ホーム > エダヒロ・ライブラリー > これまでの活動 > レスター・R・ブラウン > 『フード・セキュリティー―だれが世界を養うのか』より「大豆について」

エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2005年09月11日

『フード・セキュリティー―だれが世界を養うのか』より「大豆について」

 
大豆について  日々の食生活で大豆と聞いてまず思い浮かぶのは、豆腐やベジバーガーなどの肉の代用食品だろう。しかし、世界で急増する大豆収穫量の大部分は、私達が食べる牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳、卵、そして養殖魚に姿を変えて消費されている。日常の食生活では目に見えないが、大豆ミールを家畜飼料として取り入れることで穀物の動物性タンパク質への変換効率が飛躍的に高まるため、世界の飼料産業に大きな変革がもたらされた。  世界の農業従事者が2004年の1年間に生産した大豆は2億2300万トンで、穀物総生産高の9分の1にあたる。このうち1500万トンは豆腐や肉の代用食品として消費され、残りの2億800万トンは圧搾されて3300万トンの大豆油と、より価値の高い大豆ミールとに分けられた。 大豆油は植物油の中でも世界中で最も取引量が多く、料理やサラダのドレッシングに使われる油のほとんどを占めている。大豆油の生産量は、他の食用油であるオリーブ油、紅花油、菜種油、ひまわり油、ヤシ油をすべて合わせた生産量を上回る。  油を搾り取った後に残る1億4300万トンの大豆ミールは、飼料として牛、豚、鶏あるいは魚に与えられる。良質なタンパク質が加わる事で、餌の栄養価が高まるのだ。穀物と大豆ミールをおよそ4対1の割合で配合することによって、穀物を動物性タンパク質に変える効率が劇的に向上し、時には倍近くにもなることが経験上知られている。  今では、世界の三大食肉生産国である中国、米国、ブラジルはすべて、飼料のタンパク質補給で大豆ミールに大きく依存している。米国ではずっと以前から、大豆ミールを用いて家畜飼料の品質を向上させてきた。1964年にはすでに飼料の8パーセントを大豆ミールが占めており、飼料に占める大豆ミールの割合は、過去十年間ほぼ17~19パーセントで推移している。  ブラジルでタンパク質補給源が大豆ミールへ変わり始めたのは、1980年代後半になってからで、1986年から1997年までに、飼料全体に占める大豆ミールの割合は、1986年には2%だったのが1997年には21%へと急増した。 中国では、大豆ミールを使うと飼料効率が飛躍的に高まることが分かってから約6年後に、それが現実のものとなった。飼料中に占める大豆ミールの割合は、1991年の2%から2002年には20%へと跳ね上がった。魚の養殖には特に多くのタンパク質が必要となるが、中国では2003年に使用した穀物を主成分とする養殖魚用飼料1600万トンに、約500万トンの大豆ミールを加えた。  この3ヶ国に起こったことを見ると、家畜栄養に関する同じ原則がどの国にもあてはまることがわかる。混合飼料中の大豆ミールとトウモロコシの割合は両者の価格関係によってある程度変化する。米国のようにトウモロコシが安いところでは、配合されるトウモロコシの割合が若干高くなる。一方、大豆生産が経済的に有利なブラジルでは大豆の割合が高くなっている。  1950年から2004年にかけて世界の穀物生産量が3倍になる一方で、大豆の生産量は13倍に拡大した。このタンパク源は大部分がさまざまな畜産物となって間接的に消費されるが、その急増ぶりは、言い換えれば生活が豊かになりつつあること示しており、われわれの食生活が食物連鎖を上る動きを示すものだ。  大豆の栽培は、およそ5000年前に中国中央部で始まり、トーマス・ジェファーソンが大統領だった1804年に米国へ伝わったが、その後1世紀半もの間、大豆はもの珍しい植物として家庭菜園で栽培される程度で、中国以外の国では、大豆がどんな形をしているかさえ知らない農民が多かった。しかし、第二次世界大戦後、北米と欧州で畜産物の消費が増加すると、それに従って大豆の生産量は爆発的に増大した。  1978年までに、米国では大豆の栽培面積が小麦の面積を凌ぐまでになった。そして最近ではトウモロコシを上回り、大豆はアメリカで最大の栽培面積をもつ作物となっている。米国では、今や大豆の生産量は中国の5倍となり、大豆はその原産国よりもずっと大きな生態学的地位と経済のニッチ市場を得たのである。  米国の大豆の大半が、コーンベルト(中西部の農業地帯)で、トウモロコシと輪作されている。窒素を土壌に固定するマメ科植物の大豆と、窒素を大量に必要とするトウモロコシは、隔年で同じ畑に植えるには相性の良い組み合わせだ。実際、もしコーンベルトが今日名づけられたならば、コーン・大豆ベルトと呼ばれていただろう。  大豆にまつわるもう1つの物語が、過去30年にわたって中南米を舞台に繰り広げられてきた。1970年代初めまで、ペルーのカタクチイワシ漁は世界の漁獲高の5分の1を占め、家畜用のタンパク質飼料のほとんどを供給していたが、1972年に漁獲高が激減した後、中南米の一部の国ではそれを機に、大豆の栽培を始めた。その結果ブラジルとアルゼンチンは大豆生産を拡大し始めた。 最初はゆっくりであったが、1990年代に猛烈な勢いで拡大し、2004年の大豆生産量は両国の全穀物生産量を超えた。現在、ブラジルは米国を凌ぐ大豆輸出国となっており、今後数年以内に生産量でも米国を上回るだろう。  過去半世紀で大豆の生産量が13倍に増加する一方で、単位面積あたりの収穫高は3倍近くになった。つまり、大豆の作付面積はおよそ4倍に増加している。主に収量の増加によって生産量を増加させてきた穀物とは対照的に、多くの土地を必要とする大豆の場合、収穫量の増加は、多くの土地を必要とする大豆の収穫量の増加は作付面積の拡大によるところが大きい。  世界の農地に適した土地面積には限りがあるので、結果として大豆生産の拡大は、ある程度穀物を犠牲にして成り立っていることになる。しかしながら、大豆生産の拡大により飼料用穀物の効率が大きく上がるので、飼料用穀物と大豆を合わせた農地面積が減少するのだ。
 

このページの先頭へ

このページの先頭へ