エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2013年03月06日

3.11後の「幸せ観」の変化とは

 
東日本大震災と東京電力福島第一発電所の事故から1年3ヵ月がたちました。みなさんの暮らしや考え方は、3.11をきっかけに何か変わりましたか?「ひとつの時代の終わりを告げる出来事だった」と言う声が聞かれるほど、3.11は私たち日本人の暮らしと意識・価値観に大きな影響を与えましたし、この先も与え続けることでしょう。 エネルギーへの意識の変化 今回の大震災と事故が日本にとってどのような意味をもち、日本をどのような方向に動かしていく出来事だったのか――それは将来の歴史家の分析を待つことになるのでしょうけど、大震災後に実施・公表されているさまざまな調査結果から、「大震災後の日本人の暮らしと意識の変化」が見て取れます。どのような次元でどのような変化が起こっているのでしょうか?  そして、そういった変化は日本と日本人の幸せや幸せ観にとって何を意味しているのでしょうか。 まず、震災と原発事故による停電や計画停電など、エネルギーシステムが大きく揺るがされたという事実を受け、「住まい」についての意識が大きく変わってきました。 マンション購入意向を持つ30~59歳の男女150人にインターネットで「これからのマンションに必要とされる機能・性能」を聞いたところ(1)、「省エネ性能(冷暖房効率の高い住まい等)」について85.3%が「必要」と回答し、「創エネ性能(太陽光発電パネル設置等)」についても76.0%が「必要」と回答したという調査結果があります。 住まいづくりを検討・進行中、もしくは実際に経験した全国2,283人にサイト上で行われた「住まいに関するお金意識アンケート」(2)では、2008年度の前回調査から今回(2011年度)の間に、太陽光発電を検討する人が1.4%から25%と18倍に増加。住宅取得やリフォームを機に購入を考えている家電商品については、省エネ機器が上位を占めました。 「省エネ・創エネ設備」へのニーズと意識の高まりは、「これまでは電力会社などにエネルギーを頼っていたけれど、それでは安全・安心が脅かされることがわかった。自宅のエネルギーは自分でコントロールしたい」という生活者の思いが反映されているのでしょう。 幸せと暮らしの基盤は、他人任せではなく、自分でしっかり考え、備え、動いていかなくては、という能動的な姿勢がうかがえます。 ライフスタイルの変化も  「暮らし方」でいえば、おそらくみなさんの多くがそうであるように、3.11をきっかけに節電行動を始めたり、強化したりしていて、その節電意識や行動が一過性ではなく、定着していること、そして、単なる節電だけではなく、暮らし方の見直しへと広がっていることがわかります。 20歳~59歳の男女1000人に対して行った携帯電話によるインターネット調査(3)では、68.7%が「震災後、自分の身の回りの生活習慣や生活環境を見直した」と答えました。 20代~70代の男女600人を対象に行った別のアンケート(4)では、50.2%が「今夏の節電をきっかけに、電気を使用するライフスタイルに対する意識や考えが変わった」と回答。「意外と無くても大丈夫なものがたくさんあり、今までは使いすぎだったんだと思った」「昔ながらの打ち水やすだれ・よしずの活用など、これまで安易に頼っていたエアコンでの避暑対策を見直している」などの声が挙がっています。 このように「住まい」「住まい方」だけではなく、より深い次元での変化もさまざまに報告されています。 全国の20~69歳の1,000人にインターネットで行った調査(5)によると、震災を契機に「自然の大切さを感じるようになった」「人とのつながりを大切にしたいと思うようになった」「人は一人では生きていけないと強く感じるようになった」について8割強が肯定的に答えており、「被災後の様々な対応をみて、日本人を見直した」「故郷はよいものだと思うようになった」「仕事に費やす時間よりも家族との時間をより作りたいと強く思うようになった」についても7割以上が肯定的に答えています。 このような調査結果はほかでも多々見られ、3.11が多くの人の「自分にとって何が大事なのか」を問い直しと、これまでとは異なる答えにつながっていることがわかります。大きくまとめていえば、自分にとって大事なもの、すなわち"幸せの源泉"が「経済やお金から、自然や人とのつながりへ」移行しつつある、ということではないでしょうか。 また、これまで日本人(特に若者)は内向き志向が強いと言われてきましたが、首都圏と名古屋・大阪の各都市圏在住で25~34歳の会社員500人を対象にアンケート調査(6)したところ、全体の約半数が「(震災前よりも)世の中への関心が高まった」と回答しています。このことから、社会や政治、日本の将来への関心が高まっていることがうかがわれます。 このように大震災と原発事故を受け、日本人の暮らしや意識・価値観がさまざまに変化しつつあることがわかります。これらはすべて日本の人々にとっての「幸せ観」の変化にもつながっているといえるでしょう。 今後日本人の意識や日本社会のあり方はどのように変わっていくのでしょうか? 次回以降は、この数年間大きなうねりとなりつつあり、3.11後加速していると思われる日本の新しい価値観の表出を追っていきたいと思います。どうぞお楽しみに。 <出典> (1)「3.11震災<半年後>の住まい選び意識調査」 読売広告社 (2)「住まいに関するお金意識アンケート2011」 パナソニック電工 (3)「くらし直しに関する調査」 パルシステム生活協同組合連合会 (4)「節電の夏を過ごして変わったもの、変わらなかったもの」 ダイキン工業 (5)「東日本大震災後の生活者の意識調査結果」 株式会社NTTデータスミス マーケティングリサーチ事業部(現 ジーエフケー・カスタムリサーチ・ジャパン株式会社) (6)「R25白書③:若手ビジネスマンの震災による意識変容調査」 株式会社リクルート発行「R25」とM1・F1総研R
 

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