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エダヒロ・ライブラリー一日一題

大停電下の北海道・下川町で考えた「レジリエンス」の大事さ

2018年09月10日

北海道で地震発生、そして全道で停電

9月6日午前3時過ぎ、北海道で胆振地方中東部を震源とするマグニチュード(M)6.7の直下型地震が発生しました。前日までに日本列島を通過した台風21号の降雨の影響で地盤が緩んでいたと考えられるところに発生した地震は、厚真(あつま)、安平、むかわなどの町に大きな被害を及ぼし、現在までに40人を超える死者が報道されています。

また、震源に近い苫東厚真火力発電所が緊急停止したことから、他の発電所も連鎖的に止まり、全道の295万戸が停電しました。165万キロワットの出力を有する東厚真火力は北海道電力にとって最大の火力発電所で、地震発生時には使用電力の約半分を供給していました。この苫東厚真の停止によって、電力の需給バランスが崩れ、電力供給の周波数を一定に保つことができなくなったため、他の発電所も次々と停止し、全域停電につながりました。北海道全体で交通機関がマヒし、道路の信号機も止まり、医療機関は外来患者の受け入れを止め、ATMで現金が引き出せなくなるなど、生活や経済に大きな影響が及びました。

私はたまたま地震発生時に北海道にいました。道北の下川町への出張中だったのですが、この地域は震源地からも遠く、ほとんど揺れも感じず、地震による被害はありませんでした。ただ、停電の1日を過ごすことになりました。幸い、下川町では24時間後に電力が復旧し、地震の2~3日後にはほぼすべての地域で電力が復旧しました。

大停電下の北海道で考えたこと

地震・停電時に現地にいたという今回の経験は、得がたい教訓を与えてくれました。

(1)エネルギーのレジリエンス:私たちの暮らしと産業がいかに電力に依存しているかをしっかり認識し、必要な手立てを講じておくこと

下川町は再エネの取り組みも進んでいて、町の熱需要の半分近くを地元の森林バイオマスでまかなっています。しかし、電力はほぼ全量を北海道電力に頼っています。そのため、町全体が停電となりました。オール電化のおうちは本当に困っていたようです。IHヒーターはふだんは炎が出ずに安全ですが、停電するとお湯も沸かせなくなります。

今回は夏でしたので、まだ不幸中の幸いでしたが、零下30度にもなる冬で今回のような停電が起きたらどうなるのだろう?と町のみなさんと話しました。バイオマスボイラーを動かすにも電力が必要なため、停電時には稼働できません。灯油ファンヒーターストーブも電力が必要です。こうした電力がなくては動かない部分への対策を考えておく必要があります。

そして、このような非常時にも使えるよう、ソーラーパネル+蓄電池などの再エネシステムをもっと導入しておく必要があります。今回は町役場で化石燃料を用いて発電機を回して、非常用電源として携帯電話の充電などに開放していましたが、役場など公共施設や一般の家屋にも、非常時には自立電源として使える再エネ+蓄電システムを備えられたら、こうした非常時のレジリエンスが高まります。加えて、下川町では近々大規模ダムによる北海道電力の発電所が稼働を始めます。こうした近くの発電所と非常時の電力融通協定も議論できたら、と思います。

今回、下川町では、数少ないですがソーラーパネルと充電器でオフグリッド生活をしている人たちが、「うちには電気があるよ!いつでも充電しに来て」とSNSで発信していました。こういうときのレジリエンスを考えさせられました。

また、電化製品は使えませんでしたが、ガス炊飯器を持っているおうちが炊き出しをして、近所やみなさんに配ってくれていました(私もおにぎりをもらいました!)。

(2)食べ物と水に関するレジリエンス:ふだんから、入手方法を多様化しておくこと

今回、地震・停電後、地元のスーパーでもコンビニでも、あっという間に食べ物などの商品がなくなってしまいました。そんな中での町の人たちとの集まりは、持ち寄りパーティーとなり、私も食べさせてもらいました。たとえお店では売り切れでも、自宅の畑からトウモロコシや野菜をとってきて食べられるというのは、なんて心強いことか、と思いました。

今回は幸い、水道システムには影響がなかったのですが、たとえ、上水道が止まるようなことがあっても、地元では水が出る場所があるので大丈夫とのこと。翻って、東京のような都市では水道が止まってコンビニや自販機で水が売り切れになったら、もうアウトだなあと思いました。ふだんからどうやって食べ物や水の入手方法をいくつか作っておくか、大事なポイントです。

(3)コミュニティのレジリエンス:非常時にも助け合い、支え合える住民どうしのつながりをふだんから築いておくこと

今回、下川町に滞在している間、あるレストランが私のような外からの訪問客で食べ物に困っている人たちのために定休日にもかかわらず夕食を作ってくれました。どんなにかありがたかったことでしょう。ここのマスターが地震の朝、店の前の道路に立って、道行く町民に声を掛け、食べ物や燃料を配っていらしたと聞きました。

「隣のおばあちゃんがIHでご飯炊けないと言っているので炊き出しして持って行ってあげた」とか「隣のひとり暮らしのおうちのようすを見に行った」という話がいっぱいありました。別のレストランでは「冷蔵庫のものがダメになる前に食材をすべて料理したので、取りに来てください。無料です」とSNSで発信し、多くの町民がありがたくいただいたそうです。

みんなで気遣いあって声を掛け合い、差し入れしたり助け合っているようすを目の当たりにして、「もちろん被災したくないけど、被災するなら下川町にいるときがいい」と思いました。そして、ふだん飛び回っていて自宅にほとんどいない自分は自分の地域でどうしたらいいのかなあ?と考えさせられています。

レジリエンスをいかに高めておくか

外的な衝撃に折れることなく、しなやかに立ち直る力である「レジリエンス」をつくり出す要素はいくつかありますが、その中でも重要なのは「多様性」「モジュール性」「迅速なフィードバック」です。

多様なエネルギー源・食料の供給源・水源をもっておくこと。ふだんは全体の一部であっても、いざとなったら自分たちだけで自立できるモジュール性を持っておくこと。そして、今回も「午後から断水になるらしい」というデマが飛び回って、役場が「水道は大丈夫です」という連絡を急いで入れるなどしていましたが、特に非常時には「迅速で正確な情報」によって、状況に関するフィードバックをどう確保するかも大変重要だと思いました。

上述したように、下川町にはしっかりした「地域の絆」があること、こういうときに遺憾なく発揮されること、それがどれほど安心でありがたいことかを痛感しました。こうした地域のつながりや住民のあいだの信頼関係は一朝一夕に、危機がやってきてから築くことはできないでしょう。ふだんからの隣人とのやりとりが土台となります。

他方、都会では、ふだんのこうしたやりとりは、「わずらわしい」「効率的ではない」「何の役にも立たない」と重視していない人も多い。自戒も込めて、ですが、「短期的な効率性を追求することで中長期的なレジリエンスを損なう」一例になってしまいそうです。

今回の地震に伴う被害は、その前に大量の雨が降っていたことが悪化させた側面があります。また、一カ所の発電所が止まると、連鎖的に広域に影響が及ぶエネルギーシステムの脆弱性も明らかになりました。

残念ながら、今後、気候変動の影響はますます大きくなることが予測されています。さらに大型の台風、これまでになかったほどの豪雨などが発生することを想定して、ふだんからどのように自分の暮らしや地域のレジリエンスを高めておけるのか、短期的な効率や利益よりも中長期的なレジリンスを重視するように、どのように経済や社会のシステムを変えていったらよいのか、だれもが真剣に考える必要があるーー今回の経験から痛感しています。

最後に、町のみなさんと「停電は大変だけど、いいこともあるね」と話していたことがあります。それは、電気がすべて消えている夜の星空がすごかったことです!「降ってきそう」「満天の星」とはこのことなんだーと思うほどの見たことのない星空でした。宇宙にはこんなにいっぱい星があるんですねー。ふだんは街の明かりで見えなくても、そこには星々があるのですね。真っ暗な中、しばらく突っ立って夜空を見上げていました。これもまた忘れられない記憶となりました。

 

 

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