エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2009年05月25日

植林と土壌管理で炭素隔離を

 

                        レスター・ブラウン

2007年当時、縮小しつつあった熱帯地方の森林は年間22億トンの炭素を放出していた。一方、拡大しつつあった温帯地方の森林は年間7億トンの炭素を吸収していた。つまり、実質15億トンの炭素が毎年大気中に放出され、温暖化の一因となっていたということだ。

アジアの熱帯林が破壊されている一番の理由は、材木の需要が急増していることだ。それに対し、ラテンアメリカのアマゾン流域では、大豆と牛肉に対する需要の高まりが森林破壊の主な原因となっている。アフリカでは、薪の調達に加え、現耕作地の劣化と放棄による新たな農地開拓が伐採の大きな原因だ。

また、世界の森林破壊の半分以上が、インドネシアとブラジルの2カ国で起きている。同じく森林破壊が著しいコンゴ民主共和国は、国情が安定しておらず、森林管理が困難な状態だ。

プランBの気候安定化計画には、さまざまな植林活動や高度な農地管理方法の導入を通して、世界中で実質上の森林破壊をやめ、炭素を隔離しようということも盛り込まれている。今日、地球の森林は減少しているため二酸化炭素(CO2)の主な排出源となっている。目標は、CO2を吸収してくれる木をもっと多く育て、地球上の樹木面積を拡大することだ。

森林破壊を禁止することなど、到底無理だと思うかもしれない。だが、タイ、フィリピン、中国の3カ国は、環境上の理由により、全面的あるいは部分的に伐採を禁止せざるを得なくなった。3カ国とも、森林被覆が減少したことで生じた壊滅的な洪水や泥流を受けての禁止だ。

中国政府は、揚子江流域での数週間にわたる絶え間ない洪水で記録的な損失を被った後、個々の伐採業者の立場からではなく、社会全体から森林政策を見ると、森林を破壊し続けることは経済的に無意味だということに気付いた。当局は、洪水を抑制する機能を持つ立木は、伐採された材木の3倍の価値があると述べ、そのことを考慮して異例の措置を取った。伐採業者にお金を払って植林業者として働いてもらったのだ――森林を破壊するのではなく、再生するために。

広範囲にわたって森林を伐採しているほかの国々も、洪水を含め、森林破壊が環境に及ぼす影響に直面することになるだろう。ブラジルのアマゾン熱帯雨林は、このまま規模が縮小し続ければ、乾燥状態が続くことにもなり、火災が起きやすくなるかもしれない。

もしアマゾン熱帯雨林が消失したら、そのほとんどが砂漠や低木林と化し、南部の農業地帯を含む内陸部へ水を循環させるという熱帯雨林の能力も失われてしまう。こうなると、限られた地域で次々と発生している環境上の惨事は、経済上の惨事へと姿を変える。そして、燃え上がるアマゾン熱帯雨林は何十億トンもの炭素を大気中に放出し、地球の温暖化を加速させることになるだろう。

「森林破壊が続くとどうなるのか」という地域的な関心事が、やがて国の関心事へと移り変わったように、森林破壊が温暖化の主な原因となった今、この問題は国を超え、世界の関心事となりつつある。

森林破壊は、もはや地域的な洪水問題にとどまらず、世界規模での海面上昇やその他さまざまな気候変動の影響の一因にもなっている。自然はまさに今、「森林を保護せよ」という要求を強めたところなのだ。

森林破壊を実質ゼロにするという目標を達成するには、環境破壊を迫る圧力を弱めなければならない。そうした圧力は、人口の増加や富の増大、エタノール蒸留所やバイオディーゼル精製所の建設、紙使用量の急増などから生じている。

地球の森林を守るということは、できるだけ早く人口増加を食い止めるということである。アマゾン川流域の森林破壊は牛肉と大豆の需要拡大によるものだが、その責任を負う富裕層にとっての森林保護とは、食物連鎖のピラミッドの頂点から下ることである。そして、森林破壊の禁止をうまく進めるには、バイオディーゼル精製所やエタノール蒸留所の新規建設を禁止することが必要かもしれない。

森林と気候の関係について、こうした懸念が高まっているなか、スウェーデンの大手エネルギー会社バッテンフォール社は、CO2を隔離する上で荒廃地に植林することがどれだけ大きな可能性を秘めているかを調査している。

調査を始めたのは、世界には18億6,000万ヘクタールの荒廃地――かつては森林や耕作地や草地だった――があり、その半分に当たる9億3,000万ヘクタールには有益に再利用できる可能性があると気づいたからだ。全荒廃地のうち約8億4,000万ヘクタールは熱帯地域にある。そこで森林を再生すれば、はるかに速く炭素を隔離できる可能性がある。

バッテンフォール社は、技術的に見て、この9億3,000万ヘクタールの土地は最大で年間約216億トンのCO2を吸収できると推定している。世界的な気候安定化戦略の一環として、炭素隔離のコストを炭素1トン当たり210ドル(約2万円)と見積もった場合、同社は216億トンのうち18%は実現できると考えている。

その場合、1億7,100万ヘクタールの土地に植林することになる。これは、インドの穀物栽培面積よりも広く、年間35億トンのCO2、つまり、炭素に換算すれば9億5,000万トン以上を隔離できることになる。炭素1トン当たり210ドルかかるとすると、この炭素隔離にかかるコストは合計2,000億ドル(約18兆円)にのぼる。10年をかけて年間200億ドル(1兆8,000億円)ずつ投資していけば、気候の安定を確実に大きく前進させることができる。

大気中のCO2を取り除こうというこの世界的な植林計画の資金は、その大部分を排出した先進国が負担することになるだろう。そして、このとてつもなく大掛かりな植林活動の運営、資金調達、監視を行なうための第三機関が設置されるだろう。

バッテンフォール社の計画のほかにも、現在、既に多くの植林計画が進められている。そうした取り組みを動かしているのは、さまざまな懸念――気候変動から砂漠化の進行、土壌保全、より住みやすい都市づくりについてまで――である。

2006年後半、国連環境計画はノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイ氏に刺激を受け、気候変動対策として年間10億本の木を植える世界的な計画を発表した。この10億本という目標はいとも簡単に達成され、2008年中頃には、20億本以上の木が150カ国以上で植えられた。次なる目標は2009年末までに70億本の木を植えること。地球に住む誰もが1本強を植えることになる。

農業のやり方にも、有機物として土壌中に蓄えられる炭素の量を増やせるものが多くある。土壌浸食を抑え、耕作地の生産性を高める方法なら、大抵、土壌中の炭素含有量を増やすことにつながる。

そうした方法に挙げられるのは、従来の耕作法をやめて耕うん回数を最小限に抑える「減耕起栽培」か、まったく耕さない「不耕起栽培」に転換すること、農閑期に土壌を守ってくれる被覆作物の利用を拡大すること、家畜や家禽の排泄物を土に返すこと、灌漑面積を拡大すること、作物と家畜を育てる混合農業に立ち返ること、限界耕作地に植林することなどである。

オハイオ州立大学炭素管理・隔離センターの上級農学者ラッタン・ラル氏は、前述した方法など多くの農法の一つ一つについて、どの程度の炭素が隔離できるかを算出した。

例えば、農閑期の土壌を保護する被覆作物の利用を拡大すると、世界で毎年6,800万トンから3億3,800万トンの炭素を貯蔵することができる。ラル氏が挙げている農法での全炭素隔離量を計算すると、最低でも毎年4億トン、さらに楽観的に見積もれば、最大で12億トンの炭素を隔離できる可能性があることが分かる。

地球の炭素収支について、私たちは控えめすぎるかもしれないが、今述べたような炭素に配慮した農業と土地管理を導入した場合、6億トンの炭素を隔離できるだろうと見積もっている。

上述したように実質上の森林破壊をやめ、炭素を隔離することで、私たちは「2020年までに炭素排出量を80%削減する」という、プランBの気候安定化目標に向かって歩むことができる。

そして、エネルギー効率を向上させ、再生可能なエネルギー源を利用することで、いかにこの目標に近づけるかについては、下記のアースポリシー研究所の炭素削減計画を参照してほしい。
www.earthpolicy.org/Books/PB3/80by2020.htm

 

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