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エダヒロ・ライブラリー講演・対談

生かされあう社会のデザイン(アーユス仏教国際協力ネットワーク広報誌より)

アーユス創立20周年記念シンポジウム(2013.11.5)
2013年11月05日
団体主催
講演
 

温暖化の脅威にさらされる地球

 温暖化は温度の上昇や台風の強大化だけではなく、洪水や山崩れ、地滑りの被害、木の乾燥による山火事の増加、南極と北極の氷の融解、熱中症患者の増加などを引き起こします。また、雨の極端に多く降るところと全然降らないところが出てくるため、洪水と渇水の組み合わせが各地ででてきています。また、動植物の生息分布も変わるため、生態系にも影響を及ぼします。

 温暖化を進める原因の温室効果ガスは6種類ありますが、CO2が最も多く、そのうち94%はエネルギーを使うところから出ています。しかしこれからもエネルギーの需要はアジアを中心に増えて、今後30年でさらに1.5倍になると言われています。そして、このエネルギーのほとんどが、石油、石炭、天然ガスなどの温暖化につながる化石由来のものです。自然エネルギーは全体からみるとまだ少ししかないために、当面のニーズを満たすのが化石エネルギーになってしまいます。

 またこれらの化石エネルギーの価格は需要と供給の関係から決まるために、需要が増える一方で生産量が減ってしまえば、価格は上がらざるを得ないでしょう。シェールガスにしても、この先10年は大丈夫かもしれませんが、やはり一時の時間稼ぎにはなっても根本的な問題解決にはならないと思います。

 他にも生物多様性の問題など、現代にはいろいろな環境問題があります。どうして、これだけ様々な環境問題が次から次へと生まれてくるのでしょうか。

 

地球の大きさは決まっている

 大前提は、地球の大きさは決まっているということです。地球1個では、人間の営みを全て支えることができなくなったのです。

 エコロジカルフットプリントという考え方があります。わたしたち人間はどれだけ大きな足跡で地球を踏んづけているか、つまりわたしたち人間の環境への依存度を、必要とする地球の数で計算したものです。かつては1以下だったのが、今は1.5です。ちなみにその1.5という数字は途上国も入れて全て平均した値です。もし世界中の人が日本人並の暮らしをしていたら、2.3個必要になります。もし世界中の人がアメリカ人並の暮らしをしていたら、4個必要になります。今、わたしたちの世代が地球1個分以上の暮らしを営めているのは、過去からの遺産を食いつぶし未来から前借りをしているからです。

 持続可能性というのは、つまり金融機関に預けたお金の元本に手を付けずに、利子だけで暮らすようなことです。地球には毎年木を生み出す森林や毎年魚を生み出す魚の集団があり、それが元本です。しかし今の1.5というのは利子だけではなく、元本にも手を付けているということです。

 

経済成長の限界

 私たちがこんなに何でも増やし続けている原動力は、何でしょうか。私は、根本的原因は、経済成長への飽くなき追求だと思っています。必要とする自然環境が地球1個で足りなくなっても、ほとんどの政府は今よりも経済が成長することを当然としています。

 このような中、私たちにできることの1つは、私たちが今の暮らしや経済の中で地球から取り出して戻すものをできるだけ減らすということです。省エネやマイカップの使用や、電車の利用などもそうです。今の経済は経済成長を前提に作られているために、経済成長をすぐに止めることは難しいです。たとえば年金社会保障は、経済が成長することを前提に作られているために、経済成長が止まると行き詰まります。

 温暖化は、どれだけCO2を出したかという蓄積量で決まるために、たとえこれからCO2を減らしたとしても、温度上昇は少なくとも2050年まで続きます。しばらくは、進む温暖化への備えをしないといけません。現在の日本のエネルギー自給率は4%です。つまり96%は海外からのエネルギーに頼っている。日本は昔のようにお金のある国ではないので、そのうち買うことすらできなくなる時代がくるかもしれません。

 

これからの社会創造の切り口となる「地域」

 このような状況の中、「地域」が、これからの社会創造の1つの切り口だと私は思っています。このことを考えるキーワードが、「レジリエンス」です。これはもともと物理の用語で、回復力、復元力を指します。私は翻訳するときに「しなやかな強さ」と訳すことがあります。これは震災や温暖化のような何らかの外からの力がかかった時に、ポキッと折れずに、しなやかに立ち直れる力という意味です。

 これから温暖化の悪影響が出て、エネルギー価格も高騰し、リーマンショックのような金融危機がおそらくまた起こる。そういう本当に強い風が吹き付ける時代に、ポキッと折れない力をどうやって持つか。そういう意味でレジリエンスという言葉が本当に大事だと言われるようになっています。

 温暖化や様々な社会問題は、グローバル化しているために、どこかで何かが起きたら地球全体に飛び火します。しかし、社会が受けるリスクが大きくなり複雑化しているのに、それに対応する力が、日本だけではなくて先進国で減っていることは大きな課題です。社会の支えとなるつながりがどんどん弱くなっています。また国際的な調査で、家族以外の人と交流がないという人の割合を取った時に、残念ながら我が日本は15%で一番高い。家族だけ、もしくは自分だけでいろいろな事態を切り抜けるのは大変なことです。

 地域のレジリエンスを高めるために、間違いなく必要なのは外部に依存している度合いを減らすことです。外に頼るほど、外で何かが起こったときに影響を受けます。現在、日本の食糧自給率は40%。TPPが入ってくるとさらにそれが下がりますが、食べ物の3割か4割しか自国で作っていません。東京の食糧自給率は1%ですから、何らかの原因で北海道などから農作物が届かないようになれば、東京の人はひとたまりもないです。

 

外部に依存しない地域・・・多様な地産地消

 地産地消は各地で広がっています。日本では有機のものを買う動きは始まっていますが、それには遠くから運んでくる場合もある。地域の農家と直接契約して、地域の農家を食べ支えることは、いざというときの助け合える関係づくりにつながります。

 エネルギーも地産地消できます。デンマークでは電力の約3割を風車で作っていて、そのうちの8割以上を地元の人が所有しています。その風が生み出すお金は、全て地元に入ります。今、日本には、風力発電のタービンが約2000基あり、私が数年前に調べた時に、秋田県だけで200基ありましたが、そのうち、地元の人がお金を出して所有し、売り上げが地元に還元されるものは5基しかありませんでした。195基の風車が生み出すエネルギーのお金は東京など中央に持って行かれる仕組みです。これは新たな植民地主義といっていいくらいです。それだけだときっと目障りで音がうるさいだけのものになります。

 私は、地域エネルギー経済と呼んでいますが、地域のエネルギーで地域の経済をつくる。それをするためには地元に単に風や川やバイオマス資源があるというだけではなくて、まずは、みんなで話し合うことから始めないといけません。どこに風車を置くのか、うちはやりたくないなどといろいろな会話をすることは、煩わしいかもしれませんがお互いのことをよくわかるようになる上に、みんなで地域を考えることになる。そういうことを通じて地域のレジリエンス、何かがあったときにお互いが支え合い助け合う力が大きくなります。

 そして何よりも日本に足りないのは、それを結びつける力です。私は昔から地域の様々な立場の人たちをつなげる活動をしてきたお寺や神社などが、大きな可能性を握っていると思います。

 グローバル化が進む中、地域をもう一度取り戻す必要性は高まっています。行きすぎたグローバル化から、少しでも自分たちで自分たちの暮らしの手綱をもう一度握り直すことが求められている。食べ物もエネルギーも外から得ているとしたら、私たちが握っている手綱は本当に小さなものでしょう。グローバル化を憎む必要はないし、その恩恵は十分に受けたらいいと思う。しかし、地元の大切さや地域の力をもう一度取り戻して、バランスを取ることが今とても大事ではないでしょうか。そういう意味で、つながり、縁、生かし合う生かされ合う社会、地域の力、人の力を考えていきたいと思います。

 

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