エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2014年07月28日

問題の3種類の複雑性とは(2014年7月28日掲載)

 

 ガス市場の自由化の議論が進んでいます。皆さんの組織はどのような影響を受けるのでしょうか。どのような対応を進めていらっしゃいますか。いろいろな過去の経緯があっての現在なのに、未来はどう展開するか予測しきれないという「難しさ」があるのではないでしょうか。

 企業でも社会でも、今日私たちが直面している問題の多くは複雑な問題です。「複雑な問題」というとき、そこには3種類の「複雑性」があると言われています。

 1つは、A→Bというシンプルな因果関係ではなく、因果関係が複雑に絡み合い、その多くは、時間的・空間的に広がっているという「ダイナミックな複雑性」です。

 2つ目は、今後の展開はまさに今から生み出されていくため、未来が過去の延長線上にはないという、「生成的な複雑性」です。

 3つ目は、多種多様な立場や目的を持った人々が関わっているという「社会的な複雑性」です。

 1990年代初め、南アフリカがアパルトヘイトの白人政権から民主主義への移行を行おうとしたときに直面したのは、まさにこの3種の複雑性を高度に有する問題でした。

 最終的には、94年の選挙でネルソン・マンデラ氏が大統領に選出され、新政府が発足し、最初の非人種主義に基づく民主主義憲法が採択されました。この難しい移行を、大きな混乱や後戻りなく進められたということは、本当に素晴らしいことです。

 このとき、スムーズな移行を下支えしたアダム・カヘン氏の『手ごわい問題は対話で解決する』はお薦めの本です。シェルでシナリオ・プランニングの手法を身につけたのちに、南アであらゆるキーパーソンを集めて、皆で南アの今後のシナリオの作るプロセスを行った人です。

「込み入った問題を解決するためには、自分自身がその複雑性にどっぷり漬かり、オープンにならなければなりません。ダイナミックな複雑性がある場合、身近にいる専門家とばかり話すのではなく、離れた所にいる人々とも話すことが必要になります。生成的な複雑性がある場合は、過去にうまく機能した選択肢について話すばかりでなく、今生み出されている選択肢についても話すことが必要になります」

「そして社会的な複雑性がある場合には、自分たちと同じ見解をもつ人々とばかり話すのでなく、たとえ嫌いな人たちであっても、特に、異なる見解をもつ人々と話すことが必要になります。私たちは、自分たちの居心地のよい領域をはるかに超えていかなければならないのです」

 予測できない未来について語るとき、「何が起こってほしいのか」「何が起こるべきなのか」だけを主張していては、異なる立場や考えの人々の間に対話が成り立たず、問題を解決することも未来を創り出すこともできません。

「複雑な問題」に直面したとき、「何が起こりうるのか」をオープンにして立場や利害を超えて話すことが最初の一歩となる、というカヘン氏の教えを、ぜひ参考にしてみてください。

 

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