エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2011年10月13日

ドイツに学ぶエネルギー政策の決め方 (2011年10月5日掲載)

 

 3月の福島第一原子力発電所の事故を受け、世界中で今後のエネルギー政策に関する議論が起きました。ドイツがいち早く「2022年までに脱原発」と決めたのはどのようなプロセスだったのでしょうか?

 メルケル首相は事故発生後すぐに「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」を結成しました。17人の委員には原子力(技術)の専門家はおらず、原発推進派や脱原発派が約半々。

 委員会の目的の1つは「エネルギーと社会の在り方について、社会の根本的な価値観から議論を始めること」。社会とエネルギーとの関わりについて、技術や経済などの部分的側面のみでなく、そもそもドイツ国民にとってどういった社会が望ましいのか、どういった価値観で意思決定を行うべきか、といった根本的なレベルで議論しました。

 第2の目的は、社会全体に対するオープンな議論の場です。「原子力が必要かどうかの決断は原子力の技術専門家が決めることではなく、社会が決めるべき」との考えです。

 倫理委員会では2ヶ月間、委員による集中的な議論とともに、200~300名に及ぶ一般参加者との対話の場を設け、11時間に及ぶ討議の模様をテレビで生中継しました。

 自然エネルギー政策のメリットやデメリット、原発を止めた場合の温室効果ガス増大のリスク、テロに対する脆弱性等について幅広く議論し、最終的にはこの委員会の報告書をもとに、脱原発を決めたのです。
 日本のこれまでとは全く違う「民主的エネルギー政策のあり方」ですね!

 大事なポイントは、市民参加型のオープンなエネルギー政策であり、世論の過半数を占めていた脱原発という意見が実際に国の方針に反映されたこと、そして、技術・経済的な議論も踏まえつつ、「将来の世代への責任」という倫理的な問いかけが中核にあったことです。
 原発事故による放射能汚染というリスクを伴うエネルギー技術を利用してよいのか、処理できない負の遺産を未来の世代に負わせて良いのか――社会のあり方についての価値観が問い直されたのでした。

 日本では今なお、国全体としての具体的なエネルギー政策は不明確なままです。代替エネルギーに関する経済的コストの計算や技術的進歩の見通し等のテクニカルな議論はあっても、「そもそも社会にとって望ましいエネルギーとは」といった根本的な価値観についての最も重要な問いかけはあまりありません。

 来年夏をめどに新しいエネルギー基本計画案を策定する総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会が始まります。審議がインターネット中継で公開されることは、社会でのオープンな議論という意味で大きな一歩と言えるでしょう。
 私も委員の一人として精一杯がんばります!

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ