エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年06月08日

ひとりでもできる

エピソード
 
レスターの1時間の講演後に、質疑応答となったときのことです。「あなたのいう世界経済の再構築するために、政府、企業、そして個人はどのような役割を果たすべきでしょう?」という質問がありました。レスターは丁寧に、詳しく答えていましたが、「個人」について彼が答えた部分、胸に迫るものがあったので、ご紹介します。 私たちはともすると、自分一人では大したことはできやしないや、と思ったりしますね。でもマーガレット・ミードは『どんな大きな社会運動も、始まりは一人だった』と言っています。 環境運動の歴史を振り返っても、本当にそうだな、と思います。そのひとつの例が、『沈黙の春』を書いたレーチェル・カーソンです。彼女の思想や取り組みは、今に至るまで、環境運動に大きな影響を与えているのはご存知の通りです。 彼女は米国政府の内務省に務める職員でした。科学者としての教育を受けていましたが、彼女は学部卒でした。同僚には博士号を持った人もたくさんいました。 仕事で野生生物などを調べているうちに、彼女は"これは心配だ"ということを見出しました。彼女と同僚の違いは何だったのでしょうか。教育レベルではなかった。同僚たちの方が高い人が多かったのですから。でも彼女は進んで自分の見出したことを発言しようとしたのです。 彼女は政府を去り、本を書きました。1962年に書かれたこの本は、世界に環境運動のうねりを生みだし、今もそのうねりは続いています。 彼女の例を話したのは、どのように個人でも違いを生み出せるか、ということをわかってもらいたかったからです。 自分の書いたものや喋ったこと、自分の行動が、いつ、どこで、だれに影響を与えるか、これは予見しがたいものです。 今朝、ホテルで数分でよいからぜひ会いたいといわれ、ある人に会ってきました。STMicroelectronicsという欧州を本部とする世界大手の半導体メーカーのCEO、イタリアのピストリオ氏です。 彼は、「1994年の地球白書を読んで、自分の考えが大きく変わった。今では毎年、3ヶ国語で地球白書を150部買い求め、本当に大切な情報だから、と会社の幹部に読んでもらっている。 そして自社でも様々な環境の取り組みを始めた。これからの計画としては、2010年までに炭素中立の会社になることを考えている。つまり自社の操業から、ネットでの二酸化炭素排出をゼロにするつもりだ」という話をしてくれました。 私や同僚が94年に地球白書を書いたときに、国際的な企業のイタリアのCEOがそれを読んで自分の会社を文字どおり"再構築"すべく努力されるなど、思ってもいませんでした。氏の話はとても嬉しく励まされる思いがしました。 たとえ個人でも、その行動や話すことが、どこでだれにどのような影響を与えるのか、わからないものだと思います。 3つの講演会場では、たくさんのレスターのファン?の方がいらっしゃる様子がよくわかり、彼の本や講演が、本当にたくさんの人々に影響を与えているのだろうなぁ!と思いました。 その他、いつもの講演会では出ない角度の質問として、「コミュニケーションの重要性と、研究所のコミュニケーション戦略は?」というのが面白かったです。 私も含めて多くの人にとって「毎年「地球白書」「データブック」を出す他に単行本を数冊、隔月の雑誌、電子メールによるニュース配信と、とても多様で生産的なコミュニケーション活動を行っている、しかも毎日平均すると全世界で40もの新聞や雑誌、TVなどでその記事などが引用されている」というコミュニケーション成功の秘訣は興味のあるところです。 レスターの答えを簡単にまとめると「あれもこれも、ではなくて、自分たちのスタッフの人数や自分たちのミッション(使命)にあったものに力を集中すること」となるでしょうか。 「しかし」とレスター。「私たちのコミュニケーションの目的は、生態系を破壊せずに経済発展を続けられるように、世界経済の再構築をはかるために必要な理解を広めることです。なぜそうしなくてはならないか、新しい経済の姿はどのようなものか、現在の経済からその新しい経済にどのように移行すべきか、この3点を伝えることです。 ですから、自分たちの活動を評価する尺度は(引用の数や本の部数ではなく)私たちが、環境的に持続可能な経済へと世界経済を再構築するために役立ったかどうか、だけです」。
 

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