Library:レスター・ブラウン|ニュースレター|e's Inc. http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/ ja 2011-12-24T18:37:22+09:00 駐車場から公園へ~住みやすい都市づくりのために http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/111224_183722.html                       レスター・R・ブラウン

1998年、テルアビブでホテルから会議場まで車で移動していたとき、自動車と駐車場の数の多いことが、いやでも私の目についた。半世紀前の小さな入植地から、今や約300万人を抱える都市に発展したテルアビブが、自動車時代とともに進化してきたことは明らかだった。このときふと私の頭を過ぎったのは、駐車場と公園の比率は都市の住みやすさを測る最適の指標ではないか、その指標によって都市がヒトとクルマのどちらを重視して設計されているかが分かるのではないか、ということだった。

テルアビブが世界で唯一急成長した都市だというわけではない。人口動向を特徴づける要因としては、現在、都市への人口流入が人口増加に次いで2番目の大きな要因となっている。1900年当時、都市人口は1億5,000万人程度であった。それが2000年には28億人となり、19倍に膨らんだ。今では人類の半数以上が史上初めて都市で暮らしている。人類はその歴史上初めて、都市に生息する種となったのだ。

世界中の都市は今、過去に例のない難題に直面している。メキシコシティ、テヘラン、コルカタ、バンコク、北京、ほかにも何百という都市で、安心して空気が吸えなくなっているのだ。大気汚染があまりにも進み、呼吸することが一日当たり2箱のタバコを吸うことと変わらなくなった都市もある。呼吸器疾患が蔓延している。通勤者が交通の混雑した道路やハイウエーで車に乗ったまま過ごす時間は、多くの場所で年々増え、ますます彼らをいらつかせている。

こうした状況に対応して、新たな都市計画哲学、ニュー・アーバニズムが台頭しつつある。環境問題専門家のフランチェスカ・ライマンが言うには、それは「クルマではなく、ヒトを中心に設計されていた時代の伝統的な都市計画を復活させようとする」考え方だ。

特に目を引く現代都市の変革のひとつが、エンリケ・ペニャロサが3年間市長を務めたコロンビアの首都ボゴタで起きている。彼は1998年に市長に就任したとき、車を所有する30%の人々の生活をどうすれば向上させられるかではなく、大多数の自動車を持っていない70%の人々のために何ができるかを探ろうとした。

ペニャロサは子どもや高齢者にとって快適な環境を備えた都市は、誰にでも快適なことを知っていた。そこで彼はわずか数年で都市生活の質をすっかり一変させた。彼のリーダーシップのもとで、町は1,200の公園を新設もしくは整備し、またバス中心の高速交通システムを導入してこれを成功させた。

さらに数百キロメートルに及ぶ自転車道路や歩道を建設し、ラッシュ時の交通量を40%緩和させたほか、10万本の木を植え、地域住民を直接巻き込んでその人たちが住む地域を改善したのだ。こうした施策によって、彼は市民としての誇りを800万人の住民の心に植え付け、内戦で疲弊したコロンビアで、ボゴタの道路をワシントンD.Cよりも安全な道路にしたのである。

この新しい都市哲学を採り入れたのは、ペニャロサだけではない。ジャイメ・レルネルもまた、ブラジルのクリチバ市の市長当時、低料金で通勤者に優しい代替交通システムの設計と導入を率先して進めた。その結果、1974年以降、クリチバ市の交通システムはすっかり様変わりした。市民の60%は自動車を保有しているにもかかわらず、今では、市内移動手段の80%をバス、自転車、徒歩が占めている。

ジョージア州のアトランタのように、労働者の95%までもが車通勤をするようになると、都市には問題が生じる。対照的にアムステルダムでは、住民の35%が自転車か、徒歩で通勤しており、公共交通機関を利用する人は25%、車を使っている人は40%である。パリでは通勤に車を使う人は通勤者の半数以下。しかもこの数はパリ市長、ベルトラン・ドラノエの努力によって、減少し続けている。これらの欧州の都市は歴史が古く、道幅が狭いことも多いのだが、それでも混雑はアトランタよりはるかに少ない。

車の渋滞を解決する方法の一つは、多くの雇用者が駐車代として間接的に支給することの多い補助金を失くすことである。ドナルド・シャウプは、著書「無料駐車は高くつく」の中で、米国における路外駐車の補助金額は少なく見積もっても年間1,270億ドル(約10兆5,000億円)を下らないとしている。これだけ補助があれば、車に乗ろうとするものが多くなるのは明白である。自動車や駐車場の増加によって道路渋滞によるコストが嵩み、生活の質が悪化することを考えるなら、社会が今なすべきことは駐車に補助金を出すことではなく、駐車料金をとることである。

市内に自動車乗り入れ禁止区域を設けた都市は多く、ニューヨーク、ストックホルム、ウイーン、ローマなどがそうした区域を設けている。パリ市は、日曜・祝日はセーヌ川沿いへの乗り入れを全面的に禁止しており、セーヌ川左岸の1.2マイル(約2Km)区間も2012年までに恒常的な乗り入れ禁止区域にする予定である。

都市が直面している環境問題に対処するには、二つ方法がある。一つは都市の形を変えることだ。2007年のアースデイ、この日ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグは、市の環境を改善し、経済力を強め、市を住み良い都市にするという総合的な計画、PlaNYCを発表した。

この計画の主眼は市の温室効果ガスを2030年までに30%削減することにある。すでにタクシーの25%は燃料効率の良い,ガソリンと電気併用のハイブリッド車に代わっており、30万本以上の植樹も実施されてきている。またエネルギー効率を高めるための努力は数十の公共建物と、ニューヨークを象徴するエンパイア・ステートビルを含むさらに多数の民間ビルでなされている。計画が実施されてわずか3年で、ニューヨーク市全体では炭素の排出量が9%減少した。

対処法の二つ目は最初から新しい都市を建設することだ。例えば、不動産業者のシドニー・キットソンはフロリダ南部にすでに9万1,000エーカー(約370平方キロメートル)のバブコック・ランチを取得し、新しい街作りを計画している。手始めが、その内、7万3,000エーカー(約290平方キロメートル)を超える広大な土地を永久保護地区として残すため、州政府にこれを買い取らせことだ。

4万5,000人が住めるようにした街の中心部には、ビジネス・商業施設や高密度の住宅が開発され、ダウンタウンは近郊のいくつかの地域と公共の交通機関で結ばれる。この街の目的は、街自体を環境に優しい街のモデルにするとともに、再生可能エネルギーの研究と開発を行う国の中核的な拠点にする点にある。

街の特徴には、電力の100%を太陽光発電から得るとしたほか、住宅及び商業用ビルのすべてをフロリダ州グリーンビルディング協会(Florida Green BuildingCoalition)が定める基準に合致させたこと、住民が徒歩や自転車で通勤できる40マイル(約64Km)以上のグリーンウェイを作ろうとしていることなどが挙げられる。

米国から地球を半周したところにある石油の豊富なアブダビでは、5万人が住めるマスダールシティーの建設が始まっている。政府の目標はこの地に、国際再生可能エネルギー研究・開発センター、いわば東のシリコンバレーを作ることにある。電力の大部分を太陽光エネルギーで賄い、断熱ビルが建ち並ぶこの都市は、自動車をなくし、代わって、線路上を走る、電動の、コンピュータ制御による個人所有の乗り物が主体の交通網を作ろうとしている。

世界でも水の乏しいこの地域には、都市で使用した水を絶えずリサイクルする計画もある。ここにはごみ処理場に捨てられるものは何もない。すべてのものがリサイクルされ、あるいは堆肥となるかエネルギー供給のために気化される。こうした人工都市が都市として充分機能するかどうか、人が住み、働く場所として魅力的なところとなるかどうか、答えが出るのはまだ先である。

私たちはまだ、人類が望む未来の姿の片鱗を見始めたに過ぎない。2006年、ヒストリーチャンネル主催の未来のニューヨークコンテストが開かれたとき、参加した設計事務所は一週間以内に、百年後のニューヨーク像を描くことになった。

そのなかで建築家のマイケル・ソーキンを中心とするデザインスタジオTerreFormが提案したのが、自動車の数を徐々に削減し、市の道路空間の半分を公園や農場、庭園に代えるという案だった。デザイナーたちは、2038年までにニューヨーク市民のほぼ60%が徒歩通勤するようになり、市が最終的には歩行者にとっての天国になる姿を描いて見せた。

今のところ、TerreFormの提案は現実離れしていると思えるかもしれない。しかし日常茶飯事となったマンハッタンの交通渋滞を今のままほっておくわけにはゆかないだろう。それは財政的な負担を増やすだけでなく、住民の健康を脅かす恐れがあるからである。企業や投資会社で構成されるニューヨーク市パートナーシップは、市内および周辺の交通渋滞に伴うコストは、失われた時間と生産力、無駄となった燃料、企業の逸失利益を考えると、控えめに見積もっても年間130億ドル(約1兆700億円)以上になると試算している。

世界中の市長や都市計画担当者は自動車の役割を考え直し始めており、クルマではなく、ヒトが中心の町作りを模索している。公共交通機関が定着している都市の交通システムに歩道と自転車道路を組み込むなら、ほぼ全面的に自家用車に依存する都市に比べて、都市の暮らしやすさはさらに著しく向上する。騒音、排気ガス、交通渋滞、人の苛立ち、これら全てが緩和され、ヒトも地球も共により健康な状態になるのである。

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seki 2011-12-24T18:37:22+09:00
食料をめぐる新たな地政学 http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/111211_200050.html                        レスター・R・ブラウン

※『フォーリン・ポリシー 』誌 2011年5・6月号の食料問題特集で、レスター・ブラウンは食料不足がもたらした新たな地政学について特別記事を書いている。以下はその記事の抜粋である。

世界の小麦価格が、昨年1年間に渡ってそうであったように、75パーセント上昇した場合、それが及ぼす影響は、米国では1斤2ドルのパンが2ドル10セント程度になるくらいのことである。

しかし、ニューデリーの住民にとっては、このような価格の急騰は切実な問題だ。小麦の国際価格が2倍になるということは、チャパティ用の粉に挽くためにマーケットで買って家に持ち帰る小麦の価格が実際に2倍になるということだ。このことはコメについても同じで、世界のコメ価格が2倍になれば、ジャカルタでは、いつものマーケットで買うコメの値段が2倍になり、インドネシア人家庭の夕飯の食卓に上る一杯のご飯にかかるコストも2倍になるのである。

さあ、そこで、2011年の最新の食料経済はどうなっているか見てみよう。価格は上昇を続けている。が、その影響はどの地域にも同じように及んでいるわけではまったくない。米国人の場合、日常の食料品に使う金額は収入の1/10に満たず、今年のここまでの食料価格の高騰は、頭痛の種ではあっても危機的な状況ではない。

しかし、収入の50パーセントから70パーセントを食に費やす地球上の最貧困層に属する20億人にとっては、このような価格の高騰は、1日2回だった食事が1回になってしまうかもしれないのだ。世界経済のはしごの下段に辛うじてつかまっていた人々がつかまりきれず落ちていく可能性がある。こういう状況は革命や社会変動を招きかねないし、実際に招いてしまっている。

2011年に入ってすでに、国際連合食料価格指数はこれまでの世界最高値を越えた。3月の時点で、上昇は連続8カ月に及んでいる。今年の穀物収穫量は減少が予測され、価格高騰は中東およびアフリカ諸国の政治情勢の不安を招いており、また、次々に受ける打撃によって市場が不安定になっていることもあって、食料は急速に世界政治を動かす影の要因になってきた。そして、こうした危機的状況はますます一般化しつつある。食料をめぐる地政学の新しい状況は、これまでに比べ、はるかに不安定ではるかに問題含みの様子を見せている。いまや「食料不足」は常態化しているのだ。

近年までは、価格の急激な上昇はそれほどの問題にはならなかった。というのは、価格が急激に上昇することがあってもその後すぐさま比較的低い価格に戻っており、そのため、20世紀後半は世界の多くの地域で政情の安定が保たれていたからである。しかし現今は、問題の原因もそれがもたらす結果も、以前とは異なる、危険な要素をはらむものになった。

いろいろな点で、この状況は2007年から2008年に起きた食料危機の再来だといえる。この時の食料危機がいったん収まったのは、穀物危機を根源的に解決しようと世界がなんらかの協調手段をとったからということではなく、世界不況が需要の増大を抑制し、それと同時に、気候に恵まれたおかげで穀物収穫が史上最高になったからである。

過去を見れば、価格高騰が起きた原因はそのほとんどが、インドでの雨季の雨不足、旧ソ連で起きた干ばつ、米国中西部での熱波のように異常気象によるものだ。こういう特別事態はいつの場合も社会混乱を招くことになるが、幸いしょっちゅう起きることではない。

しかし、残念ながら、現在の価格高騰は、一方で需要が拡大し、一方で増産がさらに困難になるという双方の動向に牽引されて起きている。例をあげれば、急激な人口の拡大、穀物を枯らす気温上昇、枯渇に向かう灌漑用井戸などだ。この地球では毎晩、夕食の卓につく人間の数が21万9,000人ずつ増加しているのである。

しかしさらに警戒すべきは、世界が食料不足の影響を緩和させる能力を失いつつあることだ。これまでの価格高騰時の場合は、世界最大の穀物生産国である米国がうまく舵を取って、起こり得た破局から世界を免れさせることができた。

20世紀半ばから1995年までは、米国には穀物生産の余剰があったり、あるいは、災禍に遭遇した国への援助に向けて穀物の栽培が可能な休耕地があったりしたのである。たとえば、1965年、インドで雨季に雨が降らなかったとき 、リンドン・ジョンソン政権の下で合衆国は自国の小麦生産の1/5をインドに向けて出荷し、インドは飢饉を免れることができた。しかし、そのようなことはもはや不可能だ。安全のための備えはなくなってしまった。

だからこそ、2011年の食料危機はまさに本物の危機であり、政治革命を伴う民衆のパン騒動がさらに引き起こされる可能性があるのだ。チュニジアのザイン・アル=アービディーン・ベン=アリーやエジプトのホスニー・ムバラク、リビア(穀物の90パーセントを輸入に頼っている)のムアマル・カダフィといった独裁者たちの上に起きた社会変動は、これで動きが終焉したのではなくスタートを切ったのだとしたらどうなるだろうか。農業従事者や外務大臣たちはみな、準備をしなくてはならない。世界中の食料不足がますます地球規模の政治を方向づけていく新しい時代に備えて。

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seki 2011-12-11T20:00:50+09:00
水不足が中東アラブ諸国の食料の将来を脅かす http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/111203_075008.html                       レスター・ブラウン

中東で起こった政府への反乱が下火になった後も、今はニュースになっていない根本的な問題の多くがずっと解決されないままだろう。なかでも重要なのは、人口の急増、水不足の広がり、深刻化する一方の食料不安である。

帯水層が枯渇するにつれて、今では穀物生産量が減少している国もある。1970年代のアラブ諸国による原油禁輸措置の後、サウジアラビア国民は、自分たちは輸入穀物に大きく依存しており、そのため、対抗措置としての穀物禁輸に対して脆弱であると気づいた。彼らは石油掘削技術を用いて、砂漠のはるか下にある帯水層まで掘り抜き、灌漑による小麦生産を行った。そして数年のうちに、サウジアラビアは主食である小麦を自給自足できるようになっていたのである。

だが小麦の自給自足を20年以上続けた後、2008年1月、サウジアラビアは、この帯水層がほぼ枯渇したため、小麦生産を段階的にやめていくと発表した。2007~2010年の間に、300万トン近くあった小麦の収穫量が100万トン未満にまで減少した。このペースでいけば、サウジアラビアで小麦が収穫されるのはおそらく2012年で最後となり、その後は、カナダとほぼ同じ3,000万近くの人口を養うのに、輸入穀物に完全に依存することになるだろう。

サウジアラビアがこれほど異例の速さで小麦生産から段階的に撤退することになった要因は二つある。一つは、この乾燥した国では、灌漑を行わない農業はほとんどないことであり、もう一つは、この国の灌漑がほぼ全面的に化石帯水層に依存していることである。化石帯水層は、大半の帯水層とちがい、降雨によって自然に涵養されることがない。そして、サウジアラビアが都市への水供給に使っている脱塩海水は、サウジアラビア国民といえども、あまりにも高くつくので灌漑には利用できない。

サウジアラビアは、国内で食料不安が高まっていることから、いくつかの国から土地を買ったり借りたりするまでにいたっており、その中には世界で最も飢餓が深刻なエチオピアとスーダンの2国が含まれている。実際、サウジアラビアは、急増している食料輸入を補うため、他国の土地や水資源を使って自国民のための食料を生産することを計画中である。

隣国のイエメンでは、水が補給される帯水層から、涵養をはるかに上回る速度で揚水されており、より深い化石帯水層も急速に枯渇しつつある。その結果、イエメン全土で、年間約2メートルも地下水位が低下している。人口200万人の首都サヌアでは、4日に一度しか水道水が使えず、それよりも小さい都市である南部のタイズでは、20日に一度となる。

世界でも人口増加が最も激しい国の一つであるイエメンは、水供給不能の国になりつつある。地下水位が低下している中、穀物収穫量が過去40年間に1/3減少する一方で、需要のほうは着実に伸び続けている。その結果、イエメンは現在、穀物の80%以上を輸入している。わずかな石油輸出が減少しつつあり、これといった産業もなく、子どもたちの60%近くが発育不全および慢性的な栄養不足状態にあるこのアラブの最貧国は、先行きの暗い、波乱含みの未来に直面している。

イエメンの帯水層の枯渇――これによって収穫量がさらに減少し、飢餓と水不足が広がるだろう――がもたらすことになりそうなのは、社会の崩壊である。すでに国家として破綻に瀕しているイエメンは、部族の縄張りの集合体と化し、どんなにわずかであれ、残っている水資源があればそれをめぐって争うことになるだろう。イエメン国内の紛争が、長くて無防備な国境を越えてサウジアラビアに飛び火する可能性がある。

サウジアラビアの崩壊しつつある食料バブルや、イエメンの急速に悪化しつつある水事情に加えて、シリアとイラク――中東で人口が多い残りの2国――も複数の水問題を抱えている。その中には、チグリス・ユーフラテス川の水量が減少したことが原因で起きている問題もある。シリアもイラクも灌漑用水をこれらの川に依存しているのだ。

この両河川の源流を管理するトルコは大規模なダム建設計画を進めているところであり、これによって下流の水量は徐々に減少している。この3国はいずれも分水協定に参加しているが、水力発電と灌漑地域の両方を拡大しようとするトルコの野心的な計画は、下流にある二つの隣国を犠牲にして実行されている部分もある。

川の水供給量が将来的に不安定であることを考えて、シリアとイラクの農民はさらに多くの灌漑用の井戸を掘っている。これが両国での過剰揚水につながっている。シリアの穀物収穫量は、2001年の約700万トンをピークに、20%減少した。イラクでは、穀物収穫量は2002年の450万トンをピークに、25%減少している。

600万人の人口を抱えるヨルダンもまた、農業が窮地に追い込まれている。40年ほど前、年間30万トンを超える穀物生産量があった国だ。現在では、生産量はわずか6万トンであり、したがって穀物の90%以上を輸入せざるを得なくなっている。中東で穀物生産量の減少を免れているのはレバノンだけだ。

このように人口が急増している中東のアラブ地域で、世界は、人口増加と水供給量が地域レベルで初めて衝突するのを目の当たりにしている。歴史上初めて、一つの地域の穀物生産量が急激に減少していて、その減少を止めるものが何も見えない。この地域の政府が人口政策と水政策をうまく噛み合わせることができていないために、現在、毎日、養うべき人口が新たに1万人生まれ、その人々を養うために必要な灌漑用水は減り続けている。

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seki 2011-12-03T07:50:08+09:00
米国は中国を養えるか? http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/111114_052138.html                       レスター・R・ブラウン

私は1994年に、「邦題:だれが中国を養うのか?」”Who Will Feed China?”と題した記事をワールドウォッチマガジンに書いた。後に、この記事をもとに同タイトルの本を上梓している。8月下旬にこの記事が掲載されたとき、記者会見を元にした報道はほんのわずかであった。しかしその週末、ワシントン・ポスト紙「アウトルック」一面に「邦題:中国はいかに世界に飢餓を招くか」“HowChina Could Starve the World”と題して転載されたとき、北京で政治的な猛反発が巻き起こった。

まず最初に反応が見られたのは、月曜朝の中国農業部の記者会見の場だった。同会見で、万宝瑞農業部副部長はこの研究を糾弾し、先端技術によって、中国は自給可能であると語った。この後、私の研究結果に異議を申し立てる政府提唱の記事は絶え間なく続いた。

強い反発に私は驚いた。今にして思えば、私は1959年から1961年にかけて約3,000万人が餓死した大飢饉を念入りに追跡調査していたけれども、それが残した心の傷を十分には理解していなかった。中国政府の政治指導者らはその飢饉で生き残った人たちだ。その衝撃的な経験ゆえに、どの政治指導者も中国がいつか食料の大半を輸入しなければならないかもしれないとは認められずにいた。彼らによれば、中国は常に自給自足してきたし、これからもそうだというのである。

党幹部はこの状況を評価し、穀物の自給自足を維持するために全力を尽くそうと決意した。政府は早急にいくつかの重要な生産拡大措置を講じた。農家に支払われる穀物の最低保障価格の40%値上げ、農業ローンの拡充、主要作物である小麦、コメ、トウモロコシの多収穫品種開発への重点的な投資などである。

中国政府は急速に工業化が進む沿岸地域で失った農地を北西部の草原を農地化することで埋め合わせたが、この方策により国内に巨大な黄塵地帯が出現した。過耕作に加え、帯水層からの過剰揚水によって灌漑を拡大したのだ。

最後に、中国共産党は意図的に、大豆の自給自足を断念し、自国の農業資源を穀物の自給維持に集中させる決断を下した。大豆の発祥国が大豆を放棄した結果は劇的だった。1995年、中国は1,400万トン弱の大豆を生産、消費した。2010年の生産量はまだ1,400万トンにすぎなかったが、消費量は7,000万トン近くとなり、その多くが、家畜・家きんの飼料用穀物を補うためのものであった。現在、中国の大豆の4/5は輸入されているのである。

(データ参照<http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update93_3.xls> )
【表】中国の大豆の生産量、消費量、輸入量(1964年~2010年)
Year:年 Production:生産量 Consumption:消費量 Imports:輸入量 
Imports as Share of Consumption:消費量のうち輸入量が占める割合
Million Tons:100万トンPercent:%
出典:2011年2月9日更新のUSDA生産・需給オンライン
www.fas.usda.gov/psdonlineよりアースポリシー研究所が作成。

【グラフ】中国における大豆の生産量と消費量(1964年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Tons:100万トン
【凡例】Consumption:消費量 Production:生産量
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

【グラフ】中国における大豆の輸入量(1964年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Tons:100万トン
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。


大豆を大量に輸入するという中国の決断は、それほどの大口需要に唯一対応できる西半球の農業の再編につながった。米国では現在、小麦よりも大豆の収穫面積の方が多くなっている。
<http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update93_7.xls>【表・グラフ】

ブラジルではほかのすべての穀物の収穫面積を合わせても、大豆の収穫面積の方が多い。
<http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update93_8.xls>

【表・グラフ】

穀物の2倍の大豆収穫面積を有するアルゼンチンは、急速に大豆の単作国となりつつある
<http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update93_9.xls>【表・グラフ】。

概して西半球では現在、小麦やトウモロコシよりも大豆の収穫面積が多いのである。

【表】米国における小麦と大豆の収穫面積(1950年~2010年)
Year:年 Wheat Area Harvested:小麦収穫面積  Soybean Area Harvested:大豆収穫面積 
Million Hectares:100万ヘクタール
出典:1950年~1959年の小麦のデータと1950年~1963年の大豆のデータは、2009年12月15日に農務省農業統計局(NASS)クイックスタッツのオンラインデータから取り出したデータをアースポリシー研究所がまとめたもの。その他の年間データはすべて、2011年2月9日更新のUSDA生産、需給オンライン(www.fas.usda.gov/psdonline)による。

【グラフ】米国における小麦と大豆の収穫面積(1950年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Hectares:100万ヘクタール
【凡例】Soybeans:大豆 Wheat:小麦
出典:USDAデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

【表】ブラジルにおける穀物と大豆の収穫面積(1986年~2010年)
Year:年 Grain Area:穀物収穫面積   Soybean Area:大豆収穫面積   Million Hectares:100万ヘクタール
出典:2011年2月9日更新のUSDA生産、需給オンライン
www.fas.usda.gov/psdonline)よりアースポリシー研究所が作成。

【グラフ】ブラジルにおける穀物と大豆の収穫面積(1986年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Hectares:100万ヘクタール
【凡例】Soybeans:大豆 Grain:穀物
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

【表】アルゼンチンにおける穀物と大豆の収穫面積(1986年~2010年)
Year:年 Grain Area:穀物収穫面積   Soybean Area:大豆収穫面積  Million Hectares:100万ヘクタール
出典:2011年2月9日更新のUSDAの生産、需給オンライン
www.fas.usda.gov/psdonline)よりアースポリシー研究所が作成。

【グラフ】アルゼンチンにおける穀物と大豆の収穫面積(1986年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Hectares:100万ヘクタール
【凡例】Soybeans:大豆 Grain:穀物
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

西半球における小麦、トウモロコシ、大豆の収穫面積(1960年~2010年)

【表】西半球における小麦、トウモロコシ、大豆の収穫面積(1960年~2010年)
Year:年 Wheat Area:小麦収穫面積   Corn Area:トウモロコシ収穫面積  Soybean Area:大豆収穫面積 
Million Hectares:100万ヘクタール
出典:2011年3月10日更新のUSDA生産、需給オンライン
www.fas.usda.gov/psdonline)よりアースポリシー研究所が作成。

【グラフ】西半球における小麦、トウモロコシ、大豆の収穫面積(1960年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Hectares:100万ヘクタール
【凡例】Soybeans:大豆 Corn:トウモロコシ Wheat:小麦
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

3大大豆生産国である米国、ブラジル、アルゼンチンは現在、世界の収穫量の80%以上を占め、
世界の大豆輸出量に占める割合は約90%に上る。世界の大豆輸出量の60%近くが中国向けである。

【表・グラフ】

【表】米国、ブラジル、アルゼンチンの大豆生産量と世界の生産量に占めるその割合(1986年~2010年)
Year:年 United States:米国 Brazil:ブラジル  Argentina:アルゼンチン  World:世界 United States, Brazil, and Argentina Combined Share of World Total:米国、ブラジル、アルゼンチンの合計が世界の生産量に占める割合
Million Tons:100万トン Percent:%
出典:2011年3月10日更新のUSDA生産、需給オンライン
(www.fas.usda.gov/psdonline)よりアースポリシー研究所が作成。

【グラフ】米国、ブラジル、アルゼンチンの大豆生産量(1986年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Tons:100万トン
【凡例】United States:米国 Brazil:ブラジル Argentina:アルゼンチン
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

世界の大豆輸出量に占める中国向けの割合(1964年~2010年)
http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update93_4.xls

【表】世界の大豆輸出量に占める中国向けの割合(1964年~2010年)
Year:年 China Imports:中国の輸入量 World Exports:世界の輸出量 China Imports as Share of World Exports:世界の輸出量のうち中国の輸入量が占める割合 Percent:%
出典:2011年3月10日更新のUSDA生産、需給オンライン
(www.fas.usda.gov/psdonline)よりアースポリシー研究所が作成。

【グラフ】世界の大豆輸出量に占める中国向けの割合(1964年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Percent:%
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

中国では穀物生産量を拡大しようとすさまじい努力がなされているにもかかわらず、現在、いくつかの傾向がそれをさらに難しくする方向へと集約しつつある。そのなかには、土壌浸食のように、長期にわたるものもある。揚水量が原因で帯水層が枯渇するようになってきたのは、わずかこの数十年ほどのことだ。中国の自動車台数が大幅に増加し、それに伴い土地が舗装されるようになったのは、たった数年前のことである。

中国北部と西部では、過耕作と過放牧によって巨大な黄塵地帯が形成されつつある。晩冬から早春にかけて毎年この地域で発生する多数の砂塵嵐は現在、衛星写真で定期的に記録されている。例えば、2010年3月20日には、息の詰まるような砂塵嵐が北京全体を覆い、北京気象局は大気質が有害であると警告、住民に屋内退避勧告を出し、屋外に出るときは顔を覆うよう呼びかけた。視界不良のため、ドライバーは日中にライトを点けて運転しなければならなかった。

影響を被ったのは北京だけではなかった。この特有の砂塵嵐は、5つの省で多くの都市を巻き込み、2億5,000万人以上が直接影響を受けた。そして、それは一度だけのことではなかった。早春、中国東部の住民は砂塵嵐の季節の到来に備える。呼吸困難と目にしみる塵に加え、住宅への塵の侵入を防ぎ、また出入り口や歩道から塵や砂を一掃しなければならないことを、住民は嫌と言うほど思い知らされているのだ。しかし、それよりはるかに大きな犠牲を払っているのは、広大な北西部で暮らし、生活の糧が吹き飛ばされている農家や遊牧民だ。

世界有数の砂漠学者である王涛氏は、中国北部と西部では1950年から1975年にかけて年間平均約1,500平方キロメートルの土地が砂漠化したと報告している。20世紀末までに、毎年約3,600平方キロメートルの土地が砂漠と化そうとしていた。その傾向は明白である。

中国は今戦争状態にある。「領地をよこせ」と言っているのは侵略軍ではなく、拡大しつつある砂漠である。古い砂漠は進行し、新たな砂漠は不意に襲ってくるゲリラ勢力のように形を成し、いくつかの前線で中国政府に闘いを強いている。そして砂漠とのこの戦いで、中国は敗北しつつある。

「砂漠の合併と九州」と題された米国大使館の報告書には、中国中北部の2つの砂漠が拡大し、内モンゴルと甘粛省にまたがって1つの巨大な砂漠を形成するべく合併しつつあるさまを示す衛星写真についての記載がある。新疆(しんきょう)自治区の西部では、さらに巨大な砂漠の、タクラマカン砂漠とクムタグ砂漠の2つも合併に向かっている。その2つの砂漠の間で狭まってきている地域を走る幹線道路は、定期的に砂丘で埋没している。

中国北西部の約2万4,000の村々が、1950年以降完全に、あるいは部分的に放棄されてきた。砂丘が耕作地にまで広がり、農家に離村を強いているからである。大草原地帯の多くの農家がカリフォルニア州に移住した1930年代の米国のダスト・ボウル【訳注:1930年代に砂塵嵐の被害を受けた米国中南部の大草原地帯】とは異なり、中国版「オクラホマ人」【訳注:ダスト・ボウルをきっかけに不作に陥ったオクラホマ州から、他州へと移住した人々】には移住する西海岸がない。彼らはすでに人口が密集している東部の都市に移住しつつある。

過耕作と同様に、過剰揚水も大きな被害を与えている。中国の食料需要が急増するにつれ、何百万もの農家が収穫量の拡大を狙って灌漑用の井戸を掘削してきた。その結果、中国の小麦の半分と、トウモロコシの1/3を生産する華北平原では地下水面が低下しつつあり、井戸が枯渇し始めている。灌漑用に帯水層を過剰揚水することで、一時的に食料生産は増加しており、帯水層が枯渇すると最終的にはじけてしまう食料生産バブルを生み出している。アースポリシー研究所の見積もりでは、約1億3,000万人の中国人が過剰揚水、つまり本質的に短期的な現象によって生産された穀物で賄われている。

2010年に行ったワシントン・ポスト紙スティーブ・マフソン(Steve Mufson)記者のインタビュー<http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/03/15/AR20100
31503564.html?wprss=rss_world/asia
>に答えて、中国の地下水専門家HeQingcheng氏が、現在北京の水需要量の3/4を地下水で賄っていると述べていた。

He氏によれば、北京では水を手に入れるため、20年前の5倍になる約300メートル下まで掘削しているという。He氏は、華北平原下の深部帯水層は枯渇しているため、この地域で唯一の緩衝材である最後の貯水池が失われつつあると指摘した。He氏の懸念は、水の使用と供給のバランスをすぐに元に戻せなければ「未来世代に壊滅的な影響を及ぼす」と予測している、中国の水事情について書かれた世界銀行の報告書の異常に厳しい言葉遣いに反映されている。

同時に、中国は住宅や産業施設の建設、信じ難いほどの速度で増加する車のための舗装に耕作地を奪われつつある。2009年の車の販売台数は計1,400万台に上り、初めて米国の販売台数を上回った。2010年には1,800万台に急増しており、2011年は2,000万台に到達して世界史上最高となる見込みである。車両台数が2,000万台増えるということは、道路や高速道路、駐車場用に約4,000平方キロメートルを舗装するということである。車は今や、国内の耕作地を農家と奪い合っている。

中国農村部はまた、労働力の供給が縮小するという問題に直面している。産業労働者の賃金が上がり、農村部で見返りの少ない職に就く若者を更に得にくくなっている。もはや採算のとれない限界農地【訳注:客観的な地形条件による条件不利農地と社会的条件による担い手不足が重なるところ】とさらに小さい区画は放棄されている。農村部の労働力供給が縮小すると、中国の穀物生産を劇的に拡大してきた労働集約型の二毛作(北部では冬小麦を植えた後、夏の作物としてトウモロコシを植え、南部では1年に2回コメを生産する)の潜在能力も縮小する。

こうしたすべての傾向が重なりあい、中国の食料供給は厳しくなってきている。2010年11月には、食物物価指数は政治的に危険な水準である前年比12%増となった。穀物をほぼ自給し始めてから15年後の現在、大豆の80%についてはすでに輸入しているように、中国はまもなく、穀物の大量輸入のために世界市場へと目を向けそうだ。

中国の穀物輸入量(1960年~2010年)

【表】中国の穀物生産量、消費量、輸入量、輸出量(1960年~2010年)
Year:年 Production:生産量 Consumption:消費量 Imports:輸入量
Exports:輸出量 Net Imports:純輸入量
Million Tons :100万トン
出典:2011年2月9日更新のUSDA生産、需給オンライン
www.fas.usda.gov/psdonline)よりアースポリシー研究所が作成。

【グラフ】中国の穀物生産量と消費量(1960年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Tons:100万トン
【凡例】Production:生産量 Consumption:消費量
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

【グラフ】中国の穀物輸入量(1960年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Tons:100万トン
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成。

【グラフ】中国の穀物純輸入量(1960年~2010年)
【グラフ縦軸のタイトル】Million Tons:100万トン
出典:USDAのデータよりアースポリシー研究所(www.earth-policy.org)が作成


中国は穀物をどのくらい輸入するのだろうか? 大豆の輸入と比べてどうなるだろうか? 確かなことは分からないが、中国が仮に穀物を20%だけ輸入するとすれば、8,000万トンが必要になる。これは米国の年間穀物輸出総量の9,000万トンをわずかに下回る量であり、小麦とトウモロコシの乏しい輸出供給量に更に大きな負荷をかけるだろう。


http://www.earth-policy.org/datacenter/xls/update93_11.xls
【表】米国からの穀物輸出量と世界の輸出量に占める割合(1960年~2010年)
Year:年 U.S. Exports:米国輸出量
World Exports:世界輸出量 U.S. Share of World Exports:世界輸出量に占める米国の割合
Million Tons:100万トン Percent:%
出典:2011年2月9日更新のUSDA生産、需給オンライン
www.fas.usda.gov/psdonline)よりアースポリシー研究所が編集。


中国では、災いの兆候が見られる。政情不安を招く食料価格の値上がりを避けるためには、ほぼ確実に、穀物を求めて外の世界に目を向けなければならないだろう。大量の穀物を輸入するためには、中国は必然的に、穀物輸出量では世界ダントツの米国に完全に頼ることになるだろう。輸入穀物に依存し、そしてその多くが米国産であるという、中国には最悪の悪夢が現実になることを意味する。

米国の消費者にとって、中国の最悪の悪夢は米国の悪夢にもなりうる。現在確実視されているように、中国が米国の穀物市場に本格的に参入すれば、米国の消費者は所得が急増している14億人もの中国の消費者と、米国の穀物収穫量をめぐって競うことになり、食料価格は跳ね上がるだろう。

これはパン、パスタ、朝食用シリアルなどの、穀物から直接作られる製品だけでなく、その生産にはるかに大量の穀物を必要とする肉や牛乳、卵の価格も押し上げることになるだろう。仮に中国が穀物の1/5でも輸入しようとすれば、1970年代に日本への大豆輸出を禁止したときのように、米国消費者から中国への輸出を制限、あるいは禁止するよう圧力がかかる可能性が高い。

しかし、中国との取引では、 米国は今、極めて異なる事態にぶつかっている。財政赤字を賄うため、米国財務省が毎月証券を競売にかけるたびに、中国は大口の買い手となってきた。中国は9,000億ドル(約73兆3,500億円)以上の米国財務省証券を所有している。中国は米国の取引銀行なのだ。別の時期、別の時代なら 米国は1970年代に行ったように米国穀物の輸入を制限できるが、今の中国に対してはできないだろう。

半世紀以上の間世界の穀倉地帯であり続けた国に住み、食料不足や食料価格の急騰とは無縁だった米国人にとって、世界は変わろうとしている。私たちは否応なしに、中国人と米国産の穀物を分け合っていくことになるだろう。それによってどれほど米国の食料価格が押し上げられるとしても。

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seki 2011-11-14T05:21:38+09:00
世界の食料価格の上昇はなぜ続くのか http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/111023_075913.html                      レスター・R・ブラウン

世界の食料価格は2月に記録上最高水準に達した。食料価格の急騰によって、すでに飢饉と政情不安が広まっており、数カ月先には、食料価格はさらに高騰するだろう。

穀物をめぐる情勢があまりにも厳しいので、今年の収穫はここ数年間で最も注目を集めそうだ。昨年、世界の穀物生産高は21億8,000万トンだった。消費量が22億4,000万トンであったため、生産を上回った分は備蓄分を6,000万トン取り崩すことでようやくしのいだ。(www.earth-policy.org のデータ参照)

昨年のように穀物不足を生じさせることなく、今年、予測される4,000万トンの需要増に応えるために、今年は世界の穀物生産高を少なくとも1億トン増加する必要がある。しかし、それでも現在の不安定な需給バランスを保つだけで精一杯だろう。

【グラフ】世界の穀物備蓄日数 1960-2010
【縦軸 左】日数
【グラフ下】出典:米国農務省

食料価格をより適切な水準に引き戻すのなら、おそらくあと5,000万トン上乗せし、合計で1億5,000万トンの増加が必要になるだろう。今年、世界の穀物生産高を1億5,000万トン、いや、1億トンだけでも増やすことは可能だろうか? それは考えられなくもない。なぜなら、ここ20年間で2度、年間生産高が1億5,000万トン増えたことがあったからだ。しかし、今年はおそらくそうはいかないだろう。

【グラフ】世界月別食料価格指標 1900年1月‐2011年2月
【グラフ下】出典:米国食糧農業機関

世界の穀物収穫量を予測するため、生産高の9割近くを占める3大穀物、つまりコメ、小麦、トウモロコシに注目しよう。その他の穀物には、大麦、オーツ麦、ソルガム、ライ麦、キビなどがある。

灌漑作物のため、生産が安定しているコメからまず見ていこう。世界のコメ生産高は昨年、合計4億5,200万トンで、毎年平均700万トンずつ増えている。今年は、コメは1,000万トン多く収穫できると仮定しよう。

今や世界の代表的な食用穀物である小麦は、ほとんどが天水栽培のため、収穫は降水量に左右されやすく、生産高を予測することはとても難しい。しかし、ほとんどの小麦は秋に植えつけ、休眠状態で冬を越し、早春に再び成長を始める冬小麦である。したがって、作付面積が今年3%増えることはすでに分かっており、小麦の早期作柄についても把握ができている。

では、合計すると世界の小麦生産の半分を占める、中国、インド、米国そしてロシアの4大小麦生産国から見ていこう。小麦の生産大国である中国は、冬小麦生産地域がごく最近まで60年ぶりの深刻な干ばつに脅かされていた。2月下旬と3月上旬の降雨と降雪で干ばつの影響はいくぶん緩和されたが、中国の小麦生産高は昨年の1億1,500万トンから今年の1億1,100万トンへ減少することは容易に予想がつく。また、インド政府は、今年の生産高は、昨年から100万トン増えて8,200万トンになると予想している。

世界第3位の小麦生産国である米国では、グレートプレーンズの南部が干ばつに見舞われている。2月末現在、米国の冬小麦の作柄は過去20年間で最悪といえるものであった。米国農務省は、生産高が6,000万トンから5,600万トンへ減少すると予測しているが、これはおそらく控え目に見積もった数字だろう。

ロシアの小麦生産高は、熱波の打撃を受けた昨年の4,200万トンから急増するはずである。しかし、昨年の秋、乾燥が激しく、冬小麦の1/5が作付け出来なかったため、例年より多くの農家が収穫量の少ない春小麦を植えざるをえなくなるだろう。春に種をまき晩夏か早秋に収穫するのが春小麦である。うまくいって、ロシアの小麦生産高は約5,800万トン程度だろう。

世界の残りの国の小麦予想生産高を加えれば、今年小麦は去年収穫した6億4,500万トンに追いつくのだろうか? いや、必要なのはそれ以上の生産高である。国際穀物理事会は今年の生産高を昨年より2,700万トン多い6億7,200万トンと見積もっている。これとは対照的にカナダ小麦局は6億5,300万トンという数字をあげているが、増加分は800万トンでしかない。そこで、計算上、今年の小麦の生産高は昨年より2,000万トン多い、6億6,500万トンと仮定しておこう。

さて、次はトウモロコシである。二つの国の話をしよう。世界のトウモロコシの生産高8億1,400万トンのうち、その40%と20%を占めるのが米国と中国。米国では1ヘクタール当たりで10トンの収穫が可能な栽培地が4%増えると見込まれており、これを勘案すると、米国のトウモロコシは2,500万トン増える見込みである。

中国のトウモロコシ生産高は、ここ3年間、1億6,500万トンあたりで変動しているが、現在の厳しい水事情を考えると、増産は難しそうだ。トウモロコシの収穫の残り40%を占める地域からは1,500万トンの増産が見込めるだろう。そうすると、全体では4,000万トン、収穫を増やすことが可能となる。

世界全体の数字を見てみよう。穀物は、現在の危うい需給バランスを維持するだけで1億トンの追加が必要だが、世界の穀物市場をなんとか安定した状態に戻そうとするなら、1億5,000万トン近くが必要となる。

そのうち1,000万トンは今年のコメをあてにできるだろう。小麦から2,000万トン、トウモロコシからは大幅に4,000万トンの増加を期待しよう。その他の穀物からも、昨年より1,000万トン多い量を計算に含めることが可能だ。それらを合計すると、穀物は8,000万トン増える勘定になるが、それだけではとうてい穀物価格の上昇を抑えることはできない。

【表】主要生産国および世界全体での穀物の生産高(2010年:実績値、2011年:予測値)
【項目】穀物 国 差異【単位】100万トン
【表の下】出典:2010年の実績は米国農務省の資料より、2011年の予測値はアースポリシー研究所で試算

世界の穀物生産高を見積ることは、複雑さが加わりますます難しくなってきている。需給方程式の需要側には、需要を増やす3つの要因がある。ひとつは年間8,000万人の人口増加、次が30億もの人々が食物連鎖の階段を駆け上り、穀物依存度の高い畜産物をより多く食べるようになったこと、そして最後が米国で穀物を燃料用エタノールに大量に転換していることである。

供給側はどうだろうか。これまで世界中いたるところで穀物の生産高が増えた時期があったが、それも今では過去のものとなった。帯水層の枯渇や深刻な土壌浸食によって、多くの国で今穀物の収穫が落ちている。これに輪をかけているのが気温の上昇である。さらに、農業技術が進んだ国でも、土地の生産性を上げる技術の種が尽きてしまっている。

世界人口の半数を占める18の国で、灌漑用の過剰揚水により帯水層が枯渇し始めている。帯水層の水が減り始めたことで穀物生産が落ち込んだ国には、サウジアラビア、シリア、それにイラクがある。世界銀行の資料によると、インドでは1億7,500万人が食べている穀物が、過剰揚水によって生産されたものだという。そもそも過剰揚水がいつまでも続くはずがない。中国には同様な人たちが、1億3,000万人いる。

モンゴルやレソトのように、深刻な土壌浸食によって多くの耕作地が放棄され、その結果ここ何10年の間に穀物生産が半減、あるいは半分以下に低下した国もある。北朝鮮やハイチは、生産高を増やそうにも、土壌浸食のせいで成果を得ることができない。

いくつかの農業先進国では、新しい技術の蓄えがほとんど底をついてしまっている。日本ではこの16年間、一反あたりのコメの生産高が増加していない。今や米作で日本に迫ろうとしている中国はどうかというと、ここもまた頭打ちしそうな状況にある。

欧州第一の小麦生産国であるフランスは、この10年間生産高は横ばい状態である。ドイツや英国も頭打ちの状態だ。アフリカ一の小麦生産国であるエジプトでも、ここ6年間小麦の生産が増えていない。

【グラフ】エジプト、フランス、英国における小麦の生産高(1960年~2010年)【グラフ縦軸】1ヘクタール当たりのトン数
【グラフ下】出典:国連食糧農業機関および米国農務省の資料を基にアースポリシー研究所で編集

現時点では、今年は穀物の収穫を1億トン増やすことは難しそうだ。これでは最近のかなり危うい穀物の需給バランスを維持することもできないだろう。それどころか、穀物の備蓄分を取り崩す公算が強い。この先何ヶ月かは、世界の食料価格の上昇を抑えることは可能かもしれないが、今のような状況ではそれも無理なように思える。

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seki 2011-10-23T07:59:13+09:00
あと一度の不作で世界は大混乱へ http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/111015_131115.html                      レスター・R・ブラウン

1月初旬に発表された国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、FAOの食料価格指標は、12月、史上最高値に達した。これは、2007年から2008年にかけての価格急騰の時の記録を上回るものである。さらに驚くことに、2月3日のFAOの発表によると、12月の記録は1月に破られた。この時期、価格はさらに3%上昇したのである。

このような食料価格の高騰は、これから何カ月も続くのだろうか? 恐らく価格は今後とも上昇を続け、それによって世界は食料価格と政治的安定の関係において未知の領域へと踏み込むだろう。

今や、すべては今年の収穫高次第である。食料価格をより適切な水準まで下げるには、穀物の大豊作が必要になるだろう。それも2008年の記録的な豊作をはるかに上回る規模の豊作である。この時は不景気が重なったため、2007年から2008年にかけての穀物価格の高騰が終結したのだった。

今年世界的な不作になると、食料価格は以前想像もできなかった水準まで高騰するだろう。食糧暴動が増え、政情不安が広がって崩壊する政府が出てくるだろう。世界は今、もう一度不作に見舞われると、世界の穀物市場が大混乱に陥るというところまできている。

長きに渡り、食料生産量の急速な拡大はより難しくなってきている。地下水の過剰なくみ上げによる食糧バブルがはじけ、多くの国で穀物収穫量が減少しているからだ。同時に、異常気象の発生がより頻繁になり激しさが増すなど、気候変動がさらに大きくなり、生産の拡大は一筋縄ではいかなくなるだろう。

18もの国々が、農作物の灌漑用に帯水層から過剰揚水することによってここ数十年間食料生産を拡大させてきた。この中には、中国、インド、米国という3大穀物生産国が含まれる。

水利用による食糧バブルがはじけ、生産量が劇的に減少する国が現れるだろう。生産の伸びが鈍化するだけという国もあるかもしれない。サウジアラビアは20年以上、小麦を自国で賄っていたが、国内の化石帯水層(涵養が不可能な帯水層)が枯渇しているため小麦の収穫は壊滅状態にあり、1年かそこらの内には完全になくなりそうだ。

シリアとイラクでは、灌漑井戸の枯渇に伴い、穀物収穫高はゆっくりと減少しつつある。水循環がうまく機能していないイエメンは、地下水面が国内全土で低下し、井戸が枯渇してきている。こうした食糧バブルの崩壊によって、中東アラブ諸国は帯水層の枯渇が穀物収穫高を減少させている最初の地理的地域となっている。

こうした中東諸国の衰退が著しい一方で、水利用による最大の食糧バブルがインドと中国で起こっている。世界銀行の調査によれば、インドでは1億7,500万人が過剰揚水によって生産された穀物で養われ、中国では、過剰揚水が1億3,000万人を養っている。これら人口大国での水不足の広がりが、食料供給量の拡大をさらに難しくしている。

灌漑井戸の枯渇とは別に、農家は気候変動とも闘わなければならない。作物生態学者の経験則によると、生育期に気温が摂氏1度上昇するたびに、収穫高は10%減少するという。したがって、昨夏酷暑に見舞われたロシア西部で穀物の収穫高が40%減少したのは何ら意外なことではなかった。

食料需給の方程式で、需要側には現在、3つの成長源がある。一番目が人口増。昨夜は存在しなかった21万9,000人が今夜の食卓に着くが、その多くを迎えるのは空の皿だろう。二番目が生活水準の向上である。現在約30億人が食物連鎖の上位を目指しており、生産に多量の穀物が必要な肉、牛乳、卵をいっそう多く食べるようになっている。三番目は、大量の穀物が車の燃料、つまりエタノールに転換されていることだ。2010年の米国の穀物収穫量4億トンのうち、約1億2,000万トンがエタノール蒸留所に送られている。

心強いことに、サルコジ仏大統領は「2011年のG20議長としての任期を、世界の食料価格安定への取り組みに費やす」と公約した。これまでの会談は輸出規制と投機を管理するといった対策について行われたが、G20が食料価格高騰という症状への対応に終始し、その原因に切り込まないのなら、その取り組みはほとんど役に立たないだろう。

今必要とされているのは、水の生産性を上げる世界規模の取り組みである。半世紀前、耕作地の生産性を上げるために国際社会が実施したようなものだ。以前のこの取り組みは、1950年から2010年にかけて、1エーカー(約0.4ヘクタール)当たりの世界の穀物生産高を3倍にした。

気候の面では、各国で広く承認されている「2050年までに炭素排出量を80%削減する」という目標は十分ではない。今の課題は、第二次世界大戦並みの動員でエネルギー効率を上げ、化石燃料から風力、太陽、地熱エネルギーへ転換することによって、炭素排出量の80%削減を2020年までに達成してしまうことだ。

需要面においては、小家族化を加速させなければならない。家族計画を立てたくても家族計画サービスを利用できない女性は世界中に2億1,500万人いる。彼女たちとその家族は世界最貧層のうちの10億人以上を占める。私たちは家族計画が行き渡っていないところを埋めると同時に、貧困の根絶のために全力を挙げて取り組み始めなくてはならない。一旦軌道に乗れば、これら2つの流れは互いに補強し合うものだ。

世界で飢えが広がる中、穀物を車の燃料に換えるなどもってのほかだ。今こそ、穀物やほかの農作物を自動車燃料に換えるための助成金を撤廃しなければならない。サルコジ大統領の主導で、G20が食料価格高騰という症状だけではなくその原因に重点的に取り組むことができれば、食料価格をより適切な水準に安定させることは可能である。

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seki 2011-10-15T13:11:15+09:00
アイオワ州、穀物生産でカナダを上回り、大豆で中国に迫る http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/110830_112218.html                       レスター・ブラウン

米国のアイオワ州は、もはや「農業大国」だ。穀物生産量でカナダを上回り、同時に大豆生産量で中国に迫る。いや、これは数字の間違いではない。

昨年、アイオワの穀物収穫高は5,500万トンだったが、カナダは4,500万トンにとどまった。過去5年間の年間平均収穫高は、アイオワが5,700万トンで、カナダは4,900万トンである。

【グラフのタイトル】アイオワとカナダの穀物生産量(1960年-2010年)
【縦軸】百万トン
【凡例】アイオワ、カナダ
【グラフ下】出典:米国農務省の資料を基にアースポリシー研究所で編集
【グラフ右】アースポリシー研究所-www.earth-policy.org

カナダの穀物農地は3,000万エーカーで、そのほとんどが小麦である。一方、アイオワの穀物農地は1,300万エーカーに過ぎず、そのほとんどがトウモロコシ生産に使われる。1エーカー当たりの収穫高の差は極めて大きく、カナダではわずか1.4トンなのに対して、アイオワでは4トンを超える。

大豆について言うと、2010年の大豆生産量はアイオワが1,300万トンであるのに対し、中国は1,500万トンで、過去5年間の平均生産量もほぼこの数字に添っている。アイオワの大豆農地は1,000万エーカーに満たないが、中国は2,200万エーカーである。アイオワの1エーカー当たりの収穫高は1.4トンで、中国の0.7トンのちょうど倍になる。

【グラフのタイトル】アイオワと中国の大豆生産量(1964年-2010年)
【縦軸】百万トン
【凡例】アイオワ、中国
【グラフ下】出典:米国農務省の資料を基にアースポリシー研究所で編集
【グラフ右】アースポリシー研究所-www.earth-policy.org

結論:アイオワ州は、米国のコーンベルト(トウモロコシ生産地帯)という驚異的に生産性の高い農地の中心にある。この高い生産性のおかげで、世界人口のわずか4%を占めるにすぎない米国が、主要穀物であるトウモロコシの世界生産量の40%、大豆でも35%を生産することができている。

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seki 2011-08-30T11:22:18+09:00
気温の上昇、食糧価格の上昇を招く:ロシアを襲う猛暑・干ばつ・不作 http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/110813_034437.html                        レスター・R・ブラウン

8月11日水曜日、時計の針が夜12時を指す頃、商品アナリストの一団が会議室に集まる。場所はワシントンD.C.、米国農務省(USDA)の巨大なサウス・ビルディング。一同が揃うと、ドアには鍵がかけられる。携帯電話は没収され、電話もインターネットもつながらない。突然体の具合でも悪くならないかぎり、朝の8時半まで誰もここから出られない。

USDAは、毎月12日までに世界の穀物生産高・消費量・取引高の予測を作成している。アナリストたちが集められたのは、世界中に駐在する農務官の報告書や作物の生育状況を写した衛星画像、最新の気象予報を分析するためだ。この世界農業予測委員会の報告書は一般にはほとんど知られていないものの、専門家の間では広く評価されており、商品取引業者や農業関連企業、農家の人たちにとっては計り知れないほど価値がある――そこに掲載されたデータ次第で、一財産を得たり、失ったりする人が出るほどだ。

木曜日の朝7時、招集されたメンバーが、今年、世界で収穫される穀物量の月間予測の最新版を完成させると、その直後に公認の農業記者が数名だけ入室を許可され、データへのアクセス権を与えられる。記事を作成するためだ。午前8時半ちょうど、缶詰状態が解かれ、電話もインターネットも再び使えるようになる。

USDAが発表する新しい穀物データには、注目が集まるだろう。前回の報告書が7月9日に発表されたときには、それまで22億トンとされていた世界の穀物収穫量が1%近く、1,800万トン減っていることが判明した。

記録的な熱波と干ばつは今なお続いており、8月の報告書には、こうした事態が世界の小麦輸出量の1/4を占めるロシア、カザフスタン、ウクライナ3カ国の穀物収穫に与える影響も加味されるだろう。気温が上昇して、作物の収穫量が減ったのを受け、プーチン大統領は8月上旬に、ロシアは少なくとも12月まで穀物の輸出を禁止する旨を発表した。これが、「今年は世界の収穫量が十分にあるのか」という懸念をさらに高めている。

6月9日から8月9日までの2カ月で、世界の小麦価格は66%跳ね上がった。USDAの8月の予測では、世界の小麦収穫量はさらに少なくなるだろう。しかし、一体どのくらい減るのだろうか。それが世界の穀物価格にどのように影響するのだろうか。


【グラフタイトル】小麦の価格変動 2010年1月1日~2010年8月9日
【縦軸】1ブッシェル(約27.2キロ)当たりの価格(単位:セント)
【横軸】
1月1日
2月10日
3月22日
5月1日
6月10日
7月20日
8月29日
【枠外の表記】出典:シカゴ商品取引所
アースポリシー研究所 www.earthpolicy.org

ロシアの穀物収穫量は、昨年の9,400万トンから6,500万トン、あるいはそれ以下にまで減る可能性がある。ロシアで穀物の大半が栽培されているのはウラル山脈の西部だが、そのあたりは信じられないほど乾燥しており、ロシアの穀物地帯の約1/5で収穫が見込まれない状況だ。さらに、ウクライナの収穫も前年より20%落ち込む可能性があり、カザフスタンに至っては、2009年の収穫量を34パーセント下回ると見られている(データはwww.earthpolicy.orgを参照)。

穀物を枯らしてしまうほどの熱波が7週間も続くというこうした現象は、ロシア西部では前例がない。今年のモスクワの7月は、130年の記録史上最高の気温となった。山火事が、厳しい暑さでカラカラに乾燥した森林・草原・収穫前の麦畑を何十万エーカーにもわたり焼き尽くしている。8月上旬には、連日何百もの火災が新たに発生した。43万エーカー(約1,740平方キロメートル)を超える広い範囲で550件以上の火災が発生し、地元消防団がその鎮圧にあたったが、軍隊も消火活動を支援するために動員された。

今回の熱波と干ばつは、穀物の収穫量を減らしただけでなく、牧草の成長も妨げている。放牧用の草が少なくなり、2,100万頭ものロシアの家畜が長い冬を越すために必要な干し草も少なくなれば、農家は餌として与える穀物の量を増やさざるを得なくなる。7月下旬、ロシア政府は畜産農家や製粉業者向けに国の備蓄から300万トンの穀物を放出した。干し草の代わりに穀物を家畜の餌にするのは割高だが、そうしなければ、家畜を解体処理して頭数を減らすしかない。だがそうすると、牛乳や肉の値上がりを招くだろう。

ロシアとウクライナで世界の輸出量の半分近くを占めるオオムギは、飼料穀物として欧州や中東で広く利用されている。輸入業者は今年、ロシアとウクライナ以外の地域に目を向けなければならないだろう。ロシアが穀物輸入国に転じる可能性があるからだ。実際、ロシア政府は、新しい関税同盟の一員となったカザフスタンとベラルーシから輸出向けの穀物を入手できればいいと考えている。

【グラフタイトル】2009年主要小麦輸出国(単位:100万トン)
【グラフ内】合計1億2,900万トン米国 24EU 21カナダ 19ロシア 18ウクライナ 9カザフスタン 8オーストラリア 15その他 17
【枠外の表記】出典:USDAのデータをもとにアースポリシー研究所で作成注)四捨五入のため、各国の合計は世界の総合計を上回る。

ロシアが穀物の輸出を禁止し、ウクライナとカザフスタンが輸出を制限するかもしれないとなると、食糧輸入国は混乱に陥り、輸出向け穀物の奪い合いが起こる可能性もあるだろう。これは、今年だけの話ではすまない。8月下旬までに、ロシアの冬小麦の種をまくのに十分な水分が土壌に戻らなければ、来年にも干ばつの影響が及ぶ可能性が出てくる。

穀物の輸出量が減少しているにもかかわらず、中国――本来、数年間は穀物の自給が可能――はこの数カ月で、カナダ、オーストラリアの両国からそれぞれ50万トン以上の小麦を、米国からは100万トンのトウモロコシを密かに入手していた。ある中国系コンサルタント会社の予測によると、中国のトウモロコシ輸入量は2015年に1,500万トンまで増加するという。中国が輸入国に転換する可能性がでてくると、輸出向け穀物の供給はさらに厳しくなるだろう。

食糧安全保障で極めて重要な指標は、その年の収穫が始まる時点で穀物の備蓄がどれだけあるかだ。世界の穀物在庫量が2006年に62日分、2007年には64日分まで減少したことを受けて、2007/08年度の穀物価格は高騰した。一方、今年度の世界の穀物期末在庫は76日分が見込まれており、一般に必要だとされている最低70日分を何とか上回っている。しかし、USDAの新たな穀物予測ではどのくらい在庫が減るのだろうか。

これから数カ月先に、穀物の価格がどこまで上昇するのかは誰にも分からない。しかし、確実に分かっているのは、小麦・トウモロコシ・大豆の価格が、2007/08年の記録的な価格上昇の発端となった2007年8月上旬よりも2010年8月上旬の方がいくらか高くなるということだ。2008年に記録した最高値に再び達するかどうかは、まだ分からない。

この記録的な熱波とそれに伴う穀物不足は、気候変動の結果なのだろうか。必ずしもそうとは言えない。どれほど厳しい熱波であれ、地球温暖化を熱波のせいにはできない。今言えるのは、地球の気温がこれから先も何十年と上昇し続けると、ロシアを襲ったような猛暑と干ばつが現在よりも頻繁に起こる可能性があるということだ。今回ロシアを襲った熱波で、将来の気候変動がいかに過酷なものになり得るのかがよくわかる。

激しい熱波で収穫量が減るのは、意外なことではない。作物生態学者の経験則によると、気温が適温を摂氏1度上回るごとに、穀物の収穫量は10%減少するという。地球の気温は21世紀の100年間で最高摂氏6度上昇すると予測されているので、収穫量への影響は明らかに憂慮すべき問題である。

世界の穀物需要は年々高まっている。農家が世界中で作らなければならない食糧は毎年8,000万人分増えていく。さらに、30億人もの人たちが食糧連鎖の上を目指し、穀物がより必要な畜産物を消費しようとしている。さらに今年は、米国の穀物収穫量4億1,500万トンのうち1億2,000万トン分も、自動車の燃料を生産するエタノール精製所に送られる予定だ。

地球の気温の上昇、気候現象の異常化、水不足の拡大が見られる中、穀物の需要が年々高まれば、世界の農業が需要に応えるのは難しくなる。この状況は、二酸化炭素を早急に削減しなければならない緊急事態にあることを浮き彫りにしている――気候変動が制御不能になる前に。

2010年8月12日

世界の穀物繰越備蓄量、72日で底をつく量にまで落ち込む2007年から2008年の食糧価格急騰期以前のレベルに「不安を覚えるほど迫る」
http://www.earthpolicy.org/index.php?/press_room/C68/2010_pressrelease1/

米国農務省の8月12日時点での世界農業需給予測レポート(http://www.usda.gov/oce/commodity/wasde/latest.pdf)によると、2010年における穀物の繰越備蓄量の推計値は4億4,400万トンに落ち込むとされている。次の収穫開始時点で世界中のサイロや貯蔵所に残っていると推定される穀物の量は、72日分の消費量に相当する。

「2010年の世界の穀物繰越備蓄量が72日分の消費量にまで落ち込むという今回の予測は、2007年の水準に不安を覚えるほど迫っている。この年には繰越備蓄量が64日分の消費量にまで減少し、翌年の2008年にかけて世界の食糧価格急騰を煽る結果となった。」とアースポリシー研究所所長のレスター・R・ブラウンは述べる。(http://www.earthpolicy.org/)

世界の穀物繰越備蓄量のグラフ、1960年~2010年
http://www.earthpolicy.org/images/uploads/graphs_tables/2010_PressRelease1_stocks.PNG

【グラフ縦軸】備蓄量の消費日数
【出典】出典:アースポリシー研究所(米国農務省資料より)
【グラフ作成】アースポリシー研究所www.earthpolicy.org

ロシアや中欧における、焼けつくような記録的熱波、深刻な干ばつ、すさまじい山火事は、その地域の収穫に大打撃を与えた。ロシアの小麦生産量は、2009年より27%減の4,500万トンであると現在推定されている。カザフスタンでは、2009年より32%減の1,200万トン、ウクライナでは、19%減の1,700万トンである。

2010年8月5日には、ロシアは、少なくとも年内は穀物の輸出を禁じると発表し、近隣諸国にも同じ措置を取るように要請した。この3カ国は通常、世界の小麦輸出量の1/4を供給しているため、小麦価格はその地域の気温上昇に比例して上がった。

次の冬小麦の種まきに必要な土壌水分が不足していれば、ロシアにおける干ばつの影響は来年にまで及ぶ恐れがある。土地がカラカラに乾燥した状態で、播種の時期を間近に控え、降雨も期待できない状況の中、こうした懸念は、ロシア国内、ひいては世界中で高まっている。

小麦の価格変動のグラフ、2010年1月1日~8月11日
http://www.earthpolicy.org/images/uploads/graphs_tables/2010_PressRelease1_wheatprices.PNG
【グラフ縦軸:価格】1ブッシェル(約27.2キログラム)あたりの価格(単位:セント)
【出典】出典:シカゴ商品取引所
【グラフ作成】アースポリシー研究所www.earthpolicy.org

さらに激しさを増し長引く熱波(http://www.earthpolicy.org/index.php?/plan_b_updates/2006/update56)と危険な山火事(http://www.earthpolicy.org/index.php?/plan_b_updates/2009/update85)は、地球温暖化の予測と一致している。

ブラウン所長は次のように指摘する。「気温の上昇と食糧安全保障は相容れない。ロシアの状況は、私たちがこのまま地球温暖化を進行させれば、どんなことが起こり得るかを予見させるものである。これは、世界に対する警鐘とみなすべきである。すなわち、私たちの食糧安全保障を確保するためには、二酸化炭素排出量を劇的に削減する必要がある。私たちは石炭や石油を野放図に燃やし続けることはできない。また、人口増加に加え、家畜の餌や自動車の燃料として穀物の消費量増加によって記録的な需要が生じているが、そのような需要に対応できる豊作を期待することもできない」

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seki 2011-08-13T03:44:37+09:00
車と人の穀物争奪戦 http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/110726_171809.html                          レスター・R・ブラウン

地球上の土地と水資源への過度の圧力がますます懸念される中、自動車用の燃料を生産するために、耕作地に対して新たに巨大な需要が生まれつつある。それは、世界の食糧安全保障を脅かすものだ。この状況は、ここ数十年の間に高まってきたものだが、初めて注目されるようになったのは、2005年にハリケーン・カトリーナが上陸し、石油価格が1バレル60ドル(約5,000円)以上に跳ね上がって、米国のガソリン価格が1リット ル0.8ドル(約66円)に上昇したときである。

突然、米国のトウモロコシ由来のエタノール蒸留所への投資が、莫大な利益をもたらすようになり、 投資ブームが巻き起こった。この投資ブームで、2009年の米国の穀物収穫量の1/4は自動車用燃料に転用されることになるだろう。

米国は、作物由来の自動車燃料生産ですぐさま優位に立つようになり、2005年には、かつて世界一のエタノール生産国だったブラジルを上回った。バイオディーゼル(主に菜種由来)の生産に力点を置く欧州では、2009年におおよそ91億リットルが生産されている。

耕作地に制約がある欧州連合は、バイオディーゼルの目標を達成するために、インドネシアとマレーシアから輸入したパーム油にますます目を向けるようになっており、そのことがアプラヤシプランテーション造成のために熱帯雨林を伐採する傾向につながっている。

穀物価格は、今や石油価格と結びついているのだ。歴史的に見て、食糧とエネルギーの経済は独立したものだった。それが今では、穀物をエタノールに変換する米国の圧倒的な能力を背景に変貌を遂げつつある。

この新たな状況では、石油価格が上がれば、世界の穀物価格もそれに追従するかたちで上昇する。燃料としての穀物の価格が食料としての穀物の価格を上回れば、市場はあっさりと穀物をエネルギー経済に移行させるだろう。石油価格が1バレル100ドル(約8,300円)にまで跳ね上がれば、穀物価格もそれに続いて上昇するだろうし、石油価格が200ドル(約16,600円)になれば、穀物もそれに続くだろう。

1990年から2005年にかけて、世界の穀物消費量は、主に人口増加と穀物を飼料とする畜産物の消費拡大によって、毎年平均して2,100万トンずつ増加した。そして、米国のエタノール蒸留所で用いられる穀物量が爆発的に増え、2006年の5,400万トンから2008年の9,500万トンへと跳ね上がったのだ。消費量が急に4,100万トンも増えたことで、世界の穀物需要の年間伸び率はほぼ一夜で2倍になり、小麦、米、トウモロコシ、大豆の世界価格が2006年半ばから2008年半ばまでに3倍になるのを助長した。

世界銀行のアナリストは、食糧価格が70%値上がりした原因は、自動車燃料を生産するために食糧を転用したことにあるとしている。それ以降、世界経済の低迷を受けて食糧価格は幾分低下したが、依然として過去の水準を大きく上回っている。

農業の視点から見ると、作物由来の燃料への世界的な欲求はとどまるところを知らない。SUVの約95リットルのタンクをエタノールでたった1回満タンにするのに必要な穀物で、一人の人間の丸1年分の食糧になるだろう。米国の穀物収穫量のすべてがエタノールに変換されたとしても、米国の自動車燃料の必要量のせいぜい18%を満たすだけだろう。

ミネソタ大学のC・フォード・ルンゲ教授とベンジャミン・セナウアー教授による2003年の予測は、飢餓や栄養失調の人々の数が、2025年まで徐々に減少することを示していた。

しかし、彼らが2007年初旬に世界の食糧価格へのバイオ燃料の影響を考慮して行った予測は、今後急速にそのような人々の数が上昇することを示すものだった。世界経済のはしごの下の方の段で生活している何百万人もの人々は、かろうじてそのはしごにしがみついているが、力尽きて落ち始めている。

国際的な食糧援助機関では、予算はずいぶん早くに決まっているので、食糧の価格が上がると援助は減る。現在、30カ国以上に緊急食糧援助を行っている世界食糧計画は、食糧価格が高騰したことから発送を減らした。飢餓が増えており、毎日およそ1万8,000人の子供たちが飢えや、関連の病気で命を落としている。

世界全体で9億1,000万台という自動車の所有者、それと最貧困層の20億人、この両者の競合がはっきりしてきていることから、世界は未知の領域へと足を踏み入れつつある。世界の人々は「穀物は自動車燃料として使われるべきか、あるいは人々を養うために使われるべきか?」という、壮大な倫理的・政治的問題を突然突き付けられているのだ。

世界の自動車所有者の年間平均所得はおよそ3万ドル(約250万円)、最貧困層の20億人については3,000ドル(約25万円)にも満たない。「自動車燃料として使おう」というのが市場の姿勢だ。

燃料生産用にトウモロコシの作付面積を1エーカー増やすたびに、ほかのどこかで耕作用として同じ面積の土地を開墾しなくてはならない。けれども、アマゾンやコンゴ盆地、インドネシアの熱帯雨林を伐採したり、ブラジルのセラード(訳注:サバンナ地帯)を開墾しない限り、新たに耕作できる土地などほとんどない。

残念ながらこれは環境に大きな負担を与える。例えば、隔離されていた炭素の大量放出や動植物種の喪失が起こったり、降雨流出量が増加したり、土壌の浸食が深刻になったりする。

食用作物を自動車燃料に使うことが食糧価格の値上がりにつながるなら、作物を燃料として使う意味はほとんどない。その一方で、成長の速い樹木やスイッチグラス、草原の雑多な植物、それ以外のセルロース原料など、荒れ地で育つ植物から自動車の燃料を生産するという選択肢はある。

これらのセルロース原料をエタノールに換える技術は存在しているのだが、その生産コストは穀物由来のエタノールの2倍近くかかる。はたして穀物由来のエタノールと価格面で競合できるようになるかどうかは定かでない。

このような見通しの暗い筋書きに代わる道がある。2009年5月、 米国では自動車の燃費基準を2016年までに40%引き上げるという決定が下された。この方が、国内で収穫される穀物をすべてエタノールに転換するよりも、米国の石油への依存をはるかに引き下げることだろう。

次なる段階は、ガソリンと電気のプラグインハイブリッド車への全面的な移行だ。プラグインハイブリッド車は夜間に充電できるので、日々の通勤や食料品の買い出しなど近距離の場合、その大半が電気で走行できる。さらにもっと根本的なところで必要なのは、自家用車以外により多くの選択肢がある交通システムを再構築することだ。

穀物の輸出とエタノールの生産で首位に立つ米国は舵取りを担っている。同国は輸入石油への重度の依存を軽減していく取り組みが、それよりもはるかに深刻な問題、すなわち「世界食糧経済の混乱」を招かぬように配慮しなければならない。

選択肢としてあるのは、世界の食糧価格が値上がりし、飢餓が広まり、政情不安が高まる未来か、あるいは食糧価格がより安定し、石油への依存が急激に減り、炭素排出がもっと減少する未来か、そのどちらかである。

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seki 2011-07-26T17:18:09+09:00
2011年の大食料危機 http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/110309_151007.html                       レスター・R・ブラウン

新年早々、英国で小麦の価格が史上最高値をつけている。アルジェリアでは食料暴動が全土に広がっている。ロシアは、春の放牧が始まるまで家畜の群れを養うために、穀物を輸入している。インドは、年間18%の食料インフレ率と格闘しており抗議行動が加熱している。

中国は、膨大な量が必要となる可能性のある小麦とトウモロコシを求めて海外に目を向けている。また、メキシコ政府は、トルティーヤの価格が手の打ちようもないほど上昇するのを避けるため、トウモロコシを先物で購入している。1月5日、国連食糧農業機関(FAO)は12月の食料価格指数が過去最高値を記録したと発表した。

これまで物価急騰の原因を作ってきたのは気候であった。しかし現在、価格をつり上げているのは食料供給と需要の均衡に関する動向だ。需要側で問題を引きおこしているのは、人口の増加、生活水準の向上、自動車燃料への穀物の利用である。

供給側での問題は、土壌浸食、帯水層の枯渇、非農業地へ の転用による耕作地の減少、潅漑用水の都市用水への転用、農業先進国での作物収穫量の頭打ち、そして(気候変動による)作物を枯れさせるほどの熱波と山岳氷河や氷床の融解である。これらの気候に関連した動きが、将来的にはるかに大きな被害をもたらすことは避けられないように思われる。

しかし、少なくとも、需要側の動きについてはわずかではあるが良いニュースがある。世界の人口増加率は、1970年頃の年間2%をピークに、2010年には年間1.2%未満に低下しているのだ。それでも、世界人口は、1970年以降2倍近くになっているため、今でも年間8,000万人が増加している。今夜も、新たに21万9,000人が夕餉の食卓につくが、その多くを迎えるのは空っぽのお皿になることだろう。明日の夜にはさらに 21万9,000人がそこに加わる。いずれ、この容赦ない人口増加は、農業技術、そして地球の土地および水資源の限界に重い負担を与えるようになる。

人口増加もさることながら、現在およそ30億人が食物連鎖の上位に上り、生産に多量の穀物が必要な畜産物をいっそう多く食べるようになったということもある。急成長している開発途上国で食肉、牛乳、卵の消費量がこれほど増えたことはなかった。現在、中国での食肉総消費量はすでに米国のほぼ2倍である。

需要が伸びた主な原因の三つ目は、自動車燃料を生産するために穀物を使ったことである。米国では、2009年に4億1,600万トンの穀物が収穫されたが、1億1,900万トンが自動車燃料を生産するためにエタノール醸造所へと回された。これは、年間3億5,000万人の食を1年間満たすのに十分な量だ。米国によるエタノール醸造所への莫大な投資のため、人と車は世界の穀物収穫をめぐって直接対決することとなった。

自動車の多くが ディーゼル燃料で走る欧州では、主にナタネとパーム油を原料とする植物由来のディーゼル油への需要が高まっている。油脂作物に対するこの需要は、穀物生産に利用できる土地を欧州で減少させているだけでなく、パーム油プランテーションのためにインドネシアやマレーシアの熱帯雨林の伐採にも拍車をかけている。

これら三つの増大する需要の複合的影響は驚くべきものである。1990年~2005年に年間平均2,100万トンだった世界の穀物消費の年間増加 量は、2005年~2010年には4,100万トンへと倍増したのだった。この飛躍的な伸びの大部分は、2006年~2008年に米国で行われた エタノール醸造所への行きすぎた投資に起因している。

穀物の年間需要の伸びが倍増した一方で、供給側にもこれまで続いてきた土壌浸食などが深刻化する中、新たな制約が出てきた。世界の耕作地のおよそ1/3で、自然の作用で新しい土壌が形成されるよりも速く表土が失われている。そのため、土地本来の生産性が失われているのだ。巨大な黄塵地帯が二つ形成されつつある。一つは中国北西部、モンゴル西部、中央アジアにまたがる地域に、もう一つはアフリカ中部に広がっている。いずれも、1930年代の米国の黄塵地帯が小さく見えるほどの規模である。

衛星画像は、これらの地域で絶えず砂嵐が起こり、そのたびに通常何百万トンという貴重な表土が運び去られていることを示している。中国北部では、過放牧のために草原が破壊され、また移動を続ける砂丘により耕作地が埋まってしまったため、2万4,000ほどの村々が廃村になったり、一部で過疎化が進んだりしている。

モンゴルやレソトなど土壌の浸食が深刻な国では、穀物の収穫量が減少している。浸食によって収穫量が減ることと、それが耕作地の放棄につながっていくことが原因である。その結果、飢餓が広がり、輸入にますます頼るようになっている。ハイチと北朝鮮の二国も土壌浸食が深刻で、海外からの食料支援を常に当てにしている。

一方、帯水層の枯渇によって、世界の多くの場所で灌漑面積が急速に減っている。この比較的最近に見られる現象は、地下水の利用を目的とした機械ポンプの大々的な使用が原因である。現在、世界人口の半数が、過剰揚水によって帯水層が枯渇し、地下水面の低下が進む国で暮らしている。

いったん帯水層が枯渇すると、化石帯水層(涵養が不可能な帯水層)の場合は揚水が完全に止まり、化石帯水層でない場合には、涵養のスピードに合わせて揚水量は必然的に減少する。しかし、遅かれ早かれ、地下水位の低下は食料価格の上昇を招くことになる。

灌漑面積は中東で減少している。中でも顕著なのはサウジアラビア、シリア、イラクであり、そしてイエメンもおそらくそうだろう。サウジアラビアは、これまで化石帯水層に頼りきって小麦を自給自足していたのだが、今ではそれも枯渇しており、生産量の減少に歯止めがきかない状況だ。2007 年から2010年までの間に、サウジアラビアの小麦生産量は2/3以上も落ち込んだのである。2012年までにおそらく同国の小麦生産は完全になくなり、輸入穀物に全面的に依存することになるだろう。

地理的には、中東アラブ圏は広がり続ける水不足のために穀物収穫量が減少している初めての地域だ。だが、本当に水不足が深刻なのはインドである。インドの1億7,500万人が口にしている穀物は、過剰な揚水で生産されたものであることが、世界銀行の数字から分かっている。中国では、過剰揚水によっておよそ1億3,000万人の食料が賄われている。米国もまた世界有数の穀物生産大国であるが、灌漑面積はカリフォルニアやテキサスなど、主要な農業州で減りつつある。

この10年、さらにもう一つ世界の農業生産性の向上にブレーキをかける事態が起こってきた。まだ利用されていない技術の蓄えがなくなってきているのだ。農業先進国の中には、収穫高を増やすため農家が利用可能なあらゆる技術を駆使しているところもある。日本は単位面積当たりの穀物収穫高を持続的に増加させた初めての国であるが、この国でもコメの収穫高はこの14年間横ばい状態である。

今、韓国や中国のコメの収穫高は日本に近づきつつある。この二カ国の農家も日本と同様に頭打ち状態になるであろうことを考えると、もうすぐ世界で収穫されるコメの1/3以上がこれ以上収穫高の増加があまり期待できない国々で生産される勘定になる。

同じような状況が欧州でも小麦の収穫に関して起こりつつある。フランス、ドイツ、そして英国ではもはや小麦の収穫高は完全に頭打ちだが、これら三カ国で世界の小麦収穫高のおよそ1/8を占めている。世界で穀物収穫高の伸びにブレーキをかけているもう一つの傾向とは、耕作地の非農業用地への転換である。都市のスプロール現象、産業施設の建設や、道路、高速道路、駐車場用の土地の舗装によって、カリフォルニアのセントラルバレー、エジ プトのナイル川流域、そして中国やインドなど急激に工業化が進む人口密度の高い国々で耕作地が消失している。

2011年に中国での新車販売台数は 世界最高の2,000万台に達するものと見られている。米国での経験に照らし合わせると、国内での自動車が500万台増えるごとに、車のスペースを確保するため約100万エーカー(約4,000平方キロ)の土地の舗装が必要だ。多くの場合、そこでしわ寄せを受けるのは耕作地である。

急成長を遂げる都市も灌漑用水を巡って農家と競合している。例えば中東地域の多くの国々や、中国北部、米国南西部、インドのほぼ全域のように余分な水が全くない地域では、水を都市に回すと、食料生産に利用される灌漑用の水がその分少なくなる。カリフォルニア州では、これまで農家が水を渇望するロサンゼルスやサンディエゴの数百万の市民に大量の水を売却しており、その結果ここ数年でおそらく数百万エーカー(数千万平方キロメートル以上)の灌漑用地が失われている。

気温の上昇も、記録的な速さで伸びている穀物需要に対して、それに追いつくだけの速さで世界全体の収穫を増やすことを一段と困難にしている。作物生態学者の経験則によると、穀物の生育期間中に気温が最適温度より1℃上昇すると、収穫量は10%落ちるという。こうした気温上昇による穀物収穫への影響がはっきりと目撃されたのは、2010年の夏、ロシア西部でのことだった。この時期、気温は最適温度をはるかに上回り、収穫が激減したのだ。

ほかにも食糧安全保障を脅かし続けているものに山岳氷河の融解がある。特に、乾季の間、その融氷水がインダス川、ガンジス川、長江、黄河などアジアの主要な河川を潤し、同時に河水に依存する灌漑システムを支えているヒマラヤ山脈とチベット高原での融解が懸念されている。もしこの融氷水がなくなれば、穀物の収穫は急激に落ち込み、それに合わせて穀物の価格は上昇するだろう。

そして最後が海面上昇である。長い年月にわたるグリーンランドと西南極大陸での氷床の融解と海洋の熱膨張とが相まって、今世紀中に海面は最大6フィート(約1.8メートル)上昇する恐れがある。たとえそれが3フィート(約0.9メートル)であっても、バングラデシュの米作地の半分は水浸しになるだろうし、世界第二のコメの輸出国であるベトナムでも、この国のコメの半分を生み出しているメコンデルタの大部分が水没するだろう。アジアにはコメを栽培できるデルタ地帯がほかにも全部で19カ所ほどあるが、そこでの収穫も海面上昇により大幅に減少するだろう。

このところ、穀物、大豆をはじめ、多くの食料価格が世界中で急騰しているが、これは一時的な現象ではない。気候システムが急激に変化する世界では戻るべき基準などないため、物事がすぐに正常な状態に戻ることはもはや期待できないのだ。

ここ数週間の不安な動きはほんの幕開けに過ぎない。地球の未来を脅かすものは、今では軍事大国同士の争いではない、食料不足の蔓延と食料価格の高騰、およびその結果生じる政治的な混乱である。

各国政府が速やかに安全保障の定義を改め、国の支出を軍備から気候変動の緩和、水使用の効率化、土壌保全、人口の安定化へと移さない限り、世界はおそらく、今以上に不安定な気候に見舞われると共に、食料価格が頻繁に変動する事態に直面しよう。もし、今までどおりの方法を続けるなら、食料価格は上昇の一途をたどるしかないだろう。

註:この稿は2011年1月10日、火曜日の『フォーリン・ポリシー』より転載。

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seki 2011-03-09T15:10:07+09:00
文明を救う活動はスポーツ観戦ではない http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/110203_044854.html                      レスター・R・ブラウン

21世紀初頭に私たちが住む地球の文明は大規模な環境・社会問題に直面している。これについて、私が一番よく耳にする質問のひとつは「自分に何ができるのか?」だ。よく私に期待されるのはライフスタイルの変化だとか、新聞のリサイクルだとか、電球の取替についての話である。

それも重要には違いないが、それだけでは全く不十分だ。私たちは今、世界経済を立て直さねばならない--それも早急に。つまり、政治に積極的に関わって、必要な変化を起こすべく努力せねばならない。文明を救う活動はスポーツ観戦とは違う。

情報を収集しよう。環境関連の本を読もう。環境危機に陥っていた古代文明がどうなったかを知りたい人は、ジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』、ロナルド・ライトの『暴走する文明』、ジョセフ・テインターの『(仮邦題)複雑な社会の崩壊』を読むとよい。『プランB4.0:人類文明を救うために』はアースポリシー研究所のサイトearthpolicy.orgから無料でダウンロードできるし、一連の補足データやスライド・ショーの要約も合わせて手に入る。もしこの資料がやるべきことを考えるのに役立つと思うなら、他の人にも教えてあげよう。

税制改革、効率の悪い電球の禁止、石炭火力発電所の段階的閉鎖など、あなたが「これだ」と思うテーマを選ぼう。住んでいる地域の道を歩行者・自転車優先にしたり、世界人口を安定させる取り組みをしているグループに加わってもよい。自ら文明救済の活動に加わることほど、エキサイティングでやりがいのある仕事があるだろうか。

自分一人でやりたいと思うかもしれないが、同じような考えの人たちで集まり、グループを作るのも悪くない。手始めに、みんなで話し合って、取り組むべき問題を一つか二つに絞るのを手伝ってもいいだろう。

そして、あなたの投票で選ばれた国や地方レベルの議員たちと意見交換をしよう。自分で取り組もうと決めた具体的な課題に加えて、重要な政策課題が二つある。税制の再構築と財政支出の優先順位の見直しである。「所得税を引き下げ、環境税を引き上げることにより、税制の再構築をする必要がありませんか」とあなたが選んだ議員に手紙やメールを送ろう。コストをコストとして計上しなければ、短期的には「もうかった」と錯覚するかもしれないが、長期的には破滅につながることを議員たちに気づかせよう。

世界では年間1兆ドル(約86兆円)以上のお金が軍事目的で使われているが、それは全く現実を無視したものであり、私たちの未来が直面する最も深刻な脅威に応えていない。その事実をあなたが選んだ議員たちに知ってもらおう。

そして「プランB予算--貧困撲滅、人口安定化、地球の回復のために年間1,870億ドル(約16兆円)を追加予算として組み込むこと--は文明を救うのに理不尽な支出ですか」と尋ねてみよう。また、「世界の軍事予算の1/8を文明救済費用に振り向けるのはそれほど法外な支出ですか」とも訊いてみよう。第二次世界大戦の時、アメリカがどのように総動員体制を取ったかも思い出してもらおう。

それに何よりも、「自分にできること」を軽んじてはいけない。人類学者のマーガレット・ミードはこう話している。「意識の高い市民が少しでもいれば世の中を変えられるということを、決して疑ってはならない。実際のところ、今までもそうした人たちがいたからこそ、世の中は変わってきた」

ライフスタイルを変えて政治の取り組みを支えるのは構わない。ただ、忘れてはならないことがある。ライフスタイルの変化で政治行動を補えても、政治行動を取ったことにはならないのだ。都市計画の専門家であるリチャード・レジスターは、自転車活動家の友人に会ったときの話をよくする。

その友人が着ていたTシャツに書かれていたのは、「僕はちょうど、約1,600キロ分減量したところ。どうやって減量したのか知りたいでしょう?」その方法を尋ねられると、本人は「車を売ったのだ」と答えた。重量1,600キロの自動車を10キロの自転車に変えれば、エネルギーの消費量が劇的に減るのは明らかだ。それでだけでなく、材料の使用も99%減少することになり、間接的にはさらに多くのエネルギーを節約できる。

食べ物を変えるのも効果がある。牛肉などを豊富に摂取する食生活と、野菜中心の食生活とでは、クライメット・フットプリント【訳注:人類が気候変動に及ぼす影響を二酸化炭素排出量で換算した数値。カーボンフットプリントともいう】に大きな違いがある。

その違いは、ガソリンを大量に消費する大型のSUV車と、ガソリンと電気を併用した非常に燃費のよいハイブリッド車とほぼ同じだ。私たちのうち、脂肪の豊富な畜産品を多く食べる人たちが食物連鎖のレベルを下げることで、人間と文明、双方のためになる。

こうしたライフスタイルの変化は思いのほか痛みが伴わず、たいてい健康にもよい。それでは、犠牲を伴う行為はどうだろう。第二次世界大戦の最中、何百万人もの若者が徴兵され、尊い犠牲を払うように求められた。しかし、文明を救う戦いでは、命を犠牲にする必要はない。

私たちに求められているのは、積極的に政治に関わることと、ライフスタイルを変えることだけだ。第二次世界大戦が始まった頃、ルーズベルト大統領は米国国民に対して、状況に合わせてライフスタイルを変えるよう、たびたび呼びかけていた。私たちは今、文明の救済のために、時間、資金、消費の減少の面でどのような貢献ができるだろうか。

その選択を下すのは私たちだ--選ぶのはあなたであり、私である。従来のやり方にしがみついて、経済を思いのままに操ることもできる。だがその場合、経済はもともと備わっていた支援システムを破壊し続けて、最終的には経済そのものが自滅することになる。

あるいは、プランBを選択して、方向性を変える世代となり、世界を持続可能な進歩の道へと導くことも可能だ。いずれにせよ、選択を下すのは私たちの世代だ。しかし、その影響を受けるのは、これから地球に生まれてくる全ての世代なのである。

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seki 2011-02-03T04:48:54+09:00
脱クルマの道路づくり http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/110125_075129.html                          レスター・R・ブラウン

車があれば方々に移動ができる。そのことを実感するのは主に田舎の場合だ。しかし都市化が進み人類の半数以上が都市に住むようになったことで、必然的に車と都市との間で摩擦が生まれている。

ある時点を過ぎると、車の増加は車から移動の便利さを奪う。それどころか、車を不便なものにするのだ。車の増加に伴って大気汚染が広がり、健康被害も現れる。都市交通システムとしては、鉄道、バス路線、自転車道路、歩道を組み合わせたものが、移動の便利さ、低コストの交通、健康な都市環境を提供できる最も望ましい形である。

非常に多くの人たちを車からバスに移行させることになった最も革新的な公共交通システムのいくつかが、ブラジルのクリチバとコロンビアのボゴタで発達している。トランスミレニオと呼ばれるボゴタのバス高速輸送システム(BRT)がそれだ。

これは、バス専用の高速レーンを設けることで人々の市内での移動が速くなるようにしたもので、今やそのシステムはコロンビア国内のほかの6つの都市だけでなく、メキシコシティー、サンパウロ、ハノイ、ソウル、イスタンブール、キト(エクアドルの首都)など国外でも多く導入され、同じように成功を収めている。メキシコシティーは2020年までにBRT路線を10本整備する計画である。

北京は中国の国内でBRTが運用されている11の都市の一つである。中国南部では、広州が2010年の初めにBRTの運用を正式に開始した。すでに1日80万人以上の乗客がBRTを利用しており、年内にはその数は100万人になる見込みである。地下鉄との連絡を3カ所で行い、ほかにも、BRTの全路線に並行して間もなく自転車道路が設けられる予定だ。さらに自転車とBRTを併用する人たちのために、広州では5,500台分の駐輪場が設置される運びになっている。

イランではテヘランが2008年の初め、BRTの一号路線を開通した。現在、さらにいくつかの路線の開発が進み、いずれそれらはすべて、市の新たな地下鉄路線と一体化される予定である。アフリカでも数都市でBRTシステムの導入が計画されている。先進国でさえ、例えばオタワ、トロント、ニューヨーク、ミネアポリス、シカゴ、ラスベガス、それに非常に喜ばしいことだが、ロサンゼルスといった都市でも、BRTをすでに導入したか、あるいは導入が現在検討されている。

シンガポールやロンドン、ストックホルム、ミラノのように、都心に乗り入れる車に税金をかけ、それによって交通渋滞と大気汚染を減らした都市もある。最近まで、自動車の平均速度が1世紀前の馬車並みだったロンドンでは、2003年早々、混雑課金を徴収することを決めた。当初、その額は5ポンド(約700円)とされ、午前7時から午後6時半の間に都心に入ってくる全車両を対象に課金がなされた。その結果、都心に流入する車の数は即座に減少し、車の流れはスムーズとなり、大気汚染や騒音が減った。

この新税が導入された最初の1年間で、都心にバスを利用して訪れる人の数は38%増え、主要な大通りを走る車の速度は21%速くなった。2005年7月、混雑課金は8ポンド(約1,120円)に引き上げられた。その混雑課金による収入は公共交通機関の整備と拡大に使用されることから、ロンドン市民は乗用車からバス、地下鉄、自転車へと、利用する交通手段を着実に変更している。混雑課金施行後、交通量がピークの時間帯にロンドン市内に流れ込む車や小型タクシーの数は36%減り、逆にその時間帯の自転車は66%増えている。

2008年1月、イタリアのミラノは、平日、昼間の時間帯に歴史地区に入ってくる車に対して14ドル(約1,200円)の公害税(pollution charge)を課すことを決めた。これと同じような措置はサンフランシスコ、トリノ、 ジェノバ、キエフ、ダブリン、オークランドなどほかの都市でも検討が進んでいる。

2001年にパリ市長となったベルトラン・ドラノエは、当時、欧州で最悪だった交通渋滞と大気汚染問題のいくつかを前任者から引き継いでいた。そこで彼は2020年までに交通量を40%減らすことを決断した。まず手を付けたのが、パリ首都圏に住むすべての住民が質の高い公共交通機関を利用できるように、都心から離れた地域にある交通機関の整備に資金を投入したことだ。そして次に、主要な道路にバスや自転車用の高速レーンを整備し、自動車の車線数を減らした。

パリで行われた3つ目の革新的な取り組みは、市内の至る所に1,450のレンタル自転車置き場を設けて、2万600台の自転車を利用できるようにした市営レンタサイクル事業を立ち上げることだった。自転車を借りるにはクレジットカードを使い、利用料金は1日ほんの1ドル(約87円)強程度から年間40ドル(約3,500円)で、1日、1週間、年間単位で料金を選ぶことができる。自転車の利用時間が30分未満なら乗るのは無料だ。レンタサイクルの人気が絶大であることは明らかで、2009年末の時点で利用実績は6,300万回を超えている。

ドラノエ市長は現在、2020年までに自動車交通量を40%、炭素排出量も同じだけ削減するという自身の目標を実現するために奮闘中だ。この自転車シェアリング事業は人気を博し、パリ郊外の30の町に拡大、またロンドンなど、触発された都市も自転車シェアリングを導入するようになった。

多様な都市交通システムの開発で欧州にかなり遅れをとっている米国では、「完ぺきな道(コンプリート・ストリート)」という動きが急速に広がっている。これは、「道路を自動車だけでなく歩行者や自転車にも優しいものにしよう」という取り組みだ。同国では、歩道や自転車用レーンがない地域が多く、歩行者や自転車利用者が安全に移動するのが難しくなっており、特に交通量の多い道路ではそれが著しい。

このような「自動車オンリー」のモデルは、天然資源保護協議会(NRDC)、全米退職者協会(AARP)、多くの地方や全国規模のサイクリング団体をはじめとする、様々な市民団体で構成される強力な組織「全米『完ぺきな道』同盟(National Complete Streets Coalition)」から問題視されている。

この「完ぺきな道」運動に拍車をかけているのは、肥満の蔓延、ガソリン価格の高騰、緊急を要する炭素排出量の削減、大気汚染、そして、高齢化するベビーブーマーたちが自由に移動できなくなるなどといった問題だ。歩道が整備されていない都市部に住み、自動車を運転しなくなった高齢者は、自宅に閉じ込められているも同然なのである。

全米「完ぺきな道」同盟は、「2010年4月の時点で、カリフォルニアやイリノイを含む20の州と71の都市で『完ぺきな道』政策が施行された」と報告している。州政府がこのような政策の法制化に関心を持つようになった理由の一つは、「自転車用道路や歩道を最初からプロジェクトに組み込む方が、後で追加するよりもはるかに低コストで済むこと」である。

この取り組みと密接に関連しているのが、徒歩通学を奨励し、手助けする運動だ。1994年に英国で始まったこの運動は今、米国を含め、約40カ国に広がっている。40年前には、米国内の子どもの40%以上が徒歩や自転車で通学していたのだが、現在その割合は15%もない。

今日、60%が車に乗せてもらったり、自分で車を運転したりして通学している。このような状況が子どもの肥満の要因になっているだけでなく、米国小児科学会が報告しているように、車で通学する子どもの死傷者数は、徒歩やスクールバスで通学する子どもに比べて格段に高いのである。「歩いて通学」運動の潜在的なメリットとして、肥満や若年性糖尿病の低減も挙げられている。

非常に発達した都市交通システムを持ち、自転車用のインフラが成熟している国々は、自動車に大きく依存している国に比べ、世界的な石油生産量の減少という重圧に対してはるかにうまく耐えられる状況にある。徒歩や自転車といった選択肢が揃っていることで、自動車による移動回数を簡単に1割から2割減らせるのだ。

新しい世紀が進むにつれ、世界は、交通について考える際に100年間で最も根幹的な転換の一つとして、都市における自動車の役割を見直しつつある。課題は、地域社会を再設計して、公共交通機関を都市交通の軸とし、道を歩行者や自転車に優しいものにすることだ。

これはまた、緑化や公園を整備し、駐車場を公園や遊び場、運動場に転換するということでもある。私たちは、炭素排出量を削減したり、健康に有害な大気汚染を解消したりしながら、毎日の日課に運動を取り入れることで体系的に健康を取り戻す、という都市のライフスタイルをデザインすることができるのだ。

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seki 2011-01-25T07:51:29+09:00
プランB―文明を救う計画 http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/110115_043938.html                       レスター・R・ブラウン

未来について分からないことは多くある。しかし、確実に分かっていることが一つある。それは、世界の食糧経済を弱体化させている環境分野での流れを逆行させることができないことも含めて、これまでのやり方が長くは続かないだろう、ということだ。極めて大きな変化は避けられない。

「私たちの文明の終焉は、もはや理屈でも学問上起こり得ることでもない。私たちはまさにその道を歩んでいるのだ」と環境保護基金の気候プログラム・ディレクターであるピーター・ゴールドマークは述べている。時間切れになる前に、果たして別の道を見つけ出すことができるだろうか? 私はできると思う。その道を私はプランBと呼んでいる。

プランBは、今までのやり方に代わる選択肢である。その目的は、世界を現在の衰退・崩壊への道から、食糧安全保障の回復と文明維持が可能な新たな道へと転換させることである。

開発や土壌侵食による耕作地の喪失、地下水位の低下、食糧から燃料への転換、炭素排出量の増加など、まさに現在の食糧事情の悪化の背後にある動向が農業自体の域をはるかに超えているように、その動向への対応も同様に農業の域を超えるものでなくてはならない。

かつて、農業研究の拡大、農業従事者への融資の拡大、農業分野における他のあらゆる明白な事柄を左右する鍵を握っていたのは米国農務省だった。しかし、今や将来の食糧供給の安定化は、私たちの社会全体の力を結集できるかどうかにかかっている。

このような理由から、プランBは、これまで行われてきた世界的などの取り組みよりもはるかに壮大であり、規模あるいは緊急性の点で前例がない。プランBは、相互に依存している次の4つの要素で構成されている。すなわち、2020年までに正味の二酸化炭素排出量を80%削減、80億人以下での世界人口の安定化、貧困の撲滅、地球の自然システム(土壌、帯水層、森、草原、漁業など)の修復である。このプランの壮大さを後押ししているのは、政治的に実現可能であると認識されていることではなく、科学的な現実なのである。

炭素排出量を削減するプランには、世界的なエネルギー効率の劇的な向上、再生エネルギー源の大規模な開発への投資、森林伐採の禁止、10億本単位での植樹も含まれている。プランBの概要は、基本的には、石油、石炭、天然ガスを主動力とした経済から、風力、太陽、地熱エネルギーを主動力とした経済への転換である。

プランBにおける人口安定化の目標は80億人以下に設定されている。それはただ単に私が、2050年の世界人口として国連の人口統計学者たちが予想した92億人には到達しないだろうと考えているからだ。

2050年までに増加すると予測される24億人の圧倒的多数は、土地資源や水資源の基盤が悪化し、飢餓が拡大している開発途上国で生まれる子どもたちだ。こうした国々の支援体制の多くはすでに弱体化し、中には崩壊しているものもある。

問題は、92億人に到達する前に人口増加が止まるかどうかではなく、人口増加を抑制する要因が、世界が小家族化にいち早く移行するからなのか、あるいはそれに失敗し、死亡率が上昇することによって人口増加が抑制されるからなのか、ということである。プランBでは出生率の低下という選択肢を採用している。

貧困の撲滅は、以下の3つの理由から真っ先に達成すべき目標である。一つには、世界中の女性に生殖に関する医療と家族計画に関するサービスを提供するとともに、貧困を撲滅することが、世界規模での小家族化への移行を加速させる鍵となるからである。

また、貧困の撲滅は、貧困国を国際社会へ参加させる一助ともなり、そうした国々が気候の安定化などの問題に関心を持つことにつながるからである。食うや食わずの状態であれば、地球の気候安定化に向けての取り組みに意欲的になることは困難である。3つ目として、貧困の撲滅は、人道的な課題だからである。文明社会の特徴の一つは、他人を思いやる懐の深さである。

プランBの4つ目の要素は、人類を支える自然のシステムを修復し保護することである。これには、土壌保全、森林伐採の禁止、森林再生の促進、漁場の回復、水の生産性を高める帯水層を保護する世界規模の取り組みなどが含まれる。これらのシステムの悪化の流れを逆転させることができなければ、現在10億人を超える飢餓人口の増加傾向を減少に転じさせることはできないだろう。

この「私たちの文明を救う計画」は、スケールが壮大なだけでなく、実行の緊急性が極めて高い。計画の成功は、戦時下のようなスピードで実行できるか、つまり真珠湾攻撃後の1942年に米国の産業経済が成し遂げた改革を彷彿とさせる速さで、世界のエネルギー産業を再編できるかどうかにかかっている。

当時米国は、わずか数カ月のうちに、自動車製造を軍用機や戦車、船舶の製造へと切り替えた。現在の構造改革は、抜本的な優先順位の並べ替えを行わずに実現することは不可能だ。しかも、犠牲なしには成し得ないだろう。1942年の産業改革の事例では、約3年に及んだ新車の販売禁止措置が鍵となった。

今、私たちは途方もない課題に直面しているが、楽観視できることも多い。私たちが抱えている問題はすべて、既存の技術で対応できる。また、世界経済を崩壊への道から環境的に持続可能な道へと軌道修正するために私たちがすべきことの大半が、既に複数の国々で実施されている。例をあげると、30カ国以上が基本的に人口規模を安定させている。

プランBの要素は、既に実用化された技術の中に見いだせる。エネルギー分野を例にとると、最新型の風力タービン1基で、老朽化した油井1本よりも多くのエネルギーを得ることが可能だ。シボレー・ボルトのような、今後市場投入されるガソリン・電気併用の新しいプラグインハイブリッド車の燃費は、1リットル当たり100キロ近くになり得る。

プランBが描く2020年のエネルギー経済では、米国内の自動車のほとんどが、プラグインハイブリッド車と完全電気自動車になり、風力発電による電気を主な燃料として、ガソリン換算で1リットル当たり約44円未満のコストで走る。

世界は、照明技術改革では初期段階にある。小型蛍光灯(CFL)は、100年の歴史を持つ白熱灯と同じ明るさだが、1/4の電力しか消費しない。それ以上に胸を躍らせてくれるのは、消費電力が白熱灯の15%という、さらに進んだ照明技術──発光ダイオード(LED)──だ。白熱灯をLEDに替え、動作センサーや調光器を設置すれば、照明に使う電力を90%以上削減できる。

国レベルのプランBのモデルとしては、デンマークが現在電力の20%以上を風力でまかなっており、これを50%にまで増やす計画である。中国では、約2,700万世帯が屋上に設置した太陽熱温水器から温水を得ている。アイスランドでは、現在90%の家庭で暖房に地熱エネルギーを利用しており、家庭用暖房には事実上石炭を使っていない。

森林が再生された韓国の山々にも、プランBの世界の姿を見て取れる。韓国の国土は、一度はほとんど木がなくなり荒れ果てた。しかし現在では65%が森林に覆われ、洪水や土壌浸食が抑えられて、同国の地方にも健康で安定した環境が戻っている。米国では、この四半世紀で耕作地の1/10(そのほとんどは非常に浸食されやすい土地)が休耕地となり、残りの耕作地では保全耕起法への移行が進んで、土壌浸食が40%減少した。その一方で、穀物収穫高は1/5増加している。

都市の中にも、非常に革新的なリーダーシップをとっているところがある。ブラジルのクリチバでは、1974年に交通システムの再構築が始まった。その後の20年で市の人口は2倍になったが、自動車の交通量は30%減少した。アムステルダムには様々な都市交通システムがあるが、市内の移動の約40%には自転車が利用されている。ロンドンは、市の中心部に入る自動車に課税し、その税収を公共交通機関の整備に投資している。

難題は、「自然界が定めた数多くの最終期限に間に合わなかったため、経済システムが崩壊しはじめた」という事態になる前に、新しい経済を戦時下のように大急ぎで築かなければならないことだ。

この新しい、永続的な経済の建設に参加することは、心躍る経験だ。そして新しい経済がもたらす生活の質も、心楽しいものとなるだろう。人口が安定し、森林が拡大し、炭素排出が減少する世界は、私たちの手の届くところにあるのだ。

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seki 2011-01-15T04:39:38+09:00
市民の税金が環境破壊を助長する http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/101210_211359.html                        レスター・R・ブラウン

市場の失敗を是正する一つの方法は課税シフトである。つまり、環境のためにならない活動の価格が、真実のコストを反映し始めるように、そうした活動への課税を引き上げ、これを所得税の引き下げで相殺する。

コストをかけずにこの目標を達成する方法は、補助金のシフトである。世界の納税者たちは、化石燃料の燃焼、帯水層からの過剰揚水、森林の皆伐、魚の乱獲などの環境破壊活動に対して、少なくとも年間7,000億ドル(約60兆5,080億円)の補助金を負担している。地球評議会が「持続不可能な開発への補助金」と題した調査の中で述べているように、「世界が自らの破壊に年間何千億ドルもの金を注ぎ込んでいるとは何とも信じがたい話」なのである。

ためにならない補助金がたちの悪いものであることは、海洋漁場において、特に明白である。これらの補助金がもたらした結果の一つとして、今では、トロール漁船の数が余りにも増え、それらの捕獲能力は、持続可能な漁獲量の2倍に近い。

現在、海洋漁場の3/4が、許容量以上の捕獲が行われているか、乱獲から回復中なのである。従来どおりのやり方を続けると、これらの漁場の多くは崩壊するだろう。カナダのニューファンドランド沖のタラ漁場は、そうしたことが実際起きることを示した典型例である。長い間、そこは世界で最も生産性の高い漁場の一つだったのだが、1990年代初めに崩壊し、回復の見込みはなさそうである。

結局のところ、各国政府は漁業への補助金を撤廃する必要がある。魚を絶滅させるような乱獲を促す、これらの補助金を、漁場を再生する海洋公園の設立へシフトさせるなら、海洋漁場の回復にとって大きな一歩になるだろう。

ケンブリッジ大学保全科学グループのアンドリュー・バルムフォード博士率いる英国の研究者チームは、83の比較的小規模で管理の行き届いた保護区のデータをもとに、大規模に海洋保護区を運営する場合のコストを分析した。同研究者チームによれば、海洋の30%を占める海洋保護区のネットワークの管理コストは、わずか120億ドル(約1兆373億円)から140億ドル(約1兆2,102億円)であり、今日、各国政府が漁業関係者に与えている有害な補助金220億ドル(約1兆9,017億円)よりも大幅に少ないという。

バルムフォード博士は、「私たちの研究が示すように、海と海洋資源を永久に保全する余裕が私たちにはあり、しかもそれは、持続不可能なやり方で乱獲するために今私たちが費やしている補助金よりも少ない額でできる可能性があるのだ」と述べている。

地下水位の低下によって別の問題が引き起こされているが、それも補助金のシフトによってある程度は対処できるかもしれない。過去半世紀に、何百万本ものかんがい用の井戸を掘ったことで、涵養率を上回る速さで水がくみ上げられ、事実上、地下水を採掘するような状況になっている。

各国政府が、帯水層からのくみ上げを、持続可能な量に制限していないために、世界人口の半数以上を占める国々で、現在、地下水位が低下している。こうした国々には、三大穀物生産国の中国、インド、米国が含まれている。

いくつかの国では、水の生産性を向上させるプログラムに必要な資金が、多くの場合かんがい用水の無駄遣いを奨励している補助金の撤廃で賄える。そういった補助金は、インドのようにエネルギーへの補助金であったり、米国のようにコストを大幅に下回る価格で水を提供する補助金であったりする。これらの補助金を撤廃することで、事実上、水の価格が上昇し、効率的な水利用が奨励されるだろう。

気候の分野では、多くの国々で、化石燃料への補助金を撤廃するだけで、炭素排出量を削減することができる。イランは極端な補助金対策をとっている典型例である。その補助金で石油の国内価格を国際価格の1/10に設定し、自家用車の保有とガソリンの消費を強く奨励しているのだ。

世界銀行の報告によると、イランが年間370億ドル(約3兆1,983億円)の補助金を段階的に廃止すれば、同国の炭素排出量は実に49%も削減されるという。そうすれば、国家収入を同国の経済発展のための投資に回せるようになるため、経済力も高まる。イランだけではない。再生可能エネルギーへの補助金を廃止すれば、インドで14%、インドネシアで11%、ロシアで17%、ベネズエラで26%、炭素排出量が削減されると、世界銀行は指摘している。

すでに数カ国がこうした補助金を撤廃しつつある。ベルギー、フランス、そして日本は、石炭に対するあらゆる補助金を段階的に廃止してきた。ドイツは、1996年に最大67億ユーロ(約7,555億円)だった石炭への補助金を2007年には25億ユーロ(約2,819億円)まで削減した。石炭使用量は1991年から2006年にかけて34%減少した。同国は、2018年までにこの補助金を全廃していく予定だ。

石油価格の高騰に伴い、多くの国々が、国際市場価格よりはるかに下回る燃料価格を維持する補助金を、大幅に削減、または廃止している。財政を圧迫しているというのがその理由だ。こうした国々には、中国、インドネシア、ナイジェリアが含まれる。

英国の緑の党は、「航空産業の経済的マイナス面」という調査において、英国の航空産業への補助金について説明している。国税の完全免除を含めた180億ドル(約1兆5,559億円)の優遇税制措置に加え、航空機で汚染された大気を吸うことに起因する疾患の治療費や気候変動のコストなど、支払われていない外部コストや間接コストは、75億ドル(約6,483億円)近くにのぼる。英国における補助金は国民一人当たり計426ドル(約3万6,800円)である。これは本質的に、逆進税制でもある。つまり、英国民には航空機に乗るだけの余裕のない人もいるのに、より裕福な国民のための高価な輸送手段に対する補助金を支えているからだ。

主要先進国の中には化石燃料(特に気候への悪影響が最も大きい石炭)への補助金を減らしている国もあるが、米国は化石燃料と原子力産業への援助を増やしている。

アース・トラック社の創立者ダグ・コプロウ氏が2006年の調査で算出したところによると、米国連邦政府のエネルギー産業への年間補助金額は740億ドル(約6兆3,966億円)にのぼる。内訳は石油・ガス産業が390億ドル(約3兆3,712億円)、石炭産業が80億ドル(約6,915億円)、原子力産業が90億ドル(約7,780億円)である。この額は現在、「恐らくかなり増えているだろう」とコプロウ氏は指摘する。石油資源の節約が必要な時代に、米国の納税者たちは石油を枯渇させるために補助金を出しているのだ。

経済的混乱を引き起こす気候変動に直面している世界は、石炭や石油の燃焼を奨励する補助金を正当化することはもはやできない。こうした補助金を風力、太陽光、バイオマス、地熱といった、気候に配慮したエネルギー資源の開発に振り向けることは、地球の気候安定化に役立つだろう。

補助金を道路建設から鉄道建設へシフトすれば、多くの場合、交通の利便性を高めつつ、炭素排出量も削減できるはずだ。補助金を伐採道路の建設のためではなく植林のために使うなら、世界各地の森林被覆の保護・回復を支援しながら、炭素排出量を削減することになるだろう。

多くの政府が財政赤字を抱える混迷した世界経済では、課税や補助金をシフトすることが、財政の均衡と、雇用の創出、環境への経済的支援の確保に役立つ。課税と補助金のシフトによって、エネルギー効率の向上、炭素排出量の削減、環境破壊の軽減が期待できる。つまり、3つの側面で、同時にメリットが得られるということだ。

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seki 2010-12-10T21:13:59+09:00
環境税を引き上げ、所得税を引き下げて大きな利益を http://www.es-inc.jp/lib/lester/newsletter/101202_111147.html                        レスター・R・ブラウン

経済について何かを決めるときには--決めるのが消費者でも、企業の計画担当者でも、政府の政策立案担当者でも、投資銀行家でも--私たちはみな市場の助言を頼りにしている。市場が機能し、経済の主体者が正しい判断を下すためには、市場から適切な情報が提供されなければならない。それには、私たちが購入する製品の原価が全部でいくらになるのかも含まれる。

残念ながら、市場では商品やサービスの間接費用はほとんど無視されており、それが経済の構造を大きく歪ませている。例えば、石炭を発電に使用したとき、市場価格に含まれるのは、石炭を採掘し発電所まで輸送するのにかかる直接費用だけである。石炭を燃焼させた際に発生する多額の間接費用--大気汚染、酸性雨、生態系の破壊、そして気候変動などの費用--は市場で無視されているので、市場が与えてくれる情報は不正確だ。このように、そしてほかでも歪みが生じているせいで、私たちは判断を誤ってしまっている。

市場のこのような大失敗を修正するのに最も効果的なのは、税制の再構築だ。すなわち、環境を破壊する行為に対して課税額を引き上げ、その一方で所得税を引き下げるのである。エコノミストから広く支持されているこの課税シフトは、社会が負担する費用すべてが製品の価格にきちんと反映されるようにするものだ。

正直な市場を作り出す第一歩は、これらの間接費用を算出することだ。おそらく、その最良のモデルとなるのは、米国政府が疾病対策予防センター(CDC)のデータに基づいて行った喫煙に関する研究である。2006年にCDCは、喫煙が社会にどれだけの費用を負担させているのかを、喫煙関連の疾病の治療費用と、これらの疾病で失われた労働者の生産性の両方を含めて計算し、たばこ一箱当たり10.47ドル(約960円)とした。

この計算は、たばこ税を引き上げる際の枠組みを示している。ニューヨーク市では、喫煙者は一箱当たり州税・市税として4.25ドル(約390円)を支払っている。通常、10%の値上げで喫煙率は4%下がるので、増税は健康に大きな効果を上げている。

ガソリンを使用するとあまたの間接費用がかかる。気候変動、石油業界の税控除や補助金、石油供給の維持、そして自動車の排気ガスに関連する呼吸器疾患の治療などの費用だ。国際技術評価センターによると、控え目に見積ってもその額は全部で1リットル当たり3.17ドル(約290円)になる。

この外部費用、あるいは社会費用が米国で平均1リットル当たり0.79ドル(約72円)というガソリン価格に上乗せされると、1リットルでの金額は3.96ドル(約360円)になる。これこそが本当の値段だ。誰かがそれを負担するわけだが、それが私たちでないなら、そのつけは子供たちにまわっていく。

環境の本当の姿を反映したところまで税額を引き上げていく際には、1リットル当たり3.17ドル(約290円)というガソリンの間接費用が基準になる。イタリア、フランス、ドイツ、そして英国でのガソリン税は、平均すると1リットルで1.06ドル(約97円)以上であり、初めの一歩としては申し分ない。

米国でのガソリン税は平均で1リットル当たり13セント(約12円)に満たない。だからだろう、米国のガソリン消費量は米国に次ぐ上位20カ国の消費量をすべて合わせたよりも多くなっている。欧州でガソリン税が高額であることから、石油を効率的に使う経済が発展し、質の高い公共交通機関への投資額がはるかに増え、石油の供給に混乱が生じても影響が出にくくなった。

今後十年間、毎年1リットル当たり11セント(約10円)ずつ、ガソリン税を段階的に引き上げていき、その分だけ所得税を引き下げるなら、米国のガソリン税は、現在欧州で一般的な「1リットル当たり1.06ドル(約97円)」まで上がっていく。

それでもまだ1リットル当たり3.17ドル(約290円)という間接費用には届かないだろうが、ガソリンの生産にかかるコストが上昇するのと合わされば、自動車を利用してきた人たちがより進化した公共交通機関を利用してみようとか、プラグインハイブリッド車や全電気自動車が販売された際に購入を考えてみようとか、そんな気持ちに十分なるはずである。

欧州でのガソリン税は、歳入源として、また石油輸入への過度な依存をやめさせようと設けられたものであるが、これを炭素税と考えるなら、1リットル当たり1.06ドル(約97円)の税額は、1トン当たり1,650ドル(約15万円)になる。これは驚異的な数字であり、これまで提案された炭素排出税や、キャップ・アンド・トレード方式の炭素価格すべてをはるかに上回っている。このことは、公式に協議されている「1トン当たり15ドル(約1,400円)から50ドル(約4,600円)」という金額が、考えられる中で明らかに最低限の数字であることを示している。

課税シフトは欧州では目新しいことではない。ドイツでは1999年に4カ年計画を採用し、労働に対して課していた税をエネルギーに課すように体系的に変更した。その結果、2003年までに二酸化炭素の年間排出量は2,000万トン削減され、約25万人の雇用が生まれた。同時に再生可能エネルギー分野の成長もこれによって加速した。

2001年から2006年にかけて、スウェーデンはそれまで所得にかけていた推定20億ドル(約1,820億円)の税を環境を破壊する行為から取り立てるように変更した。この課税シフトによって、一世帯当たり500ドル(約4万6,000円)ほどの税の大部分が、自動車税や燃料税の増税を含め、道路交通に対して課されることになった。フランス、イタリア、スペイン、それに英国も同様の税制度を採用している。欧州や米国では、世論調査の結果、説明を聞いた回答者の少なくとも70%が環境税への移転に賛成と答えたことが判明している。

9名のノーベル経済学賞受賞者を含む、およそ2,500名のエコノミストがこの課税シフトという考え方を支持している。ハーバード大学で経済学の教鞭をとり、かつてジョージ・W・ブッシュ政権で経済諮問委員会の委員長を務めていたN・グレゴリー・マンキューは『フォーチュン』誌に次のような文章を載せている。

「所得税を減らし、その一方でガソリン税を増やせば、経済成長をさらに加速させ、交通渋滞の緩和や道路の安全性の向上、地球温暖化の危険の減少につながるだろう。そしてこれらすべてのことが、長期の財政支払能力を危険にさらすことなく実現できるだろう。これこそが、経済学が提示すべき、お金のかからない税制再構築案に一番近いのかもしれない」

環境税は現在目的税としていくつかの対象に特定して課されている。例えば、多くの都市は都心に入ってくる車に税をかけているし、車を保有するだけで課税している国もある。デンマークで新車を購入すると、自動車登録に自動車本体価格の1.8倍の税がかかる。本体価格が2万ドル(約180万円)の新車に買い手は5万6,000ドル(約510万円)を支払うのだ。またシンガポールでは1万4,200ドル(約130万円)のフォードフォーカスに税金が加算されると、価格はその3倍以上の4万5,500ドル(約420万円)に膨れ上がる。

ときとして、排出権取引を利用するキャップ・アンド・トレード方式が環境税主体の税制再構築の代わりとなることがある。主な違いは、排出権取引の場合、排出ガスの許容限度は政府が設定し、排出権の売却あるいは譲渡価格は市場に一任するが、これに対して、環境税の場合は、環境破壊が招くコストはあらかじめ税率に組み込まれていて、市場がそのコストで破壊行為の金額を確定するところにある。

市場での売買取引を認めるキャップ・アンド・トレード方式は、オーストラリアでの漁獲制限から米国における二酸化硫黄の排出削減にまで及んでいて、国家レベルでは有効に機能している。しかしこの方式には重大な制約もある。かつてホワイトハウスの環境諮問委員会のメンバーであったシニア・エコノミストのエドウィン・クラークは、「排出権取引を認めるなら、複雑な法規制枠の設定、排出権の定義、取引のためのルール作り、排出権を持たない人の取引排除が必要である」と述べている。

エコノミストは効率性、透明性、価格予測性の点から、えてして課税シフトの方を好むが、炭素税、キャップ・アンド・トレード方式いずれを採用しても、炭素の燃焼は高コストを伴いやすいことから、共に現在の市場の誤りを正すことに役立つだろう。

商品やサービスの価格を決定するに当たって、間接費用の無視が許されるような市場は不合理、不経済であるとともに、自己破壊的である。経済の進歩を維持できるグローバル経済を構築する鍵は、正直な市場、つまり環境のことを正直に語ってくれる市場を創設することにある。

そのような市場を創設するためにしなければならないのが、税制の再構築である。それは労働にかかる税を引き下げ、炭素の排出やその他環境を破壊する行為への課税を引き上げることであり、その結果として間接費用を市場価格に組み込むことである。もし、市場に真実を語らせることができるなら、私たちは破綻につながる欠点含みの会計システムによって、真実を知らされないままに終わることも避けられるだろう。

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seki 2010-12-02T11:11:47+09:00