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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2016年05月12日

ロボット、AI、IoTの先にあるのは......?(2016.05.12)

新しいあり方へ
 

今朝の新聞で、「機械大手の企業が金型製造の無人工場を作る」という記事を読みました。「ロボットや最新の工作機械を組み合わせ、製造工程を完全自動化することで、納期を最大で半減、売上を5割増へ」という、"技術の進歩はスバラシイ!"という記事です。

最近はロボットやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)技術の導入に関するニュースを見かけない日はないほどですね。

しかし、前回の幸せ研の読書会で『ロボットの脅威』を読み、次回の読書会の『限界費用ゼロ社会―<モノのインターネット>と共有型経済の台頭』を読み進めている身としては、同時に「何人分の雇用が不要になるのか」が気になります。

(前回の読書会)
http://ishes.org/news/2016/inws_id001914.html

(次回の読書会)
http://ishes.org/news/2016/inws_id001907.html

"世界の工場"として製造業の強い中国では、アップル社製品の部品製造を請け負っている主要メーカー社が2012年に、自社工場へ100万台のロボットを導入する計画を発表するなど、ロボット技術が大規模に普及中で、すでに製造業の労働人口の15%、1600万の雇用を失っており、2013年の半ばに当局が「この年の中国の新卒者はおよそ半分しか職にありついておらず、前年の大卒者の20%以上もまだ就職できていない」ことを認める状況になっているとのこと。

このような動きを見ていると、なぜ「過去10年間、上位1パーセントの所得が18パーセント増加したのに対し、中流層の所得は下落している」(数回前の読書会・ステグリッツ『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』より)のかがわかります。
http://ishes.org/news/2016/inws_id001915.html

ロボットやAIを所有する資本家はますます富み、他方、ロボットに仕事を奪われる、または給与も休みもなく不平も言わず働くロボットとの競争を強いられる労働者はますます不利な立場に置かれるようになっていく......という構造なのです。

「自分はホワイトカラーだから、頭脳労働者だから、だいじょうぶ」と思っていられたのは過去の話......というのが、『ロボットの脅威』の伝えるメッセージの1つです。同書で紹介されていたスポーツ記事を紹介しましょう。

~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~

「2点リードされて9回を迎えたとき、エンゼルスは敗色濃厚だった。だがロサンゼルスは、ブラディミール・ゲレーロの貴重なシングルで逆転し、日曜日のフェンゥェイ・パークでのボストン・レッドソックス戦を7―6で勝利した。

ゲレーロはエンゼルスの走者2人を返した。この日は4打数2安打だった。「ニック・エイデンハート、と4月にアナハイムであったことを偲ぶという意味で、たぶん(自分のキャリアのなかで)一番のヒットになったと思う」とゲレーロは語った。「このヒットを、亡きチームメイトに捧げるよ」。

ゲレーロは今シーズンを通じて活躍し、特にデーゲームに強さを発揮した。デーゲームでのOPS(出塁率プラス長打率)は、794。デーゲーム26試合で本塁打5本を放ち、13打点を挙げている。」

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~

このわかりやすく、ホロリとさせる記事を書いたのは、なんと、コンピュータだというのです!

「プログラム統計分析を行って、試合のあいだに起きた注目すべき出来事を見定める。そして特に重要なプレーやストーリーに不可欠なキープレーヤーに焦点を合わせながら、試合の流れ全体を要約する自然言語のテキストを作り出す」というこのテクノロジーはフォーブス誌などの一流メディアに使用され、スポーツ、ビジネス、政治などさまざまな分野で自動化された記事を生み出しているとのこと。

「その多くが有名ウェブサイトに掲載されているが、サイトのほうはそうした事実を認めたがらない」と書いてありました。(このメールニュースは今のところロボットではなく、エダヒロが書いていますが、みなさんが各種サイトで読んでいる記事にはコンピュータ作のものもあるかも......)

私も文章を書くことで生計を立てている人間の1人ですが、「このソフトウェアはおよそ30秒ごとに新しいニュース記事を一本書き終えることができる」とのこと、到底かないません~。

記事を書くというのは一例ですが、著者のメッセージは、「かつては大学を出た高スキルの専門家たちの牙城だった分野ですら、自動化の影響を免れない」というものです。

もう1つ、「確かに......」と思いつつ、ショックだったのは、「従来の解決策が通用しない!」ということです。

これまでにも、新しい技術が雇用に影響を与えることは多々ありました。たとえば、農業の機械化によって、農業労働者が失業する。そのとき、失業した農業労働者は群をなして工場での職を求めて都市へ流入しました。

また、オートメーションとグローバリゼーションによって、製造業部門で必要な労働者が減る。そのとき、製造部門からサービス業への人の移動が起こりました。(こういった従来の場合の多くでは、以前の仕事よりもよい条件で吸収されていた、と著者は述べています)

こういった労働者の移動が求められる状況では、「労働者にさらに教育と訓練を受けさせること」が大事でした。そうすれば、新たな高スキルの役割に就ける、というわけです。

ところが、現在の状況は、低スキルのルーティン労働が機械に取って代わられるだけではなく、高スキルの仕事の多くもコンピュータがこなせるようになりつつあります。従来型の「教育と訓練」は解決の切り札ではなくなりつつあるのです。

私も大学で教えていますが、ロボットや人工知能や完全自動化工場が「特殊事例」ではなく「ごくあたりまえ」になる社会に出て行く若者たちに、何を教え、何を身につけさせればよいのか、考えさせられます。

東京都市大学での私の授業では、科目にかかわらず、「言われたことをやるだけなら、コンピュータやロボットに置き換えられるよ。自分の頭で考える力を鍛えるしかないんだよ」と檄を飛ばして、「考え方」を指南し、「考える課題」を数多く課しています。(ですから、かなりハードな授業だと言われているようですが、ついてくる学生たちは「考えるって楽しい」「自分の成長を実感する」と目を輝かせています)

それでも、おそらく十分ではないのだと思います。どうしたらよいのか......?

ロボットやAI・コンピュータに仕事を奪われるようになれば、個人の生活に壊滅的な影響が及ぶことは言うまでもありません。同時に、「機械が労働者に代わっても、機械は消費しない」わけですから、「雇用」という、「購買力を消費者の手に行き渡らせるための最も重要なメカニズム」が損なわれることで、現在の暮らしや社会が依存しているマスマーケット経済自体が成り立たなくなるのではないか、というのが著者の主張です。

ではどうしたらよいのか? そういった時代の中でも、持続可能な幸せな暮らしや人生を送るには? 社会や地域はどうあるべきか? 個人としてどのような対応をすべきか? 特に子どもたちや若い世代に何を伝えるべきなのか?

......答えを探し求めて、勉強会は続きます。

直近は、5月19日に『限界費用ゼロ社会―<モノのインターネット>と共有型経済の台頭』を課題書に、大きな歴史的な流れとして、現在の動きと台頭しつつある新しい経済を考えます。とっても面白いですよ!
http://ishes.org/news/2016/inws_id001907.html

6月は『ワークシフト』を課題書に取り上げます。
http://ishes.org/news/2016/inws_id001907.html

読書会は、私がキーポイントのレクチャーをして、みんなで考え、議論する形式ですので、課題書を読む時間がなくても、本を持っていなくても、お気軽にご参加いただけます。

また、これまでの読書会の内容は、音声受講で学んでいただけます。ご興味を持ったその時点で、ぜひどうぞ!
http://ishes.org/reading/

 

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