エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第9回

ロウソクの明かりが灯す大切な時間

 

 でんきを消して、スローな夜を―。2003年6月22日の夏至の夜、こうした呼びかけで初の「100万人のキャンドルナイト」が行われました。年2回、夏至と冬至の夜、8時から10時までの2時間だけは、電気もテレビもパソコンも消してロウソクを灯し、薄明かりの中で、思い思いの時間を楽しもうというキャンペーンです。忙しい日常を離れて、ちょっとだけでも立ち止まり、モノや情報を一時的にオフにすることで見えてくる「もう一つの時間」を味わい、「本当に大事なこと」に思いを馳せるひとつのきっかけになれば、という思いで、私も呼びかけ人として参加しています。
 この運動が始まったきっかけは、2001年にカナダで行われた自主停電運動です。「1ヵ月に1基ずつ原子力発電所を建設する」という当時の米ブッシュ大統領(お父さんのほうです)の政策に反対し、「そんなエネルギー政策を取るなら、もう電気は使わない」というキャンペーンが展開されたのです。
 これをヒントに「日本でもやってみよう」と、2003年夏、初めての「100万人のキャンドルナイト」が行われ、早くも5年が経ちました。「100万人の」というのは、「いつか100万人ぐらい参加してくれたらいいね」という思いでつけたのですが、ふたを開けてみたら、最初の年には500万人もの人が参加。最近の参加者は、800万とも900万ともいわれています。
 特に今年の夏は、夏至の6月21日とG8洞爺湖サミットが開幕する7月7日に、環境省とのコラボレーションで大規模なライトダウンが行われました。日本全国のランドマークタワーなどの商業施設や、自治体、企業など、2日間で約15万ヵ所が参加。二酸化炭素換算で945トン(6万4000世帯の1日の排出量に相当)が削減されたといいます。

立ち止まること、考えること

 こんなに大勢の人が参加するなんて、どこにそんな魅力があるのでしょう? いちばん大きなことは「何だかよくわからないところ」だと私は思っています。キャンドルナイトでは、「これはこのため」とか「これはこういうふうにやる」ということが、あまり明確に決まっていません。逆にそれが、参加する人に大きな可能性を感じてもらえる理由になっているのだと思います。
 キャンドルナイトというひとつの場を、どういうふうにつくり出していくか、そこでの出会いやつながりをどうつくっていくか――。参加している一人ひとりがそれを考える余地があるのですね。そこがとても大きな魅力だなと、よく思います。
 テレビを消して、ロウソクの明かりだけで家族と過ごしていると、子どもがロウソクの影に気がついて、影絵を始めました。それを見たお父さんが「キツネはこうやってつくるんだよ」などと教えてあげたりして、日ごろ少なくなっていた親子の会話が弾んだ、というような心温まるエピソードも寄せられています。
 キャンドルナイトを立ち上げるとき、目的をどう設定するかについては、私たち呼びかけ人の間でもずいぶん話し合いました。私たちの仲間には、反原発を30年やっている人もいるし、温暖化対策や省エネを大事にしている人もいます。ですから、「原発のことを考えるために」とか、「エネルギーを使わない生活のために」など、自分たちがこれまでやってきた目的や目標を掲げたいという意見もずいぶん出ました。
 でも私を含め何人かは反対でした。あまり明確な目的を掲げると、その目的に賛成する人しか集まってくれません。そうではなくて、目的はそれぞれの人が決めればいい。自分が大事だと思っていることをやってくれたほうが、広がりが大きくなるだろうと思ったのです。2時間電気を消す、ロウソクの光でスローな夜を過ごすという、それだけのキャンペーンにしようと決めました。環境問題をはじめ、ほかのいろいろな運動に比べると、そこが大きく違う点ではないかと思います。
「2時間電気を消したって、たいした省エネにならないじゃないか」などと言われることもありますが、それよりも、立ち止まる時間、ちょっとふり返る時間、考え直す時間を提供することが大事だと考えています。たった2時間でも立ち止まる口実があることで、「今、何か大事なものを見失ってないかな」「なかなか解決できない大切な問題があるんじゃないか」、そんなことを考え、大切な人とのつながりや、本当の心地よさ、自分自身を取り戻すことができるのではないかなと思うのです。
 冬至の夜は、電気を消して、スローな夜をぜひご一緒に!
http://www.candle-night.org/

2008年12月号

 

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