エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第4回

国をリードする地方自治体の温暖化対策

 

 環境分野で何年も活動してきましたが、特に近ごろ「地方自治体こそが日本の温暖化対策をリードする!」との思いを強くしています。目標ひとつとっても、京都議定書で定められた国レベルでの「90年比マイナス6%」という「はじめの一歩」にとどまらず、思い切った目標を掲げ、その実現に向けてしっかり動き始めているところが出てきています。
 先進的な自治体についていくつか見聞きするうちに、「日本の自治体全体ではどうなっているのだろう? どんな目標を立てて進めようとしているのだろう? 先進的な自治体の例が明らかになったら、『よし、自分のところもがんばろう!』って思ってくれないかな。住民から『うちもがんばれ!』ってプッシュする力にならないかな」と思うようになったのです。
 そこで、「地方自治体の温暖化対策目標と政策に関する調査」を委託実施し、その結果を3月下旬に発表しました。各自治体のウェブに掲載された情報と、都道府県・政令指定都市・県庁所在地へのアンケートをもとに、都道府県の温室効果ガス削減状況ランキングや、目標の厳しさランキング、目標に向けての実効性の高い独自の政策について調査を行ったものです。この結果をいくつかご紹介しましょう。

本格的な脱炭素社会を視野に

 温室効果ガス排出量を見ると、90年(基準年)に比べて、日本全体は2006年速報ベースで6.4%増ですが、宮崎県がマイナス37%(主にナイロン製造プロセスからの一酸化二窒素の削減による)、和歌山県が同7%、京都府が同5%、それぞれ削減しています。
 温室効果ガスの中で大きな割合を占める、二酸化炭素の削減ランキングでは、和歌山県(7%)、京都府(6%)、茨城県(2%)、岩手県(0%)、滋賀県(0%)、福岡県(0%)となりました。
 今後の温室効果ガス削減目標(90年/年度比)では、既に一酸化二窒素の削減を進めている宮崎県をのぞき、森林吸収分を排除すると、東京都が2020年に20%、京都府が2010年度に10%といった厳しい目標を掲げていることが分かりました。
 市区町村において、2010年という短期間での削減目標を見ると、90年/年度比で静岡市が37%、名古屋市、京都市が10%、大阪市が7%を掲げています。静岡市は2003年度で12%、京都市は2004年で2.6%、大阪市は2004年度で5%と排出量を減らしており、高い目標設定の効果が出ている可能性があります。
 2025~2050年の長期の目標を設定し、本格的な脱炭素地域社会を構築する意気込みを見せるのは、柏市(2030年度に温室効果ガスを2000年度比マイナス25%以上)、千代田区(2020年度に二酸化炭素を90年度比同25%)、横浜市(2050年に市民一人当たり温室効果ガスを2004年比同60%以上)、広島市(2050年度に温室効果ガスを90年度比同70%)です。

市民参加型の排出削減が価値を生む

 5月号でご紹介したように、地球が吸収できる二酸化炭素は31億トン/年、化石燃料の燃焼で現在人類が排出している二酸化炭素は72億トン/年です。二酸化炭素の排出を吸収できる範囲に減らすには、世界全体で60~70%の削減が必要ですが、横浜市や広島市は、既にその線に沿った削減目標を立てているのです。すばらしいと思いませんか?
 高い目標を掲げる自治体には、普及啓発やモデル事業にとどまらない実効性の高い政策が見られます。例えば名古屋市では、レジ袋を断る、公共交通機関を利用するなど、環境にやさしい行動に対して「エコマネー」というポイントを付与し、ポイント数に応じてエコ商品と交換できるという、「脱温暖化行動」へのインセンティブを高める工夫をしています。広島市では、大規模排出者に削減計画の提出を義務付けた上で、市民が削減した二酸化炭素を第三者機関が買い取り、排出量取引市場を通じて大規模事業者に販売する仕組みを導入予定で、「排出削減に価値を付ける」ことで新たな市場を創出しています。
 この調査・報告は、毎年アップデートしていく予定です。先進的な目標を掲げ、それを実現するための方策や仕組みが、次々と競うように生まれますように! 地域の特性に応じた自治体の取り組みが、人々の意識や行動を変えつつ、国全体を低炭素社会にする大きなうねりときっかけとなることを期待しています。

2008年7月号

 

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