エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2014年09月29日

合意形成力の時代(2014年9月29日掲載)

 

 この1~2年、日本各地で自然エネルギーを導入する動きが活発になってきました。とてもうれしいことですが、自宅や工場の屋根に太陽光パネルを載せるというものはともかく、風力発電や地熱発電など、その地域の合意がなくては進められないプロジェクトが苦戦しているようすも伝わってきます。

 自然エネルギーだけでなく、環境保全と防災をどう両立するか、地元の森を守りながら近隣の道路の開発・整備を進めるにはどうしたらよいかなど、二項対立になりがちなプロジェクトや、多様なステークホルダーがさまざまな意見を持っている場合もあります。テーマが何であっても、異なる考え方や意見を持つ人たちの間での合意形成は、実際のプロジェクトを進めていく上で非常に重要なポイントになります。

 これまで、異なる意見の人々が一緒に物事を進めていく上では「対話」が大事だと考え、対話力を身につけるための勉強会などを開催してきました。対話は、信頼構築の重要な基盤です。しかし一方で、「対話によって信頼は深まったけど、実際のプロジェクトは先へ進まない」「利害が複雑に絡み合っていて、簡単には解きほぐせない」という状況にも直面します。そこで、対話の先へ進んでいくためのスキルとして、「合意形成」の勉強会を5回にわたって開催しました。

 あらかじめ決まっている落としどころへ持っていくためでなく、形式的に意見を聞く場を演出するためでもない、「真の合意形成」とはどのようなものなのか? どのように進めていけばよいのか? 本を読んで学ぶとともに、合意形成の分野の日本屈指の実践者・研究者である東京工業大学の桑子敏雄先生から合意形成プロジェクトの事例も学びました。

 勉強会で学んだ最も大事なポイントは、「立場と利害(インタレスト)を区別する」ということです。「立場」とはそれぞれの当事者が望んでいる結論であり、「利害」とは、その背景にある理由です。「主張」と「理由」と言ってもよいでしょう。

 たとえば、私は「窓を開けたい」、家族は「窓を閉めたい」と意見が衝突したとします。論点が「窓を開けるか」「閉めるか」だけでは、どちらかが譲らないかぎり(それでは合意形成とは言いませんね)膠着状態となります。

 そのとき、「なぜそう主張するのか?」というそれぞれの主張の理由を掘り下げてみます。私は「新鮮な空気がほしいから」で、家族は「直接風に当たりたくない」ということであれば、隣の部屋の窓を開ければ良い、と合意を形成することができるでしょう。

 直面する問題が複雑化する一方、関わるステークホルダーが多様になっており、これまで以上に合意形成の力が必要な時代になってきました。「主張の背後にある理由」を掘り下げて、そこで新しい解決策が創り出せないかを考えてみること。シンプルですがつい忘れがちな知恵ではないでしょうか。

 

 

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