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エネルギー情勢懇談会提言に関するエダヒロの3つのポイント!

2018年4月27日

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4月10日にエネルギー情勢懇談会提言が確定しました。提言本文はこちらからお読みになれます。

「エネルギー情勢懇談会提言 ~ エネルギー転換へのイニシアティブ ~」
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/pdf/report.pdf

この提言については、各種メディアでも紹介されていましたね。特に大きなポイントとして注目を集めていたのは、「再エネの主力電源化」「原発依存度を可能な限り低減する」という文言の明記です。

懇談会の8人のメンバーの1人として全9回の懇談会のすべてに参加してきた私から見ると、世の中が注目する「原発の位置づけ」ももちろん大事ですが、今回の提言にはそれ以外にも、特に中長期的に非常に大事なポイントがいくつか盛り込まれています。

というわけで、「エネルギー情勢懇提言、エダヒロの3つのポイント!」をお送りいたします。

<はじめに>
「はじめに」はわずか1ページですが、ここに今回の提言の拠って立つところと大きな方向性が書かれています。

「提言をとりまとめるに当たり、踏まえた3つの点」として、以下が明記されています。
(1)福島第一原発事故が原点であるという姿勢は一貫して変わらない
(2)情勢変化の本質は「可能性と不確実性」である
(3)エネルギー自立路線は不変の要請であり、技術革新による非連続のエネルギー転換が不可欠

 

<エダヒロの情勢懇提言のポイント!その1>
「未来は不確実」を前提に

最初の重要ポイントは、「複線型シナリオと科学的レビューメカニズム」です。

3つのよりどころの1つとして書かれているように、「エネルギー情勢は不確実で、予測不可能なものなのだ」という認識が共有され、エネルギー政策をつくる上での"前提"となったことです。

従来のエネルギー政策は、「未来はこうであるはずだ」「未来はこうなるべきだ」という決め打ちの像を描き、その実現のための施策を実施するという形で進められてきたと思います。しかし、今回、情勢懇では14名もの内外有識者のヒアリングを通して、「未来は不確実であり、現時点での予測に基づいて進んでいくことは危険だ」という認識を共有しました。

そこで、1つのシナリオではなく「複線型のシナリオ」を描き、科学的にレビューしつつ、状況変化や技術進歩に応じて柔軟にゴールや打ち手を変更していくメカニズムを設けるという提言となったのです。

これは大事な認識と方向性だと思いますが、「どのように複線型のシナリオを描くのか?」「科学的レビューメカニズムとして、だれがどのようにレビューするのか? そのガバナンスはどうなるのか?」が大事です。これらについては、今後の議論と設計となります。

 

<エダヒロの情勢懇提言のポイント!その2>
「地域の視点」

2つめに大事なポイントは、「地域の視点」が大きく入ったことです。これは、私が初回の情勢懇から何度も発言し強く望んできたことなので、本当にうれしく思っています。

提言の中では「分散型エネルギーシステム」として言及されています。20ページから引用します。

~~~~~~ここから引用~~~~~~

省エネルギー・分散型エネルギーシステムの課題解決方針

  • 再生可能エネルギーの小型化や高効率化、蓄電池や燃料電池システムの技術革新、輸送システムの電動化、そして需給制御を地域レベルで可能とするデジタル化技術やスマートグリッド技術の進展は、これらを効果的に組み合わせることで、電力・熱・輸送のシステムをコンパクトに統合した効率的で安定、かつ脱炭素化につながる需要サイド主導の分散型エネルギーシステムの成立の可能性を高めていく。
  • 自家発導入を率先して進めてきた鉄道・通信・病院・基地なども、エネルギー安全保障の観点から、革新的技術に裏打ちされた分散型エネルギーシステムの開発に関心を持つ。地域におけるエネルギー自立を目指す動きも加速する。エネルギー安全保障と地域、この双方の観点から、技術に裏打ちされ経済的で安定した分散型エネルギーシステムの開発を主導し、世界に提案するとの姿勢で臨む。

~~~~~~引用ここまで~~~~~~

また24ページの「エネルギー転換を担う産業の強化とエネルギーインフラの再構築」にも、明記されています。

~~~~~~ここから引用~~~~~~

一方、分散型エネルギーシステムの世界は、各地域に根差した経営マインドにあふれる新興企業が担い手として登場する可能性がある。世界市場を舞台に活躍する総合エネルギー企業群と地域で分散型エネルギーシステムの開発を担う企業群、この世界と地域で活躍する企業群を生み出す事業環境を用意し、それぞれの強みを活かし、エネルギー転換・脱炭素化を加速する構造を作り出すべきである。また、この過程で、送電網の次世代化、分散ネットワークの開発などエネルギーインフラの再構築を加速すべきである。

~~~~~~引用ここまで~~~~~~

 

<エダヒロの情勢懇提言のポイント!その3>
単体電源を選ぶ時代から、しなやかな全体調整の時代へ

3つめに大事なポイントは、これまでのように「再エネは高いか」「原発は安いか」という、個別の電源別のコストを考える時代ではなくなった、ということです。ちょっと長くなりますが、説明させてください。

これまでの日本では、10の電力会社が発電し、産業用にも家庭用にも電力を共有していました。「電力の生産者は数が少なく、電力の消費者は無数にいる」という状況でした。

現在、その構図が大きく変わりつつあります。新電力も数多く登場し、企業や家庭での発電も増えていますよね。「電力の生産者も無数にあり、電力の消費者も無数にいる」という状況になってきたのです。

発電した電力を「売電」し、必要な電力を「買電」するということは、大きな「電力プール」に電力を注ぎ込んだり、そこから電力を引き出したりしている、ということです。「電力プール」に注ぎ込まれる電力は、再エネもあれば火力発電もあり、原発もあります。究極的には、このプール全体で、そのときの全体の需要に応えればよいということになります。

つまり、これまでの「再エネ+バッテリー」「原発」などの単体のシステムからどれを選びますか?という話ではなく、あらゆる電力があらゆる電力の調整電源になる、という世界なのです。

IT化・IoT化・デジタル化などの技術によって、あらゆる電源からの電力をつなぎ、つねに変動する需要にマッチするように調整することが可能になってくるでしょう。また、供給状況にあわせて需要を調整するデマンド・サイド・マネジメントも一体化されるでしょう(このあたりの技術開発は、「次の競争優位性の源泉」として、現在世界中がしのぎを削っています)

洗面器をイメージしてみてください。これまでは「再エネ蛇口」「火力発電蛇口」「原発蛇口」のどれをひねりますか? という話でした。それを決めるために、それぞれの値段を計算します。再エネは間欠性があるのでバッテリーが必要なら、その費用も入れて、電源別コストを計算し、比較し、「どれが安いか」という議論になっていました。

でも、技術の進歩によって、同じ洗面器に同時にいくつもの蛇口から水が入るようになります。お互いに情報がつながっているので、一瞬一瞬の状況にあわせて、全体として最もコストが安くなる配分を計算し、蛇口に自動で指令を送ることができるのです。

また、余剰電力で水素やメタンを生成し、貯蔵しておいて、必要なときに使うことで、現在は高価なバッテリーか揚水発電に頼るしかない「電力の貯蔵」も可能となるでしょう。そうすれば、プール全体の調整力はますます高まります。

こういう世界では、再エネや原発の単体のコスト計算では十分ではなくなります。電源別だけでなく、ネットワークや、将来的には水素やメタンに関わるコストなども含めた、「調整し合う全体」としてのコストを考える必要があります。

これが情勢懇提言の16ページの見出しになっている「電源別コスト検証から脱炭素化エネルギーシステム間のコスト・リスク検証への転換」ということです。

こうなってくると、これまでの「ベースロード」という考え方もあまり意味がなくなってきますね。情勢懇では「再エネの進展に伴い、ベースロードという考え方はなくなるだろう」という海外有識者の発言もありました。

また、「小型モジュール式の原発によって、大型の風力パークの調整電源にする」という技術開発の話も聞きました(「出力調整ができないからベースロードとして」と言われてきた原発が、再エネの調整電源になるとは!とびっくりしました)。

以上が、私から見た「情勢懇提言の3つの大事なポイント」です。

よろしかったら、ご感想やコメントなど下記のフォームからお寄せください。今後の糧にさせていただきます。


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