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IT企業に期待すること~Yahoo!宮坂社長との対談

2014年03月27日
IT企業に期待すること~Yahoo!宮坂社長との対談

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http://www.flickr.com/photos/gaku/670438877/

Yahoo!の宮坂社長が「対談 未来への扉をひらく12人」というシリーズをなさっているなかに取り上げていただき、IT企業に期待することなどお話をさせていただきました。社会における大きな影響力を持っているからこそ、持続可能で幸せな社会に向けて、自社内のみならず、もっと大きな広がりで引っ張っていく役割に期待しています。

しなやかで、持続可能な社会

http://csr.yahoo.co.jp/dialogue/volume10/

【リード】
翻訳者を経て、環境ジャーナリストとして、世界中で情報を発信し続け、多大な影響力を有する枝廣淳子。その目には、IT企業としてさまざまな環境への取り組みを推進するヤフーがどう映っているのか。世界中を飛び回り見識を広げ、来るべき将来を冷静に分析する彼女が唱える、あるべき未来像を実現するための理想的な企業、社会の形とは──?

【今月のひと言】
破綻しかけているのは、地球上で住まわせてもらっている私たちの暮らしや文明である by枝廣淳子

■情報を誰に、どのように届けるか

宮坂 
今日は、環境ジャーナリストとして活躍される枝廣さんに、ヤフーとして今後、どのような姿勢で環境問題について取り組んでいけばいいのか、そのアドバイスをいただきながらお話を伺えればと思っています。そもそも、枝廣さんが、環境問題に関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

枝廣 私の生まれは京都なんですが、幼い頃に父の転勤で、宮城県の小さな町に移住することになったんです。小学校まで徒歩30分で、帰りはヤギに草をあげて、家に帰ったらランドセルを放り投げて山に山菜を採りに行ったり川に釣りに行ったりという生活でした。その当時、何かを感じていたわけではありませんが、幼い頃に大地とのつながりを体験していたことが自分の原点だと、今になって思うことがあります。

その後、私は大学、大学院と心理学を学び、社会に出てからは通訳を仕事にするようになりました。そこで、世界中の環境の専門家の会議に出席したりするうちに、私自身が環境問題に興味を持ち始めたんです。これは自分の問題として、もっと大事に学んでいきたいという気持ちが強くなり、誰かを代弁する通訳としてではなく、自分自身で発信する環境ジャーナリストとしての道に舵を切っていきました。

宮坂 
子どもの頃に自然と触れ合ったことが原点というお話は、僕にもすごく共感できるところです。僕自身、山口県出身で、目の前が海で、いつも自然に囲まれ、その恩恵を受けて暮らしていましたから。今でも、長野県の白馬村に毎月足を運んで、サイクリングや登山など、常に自然を身近に感じているほどです。

枝廣 
環境に関心があって取り組まれている方は大勢いらっしゃいますが、根っこの部分に、自然とのつながりの体験があるかないかで、かなり違うものだと思っています。いわば、原体験があるかどうかということでもありますよね。

宮坂 
そうですね。僕も昔から釣りスポットとして楽しんでいた浜が埋め立てられてしまったのを見たことがあります。その上に工場ができましたが、後になってその工場は撤退してしまって、残ったのはかつて浜だった空き地だけ。工場を建てる必要性もわかりますが、建てて良かった期間なんて、数十年もなかったわけです。そして、もうそこは、二度とかつての浜辺には戻らない。だから、必要に迫られて何かを壊す側は、本当に慎重に、覚悟をもって選択しなきゃいけないと思うんです。

スタジオジブリの宮崎駿監督も、今「となりのトトロ」は作れないということを仰っていました。それは、アニメーターさんの中に、かつての日本古来の草花への知識や自然の中で遊んだ体験を持っている人が減ってきたからだそうです。

枝廣 
「元の姿には戻らない」という感覚を、体験として知っているということは大事なことです。例えば環境破壊は、「飛んでいる飛行機のビスを一本ずつ抜いていくようなものだ。いつ空中分解するかわからない、それがわかったときにはもう遅い」という風に言われることがあります。感覚的な違いですが、世の中には、何かあれば何でも技術で解決すれば良いという考えの方もいます。でも、戻るものもあれば戻らないものもあって、特に自然は完全には元に戻らないのだということを知っている人の中には、原体験を抱えている方が多いです。ヤフーのトップである宮坂さんが、その原体験を抱えていらっしゃるというのは重要なことです。

そこで、ヤフーさんのような大きなIT企業が果たすべき大きな役割の一つは、戻らないのだということ、実際に今もビスが抜かれつつある飛行機のような状態にあるー自然の姿を"見える化"することだと思うんです。

宮坂 
いまこういう問題が起きていて、それを解決するためにはどうすれば良いのか、多くの人に見えやすくするということですね。

枝廣 
発信という面で大事になってくるのは、情報の見せ方や作り方、つまり発信方法だと考えています。文字でズラっと問題をあげつらい、原因を指摘したところで、人は動かない。新聞に記事が載っても、環境雑誌を立ち上げても、それだけでは状況にはあまり変化はありません。だから、ヤフーさんのような、さまざまな人たちと接しているIT企業が環境問題について、これまでとは違う方法で発信していくことで、今まで動かなかった人たち、情報が届かなかった人たちにまでムーブメントを起こしていける可能性があると思います。

宮坂 
教訓と言うか、お説教めいたことを言っても、ある種「またか」という感じで受け取られてしまうでしょうからね。

枝廣 
私は、理解しているかどうかよりも、その情報を受け取った人が行動を起こすかどうかが重要だと思っているので、そのためにどのような情報を発信していけばいいのか、そこに重きを置いています。

宮坂 
枝廣さんが考える、人を動かすための情報発信というのは、どんなものなんですか?

枝廣 
さまざまな人がいますから、人の数だけ情報受信スタイルがあります。例えば政府がやるような十把一絡げの一方的な発信スタイルでは、人は動きませんよね。だから、それぞれの関心や情報の範囲だけではなく、情報受信スタイルも多様化すること――文章だったり映像だったり、時には耳だったり、身体を動かすことで理解するというタイプの人もいるでしょうね──そういう、それぞれのスタイルにあわせ、情報のマッチング、情報の最適化を行わなければいけないんだと思います。

私は、よく環境の講演会をやります。そこに来てくださるのは既に環境に関心がある方たちです。その講演会でより環境について理解を深めてもらうことは大事なことです。けれど、もともと環境に関心のない方には、もっと別の入口を用意しないといけません。海外でも、全く同じ悩みを抱えている研究者が大勢います。お堅い学会や会議で作られた専門的な報告書を公開しただけでは、一般の人に興味を持ってもらえるとは限らないし、メディアが取り上げたところで関心を惹くことができない。

宮坂 
環境問題の関心を深めるにはいいでしょうが、広げるためには違うアプローチが必要なのかもしれませんね。

枝廣 
私は何十冊か本を出していますが、最初の2冊は環境のことについて書いた本で、いかにも環境の本というタイトルでした。その結果、環境コーナーに置かれてしまい、環境問題に興味のある方にしか届かず、私にとっては失敗でした。それで、3冊目に出したのが、「朝2時起きで、なんでもできる!」という本でした。

宮坂 
えっ! 朝2時に起きられるんですか!? すごいですね、じゃあ何時に寝られるんですか?

枝廣 
という風に、俄然、興味を持ってくださるでしょ(笑)?

宮坂 
確かに、とても気になります(笑)!

枝廣 
もともと、英語がずっと嫌いだった私が、29歳の時から英語を学んで通訳になったのですが、子どもを育てながら勉強する時間を見つける方法が、朝2時に起きるというものだったんです。そのために、午後8時には寝るようにしています。そういうノウハウ中心の本なんですが、その中に、私自身が楽しんでいる活動として、環境についての取り組みに少しだけ触れたんです。環境問題について発信するメルマガ「環境メールニュース」を出しているので、中でも面白いところを抜き出して、登録アドレスもさりげなく書いておきました。

その本は、自己啓発やビジネス書の棚に置かれて大勢の人に読んでいただき、12万部ほど売れたんですが、そこからメルマガにも数千人の人が加入してくださった。私はこれを「トロイの木馬作戦」と呼んでいますが(笑)、環境問題における正面以外の入口を増やすことで、どんどん広げていく方が実は効果的だったりします。

「環境」への関心から環境問題に携わる人は実は少ないんです。それよりも利益や自己啓発、健康、時間の使い方などをきっかけに、ちょっとしたことから環境に興味を持ってくれる方もいます。そういう人たちへの入口の重要性は高まっています。

■未来を射程に入れなければならない段階にさしかかっている

宮坂 
「情報のマッチング」に関するお話が出ましたが、まさにヤフーの主幹事業である広告サービスは、マッチング技術をもとに、ユーザーに配信する情報を最適化させるというものです。だから、ヤフーとしては、その技術を社会貢献事業に活用できないかと思い、「Links for Good」を推進しています。この仕組みは「ボランティア活動をしてみたいけれど、どうしたら良いのかわからない」といった人と、その人に合った社会貢献活動の情報をつなぐことを目指しています。

枝廣 
ええ、素晴らしい活動だと思って拝見させていただいています。

宮坂 
ありがとうございます。広告だけではないんですよ。オークションは毎月非常に多くの方が出品してくれています。だからヤフー自身は、インターネットにおいては、ある側面では既に「プラットフォーム」となっています。だから、ヤフーが何を行うのか、注目していただいている側面はあると感じています。

枝廣 
今のお話をうかがっていて思い出したのは、アメリカのウォルマートです。小売ですからヤフーさんとは業態が違いますが、ウォルマートはもともと、環境破壊型企業というレッテルを貼られていました。それが、リー・スコットという人が会長になって、大きく方向転換をして、今では環境先進企業の鏡とまで言われるようになった。

彼らがやったことは、自然エネルギーの推進や廃棄物の循環などを目標に、自社として環境問題に積極的に取り組む一方で、2000年代後半には、10万におよぶ数のサプライヤー(商品の供給者)に対して、さまざまな基準を設け、3年ほどの猶予を与えて、基準をクリアしたところとだけ取引を続ける、という宣言を出したんです。

もちろんウォルマート側がコンサルティングなどの支援を行ったそうですが、「天下のウォルマートが、環境に配慮した企業としか付き合わないと宣言した」わけですから、もうアメリカ中が大わらわになった。結果、かなり改善された部分があります。自社の環境への取り組みを固めただけではなく、企業としての力、リーダーシップを発揮して周囲までも変えてしまった。画期的な出来事でした。

宮坂 
ウォルマートが中心になって、ムーブメントを起こしたわけですね。ただ、ある意味で、市場の力学を利用したパワープレイですよね。ヤフーにも、取引先は数多くあって、プラットフォームとして広く利用されていますが、例えば僕らにできることがあるとしたら、検索エンジンのアルゴリズムに、環境への配慮というファクターを加えることではないかと最近では考えています。

インターネットにおいては、例えばECサイトであれば安いとか商品数や種類が多いとか、基本的にはインターネットの原理に基づいてその優位性は決定づけられます。逆に言えば、環境に配慮しているかどうか、社会貢献的であるかどうかということとは、一切関係がない。そういった状況を変えられるとしたら、環境に積極的に取り組んでいるサービスやプロダクト、企業というものが、ヤフーの検索エンジンの中では優遇されるという仕組み作りです。

枝廣 
それはとてもヤフーらしい、ヤフーにしかできないことでしょうね。最近になってようやく、環境のことを考慮して消費行動をするという人が増えてきていて、アメリカでは消費者の3割がそういう意識を持ち始めているというデータも出ています。しかし、せっかく増えてきているそういう人たちに対して、まともなチャンネルがありません。あっても、レパートリーが極端に少ない。消費側のニーズが高まりつつある今、それに応える企業側の動きがもっと活発になってほしいと願っているので、ヤフーさんのお話は心強いです。

EC事業であれば、最初は、出店者さんにアンケートをとるという形でもいいかもしれません。「あなた方は、環境問題にどのように取り組んでいますか?」と。そうして、ヤフーとしては環境配慮型のプロダクトや企業を応援していくつもりだというシグナルを出すだけで違います。

一度に劇的に改善することはできませんが、統計上、このままの社会を進めてしまえば、間違いなく、環境問題という面だけ見ても生物多様性も温暖化も悪化して取り返しのつかないことになってしまうことがわかっています。その未来を見据えて、ちょっとずつ、何をするかということがそれぞれ問われています。

東日本大震災以降、このままではいけないということに多くの人が気付き始めているけれど、企業が環境に配慮した製品やサービスを打ち出しても、消費者側からの反応は芳しくないということはこれからも起こるでしょう。その時に、「やっぱりダメだった」と言って諦めてしまうのか、企業側が牽引する形で、将来的には間違いなく必要になるはずの環境への配慮を打ち出して消費者のニーズを発掘していくか、です。

政府側も、再生可能エネルギー固定価格買取制度といった、市場原理にのっとって、環境に良い行動をとった方が営利的に得をするという仕組み作りを進めています。投資家たちも、環境先進企業に好意的な動きを見せ始めています。それでも、そこまで将来を見据えて行動できている企業は、多いとは言えません。

宮坂 
今の消費者のニーズだけを近視眼的に重要視してしまうと、どうしても将来に向けてやれることは狭まっていきます。不思議なことに、会社でも人でも、目先の危機には過大に反応する。けれど、僕たちが生きている今の地球において、よほどのことがない限り、今日明日でそこまで深刻なことは起こらない。しかし、10年後の危機になると、逆に過小評価し過ぎる傾向にありますよね。

枝廣 
それが人間の心理なんです。最初は平気でも気付いた時にはとっくに手遅れになっている、いわゆる"ゆでガエル"現象ですよね。

宮坂 
一方で、距離的にもちぐはぐなことが最近起きていると感じることがあります。東京の人が、なぜか地方に畑を持って、そちらでは緑豊かな自然を愛している。しかし、本拠地である東京の殺風景さには目をつむっているという。遠くの自然を愛でるより、まず自分が住んでいる土地に緑を増やすために取り組むべきです。やっぱり、どこかいびつなことが起こっていると僕は思います。

最初に原体験のお話がありましたが、自身の体験として自然とのつながりがある人にとっては、まだ環境問題は身近に感じられることだと思うんです。環境が破壊され、このままでは地球は危ないと。僕も、自然の豊かさを知っているし、ITの恩恵を黎明期から受けているという、ギリギリどちらも知っている世代です。けれど、そうではない若年層に、自然との原体験を持たない子どもたちが増えているという現実を直視しながら、彼らに対してどのようにアプローチしていくことができるか。今、それを考えなければいけないのでしょうね。

■対話が生み出す、しなやかで持続可能な社会

枝廣 
私が感じる日本と海外企業の違いは、海外では、できるとかできないとかではなく、「われわれはこうする」という方向性をはっきり打ち出す。他社がやっているから、ということではなく、地球の未来を視野に入れて、自分たちの会社が与えている影響を判断し、その中で努力目標を立てています。日本では、みんながやっているからそろそろ自分たちもやらないといけないかも、という企業が多い。

だから、私がヤフーさんのようなトップIT企業に望むのは、現在、宮坂さんを中心にさまざまな取り組みをされていらっしゃいますが、そのひとつ一つの活動に、よりわかりやすい一つの大きな軸を持たせ、企業としての旗を掲げ、社員への理解を深めると同時に、それを外側へ発信することだと思います。

先程お話に挙がった「Links for Good」はもちろん、リユースに力を入れられていたり、社員の方のボランティアを推奨する課題解決休暇を新設されていたり、大変興味深く拝見している一方で、ではそれぞれが何につながって、何を創りだそうとされているのかを、もう一度自身で問い直されて、そこからさらに強いメッセージとして発信することが大事なのではないでしょうか。

自分たちがビジネスできているのは何のおかげなのか。地球の何に依存し、どのくらい影響を与えているのか。そして、その恩恵に対して、何を返そうとしているのか。それらを評価する仕組みも存在するはずです。そうした自己分析を行った上で、ではどういった環境負担を将来的には削減し、どういう方針を立てるのかが問われています。

すべてを社内で行う必要はなく、外部の助けを得ながら、社員とともに一丸となって取り組むことで、もともと環境に関心のある社員はそれを深め、そうではない方には興味をもってもらうきっかけになる。取引先に対しても、押しつけるのではなく、メッセージとして打ち出すことで、そこに賛同してくれる企業を増やしていく。今、それができる立場にいるのは、ヤフーさんなのではないかと思っています。

宮坂 
枝廣さんにそこまで言っていただけて、光栄であると同時に身が引き締まる思いです。ヤフーとして、これまでも環境への施策には取り組んできましたが、次のステップとして、外側に発信していくというフェーズに移行しつつあるというのは、仰る通りです。

枝廣 
くり返しになってしまいますが、そうしていかなければ、どこかの時点で、取り返しがつかなくなってしまう。それは、地球にとってではなく、私たち人間にとってです。よく、「地球の持続可能性」とか「地球にやさしく」というスローガンがありますが、私には違和感があります。地球そのものは持続します。破綻しかけているのは、地球の上で住まわせてもらっている私たちの暮らしや文明なんです。そして悲しいことに、真っ先にその被害を受けるのは、貧しい人や途上国の人です。

だから、さまざまな定義や使い方がありますが、私が「持続可能な社会」という言葉を使う時には、「ひとり一人が幸福で、将来の世代にツケを回さない社会」という意味です。経済成長に頼るしかない社会の不健康さを改善して、今とは違う形の幸福を追求できる社会像を目標にしています。私自身がメディアを立ち上げて発信する場合もありますし、講演の機会をいただければお話にうかがっています。

宮坂 
ぜひ、ヤフーでも枝廣さんのお話を社員たちと一緒にうかがいたいです。ちょうど近々、ミッドタウンのオフィスの外、六本木の街中に社員食堂のようなスペースを作るんです。昼は社員限定、夕方以降は外部からいろんな人をお呼びしてイベントを行えるような場所で、社内でも社外でもないので"縁側"と呼んでいます。会社で勉強会と聞くと途端に堅苦しいイメージになりますが、そういう、曖昧なのりしろを会社として持っていたいと思っています。

枝廣 
幸せと経済と社会の関係において、社会関係資本、ソーシャルキャピタルというのはとても大きな意味を持ちます。人と人とのつながりがすごく弱くなっている社会で、それを取り戻そうという動きも世界中に起きています。ヤフーさんが、東京のど真ん中で"縁側"によって社会との絆を取り戻そうとされているのは、本当に面白いことですね。

宮坂 
そういう方針を採用するようになったのは、東日本大震災がきっかけだと言えます。復興支援のために、石巻に拠点を作るということになった時に、「基本的には任すけど、地元の人が寄り付かないから、ヤフー石巻支社とか石巻主張所という名前にだけはしないでくれ」と言ったんです。それで、「ヤフー石巻復興ベース」という基地のような名前にしたと聞いて、すごく気に入っています。今、ベースでは、地元の女子高生が勉強しに来たり、奥さんたちが雑談しに来たりと、いろいろな人が訪れる空間になっています。縁側も、東京にもそういう空間がほしいと思って作ったんです。

枝廣 
とてもすてきなお話ですね。ぜひ私も遊びに行かせてほしいです。

宮坂 
いつでも大歓迎です! 僕の中で大事にしている価値観として、"来た時よりも美しく"というものがあります。未来に、自分の子どもに、自分より汚いものを残すわけにはいかない。環境や経済、すべてにおいて美しいものを残したい。会社にしても、いつかは僕がやめる日がくるでしょう。その時、自分が始めた時よりも、少しでも良い状態で引き渡したい。それは、モラルの問題ですが、それこそが正しい進化だと思っています。

今日は、本当にさまざまなお話やアドバイスをいただきましたが、最後に一つうかがいたいのですが、枝廣さんご自身は、今後、どのようなことに挑戦されるおつもりなんですか?

枝廣 
私は会社員ではなくフリーランスとして活動しているので、定年という概念がありません。自分の人生のピークを90代にもっていくつもりで、いまは90代までゆるやかに上昇しているところです。今達成できているのは、自分のやりたいことの3%程度。時代や社会が変化する中で、やっていくことはどんどん変わっていくと思います。10年前に、今の私がこんなことをしているとは思ってもいませんでしたから、10年後、何をしているかはわからないけれど、自分にとって大事だと思うことをしているはずです。

その中で、先程お話したサステナビリティ(持続可能性)も大事だけれど、もう一つ、"レジリエンス"が必要になってくると考えています。IT業界でも使われますが、弾力性を指す言葉で、私は「しなやかな強さ」という意味で使っています。お話をうかがっていて、ヤフーさんの「縁側」も、レジリエンスを強めるものだと感じました。

今後、私たちが生きる未来には、多くの困難が横たわっていることと思います。いつか再び金融危機も起こるでしょうし、エネルギーの分野でもいつまでも化石燃料を使い続けることはできません。生きづらい世の中にあって、何があっても立ち直れる強さを持っていなければ、個人も地域も企業も、心が折れてしまいます。特に、地方の方々にはそのレジリエンスが備わっていて、例えば東北だったからこそあれだけの震災に見舞われてもたくましく復興に注力されていますが、東京だったら全く話は違っていたでしょう。

レジリエンスの敵は、短期的な効率至上主義です。レジリエンスを生み出している遊びやバッファを削ってしまうからです。特に東京からは、その遊びの部分が減っている。だから私は、効率は落ちても、何かあったときの強さを蓄えなければならないということを提唱していて、今、企業や地域に対して、その普及活動を行っています。

対話を通してさまざまな人とつながり、その多様性からくる創作性を高めていく。それが、レジリエンスの獲得につながっていくでしょう。

宮坂 
しかし、実は対話というのは、本当に難しいですよね。ただバラバラに多くの人が点在しているだけでは、多様とは言えない。人と人とがつながるための第一歩としての"対話"というものは、とても大事なことです。縁側にも言えることですが、対話の仕方や場所を整えるということが大事になってきているのだと感じています。

枝廣 
そうですね。大勢がいて、一緒に何かを作れたりする場所や状況。そのためには対話の作法が必要だし、共創力を強める必要がある。例えば意見が対立しても、対話を断絶させるのではなく、考えは変えないけれど理解するところまで駒を進めて、ではそこから何を作り出せるのか。そこまで踏み込んで初めて、対話が成立した、つながりを持てたと言えるのでしょうね。

 

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