから、人間関係なんて生まれるわけがないし、社会問題なんて考えない。でも、「コーヒーを飲むときに、知り合いの店だったら、僕が自分で作った米を持っていけばたぶん飲ませてくれる。でも、毎日米を背負って行くわけにはいかないから、『米ができたら交換します』という券にすればいい」と。「ちょっと待てよ、米はいずれ腐る。つまり価値の保存に限度がある。米本位のお金を作れば、ゲゼルの理論を具体化できるんじゃないか」というところから始まったんです。
それに、「お米を持ってきてくれた。それでこちらはコーヒーを出す」という、価格がぼやけた交換なら、お金を使っていても人と人との結びつきができるんじゃないか、と感じたんです。一律に価値が定まってない、人間関係が介在する交換ですよね。「交換」というと「等価交換」と思いがちですが、価格としての等価性がなくても、お互いの気持ちの等価性というか。

――お互いがいいと思えばいい。

そうそう。そういう中で、「大切に育てたお米を持ってきてくれた、それならこちらもおいしいコーヒーを出そう」という、そんな関係性が人と人との結びつきをもう一度取り戻してくれるんじゃないか、という気がしたんです。

どういうことかというと、数字としての価格が間にあって取引するときには、お互い「損得」しかないんですよね。「あそこが300円安かった」とか「ここまで安くすると利益がなくなる」という具合に、お互い損得を駆け引きしている。そんなところに人間関係なんて生まれるわけがない。だから、人がバラバラになり、個人主義になっているんですよね。仲間意識もなく、とにかく自分さえよければいい、と。

僕もそうやって育ってきたのですが、これではいけないな、と。米本位のお金を使った交換なら、コミュニティの意識みたいなこと、要するに人と人との結びつきを取り戻せるんじゃないかなと思って、おむすび通貨を始めたんです。

――どのように始められたのですか?

森林ボランティアを通して知り合った熱いおじさんたちから、「補助金をもらったから何かをやるぞ」と企画会議に呼ばれたときに提案して、内山節さんをお呼びして、5日間の山里哲学塾というのをやったんです。ただ話を聞くだけではつまらないから、みんなでちゃんと具体的に構想しようと、ゼミをやりました。

僕は「地域通貨のゼミをやりたい」って言って、村田さんという大学の先生とゼミをやって盛り上がりました。おむすび通貨のコンセプトを一緒に考えて発表したら、すごくウケが良くて、「やったほうがいいんじゃないの?」という流れになって、「そうですか、じゃ、お金出します?」と聞いたら、「出す出す」と。それで組合みたいなのを作って、そのあとでどうやってやるかを考えました(笑)。

後先を深く考えずに始めてしまったのですが、2010年に、縁のあったアースデイ・マーケットでボランティアスタッフにあげて、出店者に受け取ってもらいました。通貨として一般化するには、あげるのではなく、多くの人におむすび通貨を買ってもらう必要があって、「子どもたちのマーケットをやったら買ってもらえるんじゃないかな」と思ったんです。たまたまおむすび通貨を使った「夢の商店街」という小さなマーケットに、「子どももお店を出していいですか?」というお父さんがいて、「いいですよ」って言ったら、これがすごいかわいくてね。これなら全員子どもたちでやったほうがいいんじゃないか、と思って、「子ども夢の商店街」というのを名古屋の商店街でやったら、大変評判になりました。大人がたくさんおむすび通貨を買ってくれるようになった。2013年からの2年間で500万円を超えるおむすび通貨が売れました。

――どのような仕組みになっているのですか?

「こども夢の商店街」は、商店街アーケードなどのオープンスペースを使って開く、子どもたちの商店街です。使わなくなったおもちゃ、着られなくなった洋服や自分で作った手芸雑貨など、小学生が思い思いに自分のお店を出して売ることができます。ゴム鉄砲を作って売る子がいたり、手品ショーをする子がいたり、なにかを体験できるお店を開く子もいます。お店を開かなくても、ハローワークや警察署、放送局、清掃局など、さまざまな「オシゴト」をすることもできます。当日はたくさんの子供のお店が並び、ものすごい人出ですよ。

この、こども夢の商店街の"お金"がおむすび通貨(1むすび=50円相当)なのです。お店での売買はおむすび通貨以外ではできません。日本円を使って売買すると、警察官にタイホされます(笑)。

――どうやっておむすび通貨を手に入れるのですか?

子どもたちは、基本的に、お店を開いて何かを売るか、ハローワークで「オシゴト」を探して稼ぐしかないんです。お店を出さない子は、警察官や清掃などの「オシゴト」をして、銀行でお給料としておむすび通貨をもらいます。お給料の原資は、子供達が日本円で最初に払う住民税です。大人は当日、日本円をおむすび通貨に両替して、子どもの店で買い物をすることができます。

――楽しそうですねぇ! 

ええ、子供の発想で大人の仕事をやってみることで、自主性や自分への自信がはぐくまれるという教育的効果もあります。

――当日、夢の商店街の会場では、おむすび通貨がモノやサービスの媒介をするわけですが、当日が終わったら、おむすび通貨はどうなるのですか?

夢の商店街では、1日で40~60万円のおむすび通貨が日本円から両替され、発行されます。でも、おむすび通貨は日本円には戻せないしくみなんです。それから、こども夢の商店街でお店を出した子だけは当日に限っておむすび通貨をお米に交換できますが、一般の方はおむすび通貨をお米に変えることもできません。ですから、おむすび通貨は、地元の中小企業や個人が経営する店で使われます。おむすび通貨は、全国チェーン店とか大企業では使えませんから。

――以前、各地の地域通貨について調べたとき、発行するのはボランティアをしたらあげるとかいくらでも発行できるけど、いちばんむずかしいのは出口だということがわかりました。その地域通貨が使えるお店が少ないと、うまくいかないんですよね。提携店はどのくらいあるのですか?

現在400店ぐらいあります。チラシやパネル、Webサイトで提携店のリストを公開しています。お店によっておむすび通貨の利用上限も違いますが、その条件も含めて提携店にはステッカーが貼ってありますから、どこでどのくらい使えるかがわかります。

――提携店はおむすび通貨を受け取って、どうするのですか?

基本的には、提携店でも日本円には換金できません。最後の出口はお米です。でも、お米をあまりたくさんもらっても、ということで、ほかの提携店で使う。受け取った提携店も、他の提携店で使う。

――ババ抜きみたい(笑)

そうです(笑)。そうやって、提携店同士でおむすび通貨をぐるぐる使い回すことで、地域の中で、人のつながりが生まれ、地域経済が活性化します。提携店の人なら、豊田市でいちばん人気のスーパーでも使えるんですよ。おむすび通貨は発行するときに、通用する期限を定めています。最長で半年ぐらいですね。最後に期限が来たら、米に替えてもらうしくみになっています。うちのすぐそばでも作っている地元米です。

――その農家が最終的に受け取ったおむすび通貨と引き替えに、最初におむすび通貨に両替した日本円が行くわけですね?

そういうことです。おむすび通貨の発行団体である一般社団法人物々交換局が販売時に預かる日本円が農家に米代として支払われます。また農家にも米代の一部としておむすび通貨を支払います。

――提携店リストを見ると、たくさんの飲食店のほか、衣料雑貨、美容室、ネイル、車検やオイル交換、印刷まで、いろいろなお店がありますね。お店の参加動機はどのようなものなのでしょう?

「子どもを応援したい」という気持ちが大きいですね。「これはいいイベントだから、うちでも使えるようにしてもいいよ」って。

――これだけ盛大な夢の商店街を開催するには、たくさんの大人が関わっているのでしょうね?

お店が150~200店出るときには、スタッフが70人ぐらいかな。コアになる大人は、大学生も含めて10~20人。あと、中学生のボランティアや高校生たちも楽しく参加してくれます。学校に「こういうのがあるんですけど、ボランティアしていただけないですか」と持っていくと、たくさん集まってくれます。現場で子どもの面倒を見てあげるのは誰でもできますから。

――子ども夢の商店街を舞台にしてのおむすび通貨を展開されてきているわけですが、吉田さんが今後やりたいこと、考えていることはどのようなことですか?

僕が何のためにこんなことをやっているかというと、そもそも人間的な経済の仕組みを作りたかったからです。おむすび通貨では経済の仕組みになりません。豊田市だったら何十億とか何百億とか、そういうお金が地域通貨でまわっていく仕組みを作らなくてはいけない。それをこれからやっていくつもりです。

おむすび通貨をやってきたことで、市や商工会議所など、いろいろな人が、ボランティアクーポンでは無い、中小企業が使い合う地域通貨に興味を持ってくれるようになりました。おむすび通貨をベースとして、「中小企業が使い合う無期限地域通貨」の実証実験を行うための助成金を得て、関係者と協議を重ねているところです。

――今後の展開におおいに期待しています! ありがとうございました。

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ