エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2008年07月01日

backcasting

 

企業の報告書や政府の資料などで「バックキャスティング」という言葉を見かけるようになりました。これは、スウェーデンの環境NGO(非政府組織)であるナチュラルステップが使い始めた言葉で、「フォーキャスティング」と対になる言葉ですが、どのような意味なのでしょうか。

フォーキャスティング(forecasting)のfore とは「前方」、castは「投げる」「視線を投げる」という意味です。つまり、「前方に向かって視線を投げること」がフォーキャスティングなのですね。現状に立脚して、将来を考えるアプローチです。

それに対して、「バックキャスティング(backcasting)はback=後方に視線を投げること、つまり、「目的地」から振り返って現在地を見るイメージです。

身近な例を挙げましょう。「今夜これから、前線が発達するので、明日の朝には雨が降り出すでしょう」という天気予報をよく聞きますね。「今」こうだから、このままいくと、「将来」はこうなるだろう、というよくある見方です。これがフォーキャスティングです。

では、バックキャスティングではどうなるのでしょうか?「明日の朝、雨を降らせるために、今夜これから前線を発達させましょう!」ということになります。つまり、「将来」こうするために「今」こうする、という考え方です。フォーキャスティングとは逆のアプローチなのです。

本来、ビジョンや長期目標は、バックキャスティングのアプローチで策定すべきものでしょう。現状に立脚してそこに足していくやり方では、現在の延長線上にしか未来は作り出せないからです。漸進的な改善なら、このアプローチでも良いのですが、大きな変化につながるブレークスルーは起こせません。

北欧などに比べると、日本はバックキャスティング型のアプローチが苦手で、ほとんどの場合、現状からの積み上げ方式でビジョンや長期目標が作られているように思います(「確実にできることしか言ってはいけない」という、文化的な制約もあるのかもしれません)。

それでも、日本の自治体や企業の中にも、まず「あるべき姿」を描き、そのために必要な方法を考えようというバックキャスティングのアプローチが見られるようになってきました。

私自身は、環境問題だけではなく、よりよい人生を生きるためにもバックキャスティング型のアプローチが大事だと思っています。

個人や組織が問題に直面している時、現状がどうか、どういった問題に直面しているか、どういった制約条件があるかはひとまず置き、「すべてがうまく思い通りになったら?」と、かなえたい理想の姿をまず描く。そして、その理想像から現状を振り返って、「そこへ行くためには何をすべきか」を考えてみる――。ぜひ実践してみて下さい。

これが最後のエールとなります。2年半近く読んで下さって、ありがとうございました。

 

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