エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2009年12月10日

分析モデル理解深めよう

 

○温室効果ガス削減のコスト計算

「温室効果ガス25%削減影響、再試算へ」―鳩山内閣の掲げる25%削減のコストや影響をめぐる議論が混乱しているようだ。
そもそもは、前政権が発表した「25%減のための家計負担は年間36万円」という試算を見直すために、鳩山内閣が専門家と研究機関からなるタスクフォースに再試算を求めたのだった。

○大差ない試算結果に

 タスクフォースでは、「前政権は可処分所得の減少分の22万円と光熱費の上昇分の14万円を足したが、これはダブルカウントだ」とし、「1990年比25%削減の達成の検討に向けて、モデル分析およびコスト等の計算を、将来に向けた成長戦略の観点も入れて行う」という依頼事項に取り組んだ。
しかし、「90年比25%削減の家計負担は13万-76万5000円」という試算は前政権の試算とあまり差がなく、専門家会合のメンバーを入れ替えてもう一度再試算することにした、と報道された。
今回のタスクフォースは、前政権の試算を見直す目的で設置されたが、全般的に言えば、前回と同じ研究機関が前回と同じモデルを用い、前回とほぼ同じ前提で試算したため、(当然ながら)結果はあまり変わらなかったといえよう。
もう少し詳しく見てみよう。今回モデルを用いて試算をした研究機関は、国立環境研究所、日本エネルギー経済研究所、慶応義塾大学、日本経済研究センターである。
モデルによる分析では「どのような対策をすれば達成可能なのか」を分析する「技術モデル」と、「その対策メニューを行うとどのような経済影響があるか」を分析する「経済モデル」を補完的に使うことになる。今回の検討に用いられたモデルは日本技術モデル(国環研日本技術モデル、エネ研モデル)と日本経済モデル(国環研日本経済モデル、慶應モデル、日経センターモデル)である。

○手法にはバラつき

各研究機関の資料を見ると、タスクフォースへの依頼事項の「90年比10%減、15%減、20%減、25%減に対する分析」に対して、「どのような対策をすれば達成できるか」を技術モデルで示し、その対策メニューを経済影響分析する経済モデルに反映したのは国環研のみだった。
エネ研は、タスクフォースの依頼事項の試算を出しておらず、日経センターと慶應モデルは、依頼事項のうち、「どの程度社会経済に影響があるか」という経済モデルのみを試算している。つまり、現時点で「どのぐらい対策を行えばよいか」と「どの程度社会経済に影響があるか」を同時に評価しているのは国環研だけである。
 国環研の分析は、日本経済モデルの分析結果が示す活動量を日本技術モデルのインプットとして用いることで、活動量変化がもたらす影響について分析し、90年比25%減が達成できることを示した。
そのときに必要な追加投資額は10-20年に79兆円となるが、エネルギー削減費用は概算で10-20年で約40兆円、20-30年に約40兆円となるので、投資はおおむね回収できるという。

○重要なのは削減達成

 25%削減達成のためのシナリオ分析やコスト計算のために、これからもさまざまなモデルや分析結果が出てくるだろう。私たちは、モデルや分析結果の数字を「ご神託」のように扱うのではなく、モデル自体の性質や限界を認識した上で、削減達成という当初の目的に資する手段として、モデルを活用していく必要がある。
モデルは、あくまでもモデル開発者が客観的に社会経済とエネルギー・CO2の関係を分析して定式化したものであり、こうなったらこういう結果になるという傾向を分析するための目安の道具であって、モデル分析から自動的に良い仕組みは生まれない。
どのような形で再試算が行われるにせよ、モデルにできること・できないことを正しく伝えること、低炭素化につながるインフラなど長期を見据えた戦略に基づいて、具体的な削減メニューや制度設計を作っていくことが最も重要なことであり、そのような検討を政府が行うことを強く期待する。どんなモデルでも、それらを入力しないかぎり、良い結果は出力できないのだから。

出所:日刊工業新聞 12月7日付

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ