エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第5回

エネルギー危機の時代に問い直す幸せの意味

 

 エネルギー危機がひたひたと足元まで押し寄せています。日本では、「また灯油の値段が上がった、困りましたね」「また、○○の値段も上がった」という程度で、あまり「大きな本質的な問題」としてはとらえられていないようですが、海外では、エネルギーの需給がどうなりそうか、そのとき価格はどうなって、社会や経済にどういう影響を与えるのか、そのマイナスの影響を最小限に抑えるには、今から何を考え、どうしたらよいのか、という議論が盛んに展開されています。

ピークを迎えた石油生産

 原油価格の高騰で、石油関連製品の価格が上がったり、倒産する企業が増えるなど、さまざまな影響が出ています。現在の文明は石油なしには考えられない構造となっており、石油需要はどんどん増えています。国際エネルギー機関(IEA)では、2030年には私たちは1日1億2000万バレルの石油を消費しているだろうと予測しています。
 2007年11月にドイツのエネルギーウォッチという研究所が出した、この先の石油生産に関する予測では、2030年の1日の石油生産量は4000万バレルです。先ほどのIEAの消費予測である1億2000万バレルの3分の1です。この差の8000万バレルは、現在の年間の石油生産量と同じぐらいの量です。
 さらに、世界各地の石油生産量が減少しています。石油の生産量がピークに達し、その後減っていく時点を「ピークオイル」と呼びますが、1996年以来、22ヵ国で石油生産量がピークを迎えました。世界全体での新たな油田発見速度は、1960年代にすでにピークに達し、産油量のピークは2012年にやってくるといわれています。
 今後、欲しい量と供給できる量のギャップは一層大きくなっていくでしょう。それに伴って国際情勢も緊迫してくる可能性があります。新しいエネルギー源をベースとした社会構造にいちはやく転換していくとともに、自分たちの行動や習慣を変えていかなくてはならない「エネルギー危機」の時代を迎えているのです。
 ただし、エネルギー不足の時代が来るからといって、幸せをあきらめたり、人生の満足度を犠牲にする必要はありません。エネルギー危機は、何が本当の幸せなのかを問い直すことで、これまでの思い込みや前提から脱却するきっかけを提供し、幸せや満足を大きく後押ししてくれるチャンスだと思っています。
 必要なのは、幸せや満足に大きくつながっているエネルギーの消費と、そうでないエネルギーの消費を区別し、後者を減らしていくことです。家族でいっしょに楽しく観るテレビの消費電力は、幸せのためのエネルギー消費だといえるでしょう。誰もいない部屋でついているテレビは、幸せには何も寄与していないエネルギーを消費しています。今の日本のように、「快適すぎる快適さ」「行き過ぎた便利さ」が横行している社会では、実際にはほとんど誰の幸せも犠牲にすることなく、エネルギー消費を大きく減らすことができます。

無意識の行動を変える

 まず、日常生活の中でほとんど意識していない「自動化された行動」を見直すことから始めましょう。たとえば、朝起きて無意識に自動的に部屋の電気をつける人はいませんか。それが何のためなのか、「目的」を考えてみてください。着替えをするための明るさが必要なら、雨戸やカーテンを開ければ済むことかもしれません。こうした代案を思いつけば、「明るい中で着替えをしたい」という目的を少しも損なうことなく、電力消費量を減らすことができます。
 このように、自動化され、無意識で行っている行動に気づき、その目的を考え、目的を満たすための別の手段(「乗り換える舟」)をいろいろ考えてみることは、ゲームのように楽しいことです。まわりの人に行動を変えてほしいとき、「省エネのために、瞬間湯沸器は使うな」と言うより、「瞬間湯沸器を使わなくても、ゴム手袋をすれば、手は冷たくないですよ」と、乗り換える舟を差し出すほうが、多くの人の行動を抵抗なく変えることができます。
「これまでどおり使いたいだけ使い、エネルギー源を再生可能なものに代えていけばよい」という発想ではなく、「もともと使うエネルギーの量を減らし、どうしても必要なエネルギーは再生可能エネルギーでまかなう」という考え方に変えていく必要があります。エネルギーの使い方を根本的に考え直す必要がある――エネルギーの意識改革が必須なのです。
 このような思いで書いた、『エネルギー危機からの脱出―最新データと成功事例で探る蕫幸せ最大、エネルギー最小﨟社会への戦略』(ソフトバンククリエイティブ)が発刊されました。データや成功事例も豊富ですので、ご興味のある方はめくってみてください。

2008年8月号

 

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